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第19話 作戦会議

 今日は朝早くにエリスに叩き起こされ、洞窟前の庭に連れ出される。

 今後の活動計画をたてるようだ。


まだ見開くことを拒む俺のまぶたが、輝く日の光によって否応なしにこじ開けられる。


 俺たちは切り株のテーブルを挟んで、それぞれ丸太の椅子に腰かける。


「カズヤ様の活躍により、この近辺は一定の安全性が確認されました」

「まぁ、一通り回ったけど、危険な生物、いなかったもんな」


「最低限の食料も、なんとかなりそうです」

「俺、がんばって畑、耕したもんな」


「そこでなのですが、少しずつですが行動範囲を広めようと思います」

「そうだな。ちょっとは冒険っぽいこと、しないとな」


「生態の観測を兼ねて、周囲の環境が安全であることを見極めつつ、物資を調達。そして生存者の捜索と、街の復興をしていきます」

「救世主の仕事っぽくなってきたな」


「先ずは地形を理解してください。これがこの島の地図です」


 エリスがクルクル巻きになった筒状の紙をどこからともなく取り出すと、机の上に広げる。

 セピア色に色あせ、端がところどころ破れたそれは、大きな島が描かれた地図だった。


「へ―― ここって島だったんだ――」


 長方形を横にしたような、それでいて若干“へ”の字に曲がったような島。

 なにやら、いろいろと文字が書かれてあるが、この世界の文字だろう、何一つ読めやしない。


「この島は大きく分けて、4つの国に別れてます」

「あ―― この点線みたいなのが、国境か」


 地図を見るに、この島はおおよそ十字に4等分されていたようだ。


「私たちがいるのはここです」


 そう言ってエリスが指をさすのは、4等分された左下の国。

 島の南よりの海に近い場所。


「この国は『ハイロー帝国』と言いまして、ある一族が代々皇帝として支配した国です」

「ふ~ん」


「4つの国の中でも、一番の軍事力を誇っておりました」

「ふ~~ん」


「自然も豊かで、農作物も豊富です。大きな河川にも恵まれ、水源にも困りません」

「ふ~~~ん」


「私の故郷は、ここから西に向かった、ここです」

「へ~~ この森がそうなんだ」


 なるほどね、比較的恵まれている地域なんだね。人が過ごすにはいいところかもな。


「で、この国の北にありますのが『神聖ヒメビナス王国』です。ここは別名、魔法都市国家です。法王が国を治めております」

「ふ~ん」


「ここは知識の聖地と呼ばれ、島中の英知が結集し、魔法学校や王立図書館などが存在します」

「ふ~~ん」


「またこちらの都市では、紡績業が盛んで、島の8割の衣服を生産していると言われております」

「ふ~~~ん」


 まるで地理の授業、受けてるみたいだな。


 なんか……眠くなってきた……

 朝早く……起こされたからな……?


「この国の隣、島の北東にありますのが『スメール共和国』です。ここは市民が議会を開いて、国の運営を決定してます」

「ふぅ……ん」


「この地は、温暖で乾燥した気候が特徴で、放牧や酪農、家畜の生産などが行われております。それと、小麦や大豆などの生産も盛んです」

「ぅ…………ん」


 ぅっ……

 ねむ……

 っ……


「最後は『アイグッド首長国連邦』です。

 ここは様々な部族や都市国家が一つにまとまり形成されている国です」

「ぅ……すぅ……」


「ここは稲作が行われ、沿岸部は造船などが……」

「すぅ~ すぅ~~」


「カズヤ様? カズヤ様、聞いてますか?」

「すぅ~~~~ ぐぅ~~」


「カズヤ様!!」

「え! あ、はい! 先生!!」


「せんせい?」

「あ――えっと、なんの話だっけ?」


 やべぇ、意識が飛んでる?

 もしかして、俺、寝てた?


 そんな俺を見て、地図が吹き飛ぶくらいの大きなため息を吐くエリス。


「いいですか、カズヤ様? 今、大変なことになっているのです」

「はい?」


「塩の備蓄が底を尽きかけているのです」

「塩が無くなりそうなの?」


 塩って……たしか重要なんだよね?

 人が生きていくうえで、重要な成分って……

 どこかで習ったような気がする。


「そこで、ここから北に向かった山まで、取りに行こうかと思います」

「やま?」


「ええ、ここからそう遠くない場所です」

「でも、塩って普通、海なんじゃない?」


 もしかして、この世界の海って、しょっぱくないの?


