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第14話 ドワーフの恩返し

 オークライダーを回収してなんとかって貴族の屋敷を後にした。

 松明片手に押し寄せる衛兵の人たちを遠目に眺めながら、残りの2カ所を回る。

 数名の保護のはずが、どっちの邸宅でも10名以上の奴隷が牢屋に入れられていた。

 面倒臭いので全員、まとめて保護しておいた。



 ――3日後。

 例の白いギガントピテクスの調査結果を聞こうとヴリトラ島に向かうと、医療棟の広間を埋め尽くすドワーフのおっさん連中が土下座の姿勢で待ち構えていた。


「……何かの宗教の儀式かな?」


「いえ、アシェル殿をお待ち申しておりました」


 先頭にいる頭髪よりも髭の方が濃いおっさんドワーフが代表してそう言った。


「俺を? え~っと……誰だっけ?」


「我が兄、トリリオン13世陛下だ……です、主様」


 説明してくれたのは、青紫色の髪の女の子だ。

 名前は、ラティン。

 俺が奴隷市で買ってきた3姉妹の長女だ。

 他に紫色の髪をした次女のカティン、赤紫色の髪をした三女のコティンが並ぶ。


「すっかり元気になったようで何よりだ」


 カティンの進めてくれた椅子に座る。

 ラティンたち三人は俺の奴隷なので、俺の横に3人並んで跪く。


「我が一族のみならず配下のものまでお救いいただき、遅ればせながらお礼を申し上げます」


 顔を下げると、他の連中も一斉にそれに倣う。


「気にするな、ただのついでだ」


「ご謙遜を」


 ……いや、本当にただのついでだったんだが?


「本来なら一生の鍛冶働きでこのご恩を返すべきなのでしょうが……厚顔無恥であることは重々承知の上でお願い申し上げます」


「――ん?」


「我らを解放してください!」


「いいぞ」


「我らには悲願があります。滅ぼされた祖国の再建……それが敵わずとも奴隷に落とされた我らが臣民を救い出し、何人にも虐げられない、――今、なんと?」


「解放する。どこへなりとも行くが良い」


 しっしっ、と手を振る。

 元よりこいつらを飼うつもりなんてない。助けたのは、ラティンに頼まれたからだし、他の連中は本当にただのついでだ。好きに生きて、好きに死ねば良いのだ。


「よ、よろしいので?」


「うちの奴隷の知り合いだから助けただけだからな。あっ、奴隷は返さないからな?」


「もちろんでございます! 不出来な妹たちですが末永くよろしくお願いします!」


「うむ。……ところで話は終わりか?」


 そろそろ白いギガントピテクスの調査結果を聞きに行きたいのだが。


「も、もう一点!」


 地面を掘るかのような土下座。……この人、王様だよね?


「なんだ?」


「兵をお貸しください」


「兵を?」


「臣民を救うためにも……お恥ずかしながら、今の我らの戦力では心細く――」


「わかったわかった……オークを100体を連れて行け。体型も似ているからいいだろ?そいつらに限って進化権限もくれてやるから好きに進化させていい」


 用向きは終わったな? さて、俺は――。


「100体……」


「不服か? なら、ゴブリンも100体――」


「お、お待ちください! 大変にありがたい申し出ではありますが、今の我らに100体ものオークを養える甲斐性はございません!」


「そうなのか?」


「20体……20体で今のところは十分でございます!」


「それだけでいいのか? あっ、でも『お薬』も持たせないとか」


「人工子宮で生産した個体なら必要ないわよ?」


 チェルシーが飛んできて俺の頭の上に止まった。


「そうなのか? というか、そんなやつ生産したっけ?」


「この前の進化実験で、実験的に生産したオークよ」


「ああ、『アーチャー』と『スカウト』の進化が開放されたやつな」


「あんたに服従することに至福を感じるように調整しといたから、『このおっさんに従え』と命じておけば絶対に裏切ることはないわ。命じれば自分から喜んで食卓に並ぶわよ?」


「というわけだ。戦力と非常食が一度に手に入ってよかったな。んじゃ、俺は――」


 立ち上がり、広間を後にしようとする。

 すだだだだっ、と回り込まれた。しかも土下座の格好のままで。


「お待ちください! お待ちください!」


「あん? まだ何か――」


「なにかご恩を返させてください!」


「いや、お前らを助けたのは本当についでだし。なぁ~」


「ねぇ~」


 チェルシーと顔を見合わせ、頷き合う。


「俺はオーク用の鎧を作って貰えればそれでいい」


「なっ、ならば鍛冶場を造らせてください!」


「鍛冶場?」


「ドワーフの使う火は特殊です。人の鍛冶屋が使うような鍛冶場では到底耐えられません」


「そうなのか?」


 ラティンに問いかける。


「うん、強い武具を造るには、強い炎が必要だ……です」


「敬語はいらん」


「そうする」


「じゃあ頼めるか? 何が必要だ?」


「まずは鍛冶場とする場所を指定していただければ」


「この前、捕まえた鉱山島がいいんじゃない?」


 と、これはチェルシー。


「ああ、まさに打って付けだ」



 鉱山島に案内するとその日のうちからドワーフたちは仕事を始めた。

 恩返しとはいえ見ているだけなのは気が引けるので、せめて重量物の運搬だけでも手伝おうと力自慢の魔物を貸し与え、カランチョに出前を頼んで振る舞う。

 三日三晩、建設工事はぶっ続けで行われる。

 ついでにアクセスをよくするために鉱山島とヴィオラ島に鋼鉄のかすがいを撃ち込み、橋を架け、物資の運搬用の道路まで整備してくれた。

 で、4日目の昼には建物と道路の大部分が出来上がった。

 細かい部分は使いながら調整するらしいので、これにて工事は完了らしい。


「立派ね~」


「立派だな」


 まだ内装は未完成らしいが、外から見ると煉瓦造りの見事な建物だ。

 作業場には八基ものドワーフ式の炉が設えられ、すでに火を入れられている。

 ラティンたち3姉妹に加え、女ドワーフが待ちきれないとばかりに仕事を始めている。


 ドワーフとはいえ、女子共では男ドワーフの同胞解放の旅の足手まといになる、ということで今朝、トリリオンに拝み倒され、女ドワーフもここで働くことになったのだ。


 トリリオンが言うには、ドワーフは小さい頃から親兄弟の鍛冶仕事を見て育っているため、例え職人でなくても鍛冶仕事は他の仕事よりも達者にこなせるそうだ。


 人材は多いに越したことはないので、俺としては断る理由はない。


「アシェル殿、我々はこれにて失礼させていただきます」


 ドワーフの男衆が雁首揃えて頭を垂れる。

 皆、外套を纏い、手にはパンパンに膨らんだ水嚢を持っていた。


「1日くらい休んでいけばいいのに」


「いえ、こうしている間にも同胞たちが苦しんでいると思うと立ち止まってなどいられません」


「そうか」


「女子供を残していく我らの勝手をお許しください。なにとぞ、よしなに」


「なに、こっちとしては鍛冶職人が増えて大助かりだ。問題ない」


 俺としては豪華な料理や酒を用意して完成披露会とかやりたかったのだが、まあいい。


「餞別にイービルアイを10匹貸してやろう。何かと役に立つ奴らだ。なにかあったらこいつらを通して連絡をくれ」


「何から何までありがとうございます。では、名残は尽きませんがこれにて」


「おう、達者でな~!」


 次々と「門」に消えるドワーフの男衆。

 彼らの旅路に幸おおからんことを願うばかりだ。


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