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第20話 最初のターゲット

「――さて、と」


 場所を変えずにそのまま本題に入ることにした。


「ようやく始められるな?」


 ハティを見る。心なしか居住まいを正しているようだ。


「あまり期待はしないでください。あのときに臨時でパーティを組んだだけですから」


「何もないよりはマシだ。――チェルシー」


「ほ~い」


 チェルシーが羊皮紙とペンを持って飛んでくる。

 羊皮紙には何かが書かれた後があった。


「うぉい! 使ってないの持ってこいよ! 大事なこと書くんだからよぉ!」


「まだ書けるのにぃ! 勿体ないお化けに祟られるんだから! だから~!」


 チェルシーはぶ~ぶ~言いながら、今度こそ新たらしいのを持ってきた。

 新しいといっても何も書かれていないだけで、ところどころにシミがあったが。


「まずは名前だ」


「重戦士スタンリー、大盗賊ザメル、賢者アザリー、司祭コップランド……です」


「人相と装備も教えて」


 と、これはお義姉さん。


「それで何かわかるのか?」


「わかるわ。人相からは出身地、装備からはどんな冒険をしているかがね。冒険の仕方でどこを拠点に活動しているのかがわかるのよ? 覚えておきなさい」


「へ~」


 流石、お義姉さん。さすおね!


「かくかくしかじか」


「ねぇねぇ、ザメルって、ザメル・ザークのことかな? かな?」


 唐突にチェルシーが口を挟んできた。


「え? ええ、確か……そう,呼ばれていたような気がします」


 驚いたのか、上擦った声で答えるハティ。


「なら、このお手紙はザメル・ザークからってことね? ね?」


 チェルシーが机の上をくるりと回って、一枚の羊皮紙を投下した。


「なんでお前がザメルの手紙を持ってるんだ?」


「この前、盗賊のアジトを潰したじゃない?」


「ああ、お義姉さんたちが捕まってたところな」


「アジトから頂戴した物の中にあったの。皮でできていたから何かに使えないかと思って取っておいたの」


「見せてくれ」


 投下されてた羊皮紙を机の上に広げた。                                            

「よぉ、兄弟! 相変わらずセコい儲けで1日を無駄にしているのか? 

 俺様は、盗賊による、盗賊のための、盗賊の王国を作ることにした。

 そこでだ、慈悲深い俺様は兄弟にも重鎮の一席を用意した。

 第九の月の末日までにヴァルケルド山に来い。

 間に合えば、晴れて兄弟は我が王国のお偉いさんって寸法よ。

 少しくらい遅れても、まあ兵隊の数次第では許してやろうかな。

 あ? 今、鼻で笑っただろ?

  まあ無理もねぇ。盗賊が群れりゃ王国軍が追っ払いにやってくるからな。

 だがな、俺には強力な後ろ盾がある。王国軍なんて目じゃねぇ強力な後ろ盾が。

 だからよ、大船に乗ったつもりでこいよ。

 一緒に、盗賊国家を作って、面白可笑しくやろうじゃねーか!


 てめぇの兄貴分 ザメル・ザークより」


「盗賊による、盗賊のための、盗賊の王国って……馬鹿なのかしら?」


 俺が、いや、多分みんなが思っていることをお義姉さんが代弁してくれた。


「まあこいつの野望はどうでもいいさ。ヴァルケルド山だっけ? 居場所がわかったことだし、早速、向かうとしよう」


 早速行動を、と思ったのが、お義姉さんは厳しい顔で、じ~っと手紙を睨んでいる。


「どうした?」


「……今は、時期が悪いわ」


「時期が悪い?」


「ここって新聞は……とってないわよね?」


「シンブン?」


 首を傾げるチェルシー。


「誰か、ここ一ヶ月くらいの新聞を買ってきてくれないかしら」


 誰か、というが、俺に視線が集まる。


「あ、あたしが……」


 ルー・ル-が志願するが、お義姉さんがそれを片手で止めた。


「アシェル、行ってきて」


「俺?」


 俺、ここで一番偉い人のはずなんだけど……まあいいや。

 外に出ると、昏倒した巨人が野放図に散らばったままだった。

 ……そういえば。

 俺が門を召喚したのは平原のど真ん中だった。

 どっちみちルー・ルーじゃ無理だったわけだ。

 幸い、ハイオークとオークライダーは無事だったので、巨人を「煤闇の世界」に運ばせ、その後に、街まで戻って新聞屋で買ってきた。

 新聞は3日に1回、発行されるかされないかなので、一ヶ月分で七部発行されていた。


「なになに? 『ヴァルケルド山に盗賊団、続々入山!』『王国軍は事態を危険視』『ヴァルケルド山に砦を確認、盗賊団の一大拠点化か?』『王国軍、十三騎士団の派兵を決定』

『ヴァルケルド山山麓周辺で盗賊による被害増大、王国軍は近づかないように注意喚起』『王国軍、十三騎士団の集結に難航、足並み揃わず』『決戦は遠く、盗賊団の勢いはますます盛んに! 各地の闇ギルドも呼応の動き! 盗賊国家の樹立間近か?!』」


「――わかった?」


「わかった」


「今ザメルを相手にするのは得策じゃないわ。盗賊団と王国軍、しかも十三騎士団を相手にすることになりかねないわね」


「強いのか? その、十三騎士団っての」


「王国軍の主力よ」


「どっちが勝つと見る?」


「十中八九、十三騎士団ね。ザメルがいう『後ろ盾』っていうのが気になるけど……」


「十三騎士団が勝った場合、ザメルはどうなる?」


「抵抗すればその場で殺されるでしょうね。降伏すれば裁判に掛けられるわ。処刑は免れないでしょうけど」


「つまらん! ただ殺されるのも、ただ処刑されるのも、つまらん!」


「ならどうするの?」


「そうだな……」


 自然とザメルの手紙が目につく。

 手に取り、改めて文面を流し読む。


「……いいこと思いついた」


「悪いことの間違いじゃない? 悪い顔してるわ」


「失敬な。世のために人のためになる悪いことだ」


「――何をする気よ?」


「いや、せっかく招待してくれるというのならご相伴にあずかろうと思ってな」


「あら? ……それは、まあ本当に悪いことね」


 俺の意図を察したのか、お義姉さんが妖艶に微笑む。

 ……うむ、我ながらなかなかの名案だ。


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