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第12話 ブラッディスライム

 とりあえずヴリトラ島に渡り、製造工場の人工子宮に回復液を満たし、三人を入れる。

 体力を回復させないとブラッディスライムに取って喰われるからだ。


「なっ、なんなんすか? ここは?」


 すらりと居並ぶ人工子宮を前にリッシュの声が高々と木霊する。


「製造工場よ。自然分娩だと時間が掛かるからここで人為的に魔物を生産しているの」


「お、怒られるッスよ?」


「――誰に?」


「神様にっすよ!」


「大丈夫、了承済みよ」


「りょ、了承済み?」


「七大精霊を仲介して了承は取ってあるわ。天に弓引かなければいい、ってさ~」


「ま、まじっすか……」


「もしものときは軍勢を貸し出すことを確約させられたけど……『もしも』のときって何だろうな?」


 俺の素朴な疑問に、チェルシーは「さぁ~」と肩を竦めた。


「きっととんでもないことよ!」


「……だろうな」


 神様が俺の軍勢を必要とする事態だ、きっと世界の命運とかが掛かっているに違いない。



 小一時間ほどしてから3人を人工子宮から出し、処置室に運ぶ。

 ボロ同然の服は回復液に入れる前に剥ぎ取っているので今の3人は真っ裸に、白い貫頭衣を着せられただけの姿でベットに横たわっている。


「な、なんすか、それ?」


 俺が手にするぐにゃぐにゃとした赤黒いものを見てリッシュは声を上げた。


「ブラッディスライムだ」


「正確には、ブラッディスライム本体から切り離したブラッディスライムの肉片よ」


「そ、そんなもん……どうするんっすか?」


「本体から切り離された肉片は残った栄養を食い潰せばあとは消滅するだけなんだけど、これをこうして、こうして、こうするの」


 まず左手左足のない子の切断部を切り裂き、ブラッディスライムの肉片をくっつける。

 焼けただれた傷跡には軟膏か何かのようにブラッディスライムをペタペタと塗っていく。


「あとはこの子たちの血の記憶を読み取って……こんな感じね」


 ブラッディスライムの肉片がうねうねと蠢き、あれよあれよという間に失ったはずの手足を象り、肌の色から質感までを完全に復元……というか、再現した。


「す、凄いっす……でも、これ、大丈夫なんすか?」


「どういう意味?」


「魔物に乗っ取られたりは……」


「ああ、うんうん、弱っていると逆にブラッディスライムに侵食される恐れはあったけど、ちゃんと体力を回復させてから処置したから大丈夫よ? よ?」


「さっきの入れ物っすね、なるほど……」


 同様の処置を他の二人にも施し、ちょっと休憩。

 ――二時間後。


 まず左手左足のなかった子……もとい、青紫の髪の子が目を覚ました。


「ここは……わたしは?」


 何気なく起き上がり、その挙動にまず少女自身が驚いた。


「腕が、ある! 足も! 左目が見える……や、火傷がない! ない! どこにもない!」


 ペタペタと触りまくる女の子。

 その様子にチェルシーがうんうんと満足げに頷く。


「その調子だと神経はちゃんと繋がってるみたいね。違和感とかない?」


「あ、あなたは?」


「わたしはチェルシー、こっちはアシェルで、こっちが兎ちゃん」


「うちの名前は『リッシュ』っす」


「――リッシュね」


「あ、あなたは……わたしを買った人だな?」


 女の子と目が合う。まなじりが尖った猫みたいな目だ。

 紫色の瞳には凜と輝くものがあり、如何にも気が強そう。


「そうだ。お前らは俺が買った」


「わ、わたしはどうなったのだろう? もしや……死んでしまったのか?」


 女の子はまじまじと両の手を見た。

 寝て起きたら、失ったはずの腕が戻っているのだ。そう思うのも無理はない。


「まだ生きてるわよ。ちなみに夢でもないわよ?」とチェルシー。


「夢ではない? では、この腕は……いったい?」


「ブラッディスライムよ」


「ブラッ……え? 何?」


「ブラッディスライム」


「スライム……これが? この腕が?」


 女の子は信じられんと言った顔で、左の手を灯りにかざす。

 スライムだから光に当てれば透けるとでも思ったのか。

 生憎と、そんな無調法な代物ではないので透けることはなかったが。


「試しに『偉大なる力を』って念じてみて」


「『偉大なる力を』と? 何の意味が――」


 言いかけて口をあんぐりと開けたまま少女は固まった。……無理もない。

 自分の左腕が突如として毛むくじゃらの大型類人猿のものに変わってしまったのだから。


「グレイトエイプの腕か?」


「そうみたいね」


「こ、これはどういうことだ?!」


 冷静な俺とチェルシーとは裏腹に、少女は慌てふためいた様子で問いかけてくる。


「ブラッディスライムは捕食した相手に変異できる能力があるの。その腕は、ブラッディスライムが捕食したグレイトエイプの腕ね。あなたが腕力を求めたから、求めに応じられる形態に変異したのよ。次は『堅牢な盾を』って捻じてみて」


