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第3話 伝説の剣

 乗り慣れた感じで馬を駆るエリス。その後ろに乗るのは救世主の俺、一世かずや

 俺が振り落とされないように走ってくれたため、王都に着いた頃には、既に日は頭上高くまで昇っていた。


「到着しましたが、大丈夫ですか? カズヤ様?」

「……まあ、なんとか」


 落ちないように必死で馬の尻毛にしがみついたので、手が痛くて……まだ……痺れてる。

 しかも上下に揺れるもんで、乗り物酔いが激しい。

 更に尻が擦れて、凄くヒリヒリして痛い……


 最悪の気分だ。


「カズヤ様、ここがかつて繁栄を極めた王の宮殿前です」

「ここが?か?」


 辿り着いた場所は、とても王都とは言える場所ではなかった。

 かつては栄華と繁栄を極めたであろう都も、今ではただの瓦礫の山となっていた。


 見渡す限り建物の残骸。

 土砂が積もり、所々雑草が生え、このような状態が何年も前から続いていたことが分かる。


 俺たちは馬から下り、木の下に馬を休ませる。そして2人で廃墟と成り果てた都を探索する。

 人はおろか動物一匹も見当たらない。

 あちこちで朽ち果てた兵士の亡骸が転がり、激しい戦いの後が容易に想像することができた。

 中には人間ではない異様な形をした骨まで転がっている。


 さっきまで馬に乗っていたときの乗り物酔いも相まって、すごく気持ち悪くなってきた。

 俺の住んでた世界では死体なんて見る機会なんて無かったし、ネズミ1匹の死体だって見たことないっていうのに。

 それが白骨化した遺体だろ?

 気分が滅入るわ……


 建物の残骸が広がるこの場所で、エリスはかつての都の面影を辿りながら、瓦礫を掻き分けて進んでいく。

 俺はそれに置いていかれないように、必死についていく。


 そしてある場所に来ると、エリスがその場で立ち止まった。


「カズヤ様。ここが、かつて王宮があった場所です」

「ん~ 見事に瓦礫の山だな」


 想像していた立派で堅牢な城や、華やかで美しい宮殿なんてものは存在せず、ただ崩落した壁などの瓦礫が積もっているだけだった。


「私も何度か謁見いたしましたが、それはそれは絢爛豪華な宮殿でした」


 遥か昔の美しい記憶を思い出すかのように、空を仰ぎながら呟くようにして語るエリス。


「この状況からでは、まったく想像がつかん」

「これも、みんなカズヤ様のせいです」

「だから俺はっ!」


「ここは多くの者たちが命を懸けて守り通そうとした神聖な場所です」

「うっ……」


「今まで見てきました亡骸が、その証拠です」

「……」


「私たちは見事、この世界を守り抜きましたが、同時に王族だけでなく多くの兵士や住民も、文化も歴史も失うこととなりました」

「それは……残念だったな」


「これも……」

「悪かったな! 遅刻して!」


 ひとしきり語り終えると、エリスは瓦礫を踏み越えて、さらに奥へと入っていく。

 それに導かれるように俺も続いていく。


「さあ、カズヤ様。実は、これをご覧いただきたくてやってまいりました」


 エリスが指差す方向。

 おそらく、以前は中庭であったであろう場所も、今では荒れ果てて、かろうじて瓦礫から剣の一部と柄の部分が垂直に飛び出しているのが見て取れるのみだ。


 あれ? もしかして、あれって……


「エリス! あれはもしかして、勇者の剣とか、そういうやつ!?」

「そうです。選ばれし者しか抜くことが出来ないといわれる伝説の剣です」


 ウオォォォォ―――!!

 

 本物だ!!


「なぁ、俺なんかで抜けるんかな?」

「どうぞ、お試しください。ただし、抜けなかった場合は……」

「……変なこと言わないでくれよ」


 浮かれ気分の俺は、崩れ果てた城壁を軽やかに駆け上る。そして剣の前に辿り着くと、回りの土や瓦礫を放り投げ、意気揚々と剣の柄を両手で掴む。


 そして……


「ぐぐぐ、ぐうおぉお―――!!」

 

 力一杯、両手で掴まれた剣は、ゆっくりと上昇する。回りに堆積した岩土をふるい落としながら、長らく陽の目を浴びることのなかったその鋭く輝く鋭利な刃は、遂に日の光のもとにあらわにされたのだった!、


 俺は渾身の力を込め、今まさに、瓦礫の山から伝説の剣を引き抜くことに成功した!!


「やった! やったぞー! おい! 抜けたぞ!! 見てくれエリス! 俺こそが救世主だー!!」

「おめでとうございます」


 伝説の剣を引っこ抜いたというのに、エリスは顔色一つ変えない。


「どうだ、見たか、エリス! これで俺は本物の救世主だろ?」

「はい。そうです。おめでとうございます」


「よっしゃ! スライムだろうがゴブリンだろうが、どっからでもかかってこい!!」


 かなりの重量がある剣だが、不思議なことに自然と振り回すことができた。


「いません」

「…………あ?」


「敵は全て滅びました。その剣を振るう相手はもう存在しません」

「……」


「どうされましたか? これで晴れてカズヤ様はこの世界の救世主と認められたのですよ?」

「……」


 なにこの虚無感……

 全然、達成感も無いんですけど……

 剣を抜いた意味、無くない?


「カズヤ様、嬉しそうではありませんね?」

「……これ、重いから戻すわ」


「だめです」

「なんでよ!」


「これぞ選ばれし者の証です。救世主としての証明となりますので、常に持ち歩いてください」

「え? 持ち歩くの? これぇ? 敵もいないのに?」


「どこかで忘れたり落とさないでください。私には持つことは出来ませんので」

「これ、くそ重いんですけど」


「ああ、あと15年早く、これを手にしていてくれれば。迫りくるドラゴンの群れも一振りでなぎ倒したものを。多くの者の命が失われることなく、救世主カズヤ様の勇姿を目にすることが出来たというのに……」


「だから俺のせいじゃねーっての!!」

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