第27話 真珠の涙
今日も俺は海から海水を汲んでは、海の家まで持ってきて塩を作るという作業の繰り返す。
はぁ……
俺って……
せっかく異世界の無人で綺麗な海に来たっていうのに……
全然遊んでねえ!
下手すりゃ、日本にいた時よりか仕事してるぞ!?
なんなんだ! この世界での毎日は!?
森にいれば、湖から畑まで水を運ぶ毎日。
海に来れば、海から家まで海水を運ぶ毎日。
あー 人生って、つまらねーなー!
もういい!
疲れた!
休憩!!
俺の海の家(仮設)に入って、寝転がる俺。
まったく、生きるためとはいえ、なんで俺ばっかこんなことさせられて。
そんな肉体労働を俺にばっか押し付けてくるエリスはといえば……
「カズヤ様、見てください。この貝は綺麗な色をしてますよ」
貝殻のコレクションをしていた……
当初は海を怖がって近寄らなかったエリスだが、最近は砂浜までやって来ては、珍しい貝を集めていたのだった。
「これは面白い形をしてますよ、角が生えて螺旋状に尖ってます」
「……」
「この貝殻は、見る角度によって色が変化して見えるんです」
「…………」
「こちらは……」
「あのさー エリスさあー!」
「どうしましたか?」
「こっちは必死になって働いてるってのにさー」
「はい。カズヤ様は毎日働いてます」
「エリスは、貝の収集ばかりしてさー」
「はい。私は貝殻だけでいいので、カズヤ様は中身を食べてください」
「…………え?」
「今日は貝を甘辛く煮てみました。他にも貝でとれたダシで、今回のスープは旨味が出てると思います」
「あ……え? あぁ……そう?なの?」
貝殻集めて、遊んでたわけじゃなかったのね。
ごめん、勘違いしてた。
「どうぞ」
と言って渡してくれる、白く濁った温かいスープ。
試しに一口飲んでみる。
「……うん、美味しいな」
貝のダシで作ったスープ。
味噌の無い、味噌汁みたいな?
お吸い物みたいな感じ?
でも、何か一つ足りないような……
なにか物足りない塩ラーメンのスープを飲んでるみたい。
「新しい発見です。こうやって貝を味付けして煮詰めてみると、おかずになるかもしれません」
「そうだな」
エリスはエリスで、ちゃんと食事のことも考えてくれて仕事してたんだな。
てっきり貝殻集めで遊んでるのかと思って……
俺が間違ってたみたいだ。
「……ちょっと海岸まで行ってくる」
「こんな時間にですか? 気をつけてください」
自分の誤った考えを反省するために、暮れ時の涼しくなった海岸線を、頭を冷やすために散歩する。
エリスのことを悪く思ってしまった自分がなさけない。
それにしても、綺麗な珍しい貝殻を集めてるなんて、エリスも可愛いところあるじゃんか。
エルフであっても、何歳になっても、結局はその辺にいる女の子と変わりないんだな~
せっかくだから、俺もなにか探してプレゼントでもするかな。
なんとなく俺は、あの無表情のエリスの喜ぶ顔が見たくなって、砂浜を見渡して何か綺麗な物がないかと探してみる。
……しかし辺りを見回しても、ありきたりの貝しか転がっていない。
なかなか見つからないもんだな。
もしかしてエリスって、貝を取るために遠くまで歩き回ってるんじゃないだろうな?
毎日海水を運ばされて疲れたと思っていた俺だが、エリスも見えないところで頑張ってるのかも……
そんなことを、ボンヤリと考えながら海岸を歩いていると……
あれ?
遠ーくの、向こーうの?
波打ちぎわに?
大きなホタテ?
みたいな貝が?
いつの間に?
昼間に来た時には、なかったけど?
ちょうど波がかかるか、かからないかという場所に、巨大な薄紫色した二枚貝が横たわってる。
怪しいなー
すっごく、あやしい。
この前のチョウチンアンコウの件もあったし、ここは異世界だから、どんなモンスターがいてもおかしくない。
でも……もしあれが、ホタテだったら……
ホタテって、美味しいんだっけ?
