第49話 ハーレム米祭り
沿道には多くのゴリパンタンが集まる。
物珍しそうに俺達を見る中、ここの村の代表の所まで、一匹のゴリパンに案内される。
不安と期待の入り混じる中、連れて行かれた場所は、まだ人類が存在していた時に使われていたであろう、一棟の古ぼけた納屋だった。
薄暗い屋内に案内されると、十数匹のゴリパンが壁沿いに座ってこちらの様子をうががっていた。
中に入ると、一斉に視線が集中する。
俺らを興味深く見つめてくる。
なんか、動物園の中に侵入したかのような違和感。
俺とエリス以外は全員猿だし。
そんな部屋の奥の壁の前には、一匹の貫禄のあるゴリパンが座っていた。
エリスが案内役と言葉を交わす。
「カズヤ様、こちらが村長のようです」
そうだろうな〜と思ったよ。
雰囲気が違うし。
ひと回りも体がデカいし、筋肉スゲーし、なによりも眼光が鋭い。
俺なんか、一捻りにされそう。
地球のゴリラって握力凄いんでしょ?
やだよ、異世界で猿に撲殺されるなんて。
俺の心配をよそに、エリスは物怖じもせず、ツカツカと村長に歩み寄って、話しかける。
会話……成立すんの?
俺の耳には『ウホグホ』としか言ってないように聞こえるんですけど。
「カズヤ様、こちらは村長の“ゴリモンペ”さんです」
「えっ? なんだって? ゴリ?モンペ?」
「ようこそ、お越しくださいましたと、言ってます」
「え? あぁ、どうも、はじめまして……」
とりあえず頭を下げて挨拶しとく。
「人類が絶滅し、森や田畑が魔族によって破壊された後、食料を確保するために、以前人間がしていた稲作を見様見真似で行い、なんとか米を収穫できるようになったとのことです」
「それはそれは」
「で、どうやら米を分けてくれるようです」
「まじで! よっしゃ!」
「その代わりに、塩を分けてもらいたいようです」
「塩?」
「はい。ここは山間で、塩が入手しにくくて困っているようです」
「なるほど」
「そこで塩10ゴリムに対して、米100ゴリムで交換しないか?と、提案してきてます」
「ごりむ? って何?」
「彼らが使う重さの単位です。10はこれくらいらしいです」
とエリスが何か詰まった麻袋みたいな袋を見せてくれる。
ん〜〜だいたいスーパーで売っている1キロの袋入くらいの量かな?
で、100ってのが、奥に積まれてる米俵みたいなやつくらいの大きさ?
「それだけあれば十分じゃね」
「今回は救世主カズヤ様への歓迎の意を込めて、一袋プレゼントしてくれるようです」
「マジか!」
「ただし、村長の機嫌を損ねないように、ちゃんと挨拶して下さい」
「ああ」
挨拶してくださいって……
とりあえず敵意の無いことを示すように笑顔で近寄るが……
この村長?だっけ?
近くで見た感じ、長老ぽい、周りより年配のような印象。
それでも俺の体よりは大きいし、筋肉も凄い。
これ、みんな暴れ出したら、太刀打ちできないんじゃない?
「え〜っと、どうも。カズヤです。お会いできて光栄です……」
「うごウホうごグホ」
……何言ってっか、全然わかんね。
「よくぞ来られました救世主様と、言ってます」
「えぇ? まぁ、ははは」
「ウホグ!ウホホ!グホ!」
身振り手振りでなんか話しかけてくるけど……
うん、まぁ、なんとか、気に入られたのかな?
「ねぇ、エリス、なんて言ってるの?」
「ぜひ私の孫娘をもらってくれないかと」
「……はあ!?」
まさかの内容!?
なんでいきなり!?
「あちらの片隅に座っているのが、そのようです」
片隅に座ってるって?
あの、デカい図体のゴリパンのこと?
あれ雌だったの?
オスメスの違いがわからねぇ……
うわっ!
俺と目が合ったら、モジモジしはじめた!?