「海水からでも取れますが、岩塩を発掘した方が簡単かと」

「ああ、岩塩ね。でも海からも塩取れるんなら、海行きたいんだけど?」


 地図を見ればそう遠くなさそうだし。

 日本にいた時もそんなに海に行ったことはなかったし、この世界の海ってどんなのか見て見たいし。

 なんか海って、いいんだよな―― 響きが、こう。

 ロマンというか、青春というか……


「海……ですか……」


 でも、なんだかエリスは乗り気じゃないみたいだ。


「海は危険です。まだ未知の場所が多いですので」

「まー そうかもしれないけどさー 見てみたいんだよね、海」


「湖で我慢してください」

「全然違うじゃん!」


「では、海も山も行くのをやめて、塩を取るもう一つの方法を試しますか?」

「塩を取る、もう一つの方法?」


「カズヤ様の汚い寝汗の染み込んだシーツを絞るという方法です」

「そ、そんな寝汗かいてっ、失礼だぞ! おい! そんなことするくらいなら海に行くって!」


「海は危険です。反対です」

「じゃあ、山は安全だっていうのかよ。絶対、変なモンスターとか出てこないんだな?」


「絶対とは言えませんが……海よりかは安全です!」

「海ったって、そんなに遠くまで泳ぐわけじゃないんだよ。ちょっと見てみたいだけなんだよ」


「見ても面白いものじゃないです。暑いし潮臭くてベトベトするだけです!」

「それがいいんじゃないかよ!」


 なんで、かたくなに海を拒否するんだよ!?

 そんなに反対されたら、よけい海に行きたくなるじゃんかよ!


「いいですか、カズヤ様? 海にはサメという狂暴な魚がいるんですよ?」

「知ってるよ、そんな沖まで行かなければ大丈夫だろ」


「…………それに、陸サメというのもいるんですよ」

「えっ? なにそれ? 陸のサメ?」


 エリスは眉間にしわを寄せ、目を細めながら、低く暗い口調で続けて言う。


「馬よりも早く走るサメです」

「なにそれ! 怖いんですけど!!」


「見つかったら逃げられません。食べられます」


 やべえ! 恐ろしすぎるぞ、異世界!

 そんな生物がいるなんて!


「陸サメだけじゃありません。それ以外にも、砂ザメも生息してます」

「はあ!?」


「砂浜の地中に生息し、うっかり足を踏み入れた時には、下から下半身を丸ごと……」

「マジで!? 嘘だろ!?」


 ちょっと……海、やめようかな。


「ほかにも……」

「まだいんのかよ!!」


「鳥サメといって、空を飛ぶサメが……」

「そんなん、どこいても、やべーじゃん! 逃げる場所ないじゃんかよ!」


 ……


 …………


「……って、嘘だろ、エリス!!

 行きたくないからって、そんなこと言うんじゃねーよ!!」


 俺にそう言われ、拗ねたように顔をプイっと背ける。

 子どもかよ、こいつ……

 どうしても行きたくないんだな!?


「サメだろうとなかろうと、危ないモンスターがいるかもしれないんだろ? いいよ! それでも行ってみるわ!!」

「…………いいんですか? どうなっても知りませんよ?」


「どうせ島全体、捜索しないといけないんだろ? 遅かれ早かれ海に行かなきゃいけないんだったら、今のうちに行く!!」

「そうですか……そこまで言うのでしたら、これ以上は止めません」


 観念したのか、諦め顔のエリスは吐き捨てるように言う。


「それならば、しっかりと準備をして行きますので、2、3日、時間をください」

「え? 準備って、なんだよ?」


「海に行くのならば、それ相応の服装や装備が必要でしょう?」


 ……それ相応の?


 海の服装?


 海の装備?


 ……


 …………



 水着!!!



 もしかして?

 エリスが水着姿に!?


 気になる!!


 エルフの体ってどうなってるの?見たことないし。いや日本にいた時だって、おいそれと女の子のそんな姿拝めるもんじゃなかったし。や、ヤバい緊張してきた。いつもエリスは肌の露出控えてる服着てるから、水着になった姿のギャップというか。エリスはなんだかんだ美人だから、体の方も……もしかしたら、グラビアアイドル並みのボディーの持ち主だったりして。しかも二人っきりなんだろ!?ど、どうする?どうやって過ごす?一緒に海に入って泳いで、水の掛け合いして、砂浜を走って、夜は星空を眺めながら……


「…………カズヤ様? なぜ私のことをジロジロと見てくるんですか?」

「あ! いや! そのー!! なんでだろうな!!」


「では、これから準備に取り掛かりますので、カズヤ様も仕度してください」

「お、おう!!」


 遂に水着回が始まるのか!?

 ヤバい! 塩どころじゃない。なんかすげー ワクワクしてきたぞ!


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