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第11話 服を探す

 今日も俺とエリスは、王都の再探索してからの、隣街の探索。


 なんでも今回の重点調査は『布』を探し出すこと、らしい。


 そういうことで、俺は朝から瓦礫をどかし、その下に埋もれているかもしれない布や生地を発掘し、廃墟などから衣服やシーツ、カーテンなど、ありとあらゆる布製品を見つけ出すことに勤しむ。


 太陽が頂上にまできてもなお、俺はほこりまみれ、泥まみれになりながら、横たわった壁などを持ち上げては、退かすという作業を繰り返す。


 ふぅ……

 疲れたわー

 肉体労働なんて、今までしてこなかったし。

 暑いし、腹減るし。

 剣を使えば一発で瓦礫なんて、きれいに片付くというのに。

 なのにエリスが、そんなことしたら埋まってた布地まで引き裂かれる。とかで、手作業でやれっていうから。

 化石の発掘じゃないんだからさー

 あー もー 疲れた。休憩。


 俺はその場で、しゃがみ込む。


 近くで同じように作業しているエリスを見ると、ペシャンコに潰れたタンスから女性ものの服を取り出しているところだった。


「カズヤ様、これなど、いかがでしょうか?」


 慎重に取り出した服の埃をはたくと、それは青いワンピース風のドレス?

 そんなドレスを肩にあてて、俺に見せてくる。


「ああ、いいんじゃない?」


 適当に俺がそう言うと、精密機械を取り扱うかの如く、丁寧にドレスをたたんで、カバンへとしまう。


 そもそも、なんでこんなことしてるんだっけ?

 椅子として、ちょうどいい瓦礫に腰を下ろし、俺は思い出す……



 ――それは、数日前の拠点である洞窟内でのこと。


 朝、のんびりと座りながら朝食である芋をかじっていると、

「大変です!」

 エリスが慌てた様子で駆け寄ってくる。


 下着のような白いワンピースだけを身にまとっているので、きっと相当の緊急事態なのだろう。


「どうしたの? そんなに慌てて!?」

「無いんです」


「無い? なにが?」

「服がないです。選択した服がまだ乾いてないんです」


「……まあー そうだなー 俺なんか、ずーっと、この制服しか着てないし」


 切迫した感じで話してくるから、何事かと思えば、服がない……と?


「探しましょう。服を」

「え? 服を?」


「そうです。これでは洗濯が間に合いません」

「そうだよな。俺なんて、これ一着だから、洗ってる最中は、裸だもんな」


「私も10日分のローテーションしかありません。これでは外出するのにも困ってしまいます」

「え? 10着もあるの?」


「服を作る技術なんて、私にはありません」

「まあ、確かに服作るのって大変だよな。そもそも布ってどうやって作るんだ?」


 俺の生きていた世界は、服なんて買うのが当たり前の世界。

 服や生地なんて、作ったことない。


「一から作るとなれば、動物の毛か皮か、植物から……」

「あー 探した方が早そうだな」


「これから布生地は大量に必要になってきますので、探しに向かいましょう」

「使うの? そんなに?」


「ベッドのシーツなど変えたいんですが」

「あー まー そうだよね」


「それに、これから遠方の国まで調査するために足を伸ばすことになります。そうなった時、移動だけで何日もかかります。野営する必要がありますので、道中でテントやコテージを建てられるくらいの布地が欲しいです」

「確かになー 野宿はやだな」


「捜索範囲を広げるために、布地は必要なのです」

「なるほど」


「なにはともあれ……服がもう痛んできましたので……」


 そう言って視線を下げ、自らが身に付けている衣服を手でさする。


 たしかにその格好でうろうろされたら、目のやり場に困るし。

 服かぁ……衣食住のうちの衣類も必要だよなぁ……




 ―――という事情で、ここまで布探しにやって来たのだった。


「カズヤ様、こんな代物を見つけました」

「なに?」


 またエリスが何かを探し出したようで、こっちまでそれを持ってくる。


「王族関係の女性が身に付けていたと思われるドレスです」

「は――」


 まあ、漫画とがで良く見る、フワフワした長いスカートの濃紺のドレス。胸元や袖辺りに金の刺繍とかされてる、立派な服だ。


「それ、テントの材料にするの?」

「これは私が着ます」

「……そう……なの?」


 そう言ってまた丁寧に折りたたむと、カバンの中へとしまい込んでいく。


 俺も探さないと、一生学生服で過ごすことになりかねん。 

 そう思い、重い腰を上げて、探索の続きを始める。


 1時間ほど、あたりを発掘した結果、手に入れたのは半分焼けかけたカーテンと、ところどころ千切れた絨毯。


 まぁ、無いよりかはいいか。


 そんな、戦利品を目の前に並べて鑑賞している俺のもとに、またエリスが駆け足でやって来る


「見てください。これなど良い状態で残ってます」


 今度は、街娘が着ているような茶色い半袖の服。


「これなど、丈夫そうです」


 さらに次は、宮殿に仕えていたメイドだろうか?

 紺と白のメイド服まで。いったい、どこから探してくるんだよ?

