休校中の3日間(時一side)
試合後の休校期間の話になります。
一旦の小休止です。
騒ぎが収まった頃にはもう試合どころではなかった。
遅れて駆け着けた教員たちや警備の上位能力者たちが情報収集にあたったが、掴める情報は殆ど残っていなかった。
念のために試合していた両チーム共、教員たちから事情を訊かれたが、まともに事態を把握している者は1人もいなかった。……否、大地たちであれば少しはあったかもしれないが、自分たちの首を絞めるような真似は当然しない。麻衣の消耗もあり早々に帰宅して行った。
その後調査の為に3日間、学園は休校となった。
プロの能力者の調査隊を派遣して試合場や学園全体、さらにはモンスターの生息地である暗黒島も調査したが……得られたのは未確認の機会兵器というだけ。試合場に残っている残滓を調べても照合するものは何もなかった。教員たちもプロの能力者たちも首を傾げるだけで、有耶無耶のまま調査は終了となった3日目……
「では、本当に何も知らない?」
「なんでもオレと関連付けないでほしいですねぇ? それとも……アレを呼び込んだのが、こっちだという証拠でもあると?」
「……」
密かに担任である佐倉先生に呼ばれた時一久は困ったような笑みを見せる。そもそも試合会場にすら来ていなかった彼に訊くなど本来ならあり得ない対応だが……この担任は彼の裏の顔を知っている。数少ない学園側の協力者だ。
「ただ……強いて言うならもう余計な詮索はやめた方がいいですよ?」
「どういう意味だ……」
「突いても鬼を怒らせるだけ……引き際はちゃんと考えないとダメってことですよ」
「その言い回しの時点で何か知っている風にしか聞こえないが……我々に選択の余地はないと言うことか」
ギシッと握っていた竹刀が鳴る。生徒に命令されるなど当然気分の良いものではない。普段なら問答無用で一発浴びせているが、この男に関しては学園長直々に釘を刺されている。証拠がない以上、衝突すれば確実に面倒になる。……何より彼女の勘が違うとずっと言っていた。
「くそ……」
結局何も言わず、そのまま去って行く時一の後ろ姿を見ながら毒づく。念の為に隠していたスマホの録音を停止して削除しておく。保険として残しておきたいが、あの得体の知れない存在が相手では寧ろ自分の立場を危うくしかねない。
非常に不本意だが、それとなく調査責任者に学園側として連絡を取ることにする。時一の存在がバレないように注意をして。
「調子はどうだかな?」
「まぁまぁかな? 貴方が居てくれて助かった」
自室に戻った時一はカップ麺を山に隠れている彼を横から覗くように見る。合流した際は色々とヤバそうであったが、不健康な冷凍食品やカップ麺、スーパーの王惣菜などを平らげたお陰か……健康そうな顔付きになっていた。
「言ってくれたら何か作っても良かったんだが……君だって料理出来るんだろ?」
「いや、家事の方は任せっきりで全然だから。部屋を貸して貰って食材も提供してくれただけでもう十分助かってる」
「けどカップ麺とか不健康過ぎないか? 買って来てなんだけど」
「全然オーケーだって、修業時代にはもっとヤバいのを料理が苦手な女性陣から頂いてから。優しさってヤツですかねぇ? 見事に最短で毒耐性が付いた」
「あー、多分その機会はもうないと思うけど、一度師匠にちゃんと言った方がいいよ? 多分命に関わってるから」
「大丈夫大丈夫、師匠も涙目で食べてたから!」
「凄い笑顔で言うな〜、もしかして根に持ってた? ま、いいけど」
青年は空の容器を片付ける。テーブルも拭いて時一が渡した服を見つめる。時一が着ているのと同じこの学園の制服である。
「任務完了まではそれで過ごすといい。私服も用意したが、学園内ならこっちの方が目立たない」
「私服は分かるけど、制服なんて……何処から用意したんだ?」
「ふふふふふふふふふふふふふふふっ」
「あ、やっぱり言わなくていいです」
制服を横に置いておくと、彼は不意に銀のブレスレットを見つめる。カチカチ弄っていると仕方なさそうにため息を溢したのを見て、自分の弁当を用意した時一が何気なく尋ねてきた。
「あの機械兵を圧倒したのは凄かったが、『鬼神』の力はもう使えないのか?」
「この世界じゃ再チャージに時間が掛かり過ぎる。他はイケそうだけど一度使った【コード】は当分使用不可になるな」
「手札が少な過ぎるか……ちょっと待て」
箸を割って食べようとするが、彼の戦力不足を危惧してか箸を置いて手を出した。
「何?」
「手を出せ。渡したい物がある」
不審そうに首を傾げる彼だが、尚も手を伸ばす時一。無言で視線をぶつけると渋々とであるが、彼もまたゆっくりと手を伸ばすと……
「【ダウンロード】―――対象【マスター・ブック】」
チートのフラグが立った予感!?
次は大地sideの話の予定です。




