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第13話 カチコミ

 奴隷の売買は王権によって認められた立派な商いの一つだ。

 だから、買い手にも売り手にも、後ろ暗いことは何一つない。


「後学のために傷痍奴隷の相場を知りたいっす。今日の名簿を見せて欲しいっす」


 このただひと言で奴隷市場の支配人は快く今日の売買が書かれた名簿を見せくれた。

 リッシュが受け取った名簿を後ろからイービルアイに記憶させる。

 今日の買い手は俺を除いては三名。

 いずれもミドルネーム持ちの貴族で十七名中十二名が一人の貴族に買われ、、残った五名がそれぞれ三名と二名に分けられて二人の貴族に買われていた。


「あ、ありがとうっす!」


 名簿を支配人に返し、リッシュが奴隷市場から離れる。

 ちなみに俺らはまだヴリトラ島だ。

 言い出しっぺのリッシュを小間使いに出し、その様子をイービルアイで見ているのだ。


「こ、この後、どうするっすか?」


「貴族連中の邸宅の場所を知りたい」


 イービルアイを介してリッシュの指令を伝える。


「て、邸宅の場所っすか……え、衛兵さんは……だめっすよね?」


「――なぜだ?」


 リッシュの意図を汲みかね、チェルシーに聞いてみた。


「これから騒ぎを起こす場所を聞き回っていたら怪しまれるからじゃない?」


「なるほど、頭良いな、あいつ」


 リッシュがどこかのお店に入る。見た感じ雑貨屋っぽい。

 なぜ? と首を傾げる間にリッシュがお店から出てきた。

 手には、一抱えもある荷物を持っていた。俺らのお土産だろうか?

 それからリッシュはまた別のお店に入った。


「ボルク様のお宅にお使いを頼まれたっすけど、ボルク様のお宅にはどう行けばいいっすかね? この街に来て日が短いもので、へへへ、すまねぇっすね」


「「あったまいい~!」」


 思わずチェルシーと一緒になって喝采を上げる俺がいた。


 なるほど、商家の使用人を装って貴族邸の場所を聞けば怪しまれることはないだろう。

 貴族邸を訪れる使用人なんて商家に限らず何人もいるから、足がつきづらいのも良い。


「諜報員といて雇ったの?」


「いや、そんなつもりはなかったんだが……」


「なかなかの人材じゃない!」


 その後、リッシュはあれよあれよという間に三つの貴族邸の住所を聞き出した。


 リッシュと合流して一件ずつ貴族邸宅を回る。


「やっちまうっすか? やっちまうんっすか?」


 興奮気味のリッシュ。


「夜を待つ。その前に偵察だ」


 俺の影からイービルアイ30匹が一斉に飛び出した。


「まずは救出対象の居場所を見つけないと」


 ついでにイービルアイに命じて貴族に飼われているという魔獣もなんとかしよう。

 助け出す前に救出対象が食べられてしまったのでは後味が悪すぎるからな。



 夜。


「やっちまうっすか? やっちまうんっすか?」


 興奮気味のリッシュ。

 ……こいつ、昼間からこんな調子なんだが大丈夫か?


「やるぞ」


 救出対象の場所は補足した。

 貴族連中にペットされている魔獣はイービルアイの催眠光線で眠らせてある。


「さて、どこから手を出そうか?」


「特にこだわりがなければ一番大きな貴族邸から狙うのがお勧めっす」


「それはなぜ?」


「お屋敷の大きさは貴族の権力と財力に比例すると思うっす。そんなお屋敷に賊が入ったとなれば衛兵の皆さんも黙ってないっす。どんなことがあろうと最優先で押し入った賊を捕まえようとするっす。何せ、権力と財力のある貴族のお宅っすから、賊を逃せば酷いし置きが、でも賊を捕まえられれば衛兵の偉い人には栄達が約束されるっす。きっと街中の衛兵を総動員してでも賊を捕まえようとするっすよ。そうすれば――」


「残り二カ所で仕事がしやすくなるって寸法か?」


「そうっす。理解して貰って感謝っす」


「賢い奴だ!」


 ぐりぐりとリッシュの頭をなで回す。


「チェルシーと一緒に、俺の参謀になれよ。その方が良い」


「いえ、自分は発明家なので、発明品でお役に立ちたいっす」




 街のほぼ中心部にあるボルク邸に移動する。

 広大な庭に、平城のような邸宅。

 なるほど、確かに権力と金を持ってそうな奴の邸宅だ。


「いよいよっすね! やっぱ裏手に回るっすか?」


「いや、真正面からだ。――チェルシー、準備は良いか?」


「いつでもいいよ~! よ~!」


 いつになくテンションの高い声。

 声に当てられたのか、俺の気分も上がってくる。

 ……無理もない。

 これが、あいつらの初の実戦投入なのだから。


「いくぞ!」


「う、うっす」


「《召喚:軍門》!」


 直後、ずががががっ! と地鳴りを上げて俺の影から迫り出したのは――巨大な門だ。

 三階の構造物を越えるほどの高さ、四頭立ての馬車を3台並べてもまだ余裕のある幅行き。城塞にあればいかなる侵攻も許さぬであろう堅牢な趣で、しかし俺の合図に門扉が二つに割れ、奥の奥より、どどどどどどどっ! という爆音が近づいてくる。


「――突撃!」


 開ききらぬ間に門扉を越え、1匹が、1体が外に躍り出す。


 1匹は、4本の牙を生やし、黒毛で、鶏冠のようなモヒカン頭の大猪。

 1体は、大猪の手綱を握る、極悪面をした黒いオーク。


 1匹と1体が乗せ、1つとなって夜を駆ける。

 そう、やつらこそオークの新しい可能性――オークライダーだ。

 次々と軍門を駆け抜けるその数は、3ダース……36体。

 陣形など知らんとばかりに我先にと全力全速で駆け、頑丈そう柵は一息に跳ね飛ばすと、広大な庭を踏み荒らしながら、少しもその勢いを損なうことなく邸宅の入り口に突貫!

