第39話 エルフの暇潰し
弓矢と釣竿を手に入れた俺たちは、引き継ぎ村の探索を行う。
「カズヤ様、今度はイリーネおば様の部屋に向かいたいのですが?」
「今度はなに?」
「様々なゲームを収集、開発していた方です」
「ゲームだと!?」
異世界に来て久しぶりに聞く単語に、俺のテンションは跳ね上がる!
「しょうがねーな~ 他にも探索しなけりゃいけねーのに。ちょっとだけ寄っていくか」
「ありがとうございます。では案内します」
そしてやって来たイリーネおばさんの部屋。
昔からある商店街のおもちゃ屋みたいな雰囲気の部屋で、室内ところ狭しと様々な玩具が置かれていた。
「暇な時間は、よくここに来てゲームをしたものです」
「スゲー数だな」
長年、この世界のものを収集してきたのだろう。もちろんテレビゲームのような代物は存在しない。
俺にとっては用途不明なものばかりだ。
「なにかやってみますか?」
「そうだな……せっかく来たんだしな」
「そうですね……では、ボードゲームなどはどうでしょう?」
「ボードゲーム?」
「自軍の駒を敵陣まで進めて、相手のキングを先に取った方が勝ちというゲームです」
「おお、それチェスとか将棋とかじゃね?」
「やってみますか?」
「おう」
馴染みのあるゲームで、それなら俺にも出来そうだ。
「ではこちらへ」
エリスに促され奥の部屋に案内されると、そこには一つの正方形のテーブルが置かれていた。
それに俺たちは向かい合って座る。
よく見ると、テーブルの上には等間隔の線が引かれ棋盤のようになってる?
「この上に駒を置きます」
「この机、全部そうなの? でかくね?」
小箱からチェスの駒のような小さな人形を並べ始めながら、エリスが答える。
「はい。全部で縦横25マスあります」
「25……?」
「駒の種類は30種類あります」
「さ! 30!?」
「それぞれ名前と動き方がありまして……」
「ちょっと待て!! なんか多くないか?」
「なにがです?」
「いや、いろいろと、だよ!
全てにおいて規模が大きすぎる!」
「そうですか? これが普通かと」
「歩兵だけで30もあんのかよ……」
「先ずは動き方とルールを覚えるところか……」
「無理だって、今から30種類の駒を覚えるのは!
しかも、一回戦で何時間くらいかかるんだよ!?」
「そうですね……私が昔やりました時は、3日2晩……」
「やるか! こんなもの!
実際の戦でもそんなにかからんわ!」
「そうですね、確かに一からルールを覚えると、カズヤ様の知能では10日ほどかかってしまいそうですね」
「そういう問題じゃねえ!」
迂闊だった……
こいつはエルフで時間の感覚が人間と違うんだ。ましてや、故郷に戻ってきてから、エルフの生活様式が甦ってきてるんだ。
「では……レースゲームなどは、どうでしょうか? ルールなど難しくないので、よろしいのでは?」
「レースゲーム?」
「ダイスを転がして、出た数だけ駒を進めて、先にゴールした方が勝ちという」
「双六か? もしかしてスゴロク? それなら出来るんじゃね」
「分かりました。準備しましょう」
たしかにスゴロクなら、難しいルールはなくて今すぐにでも出来そうだからな。
……で?
エリスが持ってきてものは?
トイレットペーパーなみの太さのある巻物?
それをテーブルに広げる。巻物には双六のマスが蛇行しながらビッシリと描かれている。
「さあ始めましょうか?」
「なあ、エリス? その巻物みたいなの全部、そうなの?」
「はい、そうですが?」
「それ、クリアするのに、どれくらい時間かかるの?」
「2日くらいじゃないですか?」
「なげーよ」
「そうですか? ちゃんとダイスは専用の30まであるものを使いますので……」
「却下」
双六するだけで俺の寿命が減る。
リアル人生ゲームじゃねーか
「そうですか。残念ですね。ではカードゲームは?」
もう何が出てきても信用できねえ。
念のためカードというものが何か?聞いてみるか。
「カードってなに?」
「カズヤ様の世界の言葉で表現しますと……トランプと言うのでしょうか?」
「トランプ!? 4種類あって、数字が書かれてあるやつだよな?」
「そうですが」
よかった。
トランプは異世界でもトランプらしい。
「それならいいぞ。じゃあ、やろうぜ!」
「分かりました。準備します」
そう言って棚から取り出してきたものは……
なにそれ?
マジかよ……
百科事典みたいな、分厚いカードの束を持ってきやがった。
「で、トランプでなにやるんだ?」
「そうですね……
100ならべ、でもしましょうか?」
「100……ならべ?」
「はい、これなら数の順番に並べるだけなので、ルールも簡単ですぐに出来ますよ」
「100……」
「50を起点として前後の数をお互い交代で並べていくのです」
「50……?」
「おい、エリス? もしかして、カードって100まであんの?」
「はい。
トランプは火水土風の4種類、それぞれ1から100までありまして、合計で400枚。それと天使のカード4枚、悪魔のカード4枚を合わせて……」
「………多い」
「はい?」
「多すぎるんだよ、枚数が! 13枚くらいにしろよ!」
「それだとすぐにゲームが終わってしまうではないですか?」
「さっきから聞いてりゃ!
スローライフがスローすぎるんだよ!
エルフの暇潰しは、人間の人生に匹敵するの!
あんたらのスローライフは、俺たちの寿命!
エリスのスローに合わせると、俺は死ぬんだよ!!
分かるか!?
エリスとゲームしてる間に、俺は死んじまうんだよ!!」
「そうですか? そんなに時間はとられないと思いますが?
まあ、試しにやってみませんか? 先に2勝した方が勝ちということで」
「最低2回やれってことかよ? どんだけ時間かかるんだよ!?」
「今日中には終わると思います。夕飯の支度もしなくてはならないので」
「ほんとかよ……」
「勝った人が釣竿の所有権を持つということで」
「お!! ああいいよ、やってやんよ!」
こうして、釣竿をめぐる白熱した戦いが始まり……
長い激戦の末……
決着がついた。
「どうやら私の勝ちのようですね」
「クソっ!!
なんだよ、このクソゲーム!!」
3回戦までもつれ込んで、結果エリスが勝つとか。
「89番と43番持ってんなら、早く出せよ!!
こっちが何も出せなくなるだろが!」
「それも作戦なので。それに天使のカードを序盤で使いすぎなのですよ」
「最悪だ!!
時間の無駄だったわ!」
部屋を出ると、すっかり日が暮れて1日が終わろうとしていた。
「では帰りましょうか」
「あーあ!! 俺の貴重な人生の1日を、無駄に過ごしちまったよ!!」
「久しぶりに対戦しますと楽しいものですね」
「クソつまらんわ!」
大層ご満悦なエリス
結局、エリスが満足しただけじゃねえかよ!
「で、明日は何のゲームをしましょうか?」
「もう二度とやらねえからな!!」




