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第13話 枕を作る (後編)

 天気の良い穏やかな今日、俺たちは近くの森までやって来ていた。


 エリスが言うには森の生態系の調査……という名目だが、実際俺がやらされている仕事は、山菜と木の実とキノコの収集。


 どうせこれ、食料調達なんだろ?


 と、愚痴をこぼしつつ、エリスに渡された見本の草やキノコと同じようなものを見つけては、引っこ抜いて集めていく。


 このキノコは……合ってるのか?

 微妙に傘の形が違うような……

 まあいいや。


 この草は……?

 葉の形が……

 まあいいや。


「カズヤ様」


 俺が草むしりに苦戦しているところに、エリスがやって来る。


「どうですか? 順調ですか?」

「こっちは……まあまあかな」

「私は、これだけ集めました」


 と、バスケットから溢れるくらいの草花を、自慢げに見せつけてくる。


「ずいぶんと採ったなー それ食べるやつ?」

「いいえ、これはカズヤ様の枕の材料です」


 あっ、まだ枕の話、続いてたの……


「その草を枕の中に入れるわけ?」

「はい、そうです」


 草が詰まった枕なんて、聞いたことないけどな。


「この白い花は優しい香りがし、安眠効果があります」

「お! 枕にちょうどいいじゃん!」


「こちらの花は精神を安定にし……」

「へー いろいろあるんだな」


「これは免疫力強化」

「……免疫?」


「これは殺菌効果」

「……殺菌」


 ……なんかだんだん怪しくなってきたぞ。


「で、こちらは鎮痛作用。これは幻覚を引き起こし、こちらは麻酔の効果、これは防腐剤として……」

「ちょっとまて! それ、本当に枕の材料なのか!? 幻覚?麻酔? なんなんだよ防腐剤って!!」


「これはれっきとした薬草ハーブで、安らかな眠りを誘うものでして……」

「ちゃんとそれ使って、目覚めるんだよな? っていうか防腐剤の説明は!」


 防腐剤って死体処理に使うんじやないのか?

 永眠した人に使うもんじゃないのかあ?


「これは旅先の非常時に、薬として役立ちます。鎮痛作用と麻酔の効果のあるものは傷を負った時に。幻覚作用のある草は、敵に投げつけます」

「なるほどね…………で、防腐剤って何に使うの?」


「もし、仮に旅先でカズヤ様がモンスターに倒され、瀕死の重傷を負った時、これらの薬草を口に詰め込み、いったん拠点まで引き返すためのものです。防腐剤はその時に活用されます」

「なにそれ! 俺は死にそうになったら、枕の中の草を口ん中に押し込められるのか!?」


「それ以外にも栄養補給のために、米や木の実なども投入します」

「俺、そういう料理、知ってるよ。チキンの中に詰め込むんだろ? あ?俺って料理されるわけ? モンスターの餌? 俺を囮にして逃げるんじゃないの?」


「なんでしょう? なにかご不満でも?」


 ……顔色一つ変えずに話すもんだから、冗談なのか真剣なのか分かんねー


「せっかく集めてくれたんだけどさぁ……」

「あっ、忘れてました。茶葉も入れておきましょう。旅先で紅茶も飲めるように……」


「それを枕にするのは……ちょっと遠慮しておくわ」

「……何故ですか?」


「いや、なんか……寝心地というのか、弾力性に問題があるというのか……」

「では何を入れれば良いのですか?」


「普通は綿とか……羽毛とか?」

「うもう……!?」


 羽毛という単語を聞いたエリスは、露骨に嫌な顔をする。


「羽毛ということは、生きた鳥の羽根をむしり採るということですか?」

「いや。別に生きた鳥でなくても……」


「枕ごときに、無益な殺生はしないで下さい!」

「いや、その~ 別にさぁ~」


「なら、ご自分の髪の毛でもむしって、枕にでもしてください!」


 そう声を荒げると、俺の髪の毛を鷲づかみにし、引っこ抜こうとする!!


「痛っ!! 痛いって! ごめんなさい。もう考えませんから、鳥の羽で枕作ろうなんて考えませんから!」


「それよりも、頼んでましたキノコの収集は、進んでいるのですか?」

「…………まあまあ、です」


「ちゃんと探してください。それが今晩のカズヤ様の食事となりますので」


 えっ!? このキノコ、俺が食うの!?

 やべぇ、適当に採ってきちゃったから、毒キノコかもしんねぇ。


「あ、あのさ、エリス?」

「なんでしょう?」


「その薬草の中に、毒消しとかもあるのかな?」

「毒消草……忘れてました。あとで枕の中に入れておきますね」


 あぁ……

 また俺の枕が、草臭くなってゆく……



 こうしてエリスが作ってくれた草枕を、俺はしばらく使ってみることになったのだった。



 ……なんか寝るたびに、草くせぇ。


 公園に……牧場にいるような……まるで野宿している感じだ。

 そう考えると……

 安全な洞窟内の自室で寝ているはずなのに……


 全然落ち着かねぇなぁ!!



 ―――そして数日後。


「た、大変だ! エリス!」

「どうされたんですか? 朝からそんなに騒いで?」


「枕が膨らんだ!!」


 なんか最近大きくなってるなと感じてはいたが、今朝起きてみると枕がパンパンに膨れ上がってる!?

 変なガスでも出てるんじゃね?

 毒ガスとか!

 薬草と薬草が化学反応なんかして!

 俺、死ぬんじゃね!?


「ちょっと貸してくれますか?」


 俺は膨れ上がって今にも爆発しそうな枕をエリスに渡す。

 そして表面を優しく撫でたり、前後左右裏返して注意深くそれを触ると……


「カズヤ様、これ、水に濡らしましたか?」

「え? あ、ああ、臭かったから、何回か洗濯して干したけど?」


「中に入っていた草花の種が発芽して、成長してます」

「ええ? 入ってた種の芽がでちゃったの?」


 だから内側から持ち上げてきたのか……


「……これはなかなか、面白いですね」

「あ? 面白い?」


「この枕には夢が詰まってます」


 珍しくエリスが、うっすらと笑みを浮かべる?


「はぁ? ゆめ?」

「どんな花や木が育つか分かりません。このまま土に埋めて育ててみましょう」


「…………育てるの?」

「育つのに何年も何十年もかかるかもしれません。それまで、どんな実が生るのか分かりません。その日まで大切に育て続けてみましょう。

 数十年先に結果が分かるなんて、夢のある話ではないですか」


「ん~ま~ そうなの? そういうもんなの?」


 気軽に数十年って言ってくれるけど、俺にとってはその年月は生死にかかわるんだけど?


「では、今からこれを植えに行きましょう」

「植える? ……って、俺の枕は!?」


「さぁ……落ちている丸太でも使ったらどうでしょう?」


 丸太で寝ろって、夢も希望もない……

 相変わらず俺への扱いが、ひでぇなぁ~


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