第36話 エルフ飯
長かったので35話と36話で分けました。
目の前に広がる光景は、
まるで森でできたアーケード商店街のような町並み。
一直線に道が伸び、両脇には大きな木々が立ち並ぶ。その高く伸びた大木の枝がアーチ状に天井で交わり、天然自然のアーケードを形成していた。
そこから木漏れ日がステンドグラスのように赤、白、水色、エメラルドと差し込み、辺りを美しく照らす。
空気がまるで、神社仏閣の参道かのように清く済んだ透明の、それでいて淡いセピア色の幕が張ったようた温もりを感じる。
まるで映画や漫画の世界に来たような感覚。
「おおぉ!! スゲー!!」
思わず声が漏れてしまう。
「変わりませんね、なにもかも」
いつものありきたりな、当然のことのような様子のエリス。
「では、とりあえず私が暮らしていました部屋まで行きましょうか」
「おう!」
そのまま無人の村の中を進んでいく。
道の左右には大木が街路樹のように立ち並んでいるのだか、その間の所々に部屋?らしき家?が存在している。たぶん家なんだろう。窓と扉があるから。
この家、何でできてるんだ?
木なのか、レンガなのか?
建設現場にあるプレハブの事務所みたいな大きさの四角い?部屋?
壁にビッシリとコケだかツタが覆い茂って、よく分からない。
扉と窓を残して、全て枝や葉に埋め尽くされているのだ。
もしかしたら、巨大な木の幹をくり貫いて家にしているのかもしれない。
または、永い年月によって、家が木に侵食されたのかもしれない。
ほとんど木と部屋が一体化してしまっているのさえ存在する。
村全体は日本の分譲住宅のかわりに木々が建ち並び、それが頭上高く伸びてアーケードの天井を成している作りになっているようだ。
そのなかには大木の2階部分に扉や窓があったり、枝の上に部屋が載っかっていたりと、個性的な家屋が建ち並んでいるのもある。
「なかなか、個性的な家で、雰囲気いいよな」
「そうですね、懐かしいものです。ここを歩くのも久しぶりで……」
目を細め辺りを見渡しながら、感慨深そうに歩くエリス。
「変わらないんだ。昔っからこんな感じなんだな」
「変わった点といえば……誰もいないことでしょうか」
……そっか。どこいったんだろうな。
見渡しても、小鳥やリスみたいな動物はチラホラ目にするが、人っ子一人見当たらない。
「きっと先の戦いに参加したからではないでしようか? この地を守るために」
「なるほど……おかけでこの村は、こうやって保たれたと」
「……住人のいない村に意味はあるのですか?」
エリスは風に吹き消されそうな声で、寂しそうに呟く。
「……きっとエリスみたいに、どこかで隠れてて、そのうち戻ってくるかもしれないじゃないか?」
「そうなら、よいのですが……」
「……」
「私達が先に見つけだして、迎えにいかなくては」
「そうだな」
ゆっくりと周囲を見渡しながら進んでいく俺たち。
そうして歩くこと十数分……
村の一番端の方まで辿り着くと、
「ここが、私が暮らしていた部屋です」
「へー」
エリスが立ち止まり示した場所は、この上の方……2階部分に存在している小さな部屋。
「なかなか、良いところ済んでたんじゃん」
「ちょっと見てきます」
「いいけど、どうやって登るの?」
見たかんじ、梯子も階段もロープもないのに、どうやって登るの?
「普通に風の魔法で跳べば、とどきますよ」
「俺、そんなことできないんですけど?」
「カズヤ様は入る必要ないですから」
「えっ? ちょ? なんで!!」
「しばらくここで待っていて下さい」
「俺もいいじゃんか!」
「乙女の部屋に入るなんて失礼ですよ」
「なにが乙女だよ、おい!」
くっそ!
勝手にそう言い残して、高くジャンプをしてそのまま部屋の中へと入っていってしまった。
長旅で疲れてるんだから、ちょっとくらい休ませてくれたっていいだろ。
まぁ、しばらく留守にしてたから、掃除とかしてないから汚いのかもしれないが。
そう考えれば、たしかに嫌かもしれないな。
しょうがないので、その場で俺と馬二匹で、我慢しながら座って待機する。
……
…………
…………遅いなあ。
………………
………………………………………………
………………おせーなぁ!
