第11話 奴隷市場
大型のテントの中に入り、適当な椅子に座る。
俺らの他には身綺麗な男女の姿がちらほら。
ドレスやらスーツ姿なのを見るに貴族様だろうか? もしくは金持ちの商人?
……まあどうでもいい。
目の前のお立ち台では今なおオークションが続いている。
買受人の声が飛び交い、進行役がハンマーを叩く。落札、また落札。
お立ち台では次々と商品である奴隷が入れ替わり、立ち替わる。
「ありゃりゃ、どうやら遅かったみたいっすよ、旦那~」
「あん? どういうことだ?」
「目玉商品は終わってしまったみたいっす。今は傷痍奴隷のオークションっすね」
「傷痍奴隷?」
リッシュの答えは必要ではなかった。
お立ち台には、手足がなかったり、酷い火傷を負っていたり、目元に包帯が巻かれたりと、痛ましい傷を負った奴隷が居並んでいたからだ。なるほど「傷痍」とはそういうことか。
「明日、出直っすすか?」
「そうだな……」
ふと奴隷の首に掛けられた看板が目についた。
名前と性別と種族、処女かどうか、犯罪歴、前職などなど。
「お、あの子……ドワーフだ。でも、あんな女の子まで奴隷にするなんて」
見たところ12、3才くらい。褐色の肌に、青紫色の髪。
まだあどけない顔立ちをして、左手左足がなく、左半身に酷い火傷を負っている。
「旦那、ドワーフの女はあれで大人っすよ?」
「え? そうなのか?」
「ドワーフの男の前でロリコンと言ったら、もう殺されても仕方がないっす」
「肝に銘じておく」
勝手な想像でドワーフは男も女も同じ姿をしていると思っていたのは内緒だ。
「あっ、あの子、『鍛冶屋』だ。運が良い」
「腕がないと仕事ができないと思うっすけど……」
「あ、あの子も、あの子も『ドワーフ』で『鍛冶屋」だ!」
「両腕どころか両足もないじゃないですか。もう片方なんて両手に加えて、おそらく目も見ないじゃないですかい? 前職『鍛冶屋』でも役に立たないッスよ」
「問題ない。早速、落札しよう」
「金をどぶに捨てるだけだと思うんっすけど……」
『次の品物も遠くフィナリス王国からの傷痍奴隷です。左手左足はありませんが、左半身はこんがりと焼かれ、まだまだ部位の多くを残しています。最初は1ゴールドから――」
「10万ゴールド!」
俺のひと言で、場にはなんとも言えない沈黙が下りた。
「だ、旦那ぁ~!」
くすくすっ、とどこからか笑い声。
『10万ゴールド、10万ゴールド……ぷっ、くくくっ、他にありませんか?』
なんでか進行役の奴にまで笑われた。
「まずったか?」
「大変に……」
『いないようなので落札!』
がんがんっ、と進行役がハンマーを打ち鳴らす。
「旦那~、次からはもうちょっと抑えた金額を――」
『お次も遠くフィナリス王国からの戦傷奴隷です。目と両腕はありませんが、ご覧の通りに女性としての部位は見参、一粒で二度美味しい仕様となっております。では――』
「10万ゴールド!」
『――落札!』
「だ、旦那~!」
『次々まいります。上客がいらっしゃいますと進行が早くて助かりますね』
進行役の小粋なジョークに、くすくすと笑い声が漏れる。
『お次も遠くフィナリス王国からの戦傷奴隷です。ご覧の通り両手両足はありませんが、逆を言えばその分手間が省けたというもの。引導を渡す前に、孕ませ、物笑いの種にするのがお勧めです。では、1ゴールドから――』
「10万ゴールド!」
「――はい、落札!」
俺と進行役とのもはや手慣れたやり取りに会場に笑い声が飛び交う。
「名残は惜しいがここまでだな。奴隷を引き取って帰るとしよう」
席を立ち、テントの裏にあるという奴隷の引換所に向かう。
「しかし、なんで俺は笑われていたんだ?」
「そりゃ旦那……あんな傷痍奴隷に10万も出す奴なんて貴族にもいないっすよ」
「そうなのか? 10万の価値は十分にあると思うんだがな」
「せいぜい、2万か3万が相場っす。たいだい、手足がないのにどうするんっすか? やっ、やっぱ……こっ、交尾の道具にでもするんっすか? うひぉ~、エロエロっす!」
恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに、……顔、真っ赤だぞ?
「そんなことはしない。ちゃんと専属の鍛冶職人として働いて貰う」
「はぁ? そんなどうやって――」
「手足がないのなら別の手足をくっつければ良いだろ?」
到着。……むぅ、凄い臭いだな。
汗と糞尿と腐った何かを煮詰めたみたいな臭いだ。
懐かしい。野良ゴブリンの巣穴を思い出すな。
「落札した奴隷を引き取りに来た」
係の者に言うと、檻に入れられた三人が連れてこられる。
入り口が開けられ、係に出るように促される。
しかし、3人は芋虫のように横たわり、もぞもぞと動くばかりだ。
「早くしろ!」
係の奴が警棒で強かに檻をぶっ叩く。がんがんがんっ、と耳障りな音。
……意地悪な奴だ。
係の奴の両手両足をへし折ってやろうか? いや、騒ぎになるのは不味いか。
「おい、手荒に扱うな!」
「けっ、どうせ今日明日の命だろうが!」
「……あん?」
どういう意味だ? そこら辺ちょっと詳しく聞いてみようか? そこの暗がりでよ。
「旦那~、鼻がもげそうっす。こんなところさっさとオサラバするっすよ~」
――チッ、運の良い奴め!
リッシュが檻の中に入って腕のない子を立たせる。
俺も檻に入って、四肢のない子を抱き抱え、左足のない子に手を貸してやる。
「旦那、うちが運びますよ。服が汚れちまう」
「汚れたら洗えば良い」
「それにこいつら酷い臭いだ」
「そうか?」
くんくんっ、と嗅いでみる。
「大したことない」
野良のゴブリンの方がよっぽど臭い。
ちなみにうちのゴブリンは衛生面から水浴びを推奨しているため臭くはない。
……今はどうでもいい話だが。
「お前はその子を連れてこい」
「わかったっす」
リッシュの大荷物を背に負い、片手に四肢のない子を抱き抱え、もう片手で左足のない子を支える。
「だ、大丈夫っすか?」
「問題ない」
体力は十分だが、傍目にはどう見えていることやら。
大荷物と怪我人を抱えて戦地から逃げてきた難民にでも見えるだろうか?
「どこに向かうんっすか? 遠いっすか?」
「すぐそこだ」
奴隷市場を出て路地裏に曲がる。突き当たりまで進んで「門」を召喚。
「なっ、なんすか、これ? なんすか?」
「門だ」
両手が塞がっていたので扉を蹴り開けて、中に入る
「だ、旦那~!」
「早く入ってこい!」
中に入ると、チェルシーが飛んでくるのが見えた。
「あらら、大所帯ね? ね?」
俺の周りをチェルシーが興味津々とばかりに飛び回る。
「この子たちは? ゴブリンのお土産かな? かな~?」
「違う。鍛冶職人だ。しかもドワーフのな」
「鍛冶職人?」
「鎧は特注で作らないとダメらしいからこいつらに作らせようと思ってな」
「でも、手足がないようだけど? ドワーフって生えてくるっけ? くるっけ~?」
「ブラッディスライムを使う」
「なら、ヴリトラ島ね。……この子ウサギちゃんは? 食用?」
「――食用?!」
「面白そうだから連れてきた。後で話を聞いてやってくれ」
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