「その子が村長の孫娘にあたる"ゲブボラッペ”さんです」
「は? ゲ……ラッペ?」
「村一番の美女だそうです」
「美女の定義が分からねぇなぁ、おい」
みんな同じ猿にしか見えねえ。
「カズヤ様は……あの様なタイプがお好きなのですね」
「そんなわけあるか!」
「なんならもう一人、どうだ? と、村長は言ってます」
「結構です」
「その横に座る"ゲロブロッペ”さんです」
「どいつもこいつも、名前が汚ぇ!!」
「村長の妻らしいです」
「はあぁ? なんで人妻と!? いや、ゴリ妻か?」
「お望みとあらば、離婚すると」
「そこまでしなくていい! なんで二匹も嫁としてもらわなければならないんだよ」
「大丈夫です。ゴリパンの社会は一夫多妻制ですので」
「そーゆー問題じゃねぇんだけど」
あぁ、頭がおかしくなりそうだ……
異世界の中でも異文化過ぎて、ついていけない……
「エリス、丁重にお断りしておいて。俺、救世主としての使命があるからとか、適当に言って」
「そうですか」
俺は米が食いたいだけなのに。
そのためにゴリを二匹も引き取るなんて。
勘弁してくれよ……
「ではカズヤ様、友好の証として『モミモミング』を行って下さい」
「……は? なに? それ?」
「お互いの、相手の胸を揉み合うのです」
「……俺と?……村長が?」
「他に誰がやるというのですか?」
「え? 普通、ゴリラって、自分の胸を叩くドラミングじゃぁ……」
「相手に自分の心臓がある胸を揉ませることによって、敵意のないことを示す、ゴリパンタンにとって大切な習性です」
「俺が……? やらないと、いけないの?」
「米、いらないんですか?」
そこまでしないと食えないわけ?
あぁ、目の前の村長が胸を張って、両手を突き出して、準備万端整えている……
なんで俺、オスゴリの胸を触らなきゃいかんの?
「あの、エリス?」
「早くしないと、村長の機嫌、損ねますよ」
「あ――!! もういいよ、分かったよ!!」
揉めばいいんだろ!
揉めば!!
気が進まないが、上着を脱いで胸をさらけ出す。
そして村長のぶ厚い胸へと手を差し伸べる。
仕方なしに相手の胸を握るが……
胸板が鉄板みたいに硬い!
なんて筋肉してんだ!
しかも……剛毛で、毛むくじゃらで!
胸が……巨乳すぎる。
そして変な感触。
……たわしを握ってるみたいだ。
決して感触の良いものでもないし、1ミリも興奮もしない。
で、俺も揉まれんの? 胸を?
このデカい手で?
胸が握りつぶされるんじゃね
俺が躊躇いてる間に、ゴリパン村長のゴツい手によって、俺の胸は鷲掴みにされる。
うっわっ!
すげー変な感覚。
俺、オスゴリに胸揉まれてる!?
異世界に来てまで、何やってんだ、俺?
「おめでとうございます。カズヤ様。
これで友好関係が結ばれました。念願の米を手に入れることができましたね」
「なあ、これ、普通に握手でよくね?」
「なんですか? あくしゅって?」
えっ?
この世界って、握手する文化、ないの?
ここの人間達って、挨拶がてらに、お互いの胸を揉みしだくの?
「じゃあ、次はエリスだな」
「はあ?」
「モミモミングしないの?」
「私、エルフですよ? なんでゴリパンタンの習慣に付き合わなくてはいけないんですか?
カズヤ様、バカなんじゃないですか?」
うっ……
そんな怖い顔して全否定しなくたって。
冗談だってば……
「それよりも、今晩は泊まっていってくださいと、言ってますよ。村長が宴会を催すとか」
「そうなの? まあ、今から帰ると、道中で野宿になっちゃうから、泊まっていくか」
というわけで今夜はこのゴリパン集落で一夜を明かすことに。
……というか、胸が取れそうなくらい痛いんですけど?
こうして日が暮れると皆は広場に集まり、キャンプファイヤーの様に、大きな焚火を中心にして円を囲む。
村長の横に俺とエリスが座って、村中のゴリパン達から歓迎を受ける。
しばらくすると、ホカホカの玄米が、大きな葉っぱを皿代わりにして俺の目の前に出された。
おおー!!
米だ!!
何ヵ月ぶりかの米!!
「どうぞ召し上がって下さいと、村長が言ってます」
「いただきま~す!!」
……って、あれ?
箸がない?
