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異世界終末旅行 ~救世主として召喚されたわけだが、一足遅く異世界は滅んでおりました~  作者: 夜狩仁志
第2章 塩街道で塩対応

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第30話 異世界理髪店

「ようこそ、エリス理髪店へ」

「うわぁ~ 不安しか感じられねえ~」


 湖の畔で椅子に座らされた俺の背後に、エリスが毅然とした姿勢で立つ。


 俺もこの世界に来て、しばらくの月日が経っていた。

 おかげで髪の毛が伸びっぱなしで、うっとおしくなってきたので、自分で昨日切ろうとしたところ、

「私が切りましょうか?」

 とエリスが提案してきたのだ。


「エリスが切るのか?」

「そうですが、何か?」


「大丈夫なのか?」

「いつも自分でやっておりますので」


 なるほど。

 確かにこの世界だと、俺とエリスしかいないわけだし。

 自分じゃ無理だから、頼むしかないか。


「じゃあ頼むか」

「分かりました。では準備します」


 ……


 そういうわけで今日、天気もいいので森の湖までやって来て散髪することに。


「ところで、髪を切る用のハサミとかあるの?」


 座りながら後ろにいるエリスに、ちょっと疑問に思ったので聞いてみる。

 物資も道具も設備もないこの世界で、果たして理髪用のハサミがあるのかと……


「ありませんよ。そのようなものは」

「……じゃあどうやって切るんだよ?」


「私はいつも魔法で切ってます」

「魔法? そんな便利な魔法があんのか?」


「風の魔法で、ズタズタに切り裂きます」

「表現が恐ろしい!!」


 風の魔法ってなんだよ!

 真空波とか、つむじ風とか、そんな感じの?

 そんなんで髪の毛切られたら、たまったもんじゃねえ!


「普通にハサミとかで、やってくんねぇ?」

「ハサミ……ですか……」


「なんにもないのか? もしかして?」

「あいにく、持ち合わせがこれしかありませんが、よろしいですか?」


 と見せてくれたのが……


 玩具みたいな、文房具用の小さなハサミ!?


「こんなんで切れんのかよ!?」

「では、ナイフで……」


「やめろやめろ、やめろ!! いいよもう! 魔法でもなんでも、エリスのやりやすい方法で!」

「分かりました」


 なんかもう、やめたいんだけど。

 別にいいよ、髪の毛くらい。

 へたに切ろうとして首とか切られて死にたくないからな。


「ではカズヤ様、どれくらい切りましょうか?」

「ん~~ そうだな。少しでいいよ。1cmとか2cmくらいで」


「いっせんち? にせんち?」

「あー そうか。単位が分かんねーのか」


「イッセンチとは、これくらいの長さでしょうか?」


 と、エリスが首を傾げながら、両手を広げる!?


「お、おい、バカ野郎! それじゃあ1メートル以上あるじゃねーかよ!!

 そもそも、そんなに髪、長くねーだろ。

 どこにそれだけ切る長さの髪が、俺にあるんだよ!

 これくらい! これくらいの長さだよ!!」


 親指と人差し指で1センチの幅を作って見せた。


「なるほど。これくらいの長さですね。かしこまりました」


 あぶねーな、本当に。

 さらに不安になってきたぞ。

 このまま俺の髪を切る前に、別のもので試させないと。


「あのさ、試しにそこに生えてる草を切ってもらえるか?」

「草を、ですか?」


 エリスは不満そうな顔をしつつ、手のひらを草に向けてかざし、何か呪文のようなものを唱え始めた。


 すると突然……



 スパ―――――ン!!



 数メートル先まで一直線に、草の上半分が切断されていった!


「どうですか? 切れ味はいいと思いますが?」

「殺傷能力、高すぎだろ!! こんなもん、俺の頭で使うなよ!!」


「大丈夫です。この魔法は使いません。威力の低いものでやりますので」

「……大丈夫……なんだろう……なぁ?」


「心配ですか? では頭以外のどこかで試してみますか?」

「そ、そうだな……」


「では……毛の生えてる……カズヤ様の足で試してみましょうか?」

「ああ、そうだな……」


 そう言われ、俺はズボンの裾をたくし上げる。

 とはいっても、俺、そんなに毛深くねーけどな。


 すね毛のそこそこ生えた足にエリスが近づき、両手をかざす。


 すると……


「おお!! 風だ!!」


 すねの周りに扇風機で風を当てているような感覚が。

 まるで風で足を包み込み、マッサージをしてくれてるような感じ。

 これなら痛みもないし、うまく切れるんじゃ……


「さあ、できました。どうですか?」

「おお!! 毛が剃れた! つるっつるだ!!」


 エリスが手を離すと、そこには綺麗に毛の剃れた、つるつるの俺の足が現れた。


「スゲーな! 一瞬でこんなに綺麗になるなんて!」


 これ使えば散髪も……


 ツ――


 あ、あれ? 

 俺のすねに……

 横に1本、赤い線が……?


