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第15話 エクスマキナ

 久しぶりに冒険者ギルドに顔を出そうと、ヴィオラ島の隅っこにある「門」に向かっていると、ツルハシを担いだラティンたち女ドワーフ一行と出会した。


「あっ、アシェル」


「おいっす! ドワーフの男衆はさっき行ってしまったぞ?」


「知ってる」


「見送らなくてよかったのか?」


「お互いに名残は尽きないから、あれでいい」


「そっか」


 ドライと言うべきか、クールと言うべきか。……まあどっちもでいいが。


「注文の品はちょっと待って欲しい」


「うん? それは構わないが……みんなツルハシ担いでどこに行くんだ?」


「鉱山島だ。まずは採掘しないとだからな」


「採掘? ――あっ!」


 うっかりだ。


「もしかして頼んでおいた鎧のための?」


「そうだぞ」


「す、すまん! すっかり失念していた……そうだよな、材料が必要だよな!」


「そうだぞ、そのための採掘だ。しかしだな、採掘はがんばるが、見たとおりドワーフの女はちんちくりんだから、男衆ほどに効率よく出来ない。その点、勘弁して欲しい」


 ぺこりとラティンが頭を下げると、女ドワーフの一行は一斉に頭を垂れた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。――チェルシー!」


 呼びかけると、チェルシーが飛んできて、当たり前のように俺の頭に着地した。


「呼んだ?」


「鎧を作るのに材料が必要なんだそうだ」


「え? そうなの? 採掘するっていうから、いつかの盗賊のアジトからちょろまかしたツルハシを貸し出したんだけど……もしかして鎧の材料のため? ため~?」


「何か問題が?」


 きょとんとするラティン。


「ちなみに採掘から鎧制作までどれくらいかかる?」


「そうだな。鉱脈を調べて、必要な素材のある地層を掘って、それから制作だから、軽く見積もっても一ヶ月くらいだな」


「「一ヶ月?!」」


 期せずして俺とチェルシーの声が重なった。


「由々しき事態だわ! だわ~!」


 チェルシーにとってオークの重装化による進化開放実験の一ヶ月延長は、言うなれば好物を目の前において一ヶ月も我慢しなければならないのと同義なのだ。


 俺もチェルシーほどではないが、楽しみにしていただけに一ヶ月の延長はきつい。

 ――どうすべきか?


「みんなお揃いで何してるっすか~!」


 そのとき、リッシュが手に魔物素材を一杯に抱えてやってきた。


「鎧の材料でちょっとな。お前は?」


「いただいた魔物素材でうちの発明品をアップデートするっす! 期待して貰っても良いっすよ! きっと凄いのが出来るっす!」


「左様か」


 それもまた楽しみだ。……ん? 発明品?