「エリス、あの、ご飯食べるための箸、ない?」
「なんですか? ハシとは?」
なんてこった。
この世界には箸という概念が存在しないのか……
「二本の棒で挟んで食べるんだけど。
……っていうか、ゴリパン達はどうやって食べてるんだ?」
「素手です」
「素手……? インド人かよ」
「なんですか? インポチンって?」
「……もういいから、スプーン貸して」
いつも持ち歩いてる、木を削って作ったスプーンを持ってきてもらう。
箸が欲しいところだけど、贅沢いってられない。
俺は玄米をすくうと、口の中に放り込む。
うん、味はまあまあだけど、米だ。
ちょいパサパサしてるけど、ちゃんと食べれる。
もう二度と食べれないと思っていた米を食べれる喜びに、思わず涙が出そうだ。
「カズヤ様、こちらも是非とも、言ってます」
そう言ってエリスが、一つの葉っぱの皿を俺に差し向ける。
その上には黒い川海老の唐揚げみたいなものが、盛り付けられている。
「これ何? おかず?」
「イナバッタを、甘辛く煮付けたものらしいです」
「イナバッタ……なにそれ?」
「虫です」
……
…………
よく見るとゴキブリみたいなサイズの虫が、原型とどめたまま黒く煮付けられている。
まるでイナゴの佃煮みたいな……
「どうしたのです? ゴリパンにとっては、ご馳走らしいです」
「……」
「稲穂を喰い荒らす害虫のイナバッタを捕まえて、食料にしているようです」
「…………」
「山で暮らすゴリパンにとっては、貴重な栄養源のようです」
「………………いくら栄養があるからって」
「これはカズヤ様歓迎ためのご馳走ですよ。村長に失礼です。早く食べて下さい」
周りを見渡すと、全員が俺の様子を見ていた。
これ、食べないと、ヤバい雰囲気だよな。
「せめて原型を無くして……」
「早くして下さい!」
ここで印象悪くすると米をもらえるどころか、袋叩きにあいかねない。
俺は諦めて一つまみ口の中に放り投げる。
ガリッ!
バリッ!
う……
うわぁ……
口んなかで、音を立てて砕かれていく。
その度に苦甘い味が広がっていく。
「カズヤ様、どうですか?」
「…………結構なお味で」
「次の品は……」
「まだあるの!?」
…………こうして俺の地獄の祝宴会は、夜更けまで続いた。
一夜明け、俺たちは早々に荷物をまとめ、帰ることに。
米さえ手に入れば、もう用はねぇ!!
しかしそう簡単にはいかなかった。
朝から俺に会いに、村中の雌ゴリパン達がやってきていたのだ。
俺が泊まった村長の家の入り口を先頭に、村の奥まで行列ができていた。
「え? これなんなの? エリス?」
「私たちが帰る前に、カズヤ様に一目会おうと集まった者達らしいです」
「俺に?」
「モテモテですね」
全然嬉しくねーんだけど。
こうして朝から救世主の握手会、ならぬ、胸のモミモミング会が始まるのだった……
その場を仕切るエリス。
「次の方、どうぞ」
「ウゴッ! ウゴウゴ!」
一匹ずつ、また一匹とメスゴリが俺の前に歩み寄る。
誰一人として何を言ってんか、分かんね。
「カズヤ様、これプレゼントらしいです」
「これ? また? イナバッタの佃煮じゃん」
その場で興奮するメスゴリ。
「ウゴッウゴググゴッツ!!」
「ああ、どうもありがとう……」
そして始まる儀式。
モミモミ……
「はい、次の方!」
「ねえ、エリス、もう帰りたいんだけど」
これで何十匹目?
それでもまだ行列の半分?
さすがに疲れてきた。
エリスもだんだん不機嫌になってきてるし。
いくら友好のため、米のためとはいえ、そろそろ終わりにしてもらいたい。
「よかったですね、カズヤ様。こんなにモテるなんて」
「別にゴリパンにモテたからって……」
「いっそのこと、ここで暮らせばいいじゃないですか」
「なっ!? 何いってんだよ!」
「いいじゃないですか。念願の米も食べれて。ハーレム作って」
「そんなんじゃ……ってか、なんで怒ってるんだよ!」
「別に何でもありません。私、畑の様子が気になりますので、先に帰らせてもらいます」
「えっ!? ちょっと待てって!」
「どうぞ、この村で末永くお幸せに」
「俺を置いて帰るなって! おい!!」
こうして念願の米を手に入れることが出来たのだが、
数日間、胸の筋肉痛に悩まされる俺なのであった。




