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第21話 不都合な同行者

 次の日。

 朝一番で冒険者ギルドに赴いた。


「あっ、アシェルさん、ご無事だったんですね!?」


 顔を合わせた途端、出し抜けに受付嬢にそう言われた。


「無事?」


 ……なんのこっちゃ?


「ギルドマスターが傭兵を引き連れて街を出るのを見た冒険者の方がいらしまして」


「うん」


「もしかしたら、と心配していたのですが、ご無事で何よりです」


「そうか……街を出ていたが幸いにも傭兵団に襲われることはなかったな」


「街を? 大丈夫でしたか?」


「うん? 何の話だ?」


「街の外で巨人の一団を見たという目撃情報が上がってきているんです」


「ふむふむ」


巨人か、いいね! 

もう何体か欲しいと思っていたところだ。


「それでですね……」


 カウンターに身を乗り出し、ずずいと受付嬢が顔を寄せてくる。


「ギルドマスターが引き連れた傭兵団がですね、運悪く巨人の一団とかち合ってしまったそうなんです」


「何と?!」


 なんて運が良い! 羨ましい!


「ええ、残念……いえ、幸運にもギルドマスターは逃げおおせて無事らしいですけど、雇った傭兵団は全滅してしまったそうです」


「そうか……可愛そうに」


「ええ、まったくです。それで、街に危害を及ぼす恐れがあったため、急遽、巨人討伐隊を編成するように、と領主様から下命を拝したのですが……不思議なんですよねぇ」


「何がだ?」


「巨人の一団が消えてしまったんです」


「住処に帰ったんじゃないか?」


「そうかも知れません。ここら辺の魔獣はアシェルさんがあらかた退治してしまったので、獲物がないと見限って帰って行ったのかもしれませんね。街が見つからなくて本当に幸運でした。ここら辺で、あと巨人が好みそうな獲物と言えば人くらいですからね」


「ああ、まったくだ!」


 となると、巨人を捕まえるチャンスはまだあるってことか。

 街からちょっと足を伸ばせば見つけられるかな? 捕まえて行ってみようか?

 ……ぐへへ、捕まえたらどうしようかな~♪

 先に捕まえた巨人と併せて「巨人兵団」を組織するのも面白い。

 行進だけで街を均せる脅威の一団の誕生だ!