「わ、わかっ――」


 少女が快諾する間に、その腕は別の形態を取った。

 今度は甲殻類のような殻に覆われた腕だった。


「デモンズキャンサーか。すげぇの喰ってやがるな、こいつ」


 素直に感心した。

 デモンズキャンサー。

 大岩ほどの沢ガニに似た魔獣で、走攻守を高いレベルで併せ持つ難敵だ。

 身が美味いので何度も戦ったことがあるが、一度としてすんなり勝てたためしがない。

 逆に、取って食われそうになったこともあるくらいだ。


「こ、これは……!」


「移植した手足はそのうち純正化して完全にあなたの手足になるわ。けど、流石に腕1本足1本となると、あなたが生きている間は無理かもね。だから、早く慣れた方がいいわ。それとも気に食わないなら別の方法を考えるけど?」


「い、いや……大丈夫だ。ちなみになんだが、その別の方法とやらは?」


「ゴブリンの腕を移植するわ。体格的にぴったり――」


「い、いや、いいいいっ! この腕で十分だ! この腕が良い!」


「気に入って貰ってよかった♪」


 満足げに言ってチェルシーが俺の頭に止まる。


「他の二人にも同じ処置を施してたんだけど、よかったかな? かな?」


「他の二人?」


 チェルシーの視線を追って、隣の処置台を見た女の子の目がまん丸と見開かれる。

 隣の処置台には女の子と一緒に買った他2名が寝かせられていた。

 女の子同様、2人ともすでに処置済みだ。


「カティン! コティン! ああ、よかった」


「知り合い?」


「妹だ。……他の方々は? 別の部屋だろうか?」


 女の子はきょろきょろとあたりを見渡す。

 ……他の方々?


「いや、買ったのはお前らだけだ」


「わ、わたしたちだけ? そ、そんな……」


 ギョッとした。いきなり女の子が顔を手で覆って泣きだしたからだ。


「チェ、チェルシー?!」


「わっ、わたしじゃないわよ、よ!」


 きっとチェルシーの処置が甘くて、ブラッディスライムに女の子の脳味噌が侵されてしまったに違いない! 責任逃れとは、この性悪妖精め! 尻にマッチ棒刺してやる!


「うぅ、不憫っす、不憫っす。どうかならないのですか? 旦那~」


 何でかリッシュまで泣き出す始末。


「どういうことだ?」


 逃げるチェルシーに手を伸ばした格好のまま問いかけた。


「ここに来るまでに多くの魔物を見たっす。みんなおっかない顔をしてうちを餌としか見ていなかったのに、旦那にはどの魔物も恭しく跪いたっす。まるで王様にでも会ったかのように。旦那はもしかしたらあいつらのボスか何かなのではないっすか?」


「まあ配下ではあるな」


「お願いッス! あいつらに命じてこの子の仲間を助け出して欲しいっす!」


「すまん、話が見えないのだが……そもそも助け出すとは?」


「……魔獣の餌にされるっす」


「魔獣の餌?」


「貴族が飼っている魔獣の餌にされるっす。特に、戦によって手足を失い、奴隷に落とされた彼女らのような傷痍奴隷は初めからそのためにオークションに掛けられるっす」


「……まじで?」


「まじっす! どうかどうか、お願いするっす! 助けて欲しいっす!」


「私も、私からもお願いだ! 兄様たちを助けてくれ! 奴隷として買われた身でふてぶてしいとは思うが、どうか! どうか――」


 ベットから転げ落ち、女の子がまだままならない体で俺の足にしがみついてくる。


「この身はどうなってもいい! 好きに使ってくれて構わない! 嗜虐の限りを尽くしても、性欲のはけ口に使い倒しても良い! 代わりに兄様たちを助けてくれ、――うぎゃ!」


 鬱陶しいので蹴飛ばしてやった。


「しがみつくな、ズボンが落ちる! あと、勘違いするなよ?」


 女の子の髪を掴み、俺の顔がよく見えるように顔を上げてやる。


「奴隷として俺が買ったんだから、どう使おうと俺の勝手だろ? 勝手に自分の用途を指示されては困るぞ。言われなくなって肉奴隷として使い倒してやるよ」


「ぐっ、それでも……どうか、どうか兄様たちを――」


 ぽろぽろと泣き出す。おいおい、泣くなよ。俺が悪いみたいじゃないか。

 ……いや、実際に俺が悪いのか? まあいい。


「いいぞ」


「「ふぇ?」」


「いいぞ、助けてやる」


「「――いいの?!」」


 リッシュと女の子、二人の声が重なった。


「あら、珍しい。他人を気に掛けるなんて」


「知り合いの知り合いはもう他人じゃないからな」


「……あ、そういう理屈ね」


「ほ、本当に助けてくれるのか?」


 髪を離すと、またすがりついてくる。

 また蹴り飛ばそうとするが、今度はがっしりと足に絡みついて離れなかった。

 ……こいつ、もうブラッディスライムを使いこなしてる?!


「本当だ。ただし、お前ら三姉妹は俺に買われたんだからここで死ぬまで鍛冶をやるんだぞ? いいな、わかったか?」


「も、もちろん! 兄様たちを助けてくれるのなら我ら三姉妹、おはようからおやすみまで喜んでこの体を差し出そう!」


「だから!」


 俺の奴隷だから~、と言おうと思ったが、やめた。話が進まん!


「チェルシー。さっそく救出作戦を立案してくれ!」


「それは構わないんだけど……」


「――ん?」


「そのお兄様たちはどこにいるのよ?」



評価よろしくお願いします。

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