「鎧の材料は鉱物じゃなきゃダメってことはないよな?」


 ラティンは「うむ」と偉そうに頷いた。


「金属ならなんでもいい。溶鉱炉で溶かして再利用できるからな」


「リッシュの発明品で思い出したが、ちょうど良さそうなのがある。チェルシー、エクスマキナの残骸は確かここに運び込んでいたよな? どこに置いた?」


「貴重な金属素材だからヴリトラ島の倉庫に保管してあるわよ」


「よし、それを使おう!」


 とりあえず全員でヴリトラ島の倉庫に向かうことにした。




 倉庫の鉄扉が押し開けられ、血臭にも似た匂いが鼻をつく。

 血臭と違い生臭さが少しもしないのは、匂いが金属から放たれているからだ。

 鉄錆の臭い。……いや、本当に鉄かどうかも怪しいが。

 おそらく数ヶ月ぶりとなる陽の光を弾き、銀色の山が白昼に晒される。


「なっ、なななななっ! なんなんっすか、これ! なんなんっすか!」


 リッシュが好奇心の限りに跳び跳ね、最後には俺を盾にして背に隠れる。


「エクスマキナと呼ばれた者たちの成れの果てだ」


「えくすまきな?」


「詳しくは知らない。賢者大猿の長老が言うには、ハクア大森林にいつからか生息していたらしいが、アギオンに滅ぼされたらしい。見つけたときはもうこんな有様だった」


 近づくと、銀色の山がただ山でないことがわかる。

 人に似た何か、獣に似た何か、怪物に似た何か、などなど。

 おおよそ銀色の塊が象るのは、その3種類に限られた。

 ――そう、

 一見、銀色の山にしか見えない目の前の塊は、様々な個性を象った金属の成れの果てが、うち捨てられ、うずたかく積み重ねられたものだった。


「もう動かないっすか?」


「多分な」


 俺の無責任なひと言を信じたのか、リッシュは恐る恐る近づいていった。

 そして、人を模した金属の塊を前にして「うひ~」と変な声を上げた。


「凄いっす! 関節が歯車っす! 目は……ガラスっすかね? ぬおっ! 骨格が金属っす! しかも血管がゴム管っす! 中を失礼して……うひっ! 機械で一杯っす!」


 ……気に入って貰ったようで何よりだ。

 さて、本題だ。

 振り返る。視線に気づいたラティンと目が合う。


「外装を使えないか?」


「見たこともない金属だ」


 かんかんっ、とラティンが1体を金槌で小突く。


「無理そうなら、別の方法を――」


「面白い!」


 にやり、とラティンは微笑んだ。


「未知の金属との出会いはドワーフ冥利に尽きるというもの。一生を掛ける価値がある」


「勝手に一生を掛けて貰っては困るのだが……」


「心配するな、仕事はちゃんとする」


「当然だ。力自慢を呼んで鉱山島に運ばせるから適当に見繕ってくれ」


「心得た」


 ラティンを中心とした女ドワーフ一行が思い思いにエクスマキナの山に群がる。


 リッシュはエクスマキナの構造に興味津々の様子だったが、女ドワーフ一行の興味はエクスマキナを象る金属にあるのか、たちまち、あ~だ、こ~だ、と金属談義が始まった。


「だ、旦那~!」


 がしっ、とリッシュが腰元に抱きついてきた

 兎獣人特有の長耳がぴこぴこと動く。


「うちも、うちも欲しいっす!」


「発明品の材料にするのか?」


「それもっすけど、色々と調べてみたいっす!」


「いいぞ、好きにしろ」


「ここをうちのラボにしてもいいっすか?」


「使われてない保管庫だから、――別に良いよな?」


 チェルシーに聞くと「いいわよ~、わよ~」と二つ返事。


「だそうだ」


「ところで大将、鉱山はどうするんだ?」


 エクスマキナの残骸を両手一杯に抱えながら、ラティンが思い出したよう聞いてきた。


「鉱山、か……」


 もちろん、鉱山の開拓は進めたいところだが、オークの鎧も作って貰いたい。

 ……そうだ、オークで思いついた。


「穴掘りは、別にお前らがやらなきゃダメってことはないんだろ?」


「穴を掘るだけならな」


「なら、オークにやらせよう」


 オークならどんな重労働も朝飯前の軽い運動程度にこなしてくれることだろう。


「構わない。しかし、オークってのは地脈を読めるのか?」


「いや、そんな話は聞いたことがないな」


「地脈を読まずに掘り進めると落盤するぞ?」


「それは不味いな……お前らは読めるのか?」


「もちろんだ。ドワーフだからな」


「なら、目利きを何人か寄越してくれ。オークに指示を出す監督官をやってもらいたい」


「心得た。目利き中の目利きを寄越そう」


 ……ふむ。

 鉱山も開拓できてオークの鎧も開発できる。

 なかなか順調じゃないか。

 しかし、なんか忘れているような気が……。


「あっ、アシェル」


「あん?」


 チェルシーに呼び止められた。

 忘れている何かを思い出そうとしていたのに……、ちょっとイラッとした。


「パックルが呼んでたわよ?」


「――あっ!」


 思い出した。件の白いギガントピテクスの調査結果だ。

 ドワーフのあれこれに忙殺されてすっかり忘れていた。


「ちょっと行ってくる!」


「行てら~」


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