あんだけ大きれば2・3日はおかずに困らないかも。
それにあの大きさの貝殻、何かに使えるかもしれない。しかも綺麗な色、してるし。
持って帰ればエリスが喜ぶかも。
俺はしっかり持ってきた剣を手にしながら、ゆっくりと……慎重に……近寄ってみる。
……っと!?
5メートル位の距離まで近づいたとたん、貝の蓋が宝箱のように自動で開いた!?
そして中には、丸い野球の玉くらいの大きさの真珠みたいな虹色に輝く宝石が!
スゲー!
お宝だ!!
これ、持って帰ればエリスが……
……
…………って
いや、これ、どう考えたって罠でしょ?
この前と一緒じゃん!
迂闊に近寄ったら……
でも……
欲しいな、あれ。
よし!
今回は先制攻撃しょう!
あの貝には悪いけど、この距離からでも剣を振り下ろせば衝撃波で倒せるはず。
問題は、あの宝石ごと粉々になってしまわないように、振り下ろす距離と位置を微調整すること……
そう考えながら、剣を構え狙いを定めていると……
えっ!?
シュシュッと!
何か紐のような物が飛んできたかと思った時には!すでに!
か、体が!
腕ごと体がぐるぐる巻きに!
縛られた!?
いつの間にか、あの貝から飛び出した舌みたいなものが体が巻き付き、上半身の身動きが取れなくなっていた!
ヤ、ヤバい!
この状況、すごくまずくない!?
しかも締め付ける力が強くすぎて……
うぐっ……
ほ、骨が、折れそう……
「エ、エリス! 助けて! エリスー!」
だ、ダメだ。
胸が圧迫されて、大声も出せない。
腕ごと縛られて、剣を動かすことも……
逃げ出すことも……
なにも出来ないまま……
そのままズルズルと引き寄せられてしまう。
なんとか両足で踏ん張るも……
力及ばず、倒れ込んでしまう。
嘘だろ?
こんなところで?
俺、死んじゃうの?
助けて、エリス!
初めて感じる死の恐怖。
そして……
必死の抵抗も虚しく……
貝殻の中まで引きずり込まれる……
なんとかしなくちゃ。
この剣で……
でも、腕ごとキツく縛られて、剣を振るどころか握っていることもできない。
こ……こんなところで……
なんにも……出来ないまま……
死んで……しまうのか……
ついに俺は、貝の内部まで完全に巻き取られてしまった。
そして無情にも貝が閉じていき、視界の光が狭まっていく……
そして俺は完全な暗闇に覆われ、恐怖だけが残る。
なんとか……なんとかして脱出しなくては……
でも、腕や胸に激痛が走って、力が入らない……
そして握力も……無くなって……いき……
最後の頼みの剣も、ついに右手から放れていってしまった……
マジかよぉ……
もうダメなのか?
本当に……
……
…………と、その時だった。
急に巨大貝が暴れだした?
そして俺の体に巻き付いていた触手みたいなものが緩み、はずれて?
貝の内部に海水が入り込んできた?!
いったい、なにが……?
そうか!
剣を落としたせいで、その重さで触手と貝の底を切り裂いたんだ!
この剣、俺以外では重くて持てないから!
上半身が自由になったこの隙に、急いで落とした剣を探して拾う。
そしてその勢いで、そのまま剣を頭上に大きく突き上げる!!
おりぁー!!
瞬間、光が降り注ぐ。
見事俺を苦しめた巨大貝は、悲鳴を上げることもなく粉々に砕け散った!
はぁはぁ……はぁ……
たすかった……
力を使いきった俺は、そのまま仰向けにドサッと音を立てながら倒れた。
あ……
もうダメだ……
ぜんぜん動けねぇ……
波が押してくる度に、顔に海水が浸かるも、それを防ぐ気力がない。
そのうち巨大貝の残骸が、波と一緒に体にぶつかってきて、鬱陶しく感じるも……
それでもなにも出来ずに、なすがままの状態で波打ち際で倒れ転がっていた。
そんな俺の顔に、あの光輝く大きな真珠のような宝石が転がってくる。
あぁ、こいつのせいで散々な目にあったよ。
波でどこかへ転がっていかないように、残った力を全部使って、それを握りしめる。
あぁ……これ絶対、骨折れてるよ……
腕、動かすだけで……
すげー痛いもん……
「カズヤ様! カズヤ様ー!!」
波の音に混じって、俺を呼ぶエリスの声が聞こえる?
