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第5話 食料調達

 異世界でも例外なく、数時間経てば日が暮れる。1日という概念は変わらないようだ。

 そして、この世界にやって来てエリスという綺麗な女性のエルフと出会い、さんざん振り回されるという、激動の今日という1日が終わろうとしていた。


 俺たちは今晩の食料を確保すべく、場所を移動することに。

 王都から少し離れた場所に、エリスが長い年月をかけて少しずつ開墾してきた畑があるというので、馬に揺られながら、そこまでやって来ていた。


「さあ、こちらです」


 都の繁華街跡地から、隣の国までを結ぶ街道をしばらく進んだところに、背の低い木々で構成される林が見えてくる。

 馬を降り、その中に入っていくと、四方を木に囲まれたテニスコートほどの広さの畑が目に飛び込んでくる。

 そこには今までの殺伐とした風景とは一転して、背の高さほどのある緑あふれる様々な草木が生えていた。


「どうです?」

「どうです、って? まあまあ、かな?」


 エリスが誇らしげに、控えめな胸を張りながら、目の前に広がる畑を両腕を広げながら誇示する。


 まあ、エリスが苦労して作った畑なんで、自慢したいのは分かるけど……

 畑だね。という感想しか出てこない。


「だいぶ草木も成長いたしました。焼け野原だったこの場所も、ここまで回復することができました」

「あー ここも荒れ地だったんだな」


「回りの木も私が植えました。一人でここまで育て上げるのに10年ほどかかりました」

「へ~ すごいじゃん」


 なるほど。なにも無い状態から、ここまで育ててきたとなると、エリスが偉そうに話すのもうなずける。


 そうか。モンスターとの闘いで、この辺一体焼け野原になったんだな。それが今、俺の目の前に広がっている緑に囲まれた状態まで回復させるのに、とてつもない労力を使ったに違いない。

 しかも女の子一人で。


「野菜も収穫出来るような実が生るまでに、8年かかりました」

「8年!? 結構かかるもんなんだな」


「まあ、私にとっての8年は“気が付いたら”くらいの時間の感覚ですが」

「へ~ やっぱりエルフって寿命長いの?」


「私は人間でいうと……200年くらい生きてますけど」

「マジで! 俺18歳なんだけど……」


「そうです。カズヤ様は、まだまだひよっこのオムツの取れないチビガキです」

「ちょっと! その言いかた!」


「せっかくなので収穫していきましょう。今日の晩御飯として、使いましょう」


 そう言うと、エリスは手際よく、生い茂る茎や葉を掻き分けて、畑の中へと入っていく。


「なに見てるんですか? 早く手伝ってください」

「えっ? 俺も?」


「もちろんです。カズヤ様の分、食料が倍になるんです。その分、働いてください」

「へいへい」


 とはいっても、野菜とか収穫したことないし、どうやって……


 でも、よく見れば、なんとなく野菜の種類とか草木は、地球上のものと大差ないように見える。


 ここに実ってるのとか、見た感じ完全にトマトだし。


「なあ、エリス? その緑の、トウモロコシみたいなの? 食べれるの?」


 茎から延びる葉っぱの付け根辺りから、皮に覆われてるの太いのが実っているけど、これトウモロコシだよね?


「知らないのですか? なら、食べてからのお楽しみです」


 そんな不気味なこと言いながら、エリスが5本ほど、もぎ取っていく。


 え? 大丈夫なの?

 食べれるんだよね。トウモロコシだよね?


 それ以外の果実や木の実をいくつかもぎ取り、肩掛けの鞄の中へと押し込んでいく。


 俺は畑の隣の木々になっている、赤い実を収穫するように言われる。


「エリス、これなんなんだ?」

「リンゴ、とでも表現すればいいのでしょうか?」


「おー この世界のリンゴなんだ。ちょっと食べさせてくれよ」

「いいですよ」


 俺は手ごろなものを1つ取り、一口かぶりつく。


  ………っ!?


「うぇっ、なんだこれ!? 酸っぱ! 味はパイナップルじゃねーか!」

「そうですか!?」


 リンゴを想像して食べたから、違和感がハンパない。


「そちらの世界では、そう表現するのですね」

「まー パイナップルは嫌いじゃねーが、なんか見た目はリンゴで、パイナップル味って、変な感じがするなぁ。他ないの?」

「贅沢ですね、カズヤ様は」


「そもそも、なんでこんなの作ってんの?」

「酸っぱいものは、美容にもいいんです」


 美容にもですか……そうですか……


 俺は、その甘酸っぱい果実を頬張りながら、畑の中へと戻っていくエリスの後を追う。


 次につれてこられた所は、大量のツタが地面を這い茂る場所。その葉と葉の間から、所々に赤い実が見え隠れする。


「これはどうでしょうか?」

「これ、イチゴ? 完全にイチゴじゃん!」


「そちらの世界ではイチゴと表現するのですね。きっと味は違うと思いますので、気をつけて……」

「いただきまーす」


 俺はたまらず、その大きくふっくら実った、赤く色付いたイチゴを一粒、採り上げる

 その一粒を口の中に放り投げ、一口で食べてしまう。


 あぁ……イチゴなんて、もといた世界でも滅多に……


 ……ん?


 …………かっ、かか!



「か、辛い!!」

「辛いですよ」


 うっわ! 口ん中が!

 火でも食べたかのように!


 熱い―――!!


 痛い―――!!


 あついた―――!!


「ちょ、っ、かっ、唐辛子じゃねーかよ!!」


 うっわ―――!!

 辛い!!

 喉が、のどが!!

 のどが痛い!!!


 一気に食べたもんだからあぁぁ!


「水! みず!」

「水は貴重で残り少ないので、あげられません」


「辛くて! 死ぬ――!」

「やめてください。救世主ともあろうお方が、辛い物を口にしただけで辛死からじにするなんて」


「なんでこんなもん! 作ってんだよ!」

「寒い時期には重宝するのです。それに美容にもいいんです」


 この世界に一人しかいなかったって言うのに、誰の目を気にして美容なんかにこだわってんだよ!


「は゛や゛く゛! み゛す゛!!」

「しょうがないですね。水の代わりに、これでも食べて我慢してく下さい」


 そう言って差し出してきたのが……


「これ! さっきのパイナップルの味がするリンゴじゃねーか!」

「分かりました。以後この果実を、救世主様が命名なされました“リンゴップル”と呼ぶようにいたします」


 くっそ!

 これからこの世界で生きていくためには、まず食料問題を解決せねば……


 辛さのあまり地面でのたうち回る俺が、そう決意した瞬間だった。

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