第32話 鳥の戯れ
俺とエリスは、エリスの故郷である“エルフの杜”へ向けて出発することになった。
ホンダさんとスズキさんに荷物を載せ、西と続く朽ち果てた街道をゆっくりと進んでいく。
道中は特に変わった様子もなく、危険なモンスターにも遭遇することなく、今回は無事に先に進むことが出来た。
そして周囲が見渡せるよう、草木の茂った小高い丘へ登る。
「カズヤ様、このまま真っすぐ向かった先の、あそこがエルフの杜と呼ばれている場所です」
そう言って指差してくれるが……
「ん~~ 木しか見えねえ……」
見渡す限り緑色なんだけど?
どの辺に向かってんの?
大丈夫なんか?
俺たちはいったんここで、お昼休憩を取ることに。
昼食を食べ終え、草の上で寝っ転がる俺。
青い空にゆっくりと白い雲が流れていく……
空をカラフルな小鳥が、可愛らしい鳴き声を立てながら飛んでいる。
のどかだなぁ……
ふと、顔を横にすると、
気に寄りかかって座るエリスが、手のひらにパンのくずを乗せ、その周囲に小鳥たちが集まっていた。
太った丸っこい鳥から、尾の長いもの、きれいな青い色から赤いのやら虹色に輝くものまで、それは様々な小鳥たちが群がっていた。
なんか……
こういう景色も……
いいな……
美人エルフのエリスが、こうやって鳥に餌を上げるだけで、絵になるからすごい。
「どうしたのですか? カズヤ様?」
じっーと見ていた俺の視線に気づき、鋭い目を向けてくるエリス。
「いや、なんか、いいなーって」
「カズヤ様……さっき食べたじゃないですか……しょうがないですね」
と言って、
小鳥の餌をのせた手のひらをこちらに差し出してくる。
「ちげーよ!! それを食べたいわけじゃねーえんだよ!!」
「パンくずでは、物足りないと?」
「そういうことじゃなくて、その……小鳥が、なんか、いいなーって思っただけだよ」
「……カズヤ様はこの期に及んで、まだ鳥を食べようとしてるんですか?」
「違う!! 鳥を食べようとなんて思ってない!!
そうやって戯れてるのがいいなって思ったんだよ!」
「そうですか。それは失礼しました」
「しかし、いろんな鳥がいるんだな」
「だいぶ自然も戻って来たようです。やはり人類がいるといないとでは、環境の回復も早いようです」
「あー そういうもんなのね。なんか人間が悪いみたいな言い方だけど?」
「どうやら周囲に危険なモンスターはいないようですね」
「分かるのか?」
「この子たちから情報をもらっているのです」
「へー 鳥から情報をねー」
「そのお礼として、このように食料を分けているのです」
「なるほどねー」
さすがエリス。
ちゃんと考えて行動してるんだな。
「ところでさあ、俺もそれやってみていいかな?」
「それとは?」
「俺も小鳥に餌あげたい!」
「どうぞ」
一度やってみたかったんだよね、こーゆーの。
エリスから餌を受け取り、俺はそれを空へとかかげる。
「来い! 鳥達よ!」
……
…………
…………あれ?
一匹も来ない?
「おーい、餌あるぞー」
…………
……………………
―――シ―――ン―――
「おーい! 餌あるよ― おいで―」
おかしいぞ?
エリスの時はあんなにたくさん寄って来たのに?
手のひらや肩の上にとまったりしたのに?
俺の時には一匹も来ない?
「なんか……全然来ないんですけど?」
「むしろ遠ざかってますね」
「なんで??」
「やはりカズヤ様だと、捕食されると思って近寄ってはこないのでしょう」
「なんでだよ! そんなこと考えてねえってのに!」
「小鳥ですと怯えてやってこないんですよ」
俺って鳥にとっては恐怖の対象なの?
…………ショックなんですけど。
「では、カズヤ様には救世主として相応しい鳥を呼びますか?」
「え、なに? 俺に相応しい鳥?」
「猛禽類の頂点、ワシを」
「おお!! なんかいーねー!」
「エンペラーイーグルと呼ばれる最強のワシ。先ほどの小鳥たちから情報を聞き出しましたら、近くに生息しているようですので、確認のためにも召喚してみます」
「へー エンペラーとか、ワシとか、カッコ良さそうだな!」
「では準備して参りますので、カズヤ様も仕度を」
「え? なに? 準備って? え?」
――――というわけで、
エリスに言われて、久しぶりにプレートアーマー、フル装備したんですけど?
なんか、すげー嫌な予感がする。
そんなエリスは餌を探してくるって言って、どこか行っちまうし。
あー 戻ってきた。
遠くから戻ってくるエリス……と?
……なんか、紐にくくりつけた、ものを引きずってる?
なにあれ?
犬? 猫?
なんか茶色い生き物?の四つ足を縛り上げて、もってきてるんですけど?
「準備できたようですね」
「あのー それ、なに?」
「これですか? ヌーネズミです」
「……ヌ?ネズミ??」
小型犬くらいありそうな生き物。
尻尾は確かにネズミみたいに長い。
なんか気持ちわりーな、この生き物。
「陸に住む大きなネズミの一種です」
《アア゛オォ゛オ―――!!
イァ゛ァガ!ア゛ア゛―――!!