「カズヤ様! 大丈夫ですか!!」
ボンヤリとした視界の中に、エリスの顔が浮かんできた……
「大丈夫ですか、カズヤ様!? すぐに手当てします!!」
優しく体を起こしてくれるエリス。
エリス……なのかな……?
エリスは……こんな慌てた顔、しないよね?
もしかしたら、天国から迎えに来た天使なのかもしれない……
「何があったのですか! 何故このようなことに……」
それは……
エリスに、この真珠を渡したくて……
……エリス?
泣いてるの?
こんなに悲しそうな表情して……
俺は……
喜んでもらいたくて……
これを渡したくて……
エリスに……
「カズヤ様? カズヤ様! カズヤ様!!」
……
…………
…………ん……
……ぅう………ん……
……あれ……?
ここは?
俺……寝てたのか?
目を開けると、海の俺の家の、朝日が差し込む未完成の屋根が見える?
バッ!と起き上がり、体を確認する!
……なんともない?
腕も手も、普通に動かせる。
あれ……?
俺、たしか浜辺で……?
夢……でも見てたのかな?
そう思いながら辺りを見渡すと、枕元にあの大きな真珠が転がっていた?
これ、って……
あれの、だよね?
そうだ!
エリスは!?
急いで飛び上がって家を出ると、エリスは外の焚き火で何か料理をしている最中だった。
「エリス!」
「お目覚めですか? おはようございます」
「あの……俺……」
「どうかしましたか?」
そこにはいつも通りの、何事もなかったかのような表情のエリスがいた。
「いやぁ……俺って、たしか浜辺で……大きな貝に襲われて……?」
「大きな貝?」
「エリスが助けてくれなかったら、いまごろは……」
「助ける? なんのことですか? 変な夢でも見たのですか?」
……えっ、夢?
……だったのかな?
夢……なのかなぁ?
たしかにエリスが海に近づくわけないし、あんな顔するわけないし……
どうせ俺が死にそうになっても、冷静に小言を言ってきそうだし。
「さあ、もうすぐ朝食ができます。今日は貝柱をココナッツオイルで焼いたものに、魚を甘辛く煮詰めたソースをかけたものです」
……貝柱?
エリスが焼いてる、そのデカイのって、貝柱なの?
そんな大きさの貝柱って……
あれ?
そういえば、この真珠は?
「エリス、これ!」
「なんですかそれは? ずいぶんと綺麗な球体ですが?」
「真珠、かな? これ、よかったら……」
「これは、食べれないと思いますが?」
「違うって! 食べるんじゃないの! 宝石だから身に付けるなり、しなって!」
「これを? 私が? ですか?」
「そうだよ。俺が持ってても、しょうがないだろ?」
「しかし……」
「綺麗だろ? 持ってるだけでもいいじやん」
「そうですか? そこまでおっしゃるのでしたら」
そう言いながら受けとるエリスは、まんざらでもない様子で持ち上げてたりして、いろんな角度から見ては、その変化する輝きを楽しんでいるようだった。
「それ……ネックレスか指輪にするか……いや、それにしては大きすぎるし、1個しかないし……」
「ありがとうございます。大切にさせてもらいます」
まぁ、なんだかんだあったけど、良かったのかな?
俺もなんにもなかったし、エリスも喜んで……くれてる……のかな?
……っていうか、これがあるってことは、やっぱり巨大貝とのやり取りは本当に……?
ということは、エリスが俺を助けてくれた?
「さあ、カズヤ様、朝食にしましよう」
「そういえば、腹減ったな」
「その前に……」
「その前に?」
「カズヤ様の大切な剣が、海岸に突き刺さったままなので、先に回収してきて下さい」
「あ~~」
なるほどね、そういうことね。
この物語を見つけていただき、そして読んでいただき、ありがとうございます。
地味にコツコツ更新してまいります。
次回は、海編最終話「海の向こうがわ」です。
その後は「エリスの“おち○こ”」と「異世界美容院へようこそ」と続きます。