 建物が上下左右に揺れ動き、遅れて人々の阿鼻叫喚が木霊する。


「ひ、人死にでないっすかね?!」


「人が寝静まった時間帯だし、直接、部屋は狙っていないから大丈夫だ……建物自体が崩れたら知らんが」


「ひ、ひぇ~、崩れないっすよね? 崩れないっすよねぇ?!」


「――行くぞ」


 リッシュを小脇に抱え、最後尾のオークライダーに飛び乗る。

 邸宅に突入すると、あとはイービルアイの案内で地下室に向かう。

 地下室までのルートは昼間に調査済みだ。

 オークライダーの陽動が効いているのか、難なく地下室に到着する。


「鍵を壊して中の奴らを運び出せ! くれぐれも丁重にな」


 召喚したハイオークに仕事を任せ、俺は地下室の奥に向かう。

 ……それにしても良い趣味してやがる。

 監獄でもあるまいし、個人宅の地下室に地下牢が、ひぃ、ふぅ、みぃ、とこの数だけ権力を笠に着て良からぬことをやっていたに違いない。子供の躾なら押し入れで十分だしな。


 それに、酷い匂いだ。地下室でも空気穴くらいあるだろうに、悪臭という悪臭をブレンドして熟成させた、ゴブリン好みの悪臭……というか、もう毒ガスだ。

 リッシュなんてゴーグルにマスクと完全武装だし、俺も長くは耐えられそうにない。


「さっさと――」


 行こうとしたら「ぶひ!」とハイオークの1匹に呼び止められた。

 何事かとそいつが担当する地下牢を見ると……あ~、なるほど。ここでの救出対象は12名のはずが、1つの牢屋だけで20人以上がぎゅうぎゅうに押し込まれているではないか。

 点呼でも取るか? いや、いちいち、点呼取るのも面倒だ。


「全員連れてこい!」


 俺の一声にハイオークが一斉に仕事を始める。

 地上から聞こえてくる阿鼻叫喚に、地下室の阿鼻叫喚が加わる。

 そりゃそうだ。いきなりハイオークが牢屋に入ってきて、ドナドナしていくのだから。

 そんで召喚した「門」に次々と放り込んでいくのだ。

 ……うぉい! 丁重に、って言ったよな?


「ひぇ~、旦那~、お助け~!」


 何でか俺の向かうはずだった奥の方からリッシュの声。

 奥に向かうとリッシュが飛び出してきて、俺を盾にして背中に隠れた。


「ば、ばばばばっ、ばけものが!」


 どれどれ、お~、いたいた。しかし化物? 


「ただのギガントピテクスだぞ?」


 ギガントピテクス。

 超大型の類人猿型の魔獣だ。ただ、俺の知っているギガントピテクスと違って顔は真っ赤で体毛は白い。アルビノの変異種だろうか?


「ただの怪物っす!」


「ここはいい。ハイオークに指示を出してこい」


「うひぃ! うちがっすか? 生意気だってぶん殴られません?」


「ちゃんと言いつけてあるから大丈夫だ」


「信じるっすからね!」


 まさに脱兎となって逃げ出すリッシュ。

 逃げ足もなかなかに優秀な奴だ。


「さてと」


 檻に入れられたギガントピテクスに近づく。


「ギガントピテクスだよなぁ?」


 まじまじと見てみる。うん、色以外はギガントピテクスだ。


「何か変わったところは?」


「うほほほほほっ!」


「うっせ」


 ばちぃん、とギガントピテクスの頬を張る。

 まさか頬を張られるとは思っていなかったのか、ギガントピテクスはキョトンとした。


「檻に入れられたままだから弛んでやがるな。ダメだぜ、運動不足は」


「うほほほほほほっ!」


「だから、うっせ」


 もう一発、ばちぃん、と鋭い音が木霊する。


「肉質も悪い。人間なんか喰ってるからだ、美味くねぇだろうによ」


「うほほほほほほほほっ!」


「この、――おっ?!」


 もう一発、と思った手は驚きのあまり宙で止まった。

 ギガントピテクスの顔が三面、腕が六本に増えていた。


「おおおおっ、面白ぇ! 新種か? 新種なのか?」


「うほほほほほほほっ!」


「上等だ。ひとつ試してやる!」


 ちょっと楽しくなってきた。




「あっ、旦那~、こっちはあとは撤収するだけ、――ぎゃあああ~!」


「ご苦労、リッシュ。終わったのならさっさと撤収するぞ」


「なんすか、それ? なんすか?」


「これ?」


 俺が左手に握って奥からずるずる引きずってきた奴を見せてやった。


「新種のギガントピテクスだ。なんと、顔が三つ、腕が六本に増えるんだぜ!」


「殺した、……っすか?」


「腹パン一発で黙らせた」


「すごっ……」


 とりあえず《門》に放り込む。


「お前も入れ」


「旦那は?」


「俺が入ると《門》は開きっぱなしになるから、上の連中を回収したら単独で脱出する。保護した連中はとりあえずヴリトラ島に連れて行ってくれ」


「さっきの怪物はどうするっすか?」


「同じくヴリトラ島でいい。保護した奴らとは隔離してな」


「それはもちろん了解っす」


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