思い出せない【アイツ】その1
初投稿になります。
勝手が分からずご不便お掛けすることも多々あるかと思いますが何卒宜しくお願い致します。
毎週土曜17時頃更新予定になります。
平日の夕方にここに通うようになって、もうすぐ1年になる。
天門 毘沙梨は、学校で配布された資料や宿題を持って、今日も一人で下校している。
彼女にとってそれは苦痛ではないが、今日こそは、明日こそは…と微かな希望を持ちながら目的地に向かう。
だが、そこに着いて呼び鈴を鳴らすと、今日もその想いは徒労に終わることを知る。
「毘沙梨ちゃん、今日もありがとう」
玄関を開ける女性の顔を見て、毘沙梨は精一杯の笑顔を見せた。
「おばさん、今日の分はこれね」
そういうと毘沙梨は手に持っていた封筒を渡した。
「でも、こんなに溜まるばっかりだと、アイツ帰って来た時ホント大変よね」
「そうねえ…」
女性はうつむき加減に気のない返事をした。
「でもさ、学校もちゃんと進学させてくれてるし、アタシが同じクラスで良かったわ。
アイツが帰って来た時に受け入れる人が居なくちゃ…学校生活送りにくいもんね!」
「ありがと、毘沙梨ちゃんが居てくれるだけで、おばさん救われるの…」
その女性は今にも泣きだしそうだった。
「救われるだなんて…もう、アイツこんだけおばさんに心配かけちゃって…見つけたら一緒に怒ってやるわ」
アイツの母はただ微笑むくらいでしか返答できなかった。
「それじゃあね、また来ます!」
毘沙梨はアイツの母に深々と頭を下げ、アイツの家を後にした。
(警察も捜索をまともにしてくれないし、手がかりも何にもない…今の日本でこんなことってあるのかな…)
生まれた時から家が近く、幼稚園からずっと一緒だったアイツ。
そのアイツが行方不明になって、もうすぐ1年が過ぎようとしている。
それは毘沙梨とアイツが同じ高校に入学したその日だった。
いつものように毘沙梨はアイツと玄関先で別れた。
そこからの痕跡が一切なくなっていた。
毘沙梨は家に入ったと思い、アイツの家族は帰ってきていないという。
つまり、毘沙梨はアイツと最後に会った重要参考人になる。
毘沙梨もアイツの両親も警察に徹底的に聴収を受けた。警察は毘沙梨を犯人だと言わんばかりのキツイ言葉も浴びせた。
だが、毘沙梨は自分の中の事実を伝える事しかできなかった。
アイツが行方不明になってから数日は連日マスコミが報道した。現代の神隠しといわれ、毘沙梨のアイツの両親も連日マスコミに追われた。
だがそれもすぐに忘れ去られた。
毘沙梨が帰路に着く途中、小さな公園がある。敷地内にはブランコと小さい滑り台くらいしか目立つ遊具はなく、小学生が鬼ごっこをして遊んでいるくらいだ。
そんな光景が目に飛び込んでくると、毘沙梨は自分とアイツの思い出を投影してしまい…
…あれ?
思い出せない。
アイツの顔が。
アイツの名前が。
アイツ…
そういえば、いつの間にか名前で呼ばなくなった。
いや、呼べなくなった。
名前だけじゃない、苗字も。
学校ではいつの間にか配布物は2部ずつ取るようになった。
誰も何も言わないし、言われない。
そのことに気づいた毘沙梨は、踵を返し、今しがた来た道を戻った。
先程鳴らした呼び鈴を、今回は連打する。
「はあい」
先程の女性、アイツの母親が出てきた。
「あっ…あのっ…」
「どうしたの、毘沙梨ちゃん?」
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