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元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。  作者: ルド
第1章:後輩の初デビュー戦と大規模の四獣討伐戦。
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訓練の初日はまず能力確認からだった。

「頑丈なだけで私たちには十分ですよ!」


 お前が1番火力馬鹿だから気を付けて選んだんだよ。

 最初は校舎から遠い外部の施設も検討したが、外部の方が金を掛けているところが多い。最悪壊れた時の損害の方がヤバそうだったので、壊れても損害が低そうなこの施設がベストだった。


「じゃあ、まず空から頼む」


「はぁーい。体操着とかに着替えなくていいかな?」


「今回は能力の確認だから制服のままでいい。……動き回るならスカートだけは変えておけよ?」


「あ、ならお兄ちゃんだけだしいいやー。一応下はスパッツだし」


「お兄ちゃんの前でも気にしてください」


 安全な方から確認しましょう。その前にスカートからズボンタイプに履き替えてもらう。スパッツだろうとスカートから見えるなんてお兄ちゃんが許しませんよ?


 九重さんでもいい気がするが、最初では緊張するだろうから、色々と準備している空からにした。


「はっ!」


 空は気合いの活を入れた。

 瞬間、身体中からバチバチと火花……いや、違う。

 空の周りから電気が生まれていた。


「電気……雷系か?」


「名付けて【ライチャン】だよ!」


「普通に【ライトニング】とかじゃないのか?」

「可愛くないそうですよ。ソラちゃんの場合は頭に浮かんだ能力名なんて関係ないんです」


「ファンタジーの常識は妹には関係なかった」


 『自然系(エレメント)』の雷の能力か。『自然系(エレメント)』は『武器系(ウェポン)』と同じくらい使い手が多いから、調べるのは簡単そうで助かるな。


 問題は空が1年間で磨いたもう1つの力(・・・・・・)とどれだけ合わせれるかだ。

 施設に用意されてある少ない武器類を何点か出して確かめて見た。


「軽く試してみろ。どれがいい?」


「槍でお願い!」


 先端が尖った鉄製の槍を軽く放り投げる。ついでに施設の装置を操作して木で出来た人形を設置する。


「【武装強化・槍】!」


 受け取った空は慣れた感じで器用に槍の棒をクルクルと回すと、その場で構えた途端に全身に帯びていた雷が槍へと移動した。


「はぁー!」


 そこから空は槍の舞を披露する。

 槍を振るわれる度に纏っている雷が風圧に乗って飛んでくる。

 

「え、空? 麻衣、これって……?」


「うんうん、いい感じに仕上がってるね。能力との同調具合も良さそう」


「仕上がってる? 同調?」


 能力自体まだ全然知らない初心者な九重さんが困惑する中、知った顔で頷いている麻衣。

 俺が居ない間、空に職業(ジョブ)の指導をしてくれたのは感謝するが、出来れば九重の補足説明とかフォローとかして欲しいんだけど。


「ヤァァァ!」


 そうこうしていると演舞を披露していた空が木の人形を薙ぎ倒す。

 やはり強度としては全然物足りないので、分厚い丸太でもあっさり崩壊してしまった。


「ありゃ? あっさり壊れちゃった」


「ん、じゃあ次、九重さんお願い出来るか?」


「あ、は、はい!」


「サオリンファイトー!」


「沙織ちゃん! センパイを倒しちゃえー!」


 説明すると異世界話が付いてくるから保留しかないけど。

 俺が促すと困惑したままであるが、空が応援するとなんとか切り替えてくれた。それと麻衣、お前はあとで話があるからな。


「――【天使の笛】」


 瞑想のように瞳を閉じた九重さんが唱えた。

 すると何処からともなく天使の羽根が無数に舞うと、ひとつひとつが光となって彼女の手元に集まっていき……。


 剣先から柄まで真っ白な一本のレイピアが生まれた。


「ほぉ、『武器系(ウェポン)』の剣タイプか。しかもレイピアとは……教えるのが少し大変かもな」


「あ、いえ、ちょっと違うんです」


 俺自身使ったことがない細剣を見て少し悩んでいると、慌てた様子で九重さんが手を振った。


「私も分かった時は少しビックリしたんですが、私の能力って剣を出すだけのものじゃないみたいなんです」


「え、どういうことなの沙織ちゃん?」


「【天使の笛】の効果は『天使の力の一部を武器として呼び出すこと』だけど……呼び出せれるのは剣だけじゃないの」


 能力を解いて槍を戻した空が訊くと、初めて出したことにまだ戸惑っている九重さんだが、どうにか落ち着いて説明を続けてくれた。


「いま分かっているだけで剣以外に盾と弓……それと扇が使えるみたいでそれぞれ能力が違うみたいですが……」


 聞いてみると武器タイプでも中々汎用性が利く能力のようだ。

 もしかして俺みたいに武器タイプでも『特異系(イレギュラー)』寄り気味か?


