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異世界終末旅行 ~救世主として召喚されたわけだが、一足遅く異世界は滅んでおりました~  作者: 夜狩仁志
第4章 異世界米騒動

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第53話 おにぎり殺(コロ)リン事件

 今日は塩と米を交換するために、ゴリパンの村へと向かう日。


 道中、周辺地域の探索もするため長期間の移動になる。そのため多めに食料を準備して行くことに。


 というわけで、俺は朝早く起きて米を炊いた。

 昼と夜の食事用に、おにぎりを作るためにだ。


 手を塩水につけて、手早く米を三角に握り込んでいく。

 現状では中に入れる食材がないので、あり合わせの食材を詰め込んでいく。


 これには、肉の味のする木の幹を入れて……

 これは、ご飯とワカメを混ぜたものを握って……

 次は貝を醤油で甘く煮詰めたものを入れて……


「カズヤ様、さっきから、なにをしてるのですか?」

「ああ、エリスか」


 炊事場でおにぎりを作っていた俺を、物珍しそうに見ながら聞いてくるエリス。


「これは“おにぎり”だよ」

「なんです? おにぎり?

 ライスは食べ物ですよ。おもちゃじゃないんですから。こねくり回して、遊ばないでください」


「遊んでるんじゃないよ。お弁当というか、携帯食?を作ってるんだよ。こうやってご飯におかずを握り込んで、食べやすいサイズにして持っていくんだよ」


 俺が手で握るおにぎりを、どうやら初めて見るようで、顔を近づけながらジーッと観察するエリス。


「なるほど」

「塩水つけて、日もちのする食材を詰め込んでさ。さらにお新香とかつけて、殺菌効果のある葉で包んで道中食べんるだよ。こうやって三角に握っておけば、皿も箸も必要ないだろ」


「パンとパンの間に食材を挟んで食べるようなものですか?」

「そうそう! サンドウィッチみたいな。それのライスバージョンみたいな感じかな」


「ふむふむ、では私もやってみていいですか?」

「ああ、いいよ」


 興味が湧いたらしく、自分にもやらせて欲しいと両手を伸ばすエリスに、場所を代わってあげる。


 そして、自信ありげに米を握り込むこと数回。


 エリスが丸めた両手を広げて中を見せると……


 ぐっちゃぐっちゃ……


 手の周りに米粒がビッシリこびりついて、三角おにぎりの原型が消えていた。


「…………」

「……も、もう一度、やってみます」


 異世界の住人には、おにぎりはちょっと難しいのかもしれない。


 慌てたエリスが再びおにぎりを握ると……


 今度は野球ボールのようなサイズの、いびつな球体ライスが誕生した。

 食べにくそうなこと、この上ない。


「……まぁ、初めてにしては、いいなんじゃない? 別に無理して三角にする必要ないし」

「なんで上手くいかないんですか!」


 俺の作った物と何度も見比べて、不満を言うエリス。


「まあ、慣れだよ。やっていくうちに……」

「もう一度!」


 釜から米をすくい出すと、ムキになって握り出す。すると今度は、岩石のようなカチカチに圧縮されたコンクリおにぎりが完成する


「うん、まぁ、あんまり力任せに握ると固くなるから……」

「カズヤ様は、いったいどんな魔法を使って作ったのですか! 卑怯ですよ!」


 自分の出来栄えに納得しないエリスは、ついに俺を怒鳴りつけ、理不尽な言い訳をしだす。


「いや別になんにも、魔法なんて使ってねーし」

「うぐぅっ……」


 悔しいのか腹が立つのか知らないが、米粒でいっぱいの両手を、爪が食い込む勢いで握り込む。


 やめてくれ、

 米がもったいねぇ。


「いいよエリス。それも途中で食べるから、そろそろ出発の準備を……」


「カズヤ様のくせにっ! 生意気です!!」

「な!? なんだとお!」


 自分の失敗を棚に上げ、勝手に怒りだして俺のせいにしやがった!


「おにぎりの練習しています!!」

「なっ!?

 ちょおい! ちょっと! 