こうして待つこと数十分………
「お待たせしました」
「おせーんだよ!! なにしてんだよ!!」
さんざん待たせたと思ったら、服を着替えてるし!!
「服を選んでました。どうですか? この緑の上着はエルフの村っぽくて……」
「そんなん、どうでもいいだろ!!」
「毎日同じ服で飽きてたんです。懐かしい服が残っていましたので」
「こっちは疲れてんだよ!」
「そうですか? ではカズヤ様はこの下の部屋を使ってお休みください」
「ああ? こっち?」
エリスの部屋の下に位置するところに……よく見ると部屋があった。
もうほとんど、土と木で自然に還った廃墟のような部屋……
「ここ……大丈夫なん?」
「大丈夫でしょう」
「お化け、出そうなんですけど?」
「私が物心ついたときから、この状態で存在してました。ゴーストなんて出たことないですよ」
エリスの物心ついた頃って、築何年なんだよ?
ここにずっと立っていてもしょうがない。
俺は、おそるおそるツタで絡まった扉を開く。
慎重に開けないと扉自体、崩れ落ちてしまいそうだ。
薄暗い室内に入ると……
湿った空気ととともに、木の香りが俺たちを出迎えてくれた。
どうやら入って直ぐはリビングのようだ。
木のテーブルに椅子、そして棚。
特に変わったところはない。
奥に進むと、左に小さな部屋があり、そこにはベッドや化粧台?やら衣装棚?が並んでいる。
右は……扉を開けると倉庫?
棚にいろんな小物が置かれていた。
「まぁ、中は普通の部屋だな」
「カズヤ様はどんな部屋を想像してたんですか?」
「こっちの世界に来て、初めて部屋らしい部屋に入ったからな。それに、しばらく使ってないわりには意外と綺麗なんだな」
「ここは森全体に守られてますので、基本、朽ち果てたり風化することはないですから」
ふぅ~ん、そんなもんなんだな~
「さあ、村の探索は明日にしましょう。日が暮れてしまいますので」
「もうそんな時間か?」
そういえば、この家にはもちろん電気がない。夜になれば……
「エリス? 明かりは?」
「明かりですか?」
「火とか……」
「ここは火気厳禁ですよ」
「あー そっか。いちおう森の中だもんな、ここ」
「なので日が沈めば、あとは寝るだけです」
「じゃあ、今日は寝るだけか」
「どうしても明かりが欲しいなら、光の精霊にでも頼んでください」
「いや……もう寝るわ。疲れたし。その前にちょっと腹減ったんだけど……」
あれ、よく見たら、この家、キッチンが無い? トイレも風呂も!?
「エリス、料理ってどうするの?」
「基本しませんよ」
「え?」
「果実や木の実を食べて生活しますので。あと、しばらくなにも食べなくても、大丈夫なので」
「……俺、大丈夫じゃないんですけど? 腹減って死にそうなんですけど?」
「人間って、不便ですね。食べて出す。また食べて出す、の繰り返し。
資源を食いつくし、汚物だけを産み出す無駄な存在。この世の害悪でしかない」
「あの~ 説教はいいんで、ご飯ください」
「そんなこともあろうかと、ちゃんと用意してきました」
「さすが!」
「これです」
「これって……」
エリスが手に掴んでるもの。
「それ、さっき花園で摘んできて花の束じゃないか?」
「そうですよ。生で食べれるのを集めましたので、どうぞ召し上がってください」
「これ、お供えするって言ってたから……お墓参りするのかと思ってたけど?」
「お墓? このエルフの杜に墓なんてありませんよ。誰も死なないんですから。それに、なんで死んだ人に花や食べ物をお供えしないといけないんですか? 食べれないじゃないですか?」
「あーそーね、そうですね。分かったよ、食べますよ。それしかないんでしょ?」
やけくそでエリスから花束を奪い取ると、根もとの方からかぶり付く!
歯ごたえが……
固いし……
苦いし……
歯の間に挟まるし……
全然美味くねーし……
馬にでもなった気分だ。
「花の元をかじると蜜が出て美味しいですよ。あっ! カズヤ様は蜂蜜は食べたらダメでした!」
「もういいだろ! 蜂蜜のことは!」
次回37話「エルフ街の悪夢」です。