ヴォ゛ウオオオ!!》
「なんか……すごい声で鳴いてるんですけど?」
「仲間に危険を知らせて、助けを呼んでるのです」
「これを、どうするの?」
「ワシの餌にしておびき寄せます」
《ア゛ゥ゛―――!! アガァ゛―――!!!》
なんか……
おっさんが叫んでるみたい。
体型も顔も、中年のおじさんみたいな格好だし。
なんか可哀想に思えてきた。
「ちょっと、かわいそうなんじゃない?」
「なにがです? これは地中に穴を掘って巣を作るので、地盤や田畑が荒らされてしまうのです。しかも実った野菜などを食い荒らす害獣なのです」
と、ちょっと怒ったように言う。
鳥は食べるなっていって、ネズミは処分するんだ。
エリスの善悪の基準って、農作物に被害があるかないかの違いなのか?
「ちゃんと鎧も着ましたね。さあ、これを持って待っててください」
「これ……持たなきゃいけないんだ」
ネズミを縛った紐を受け取る。
《ア゛ア゛ァアガア゛――!!》
ネズミの悲痛な叫び声を聞くこと数分……
「来ましたね」
「あれか!」
遠くの空に大きな鳥が飛ぶ姿が見えてきた。
シルエットだけでも、その空飛ぶ姿はカッコいい!
しかも、ここから見ても大きな鳥だということが分かる。
その姿がすごい早さで大きくなっているので、かなりの早さでここまで飛んできているのだろう。
昔、テレビで見たなー
鷹狩り、だっけ?
腕に止まってさ。
憧れたんだよね、それが今、こうやって……
……って、
なんか大きくない?
近づくと飛行機みたいな……大きさ?
え? ちょっと思ってたのよりも大きい!!
でか!!
でかいって!!
あっという間に頭上までやってきて、エリスの言うエンペラーイーグルの全貌が明らかとなる!
「エリス、でかくないかこれ!!」
「大きいですよ。だてにエンペラーの名はついておりませんから」
人間よりもでかいんじゃね?
翼広げたら5メートルくらいあんじゃね?
これはいくらなんでもデカすぎるって!
「カズヤ様、早く腕を上げてください。降りる場所がなくて困ってます」
「え? あ? はい」
左腕を上げるとすごい風圧で羽ばたきながらゆっくりと降りてきて、その大きな足で鎧の上からがっちりとつかまる。
ちょ――
でかいって!!
お、重いってば!!
足の爪なんか鋭すぎて、生身の腕なんか貫通しそうなほど!
黄色く太く尖ったくちばしに、黒茶の体。
そのくちばしなんか、槍みたいに鋭く尖ってる。
だから鎧きてんの?
生身でこんなのに掴まれたら、肉に穴があく!
「どうですか、カズヤ様。この国の王家の象徴であるエンペラーイーグルを間近でみた感想は?」
「でかい!
重い!
危ない!
こんなの求めてない!
《キ――――!!》
「おいこら! 頭をくちばしで突っつくなって!」
「気をつけて下さい。目を狙ってきますから」
こわっ!
だからこんなフル装備させたのか!
「これは雄ですね。毛並みも良いので、ちゃんと栄養も取っているようです」
エリスがワシを観察している間、俺はずーっと頭をくちばしでカツンカツンと突っつかれている。
なんか危ないし重いし、鳥と戯れるどころの話じゃねえ!
「あの……重いんですけど?」
「だらしないですね。なら背中に乗ってもらいましょう」
エリスが合図すると、ワシは舞い上がり俺の後ろに回り、両足を俺の両肩へと乗せる。
「どうですか?」
「どうもこうも、これじゃあ見えないし、ただ重いだけだし、相変わらず突っついてくるし」
「さあ、このネズミを与えてください」
「あー これね」
《イァ゛――ァア゛ア゛―――!!》
「ちゃんと食べやすいように、細かくして上げてください」
「……え? なんだって?」
「一口サイズにしてください」
「……なにを?」
「餌です。そのネズミをです」
「……どうやって?」
「その剣で、です」
「…………」
マジかよ。
「あの……ちょっと、生き物の解剖は……抵抗が……」
「新鮮な生き餌じゃないと、怒られますよ」
《キ―――! キ――ィ!!》
《ァガ!ァ゛ガ゛ヴォ゛ウオァ゛―――!!》
……あぁ、気が狂いそうだ。
「早くしませんとイーグルが怒って、カズヤ様の目をくりぬいて、脳みそを吸い取るぞと言ってます」
「こ、怖いこと言うんじゃないよ!」
バッサバッサ、バッサ!!
急にワシが背中で羽ばたき始めた?
あれ?
なんだか……
心なしか身体が浮いてるような……?
「カズヤ様! 早くしませんと、そのまま連れていかれますよ!」
「え? ええっちょっと!?」
地面が離れていく!?
浮いてる! 身体が!!
あっという間に地面から3メートルほどの高さに!!
餌のネズミごと、ワシに連れ去られる!!
「カズヤ様! ネズミを! 投げてください!」
「え!? え? あ、ああ!!」
とっさに紐をブン回し、ネズミを上空に放り投げた。
《ア゛ア゛ァアガア゛――!!》
俺の肩を掴んでいたワシの足が放れ、そのまま宙を舞ったネズミをキャッチ!
《キーキ――――!!》
と、そのままワシは遥か空の彼方に飛んでいき……
あっ……
あー
あ――――!!
落ちるー!!
ドサッ……
「ぐぅえっ」
うっ……
とっさに受け身はとったものの……
背中から落とされ、身体が痛ぇ。
息が出来ねぇ。
「大丈夫ですか? カズヤ様?」
「なんとか……生きてる……」
「どうでしたか? 鳥たちとの戯れは?」
「どうって……」
戯れたというよりは、もてあそばれただけじゃねえのか?