 どこ行くんだよー!?」


 そう言い放っと、真っ赤にした頬を膨らませながら、不貞腐れたエリスはそのまま何処かへ走り去ってしまった。



 なんなんだよ……おぃ……



 出発を目前にして、勝手におにぎりの練習をすると言い出してどこか行きやがった。


 まぁ、そのうち戻ってくるだろう……


 そう思い、大して気にもせず、そのままその場にいた俺だった。



 ……そうしてエリスが俺の前から姿を消してから、約1週間ほど経過した……


 ぁぁ……腹減った……

 あいつ、どこ行ったんだよ

 畑仕事も食事の支度も放ったらかしやがって。


 あれから姿をくらましたエリス。

 どこでなにをしてるんだか。

 お陰でこの一週間、俺は何も出来ずにいた。


 今朝はあまりの空腹で、木の下でグッタリと寝転んでいた俺。


 腹減ったから動くのもしんどい。

 このまま昼寝でもするか。


 そう思っていた時、俺の前に人影が……


「カズヤ様」

「あっ!? エリス!」


 いつもと変わらないエリスが、俺の目の前に立っていた。


「お前! どこ行ってたんだよ!」

「おまたせしました。食事の準備が出来ました」


「あ? 食事??」


 なにくわぬ顔して、そんな事を言うエリス。

 今までの事の説明も謝罪もなく、そのまま歩き出しすエリスに、とりあえず俺は起き上がって後ろをついていくことに。


 そして案内された所は、数十分歩いた先の林の中。


 ここまで来る途中に目撃したのだが、道の所々に砂で作ったおにぎりが転がっていた。


 もしかして、エリスが今まで練習してきたものなのだろうか?

 きれいなおにぎりを作るために、今まで練習してたのか?


 そして林の中、切株でできたテーブルと椅子に座らされた俺。


「これからカズヤ様には、私が作りましたおにぎりを堪能して下さい」

「ああ、エリスの作ったおにぎりね。ちょうど腹減ってたし」


「全部で5種類あります。どれも自信作です」

「そうなの? それは楽しみだ」


 エリスが俺のために作ってくれたおにぎりか……

 どうやら、結構練習したみたいだし、きっと美味しい物を食べさせてくれるんだろうな。


 1週間、ろくなものを口にしてなかった俺にとっては、エリスの作ってくれたものなら、なんでもご馳走に感じられる。


「では1つ目のおにぎりです」


 差し出してくれたのは、純白の米で握られた綺麗な三角をしたおにぎり。


「おお! 形は完璧だ! もう見た感じで美味しそう!」

「どうですか、私にとってはおにぎりも単純な料理の一つに過ぎないのです。それに見た目だけでなく、中身も美味しいですから。中身の具材もそれぞれ違いますので」



「えっ! マジで!?」


 すげー 嬉しい!

 エリスが俺のために、丹精込めて作ってくれたおにぎり。

 偉そうにふんぞり返るエリスだが、言いたいことは色々ある。

 が、まぁ、この際、いいだろう。

 俺は早速いただくことに。


「いただきま~す!」


 おにぎりの頂点を一気にかぶりつく!

 そして中身を食材も一緒に口の中でほおばる。


 この具材は……


 イモだ!

 中には蒸した芋を詰め込んである。


「どうですか? カズヤ様」


 俺の感想を求めるエリスが、すごい眼力で顔を近づけてくる。


「どうですか……って、まぁ、美味しいよ。うん。」

「そうですか!」


 普段ポーカーフェイスのエリスも、美味しいよという言葉に反応して、少し顔をほころばす。

 そして、気分を良くしたエリスは、長い解説を始める。


「イモは栄養ありますので、さらに色んな種類の芋を混ぜることによって、サツマイモ、サトイモ、ナガイモ……」


 まあ、味は普通なんだけどね。

 ただ、すっごくモッサリしてるんだよなぁ。


 炭水化物と炭水化物のコラボレーション。

 口の中の水分を全て吸い尽くすような、まるで砂漠の砂を食べているかのような感覚。

 しかも、ただ蒸しただけのイモなので味も無く、まさに穀物。炭水化物の中の炭水化物。


 おにぎりの具材には、むかないよなぁ。

 芋ご飯とか、甘く煮付けたサツマイモとかなら、おにぎりに合うかもしれないけど


「どうでしたか、カズヤ様!?

