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第9話 川の水と魚

 池に入り身体を清めた俺とエリス。

 俺の服も一緒に洗ったため、それを木の枝にかけて乾かす。

 その間、俺たちは休憩を兼ねた昼食をとることに。


 パンの生地のようなものに、肉の味のする木と、野菜を挟んだサンドイッチのようなものを食べる。


「あー うまいな。水浴びのあとの飯と、森林浴。あー このまま、ここで暮らしてー」


 草むらの上に下着姿で寝転がり、サンドイッチを食べる。

 身体もさっぱりして、まるでピクニックに来た気分だ。


「まだ仕事は残ってますよ」

「えーっと、なにしに来たんだっけ?」


「水を持って帰りたいです」

「水って、ここのか?」


「そうです。最近雨が少ないので、洞窟近くの井戸の水位が心もとないです」

「水が無いと、困るもんなー」


「それに畑にまく水も必要です」

「なるほどな」


「ここの水は精霊たちの加護もありますので、とても清らかな水です。そのまま飲んでも、身体に良いです」

「そういえば、飯食ったら、喉渇いたな」


 腹を膨らませた俺は四つん這いのまま、小川に近づく。


「このまま飲んで大丈夫か?」

「大丈夫ですよ」


 顔を近づけると、透明で河底まで覗ける。

 遠くの水がエメラルドに反射し、水しぶきが白く光輝く。

 まるで液体の宝石のような水を、手ですくって口に流し込む。


「おー うまい! 水がこんなうまいものだったなんて!」

「そうでしょう。ここの水は美味しいのです」


 自分のことを褒められたかのように、少しだけ顔をゆるますエリス。


「ここまで浄化するのに、何年もかかりました」

「ふ~ん」


「あの戦の後、それそれは酷い有り様でした。川の水は生き物の血で赤黒く染まり、

 鉄の錆びた匂いと生臭い血の匂いが周囲を覆い、

 上流からは獣や人間の原型を留めていない遺体が何日もの間、流れてきて……」


 ブフッーー!


「水飲んでるときに、変なこと言うなよ!」


「幸せですね、カズヤ様は。遅れてきたお陰で、そのような惨劇を目にすることが無くて」

「悪かったな! 遅れてきて!」


「……しかし、水を運ぶには馬が必要ですね」

「ああ、そうだな」


 ホンダさんだけでは辛いよね。エリスと俺と、さらに樽二つ分の水でしょ?


「すでに大きなお荷物を後ろに載せながらの移動ですので、なにかと不便でしょうがないです」

「なに? それは俺のこと言ってんの?」


「今日はこの後、街へは向かわずに、馬を捕まえましょう」

「……そうするか」


 俺専用の馬か……

 いや、馬に乗れないから、荷物専用の馬かな。


「もう少し休んだら移動しますよ」

「へいへい」


 しばらくの間、俺たちは、ぼんやりと池を眺めていた。



 ……


 ……あっ、今、魚が泳いでた。


 ……


 ……あっ、まただ。


 ……


 ……魚、食いてえなぁ~



「ところでさ~ エリス?」

「なんでしよう?」


「俺、魚、食いたいんだけと」

「……」


「久しぶりに夕飯、魚にしたいんだけど?」

「別にカズヤ様だけなら、かまいませんが」


 なんでそんな嫌そうな目をするわけ?

 魚も食べちゃいけないの?


「何か道具ない? 釣竿とか?」

「ないです。というより、魚なんて食べるんですか?」


「そうだよ。毎日同じようなもんで飽きてきたよ」

「なんと野蛮な……」


「魚くらい普通に食うだろ?」

「……」


「ここの水は綺麗だから、うまい魚、いるだろうなぁ~」

「……」


「久しぶりに生で、刺身にして食いてーな」

「……」


「おい! なんだよ、その顔は!」

「生き物をそのまま喰らうとは……カズヤ様は下等生物ですか?」


「魚くらい、生で食べるだろ!

「たとえドラゴンであっても、火を吐いて焼いてから食べますよ」


「なんでだよ! 少なくとも俺の故郷、日本では普通に食ってたんです!」

「どうぞ、お好きなように。止めはしませんが、気をつけてください。川魚は寄生虫がいるので、生食は危険と聞いておりますよ」


「マジ!? ……じゃあ焼いて食うわ」


 エリスは変なところにこだわって、変なところで知恵があるからなー


「で、道具ないの?」

「ありません」


「じゃあ、エリスの魔法で凍らせて……」

「嫌です」


「……じゃあどうすればいいんだよ!」

「諦めてください」


 なんて非協力的な仲間なんだ!

 そのままそっぽを向いて、目を合わせようとしない!


「くっそ! なんだか、なおさら食べたくなってきた!」

「では、その自慢の剣で何とかしてみてください」


「おお、これか?」


 いちおう持ち歩いてるんだけど、全然活用しないから、存在自体忘れてたよ。


「それを竿代わりにするか、突くなり斬るなりしてください」

「なるほどな」


 俺は立ち上がると、木に立て掛けていた剣を取り出し、川に向かって構える。


「しかし、動いてる魚をこれで斬り突けるって、難しくね?」


 そういいながら、試しに剣を軽く上に振りかぶって、真っ直ぐ振り下ろした。


 と、その瞬間!!


 周囲に大きな突風を巻き起こし!


 振り下ろした軌道にそって剣先から衝撃波が発生し!


 川を割き、大地を削り!!


 前方に生えた樹木を次々と左右に根こそぎ引き倒し!!


 一直線に飛んでいった先の草原まで見透しよく!!


 その空間にある全てを凪払ってしまった!!!!!



 え? 嘘だろ?

 ちょっと振っただけなのに……

 目の前にあったものが、すべて吹き飛んでしまった……


「え? あ? え? うそ!?」

「カズヤ様……なんてことを……」


 さすがのエリスも立ち上がり、切れ長の目を大きく見開いている。


「嘘でしょ? その、ごめんって! えっ? まさか、こんなことになるなんて! こんなに凄いの? この剣って!?」

「……責任取ってください」


 うっ、エリスの声がいつもよりまして……ドスが利いてる……


「……せ、責任って?」

「10年以上かけて、ここまで育ててきた森なんですよ」


「うっ……ごめん。どうすれば? どうやって!?」

「元通りになるまで、育てるんです」


「10年以上見守れってか?」

「はい」


 マジかよぉ……

 夕飯の魚どころじゃねーじゃん……

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