 というか、さっきからエリスのファッションショーみたいになってるじゃん!

 っていうか、自分の服しか探してきてないの?

 こっちは必死になって、布切れ一つでも探し出そうとしているっていうのに?


「あのさー エリスさー」

「どうしました?」


「俺たち生地を探してるんだよな?」

「そうですが?」


「俺はカーテンとか絨毯とか、使えそうな物、持ってきてるのに、エリスは自分の服ばっかりじゃないか」

「ちゃんと、それらと平行して生地の調達も……」


「そういうのは最低限でいいんじゃないの? 俺なんか、ずっとこの服で我慢してるんだよ」

「ですがしかし……」


「そのドレスも、テントの材料にするんだよね?」

「…………」


「エリス?」

「…………はい、そうです」


 エリスはそう小さく呟くと、そのまま遠くの方へと歩いて行ってしまった。


 ……

 …………

 俺って、間違ったこと言ってないよな?

 だってそうでしょ?

 こんな生きるか死ぬかの状況で、服なんて後回しでしょ?

 服装とかお洒落になんか気を使ってないでさ。

 まるで女子高生みたいに、はしゃいで……


 ……って、エリスって実際、それくらいの年頃なのかな?

 200年くらい生きてるって言うから、つい大人と思っちゃうけど。

 実際は、人間でいう女子高生くらいの年頃なのかな?


 ……


 …………


 もしかして、女子高生みたいに、お化粧したり、可愛い服着てショッピングしたり、甘いお菓子食べながらお喋りとかしたい年頃なのかな?


 俺は日本にいた時の、クラスの女子生徒たちのことを思いだしていた。

 みんな楽しそうに話したり、遊んだり、恋愛したり……


 そんな日常から、こんな何にもない世紀末みたいな世界に放り出されたとしたら……

 もしかして、エリスの唯一の楽しみだったのか?

 なんの娯楽の無い世界で、可愛らしい服を見つけて着ることくらいしか、楽しみがないとしたならば……



 俺は……


 …………謝ろう。


 俺は戦利品をその場に放置して、急いでエイルのもとへと向かう。


「エリスー! エリス――!!」


 エリスはひとり寂しそうに、瓦礫の中で立ち尽くしていた。


「エリス、あのさー さっきは言いすぎた。ごめんよ」

「何がです?」


 相変わらずの無表情で、言葉少なく、整った顔立ちをこちらに向けるだけだった。


「そのー 服をさっ? テントの材料にしろだなんて言ったけどさ。あれは無し。着れるやつは、着てみたら?」

「……」


「使えそうにないのは、生地として使えばいいし。あっ、俺の見つけたカーテンとか絨毯を使えばいいからさ」

「…………」


「あのー そのー なんだ? エリスはせっかくの美人なんだしさ、ドレスとか着たら似合うんじゃないかって思ってさ!」

「…………そうですか。分かりました。そこまで言うのでしたら着ますよ」


 よかった、なんとか機嫌がなおったようだ。


「カズヤ様? 実は私もカズヤ様に似合いそうな物を見つけました」

「えっ?本当?」


「はい、機能的でとても素敵な代物です」


 なんだよ~ 俺の分まで探してくれてたんだ。

 早く言ってくれよ~

 エリスの、酷いこと言っちゃったじゃないか。


 エリスは俺についてくるよう目で合図し、歩き出す。

 そして歩いた先の、少しひらけた場所。


 するとそこには!


「うわっ、なにこれ!?」


 黒い毛皮が落ちてる? ……のかと思いきや!?

 黒い毛をした、ライオンのような熊のような、そんな大きな生き物の?モンスターの……死体?


 毛皮はきれいに残っているが、顔が……皮と骨だけになってる?


「えーっと、これ……ミイラですか?」

「はい、非常に状態が良いので、毛皮として使えそうです」


「いや、それにしても、これは……」


 うっ、臭い!

 獣臭と、死体ような、臭い……うわ!なにこれ!?


「さあ、どうぞ刈り取ってください」

「いや、これはちょっと……」


「なにが不満なんですか? 服としても、防具、防寒具としても、寝袋としても使えそうな優れものではないですか?」

「そ、そうかもしれないけど……死体はちょっと……可哀そうでしょ?」


「何を言ってるんですか? 革製品は全て動物の皮じゃないですか」

「いや、そうだけとさー」


「早く剥いでください」

「で、でも……」

「早く!!」


 いつも以上に強い口調で、皮を剝ぐ用のナイフを俺に差し出してくれる。

 というか、ナイフで俺が脅されてる感じ……


 これ、触るのも嫌なんだけど!

 そもそもどうやって皮を剥ぐの!?

 っていうか、こんな臭いの……

 着たくない!!


「ちょ、お、怒ってるでしょ! エリス、さっきの事、まだ怒ってるでしょ?」

「怒ってなんかいません。早くしてください。でないと、カズヤ様の皮を剥ぎますよ」


 顔色は変わってないけど、これ、絶対怒ってるって! 

 うっ……やってもやらなくても、怒るんじゃないかよ!

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