 ツ――


 ツ――――


 更に縦に横に……

 赤線が1本2本……

 その線から赤い液体が流れ出し……


「い、いてえ!! あ、足がぁ!!

 おい!!

 よく見たら切れてるじゃねーか! 

 血、出てるじゃねーかよ!!」


 更にその切り傷が増えていき、俺の足はいつの間にか血だらけに!?


「これは失礼しました。今すぐ治癒いたします」


 悪びれた様子もなく、手をかざし温かい光でもって俺の無数の切り傷を治していく。


「では、そろそろ本番に……」

「だれがやるかよ!!

 こんなの頭でやられたら、首、切られて死んでしまうわ!」


 勘弁してくれよ。

 異世界に来てまで、なんで命がけで髪の毛切らなきゃいけないんだよ。


「力の調整が難しいのです。もう少し毛深いところで練習してみないことには……」

「はあ? 毛深いところって、なんだよ?」


 頭髪以外に毛深いところなんてないぞ?


 しかし、エリスは見つけたようで、


 ジ――


 っと、俺の一点を見つめる。


 ジ――――


 その視点を辿っていくと、


 ジ―――――――


 俺の股間へと行きつく……


「お、おまえ! どこ見てんだよお!!!」

「試しにそこで切らせてもらえませんか?」


「ダメに決まってるだろ!!」

「どうしてですか?」


「俺の大切なもん、間違えてちょん切られたら困るだろ!!」

「カズヤ様の、大切なものなのですか?」


「そうだよ!!」

「使い道もないのに、ですか?」


「そ、なっ、おまえ!」

「なくても生きている人もいますが?」


「男だよ! 俺は!! 使い道だって! これからあるかもしれないだろ!!」

「使うこと、あるのですか? いつ? どこで? 誰と? ですか?」


「ぅくっ……!!」

「この世界では私とカズヤ様しかいないのですが? もしかしてクマに使うのですか? 馬とですか? 一人でですか?」


「うるせーなあ!! とにかく、俺にとっては必要なもんなんだよ!!」

「そうなのですか。カズヤ様にとっては大切なものなのですね。そこまでおしゃるのでしたら。今回はやめておきます」


 このエルフは!

 いちいち頭にくるなぁ!!


「では、そのまま本番といきますか?」

「ああ、もう早くしろ!!」


 座った俺の、背後にエリスが近づく。


 さんざん感じていた不安も、怒りでどこか行ってしまった。


「では、いきます」


 エリスが俺の頭を手で覆う。


 そして呪文のようなものを唱えると……


 頭全体にドライヤーで涼しい風を全体に吹き付けているような、風の膜が全体を覆う。


 うわ――

 なんか、すげ――

 髪の毛が逆立ち、カットされていくのが分かる。

 気持ちいいっちゃ、いいんだけど……


 大丈夫なんか? おい?

 髪はいいけど、目とか鼻とか、首とか切らないでくれよ。


 自然と閉じる目の、まぶたに力が入ってしまう。


 そして頭が風に巻かれること数分……


「さあ、カズヤ様、おわりました。サッパリしましたよ」


 風が止み、エリスの声が聞こえた。

 それを合図に、ゆっくりと目を開ける。


 よかった……目は見えるぞ。


 急いで鼻が取れてないか、顔に異常がないかを手で触って確認する。


 うん、よし。

 どこも切れてない。


 さて、問題の髪の毛は……


 ……


 ……あれ?


 髪が……ない?


 手で自分の頭をさすってみるが、さっきまであった髪の毛がない!?


 いや、正確に言うと、手に刺さるくらいに短く残ってはいるが……


「おいエリス! これ、切りすぎじゃねーのか!?」


 慌てて目の前の湖を覗き込み、水面で俺の顔を確認する。


 な、なんと、そこには!?


 高校野球の選手ばりの坊主頭になった俺の姿が!?


「おい! エリス!! これなんなんだよ!!」

「だいぶすっきりしましたね、カズヤ様。どこにも傷はありません」


 一仕事終えたような達成感で、満足そうに胸を張るエリス。


「ちげーよ! なんでこんな短く切るんだよ!」

「カズヤ様が、これくらいにしろと……」


 と、親指と人差し指で長さを示してくる。


「ちが――――う!!! 

 これくらいの長さにしてくれって言ってんじゃないんだよ!

 これくらいの長さを切ってくれって言ってんだよ!」


「そうでしたか。それは失礼しました。」

「どうしてくれんだよ……こんなんじゃ外に出れねーじゃねえか……」


「大丈夫です。この世界には私以外に見られる人はいないのですから」

「くっそ!! そういう問題じゃねえ!」


「心配なさらずとも、あと30年ほどすれば、すっかり伸びて元通りになりますので」

「30年も待ってられっか!!」


 30年あれば髪の毛は伸びまくってるだろうが、俺の寿命は短くなってんだよ!!

ここまで読んでいただいたき、ありがとうございます。

次回からは新章、エルフの杜へ行く話です。

幽霊に襲われたり、大鷲にさらわれそうになったり、森で迷子になったり、川に流されたり、結婚式?あげたり……そんなお話です。


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