「いきなり全部試すのは危険か……とりあえず剣だけでいいから試してくれるか?」


「はい!」


 考えてもしょうがないのでやらせて見た。

 ハキハキと返事をした九重さんは、用意した木の人形へレイピアを構える。集中しているようで真剣な表情で人形に意識を向けていると。


「はっ!」


 起きたのは鋭い突きだった。

 しかし、ただの突きではないのは、超人的な動体視力を持っている俺と麻衣には分かっていた。


 突きを繰り出すのは構えから予想は出来ていた。

 ただの繰り出そうとした瞬間、レイピアの刃が鋭い光の刃となっていた。木の人形へ三点突きを一瞬にして浴びせていた。


 時間にして1秒にも満たない間に。

 間違いなく『剣速強化』の能力が備わっていたが……。


「一時的に使用者の速度をアップさせるみたいだが、速度上げた分だけ反動も大きいようだな」


「う、はい……」


 俯いている九重さんの剣を持つ手を見ながら俺は指摘する。向けられている視線に気付いたか、本人は弱々しく頷くと剣を地面に置いて震える手を出した。


 空は分かっていない様子だったが、俺と同じく察した麻衣が回復魔法を使おうとするのを視線だけで止めさせる。気持ちは分かるが、まずは確認が大事だ。


「大丈夫か?」


「はい……まだ痺れていますが、なんとか大丈夫そうです」


 その言葉に嘘はないのは、腕を見れば分かった。信用していないわけではないが、やせ我慢の可能性も考慮しないと何かあってから遅い。


「そのようだ。元々鍛えてるようだけど、何かやっていたのか?」


「あ、部活でソフトボールをしてました。家だとお父さんがジムをやってて普段から通ってました」


「手首の筋も切れてないところを見ると結構やっていたようだな。ま、能力者の場合は鍛えてなくても身体能力は上がるが」


 しかし、試さなければならないとはいえ、ここまでの反動を想定してなかった俺のミスだったか。


「能力のことはある程度分かっているつもりだったが、初期状態でそこまで大きな負荷を与える能力も珍しいな」


「他はそこまでじゃないと思いますが、この剣の場合は速度を調整すればなんとか使えるかと」


「その為の訓練は必要そうだがな。あと他の武器類の際は限界までやろうとするな。最低限のレベルを意識して使え」


 とりあえず九重さんの能力は、要観察して調整すれば大丈夫そうだ。

 いざとなれば俺の能力と麻衣の魔法を合わせる手もあるが、それは今後の彼女の成長次第だな。


「じゃあ九重さんと空も一旦離れてくれるか? これからが1番大変だから」


 と、まぁ2人の能力確認が終わったところで本命の番だ。

 2人は最初何を言われているのかと目を点にしていたが、得意げな笑みを浮かべている後輩を見て納得した。


「むふふふ! 遂に真打ちの出番というわけですね!」


 やる気満々の様子でポキポキ鳴らしていた。

 この後輩……隠す気が全くないのか? ……九重さんまで何気に麻衣がヤバいと理解したか、空と一緒に頷いていたが。


「……聞いてなかったが、お前らって同じクラスなのか?」


「ううん、私とサオリンはCクラスでマイちゃんだけはEクラスだけど?」


 なるほど危険認定扱いを受けたか。今年のEクラスにまた厄介な奴が入ったな。

 そう言って空たちはフロアの隅まで離れて行く。多分大丈夫だと思うが、下手に麻衣に結界空間を作らせるよりは安全か。


 街の方もそうだが、島の中も色々と監視がある。

 能力は最悪バレてもいいが、魔法関係はギリギリまで隠して置いたほうが良いだろう。……まぁ能力を通して魔法を使ったりしているから意味がない気もするが。


「さぁ始めましょうかセンパイ!」


 なんて逃避気味な思考もそこまでにして麻衣と向き合う。

 あくまで能力の確認だけという話であるが、やる気に満ちた本人の顔を見る限り……無理だろうな。


「センパイもその気になった方がいいですよ!? ――【アバター・チェンジ】!」


 唱えた途端、身体中から魔力が活性化したのをハッキリ感じた。

 彼女の中に蓄えれている莫大な量の魔力が能力への糧となる。……色々と恐ろしい光景にしか見えない。


 ついでに彼女の体が輝いているが、どう見ても麻衣の演出だろう。


「来たれ――『聖なる神殿の主……白き龍王(ホワイト・キング)』!」


「何? ちょっと待っ――」


 不穏な単語が聞こえた気が……いや、ハッキリ聞こえたぞ?

 俺が呆然としている中、輝いている麻衣の姿に変化が起きた。


 そして。


『……』


 目にしたモノを見た空たちが固まる。場所をしっかり選んで助かったが、他の人が多い場所だったらパニックになっていた。


 全長二十メートルはある白き龍。真っ白で大きな翼を広げて、大きな両手をニギニギしていた龍(麻衣)がニヤニヤとこちらを見下ろしていた。口元から凶悪な牙を見せているから身の危険しか感じない。


「フフフフッ、どうですかセンパーイ? 懐かしい(・・・・)でしょう?」


「俺の能力の見せた時は散々言ってくれたが、お前の方が十分目立つだろうが」


 ――白き龍王。それはかつて戦った好敵手の名だった。

 勝利した後、麻衣が契約を結んで魔王退治にも手を貸してくれた龍の長だ。麻衣が所持している12の専用杖の1本を授けていたが、まさかそれが関係しているのか?


「龍の姿とかやり過ぎじゃないか? 事情を知ってる空まで固まってるぞ」


「サイズは抑えてますよ?」


「当たり前だ。施設が壊れるわ」


 嫌な予感が的中した。

 よりにもよって12本の専用杖の素であった怪物に化ける能力とか。


「確認の為に軽くやって見ませんか? センパーイ」


「軽くじゃ済まないだろうが」


 と言っても逃れる気はしないが。

 ボキボキと効果音が増した両手を鳴り響かせている後輩を見上げると、俺は手元に【マスター・ブック】の白い手帳を出していた。


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