「ところで今日はどのような御用向きで?」


「――え? ああ、そうだった」


 膨らみに膨らんだ夢は、ぱぁん! と爆ぜてしまったが、まあいい。

 ここに来た本来の目的を果たそう。 


「ヴァルケルド山までの地図が欲しい」


「……ヴァルケルド山ですか?」


 何でか露骨に嫌な顔をされた


「最近、新聞で話題の場所ですね」


「え? あ~……そう、だな……」


 ……ああああっ、まずった。変な勘違いをさせたかも。


「一応、理由を伺っても?」


「理由?」


 ヴァルケルド山に行って盗賊団の首領をできるだけ惨たらしく殺すつもりです。

 ……なんて言えるわけもない。


「まさか盗賊団に加わるつもりですか?」


 受付嬢の俺を見る目が盗賊を見るようなそれに変わる。


「最近、多いんですよねぇ。盗賊団に参加しようとする冒険者の方々が。何でもお給金がいいそうですよ? 地道に依頼なんてやってられん、ってみんな言ってます」


「ふ~ん……」


「まさかっ、まさかアシェルさんまで……そうじゃないですよね?」


「ハハハハ、トウゾクダンニサンカスルワケナイジャナイカ!」


「なんで片言なんですか?!」


 と、そのとき。

 俺の背中に知った気配が湧いた。


「ごめんなさい、うちのバカが言葉足らずで」


 お義姉さんだ。

 突如、現れたお義姉さんに受付嬢はまん丸と目を見開く。

 ……瞬き1回分の刹那で、すぐに愛想笑いに変わったが。


「目的地は、ヴァルケルド山じゃないわ。ヴァルケルド山付近の街よ。ほら、王国軍と盗賊団がもめてるじゃない? 何かお零れで仕事にありつけないかと思ってね」


「なるほど! そういうことでしたか!」


 受付嬢の顔が一瞬にして華やぐ。


「ヴァルケルド山の最寄りの街を教えてくださる?」


「もちろんです。レンブランの街が一番近いです」


「地図はあるかしら」


「こちらです」


 広げられた地図を見る。

 お義姉さんの後ろから擬態したイービルアイが撮影しているのがうっすらと見えた。


「お仕事を探しているなら、1つ仕事を頼まれてくれませんか?」


「何かしら?」


「レンブランの街の冒険者ギルドから応援要請が来てまして。《鳶》級以上の冒険者を寄越して欲しいとのことでして」


「……あんた、今、何級よ?」


 受付嬢に向けられていた「気の良いお義姉さん」の仮面がぺろりと剥げて、俺に対する「辛辣なお義姉さん」の地の顔で聞いてくる。


「《梟》級だっけ?」


 受付嬢に聞くと「この前昇級したので《鳶》です」とのこと。


「まあわたしは《鷲》級だから問題ないけど……獲物は?」


「巨人だそうです」


「巨人?」


 お義姉さんの眉目秀麗な顔が露骨に曇る。


「そっちにも巨人がいるのか?」


 俺の問いに、受付嬢は「ええ」と憂鬱そうに答えた。


「本来は、一つの群がヴァルケルド山周辺の荒野に住み着いていて、滅多に人里に下りてこないのですが、なぜか群が全域に分散してしまい、各地で被害がでているそうです」


「巨人かぁ……少々厄介ね」


「そうなのか?」


「倒すのに苦労するくせに、素材としてのうま味がないのよ、巨人は」


「緊急事態なので依頼料は普段の3割増しだそうです!」


 慌ててそう言い繕う受付嬢。


「割に合うのかしら」


 ふぅ~、とお義姉さんは悩ましげにため息をつく。


「どうする?」


「もちろん、受けるぞ」


 もちろん、素材目的ではない。巨人兵団のためだ。

 俺の思惑を知ってか知らずか、やれやれ、とお義姉さんは頭を振った。


「だそうだから、地図を頂戴な」




 冒険者ギルドからの紹介状と地図を受け取り、外に出た。


「お義姉さんは戻ってろよ、俺は走って行くから」


「ロザリンド」


「――はぃ?」


「ロザリンド。特別に呼び捨てで構わないから今度からそう呼びなさい」


「いいのか?」


 昔呼び捨てにしたら思いっきり尻を蹴られた記憶が。


「いいから!」


「わかった」


 どんな心境の変化やら。まあいいけど。


「あっ、アシェルさん! よかった、まだいてくれた。あれ? ロザリンドさんは?」


 お義姉さんが影に消えるのと入れ替わりに受付嬢が飛び出してきた。


「ちょっと野暮用でどっかいった。それより何か?」


「馬車でレンブラン方面までいく冒険者の方々が是非、途中まで一緒にと言ってくれているのですが、どうします? 馬車を借りるのなら乗せていった貰った方が――」


「いや、のんびり歩いて行くから大丈夫」


「でも、徒歩だと一週間以上かかりますよ?」


「のんびり魔物でも狩りながら行くよ」


「ご冗談を。ここら一帯の魔物はアシェルさんが狩り尽くしてしまったじゃないですか」


「むぅ……」


 困ったぞ。親切はありがたいが、馬車でなんてとろとろ行ってられるか。

 なにか、なにか気の利いた言い訳を! ……思いつかん!


「どうした? もちろん、乗っていくんだろ?」


 冒険者ギルドから銀髪を短くまとめた女が顔を出す。

 見紛うことなく美人だが、見るからに気の強そうな顔立ちだ。

 女だてらに革鎧を着ているから戦士かなんかだろうか?


 後に続いて、狩人、魔法使い、白魔法使いっぽい女たちが顔を出す。

 無表情に、無邪気、無闇にニコニコしたやつまでいるが、なかなかの美人揃いだ。

 こいつらが俺を馬車に乗ってけてくれるのだろうか?

 若干、美人局を疑いたくもなるが……美人に囲まれての旅も悪くない。


「そうだな、せっかくの好意だし、甘えさせて貰おうかな」


「そうこなくっちゃ!」


 銀髪の女が俺の首に腕を回し、肩を抱く。

 ……むむむっ、小ぶりだが、なかなか悪くない。


「あたしはアリッサ。『暁の静寂』のリーダーをやっている」


「俺はアシェルだ」


「知ってる。たった一ヶ月で《鴉》級から《鳶》級まで上り詰めた若手のホープだ。旅の間、是非その武勇伝を聞いてみたいと思ってね!」


「大したことじゃない」


「そういうことにしておくよ」


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