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迷子の仔ネズミの一件以降も、妖精堂には奇妙なお客が次々と訪れた。
その依頼内容と言えば、お届け物だったり、なにかの修理だったり、あまり本業には関わりのないことばかりだった。
それでも、うちのお人好しの妖精さんがそれをことごとく引き受けてしまうもんだから、わたしもしぶしぶながらそれに付き合うことになった。
で、そのたびにいろいろなことがあったんだけど、それはまた別の物語、いつかまた別のときにお話しすることにする。
けどそのおかげで、森には思っていたよりも大勢のフェアリーが棲んでいたということを初めて知った。
彼らは人に近い姿をしているほうがむしろ稀だった。
ただひとつ、姿はどうでも言葉は通じるということは、共通していた。
森のフェアリーたちの依頼をこなしても、リクオルの大好きな金貨がっぽがっぽには程遠かったけど、その報酬は滅多に見つけられない木の実だったり、貴重な鉱石だったり、わたしにとってはそれほど悪くはないものだった。
どっちみち、香水店のほうはカンコンドリが鳴いてるんだし。
これも素材集めの一環だと思えば、そう無駄働きにも思わない。
それもこれも、元はと言えば、リクオルが妖精の粉で描いた看板が原因だ。
妖精の粉で描いた魔法の文字は、わたしのような普通の人間には見えないんだけど、魔法の力の強い妖精族には遠くからでもよく見えるらしい。
あまりに奇妙な依頼が続くので、リクオルを問いただしたら、看板には「ご要望はどんなことでも誠心誠意叶えます」と描いたと白状した。
確かに、お客さんのご要望に沿った香りを調香するのがわたしの仕事だけど、リクオルの売り文句だと、それは調香じゃない依頼ばかり来ても仕方ないよね。
結局、大雨が降って看板が綺麗に洗い流された日まで、延々、わたしとリクオルは、香水以外のご要望を聞き続けるはめになった。
かくして妖精堂は、香水店というよりは、すっかり、なんでも屋、と化していた。