 これ一つで腹持ちが良い優れものです。旅のお供に最適です」

「ああ、おかげで腹いっぱいだよ、ごちそうさま」


「では次は……」

「えっ? 1個目でもうすでに十分なんだけど」


「あと同じサイズが4個あります」

「あります……じゃねーだろ? そんな食えるかよ。」


 普通のコンビニおにぎりなら4個5個食べれるだろうけど。

 ただこのおにぎりだど……イモと米を食ったから、結構腹に溜まってるんよ


「これが2つ目です」


 ……ああこれ、俺の意思は関係ない、全部食わないと終わらないパターンなのね。

 はいはい。


 腹減ってるから、まだ食べようと思えばいけるよ。

 中身が芋のような穀物でなければ……


 俺はエリスが見守るなか、恐る恐るかぶりつくと……

 中には歯ごたえのある細かな粒が?


「……これは、もしかして豆でも入ってるのか?」

「はい。木の実や、クルミ、ピーナッツなどです」


 ……普通、入れないよな?

 おにぎりにさぁ?


「ピーナッツ等は日持ちもしますし栄養価も満点です。道中、遭難してもこれさえあれば安心です」

「はあ、遭難ねぇ……」


 たとえ山で遭難しても、満腹の時までピーナッツ食べれねぇよ。


 うわぁ……口ん中が、バサバサする。

 米を食ってるのに、ピーナッツの歯ごたえが?

 ふんわりライスの食感に、不意にやってくるゴリゴリの豆。

 なんというミスマッチ。

 炭水化物と炭水化物の不協和音の味が、頭を響かせ頭痛を引き起こす。

 そして暴君、炭水化物王の傍若無人な振る舞いと、他者を顧みない無慈悲な圧政により、口の中の水という水が租税のように吸い付くされていく。


「どうでしょう?」

「……水をください」


 俺は一杯の水をエリスからもらい、一気に飲み干す。


 今のところ一番美味しかったのは、今飲んだ水だな。


「次はこちらです」

「はぁ……まだ食べなきゃだめなの」


 勢いに乗るエリス。

 もしこれで食べる事を拒否したら、また拗ねて1ヶ月食事抜きになりかねない。

 ここは我慢して食べるしかないか。

 もしかしたら、次はめちゃくちゃ美味いおにぎりが出てくるかもしれないし。


 なにより米を粗末にすることは、俺のポリシーに反する。出された以上は完食する。


「3つ目はこちらです」


 出されたおにぎりは、なんと見た目が毒々しい! 赤青黄色とカラフルなおにぎり!


 なんだ!このモザイクがかったおにぎりは!!


 ぱっと見でも、ろくでもない危険な物体ということ伝わってくる。


「……これ、もしかして、花びらだよな?」

「そうです」


 そう、このおにぎりには、色とりどりの花びらを表面に貼り付けていた。

 しかも、生のまま……


 これを食べろと?

 普通、花は食べないよな?

 しかも俺は、かつてエリスに花を食わされて悪夢を目ていた。

 米を無駄にはしたくない。

 でもそれ以上に俺の命のほうが大切なのだが……


 ちらっと横目でエリスを見るも、俺が食べるのを今か今かと期待する目で見つめている。

 俺を見るその目は、美しいほど澄んで輝いていた。


 悪気はないんだよ。悪気は。

 だからこそ辛いんだよ。


 とりあえず、いただきますか……


 ほんの一口、口に含み味見をする。


 ……苦い。


 葉っぱの味しかしない。

 しかもおにぎりの中にまで、草を押し込んである。


「なんなん? これ?」

「サラダにぎりです」


 自信満々で答えるエリス。


 …………はぁ。


 このおにぎりには、生の草花を混ぜ込んである。

 エリスはサラダと言うが、こんなのサラダではない。

 味はもう……

 国道脇の街路樹の下に落ちてあったおにぎりのような、生臭く埃っぽい。

 そして公園の芝生の臭いが口の中を充満する。


「どうですか?」

「どうですかって……」


「薬草や毒消し、傷薬のもとになる草花を入れてみました」

「そうなんだ……野生的なおにぎりなんだな」


 なんで薬草食べて、ダメージ負ってるんだ俺?

