第20話 海への出発準備
電気の無いこの世界。基本は日没とともに就寝となる。
そのため、ここでの夕食は日が沈みかけている頃、日本では16時くらいの時刻だろうか。
日が沈む前に食事を終え、後は就寝準備へと移るのだった。
空が赤く染まる頃、庭で夕食を食べ終え片づけをしていると、洞窟の中から一筋の光が漏れてくる?
エリスか?
なにやってんだ?
気になったので片づけを後回しにして、中に入って様子を見にいく。
そこには、小さな炎がテーブルの上に揺らめき、そばにいるエリスの顔を赤く照らしていた。
しかも、なんだか甘~い香りが? 漂ってくる。
「エリス、なにしてんの?」
「明日、これも持っていきましょう」
明日とは、海へ向けて出発する日のことだ。
というと、それはその準備?
「これって……もしかして?」
「ロウソクです」
テーブルの上にあったのは、ソフトボールくらいの大きさの球体をしたロウソクだった。
「すげー もしかしてエリスが作ったの?」
「はい。明かりの無い夜の野外は、星明かりしか期待できませんので」
「なるほど……そうだよな」
ここは異世界。
電気もないし、民家だってないしな。
どこかで野宿となると、明かりの確保は大切だ。
「このロウソクは、ハチの巣を少しいただいて作りました」
「え!? このロウソクって、ハチの巣でできてんの!?」
「はい。火をつけると甘いハチミツの香りもします」
「スゲー!! これがあれば俺たちは……」
「カズヤ様には、あげませんから!!」
……まだミツバチの件、怒ってんのかよ。
「じ、じゃあ、俺はどうすればいいんだよ」
「カズヤ様のは、ちゃんと用意してあります」
「え? ホント? どれどれ?」
「これです」
エリスが取り出したのは、湯呑みくらいの大きさの円柱をしたそれ。
なんか緑っぽい、独特の色?
「……これ、なにで作ったの?」
「“油実くさい”の油で作りました」
へぇ~~ そう、なんだ。
「火をつけると、腐敗臭がします」
「うっ……」
「夜に使うと、明かりと臭いで虫が集まってきます」
「…………」
そんなロウソク、いったいどこで使えって言うんだよ……
「それと、カズヤ様にはこれも渡しておきます」
「今度は何?」
「石鹸です」
「お――!! まあ、海、行くんなら何かと必要だよな」
なんだかんだ言って、ちゃんと準備してくれてるエリスは、やっぱり偉い!
「でも、スゲーな、エリスは。石鹸まで作れちゃうなんて。で、どうやって作ったの?」
「水と、油と、木灰とで作ります」
「もくばい?」
「木の灰です」
油……
木の灰……
嫌な予感が……
「油は“油実くさい”で、木灰はカズヤ様が燃やし尽くした油実の木のを使いました」
「……」
「ちなみに水は、その辺の水たまりの水を使いました」
「そこは湖の水を使ってくれよ!!」
「試しに今、使ってみてください」
「ぇぇえ??」
「ちゃんと使えるか試してください」
「……」
俺たちは外に出て、食べ終わった食器を今もらった石鹸を使って洗うことに。
「私のは自分で洗いますので、カズヤ様のだけ洗ってください」
「わ、わかったよ……」
樽に貯めておいた水で石鹸を濡らしてみる。
いちおう泡立つんだな。
それを天然ヘチマのスポンジにうつして食器を洗う。
なんか……
洗えば洗うほど……
臭くなる……
キレイにはなるけど、
臭いが、その……
く、くせぇ――!!
なんか生ゴミで洗ってるみたいだ!!
これ本当に消毒できてんのか!?
「エリス? これ、洗えてんのかな?」
「洗えてるんじゃないですか?」
なんで、そんな、疑問形で答えてるんだよ。
俺は手を臭くさせながらも、一通り食器も洗い終える。
……で、この臭くなった俺の手はどこで洗えというのだ?
「片付きましたね」
「お、おう」
「では、明日は早いのでもう休みましょう」
「明日の出発は早いの?」
そう、明日はいよいよ海を目指して出発の日だ。
「日の出とともに出発です」
「起きれるかな――」
「余裕を持っての行程ですので、2泊3日を予定しております」
「2泊って、どこで寝るの?」
「どこか適当なところを見つけて、野営します」
……大丈夫なのかな。
「そのために、これだけの荷物を持っていきます」
「こ、これだけって……」
エリスについていくと、洞窟の中で準備された大小、布に包まれた荷物の山がいつの間にか出来上がっていた。
これ、全部持っていくのか?
結構な荷物の量だぞ?
「着替えや装備品。寝具や食料などを用意しますと、これくらいになります」
「そういうもんなのかな」
俺はキャンプとか登山なんかしたことないから分からないけど。
きっとそうなんだろう。
「明日に備えて、早く寝ましょう」
「おう!」
でもなんか、遠足や修学旅行前日を思い出してくる!
楽しくて興奮しっぱなしで、結局一睡もできないの。
「ちなみにカズヤ様。寝坊したら中止ですから」
「えっ? 厳しくない?」
「あと、雨天中止です」
「ええっ!? 明日の天気予報は?」
「常に団体行動。私の言うことに従ってください」
「は、はい」
「いいですか、不注意や油断は死に繋がります。軽率な行動は慎むように」
「は……はい」
「この世界で生きていくには、自分の身は自分で守る。殺られる前に殺る。です」
「……」
「生きて帰還するまでが冒険です」
「…………」
やべぇ!
こんなの遠足じゃねぇ!
全然、楽しめなくなってきたぞ。




