第17話 不穏なマスター
一つの問題を終え、当初の予定通り冒険者ギルドに足を運んでみた。
そろそろハティが帰ってきているはずなのだが……。
「ハティさんですか? この前の救出騒動以来、いらっしゃってませんよ?」
……おぅ、見事に空振った。
いよいよ、村に赴くべきだろうか?
「そんなことよりアシェルさん、――おめでとうございます!」
「お? ついに昇級?」
「それもですけど、領主様から感謝状が届いています」
「感謝状?」
「アシェルさんが街周辺の魔獣をあらかた退治してくれたおかげで、街が拡張されることになりまして、領主様がその感謝を伝えたいとのことで」
「ふ~ん……」
「マスター、よろしくお願いします!」
……なぜ、マスター?
奥からマスターが……どうしたマスター? 体中包帯だらけなんだが。
松葉杖をつながら、奥からひょっこりひょっこりとやってくる。
「マスターのお屋敷に賊が入ったらしいですよ」
受付嬢がこっそり教えてくれた。
「賊が?」
「奴隷を盗まれて、お屋敷が半壊したそうですよ」
ぷぷっ、と失笑する受付嬢。
「その賊というのが、ぷぷぷっ、猪に乗ったオークだそうです。大方、寝ぼけていたんだと思うん、ですけどね……でも、猪に乗ったオークって、ぷっ、くくくくっ……」
とりあえず愛想笑い。
笑いの壺がよくわからんが、世間一般では猪にオークを乗せることは笑いの種らしい。
……しかし、流行っているのだろうか?
まさか猪にオークを乗せる賊が俺以外にいるとは。
「何を笑っている?」
「い、いえ、失礼しました!」
ふん、と不機嫌を隠そうともせずにマスターは受付嬢を怒鳴りつけると、今度は俺を睨み付けた。
「村人風情が粋がるなよ! こんな感謝状などなんの意味もない! 古くからこの土地の所有者と言うだけで、あんな三流貴族に褒められようと、なんの誉れもないのだからな!」
どぉん! とマスターは感謝状がカウンターに叩き付けた。
「う、うぅ、ぐ……」
マスターの顔が苦痛に歪む。
まあ怪我した手であれだけ強く叩き付ければそうなるわな。
「ば、化けの皮を剥がしてやる!」
「はぃ?」
睨まれた。よほど手が痛かったのか涙目だ。
……ちょっと可哀想になってくる。
「どんなインチキを使ったのかはわからんが、村人ごときの分不相応な偉業など……インチキに決まっている! 必ずや白日に晒して、身の程を思い知らせやるぞ!」
ふんっ、とマスターは鼻息荒く言い放つと、またひょっこりひょっこりと戻っていった。
「すみません、アシェルさん」
「いい、気にしてない」
「あと、気をつけてください」
「――ん?」
「あの人、最初は冒険者を雇おうとしてたんです。でも、アシェルさんはみんなに好かれていますから、受ける人がいなくて……それで、今度は傭兵団を雇ったという噂が」
「すまん、何の話だ?」
……いや、わかった。というか、察した。
「さっきの『身の程を思い知らせてやる』って話か?」
「そう言ってるじゃないですか!」
言ってねーけど……まあいいや。
「肝に銘じておくよ」
「よろしくお願いします。――それで今日の依頼は?」
「いや、数日ほど故郷の村に戻ろうかと」
「その方が良いかもしれませんね」
いや、マスターとは別件なんだが……。
否定するのも面倒だったので、そういうことにしておいた。




