後輩の欲望は時に騒動を呼び起こす。
今回は原因の話です。
無事に?試合を終えた俺達はそのまま帰宅。
入り浸っている麻衣は別だが、九重も誘って食事にしたのだが……
「なんで邪魔したんですか!」
「しなかったら過剰暴行になるだろうが」
「喧嘩を売って来たのは向こうです! しっかり片をつけないとキリがありませんよ!?」
「いや喧嘩って……」
荒れてますなぁ、この後輩さんは。
マンションの自室に戻った俺たちは、早速夕飯の準備をしようとしたが、そこで騒ぎ始めたのが大人しくない後輩の麻衣。
「がるるる」
「犬かよ。はぁ……空」
「うん、こっちは空たちがやっとく」
ガミガミ噛み付いて手が付けられない。仕方なく空と客の筈の九重に夕飯を任せると、麻衣と一緒にとりあえず自分の部屋に入った。
「センパイ」
「言いたいことは分かってる。この状況が不満なのはもう重々承知だ」
「――だったら!」
「けどな? 先に仕出かしたのは俺たちだ。そもそも原因は暗黙と言っていいルールを破った俺たちにある」
そう、ことの発端は前回の『四獣戦』であった。
儲ける将来を見据えた金の亡者な麻衣の計画(褒め言葉です)。
『四獣戦』は学生だけじゃなく学園側の関係企業にも知られる1つのイベント。アピールするには絶好の機会だと麻衣は乗り気になって、最終的に『四獣』全てを単独撃破しよう企んだ。
と言っても元々無茶だった為、知っての通り計画自体は中途半端に終わった。そもそも異世界の頃と違い俺は全盛期じゃないし、人手もまったく足りてなかった。
事前に学園に潜む存在について伝えなかったのも原因かもしれないが、麻衣の野望は俺の平穏を今以上に打ち崩しかねない。……予想以上にイベントが多過ぎてもう結構引っ掻き回しているのは置いといて。
少なくとも学園生活の間は可能な限りのんびりと過ごしたい。麻衣は大層ご不満な様子であるが、俺としては満足の結果だったと内心安堵した。
しかし、問題は討伐が中途半端に終わってしまった点だ。いや、中途半端だったからこの程度に済んだのかもしれない。
俺が倒した蛇ついては学園側も把握出来てないのでカウント外で終わったが、公衆の面前で麻衣が倒した獅子については別であった。
当初の予定の1つとしては、苦戦しているところを介入。合法的に参戦して四獣を倒す手筈だったが、待ち切れなかったバカ後輩は変身して即突撃したらしい。通りでこっちに来るのが早いと思った。
結果は担当していたAクラスを筆頭した合同チームは、獅子のモンスターと戦うことすら出来なかった。高速で乱入した麻衣が一気に倒してしまったから。
完全に横取りである。四獣とか関係なしにタチの悪いマナー違反だ。
後日、Aクラスから正式な抗議が来た。適当な注意や文句なら無視するか謝罪するかで済んだのだが……Aクラスのリーダーはプライドが相当お高いらしい。先生から強引に読まされた文書に俺は頭が痛くなった。面倒な馬鹿が2人もいることに。
しかも、便乗するかのようにBクラスからDクラスまで、Aクラスの抗議に賛同してきやがった。事前に打ち合わせていたとしか思えないタイミングでだ。お陰でクラスの方では全面戦争でもしないのかと、とばっちりを嫌がる奴らと全面戦争大歓迎と血の気の多い奴らの二分に別れていた。ちなみに後者の筆頭は鷹宮なので余計に現実味を帯びていたが、B〜Dクラスからの抗議の原因だ。
理由は当然、騒ぎを引き起こした麻衣の存在であろう。
あの尋常ではない戦闘能力、放置しておくには無理がある規格外な能力なのは素人目でも明らかである。
まだ1年であるが、彼女は既に他のクラスに仕掛けて掌握しつつある噂は2年にも届いている。本当に短期間であるが、金が関係すると彼女の行動力はとにかく早い。
このまま自分達の領土まで脅かしかねない。もしかしたらバックにいる3年側からもお言葉を貰ったのかもしれない。
それぞれのクラスは共同でいくつか条件を提示した。
条件と言うのは、彼女の自己中心的な危険な戦いについてのケジメだ。
先生に言われた際はこちらも仕方ないと特に疑問も抱かず内心頷いていたが、渡された文書の内容を見て目が眩んだ。
色々と難しく書かれていたが、簡単にまとめるとこんな感じだ。
1つ、獅子を討伐した際に手に入れた素材を提供する。(これはまだ分かる)
1つ、我々を混乱させた責任を取ってチームを解散。(これは強引過ぎないか? 百歩譲って労働か休止のペナルティだろう)
1つ、麻衣自身のチーム離脱と別チームへの強制移動。(いや、普通にマズイはこれは)
1つ、大地はチームを離脱して今後一切関わらない。(恥ずかしい話だが、これが一番の燃料だったらしい)
他にも麻衣の能力を利用した強制労働。ボランティアと言えば聞こえはいいが、俺に確認を取る前にこの内容全部を麻衣に読ませた1年の教員には憤りと同情があった。
言うまでもなく麻衣がキレたのはそれからだ。怒りの余波でその教員が大変怯えたそうだが、全部安易な行動が招いた結果。少なからず同情はするが、フォローまでしようとは考えなかった。
そして全てを真っ向から拒否した麻衣は、説明会で集めた2年の先輩相手に全く怯まず、堂々と言い切った。
『これから二週間、全ての申し込まれた試合に対してこちらは一切拒否しません。私の全てが欲しいのならこんな小っぽけな紙切れでなく、堂々と正面からかかって来なさいヘタレモブザコ先輩共がっ!』
自分の理不尽な扱いもそうだが、話し合い中の俺に対する罵倒気味な言葉も原因だったようだ。外面なんてお構いなしのゴミか虫を見るような蔑んだ目で集まっていた2年の連中を見下していた。
これが戦争の始まりである。思いっきりの挑発だからプライド高い面々は当然黙ってはいなかった。
翌日から他クラスのチームからの試合が相次いだ。空いている時間が予約で一杯、連戦続きでさすがに空たちもしんどそうだったが、フラストレーションが溜まりまくった麻衣の暴走は止まるところを知らずであった。