 ここまできたら、米への冒涜だろ?

 おにぎりに薬混ぜて食べないんだよ、普通は。


「そして4つ目です」

「エリスさぁ、悪いんだけど、もうお腹一杯なんだ。作ってくれて嬉しいんだけど」


「大丈夫です。次はデザートですので」

「えっ? デザート?」


 おにぎりでデザート?

 すげー嫌な予感するんですけど?


「こちらです」


 そう言って出されたのは、今までと変わらないおにぎり。


 見た感じは今まで食べてきた普通の形のおにぎり。


 どこがデザートなの?

 と思いながら食らいつくと……


 うわぁぁ……そういうことかぁぁ……


 中には果物が詰まっていた。


 うわっ……

 口の中が……

 米と……

 バナナ?

 メロン?

 ミカン?

 果物の柔らかい食感と甘みが……

 米が絡み合って……


 はぁ……

 米食いながらミックスジュース飲み込んでるみたいだ。


 相性が悪すぎる。

 米と合うのは、しょっぱいものなんだよ!

 そもそも、米はデザートになり得ない!


「どうですか? カズヤ様?」

「……口からミックスジュースがリバースされそうだ」


「では、次が最後です」

「もうやめろって!」


「今回は特別な高級食材を調達してきました」

「高級食材?」


「普段、カズヤ様は口には出来ない代物です」

「そんな事言われると、なんだか無性に食べたくなるな」


 っていうか、それを一番先に出してもらいたかった。


「では、最後のおにぎりはこちらです」


 自信満々に出されたおにぎり。

 それは何の変哲もない三角おにぎり


 ……ではない!?


 よく見ると、なにか中から染み出してる!?


 うっわ!

 なにこれ!?


 黄色っぽい、とろみのある液体が、滴ってる!


 きもっ!

「なんだよこれ! なにが入ってるんだよ!」


「どうぞ、食べてみてください」

「実際、食べないと教えてくれないの?」

 毒だったら死んだ後、知らされても意味ないんですけど?


 正直、もういらない。

 腹もいっぱい。

 そして気持ち悪い。

 あえてこんな正体不明の物体を食べる必要もない。

 どうせろくでもない物なんだろう。


 だがしかし、この、いいから早く味わってみろよ、とでも言わんばかりのエリスの顔。

 どっからそんな自信が湧いて出てくるんだ?


 ここで突き返す事も出来るが、そうするとまたエリスが拗ねて、一週間、いや、それ以上姿をくらまして食事抜きにされてしまう。


 今一時の満腹死か、一ヶ月の飢え死にか……


 結局、葛藤の末、一時的な死とエリスのご機嫌取りに命をかけることにした。


「……じゃあ、いただきます」


 俺は震える手を必死で抑えながら、半透明の黄色い汁が滲み出るおにぎりを掴む。


 うっわ!

 ベトベトする!

 なにこれ?

 スライムかよ!

 しかも甘ったるい匂いがする

 これはもしかして?


 意を決して一口、


 ……


「カズヤ様、どうですか? 美味しいですよね」


「…………これ、蜂蜜じゃねーかよ」


「ミツバチを愚弄したカズヤ様は、本来口に出来るような代物ではありませんが、今回は特別に調達してきました」


 なんという贅沢な食材の、無駄な使い方!!

 米に蜂蜜かけて食うなんて!


 ぅ゙ぅ゙……きもちわる……


 米が、甘ったるくて、

 口ん中が、

 ベトベトで

 味覚が……


 うっ……

 ぅ゙ぅゔぇっ


 もう限界だ……


「カズヤ様?」


 ゲロロロロロー!!


「カズヤ様! なんてことを!!」


 オロロロロロー!!


 丹精込めて作り上げたエリスの力作おにぎりを、俺は全てリバースするのであった。


 こうしてエリスの尊厳と、料理への自信は回復され、俺はおにぎりによって殺されかけたのであった。

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