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ウソつき勇者とニセもの聖女  作者: 佐倉 百
1章 歪む世界と魔王の影
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007 海の町のギルド


 防壁の門をくぐると、微かに潮の匂いがする気がした。


 海都リズベルは古くは貿易で栄えた国だった。過去に起きた数度の戦争を経て、今ではウィンダルム王国の一部となっている。町を囲む防壁はかつての城壁を壊して再利用したもので、頑丈そうな格子の扉もまた、大量に人夫を集めて移動させたそうだ。


 城は外観こそ昔の面影を残しているものの、内部は大幅に作り変えられ、リズベルの行政の中心地として機能している。


「なあ、東雲さん」


 由利はご機嫌で鼻歌交じりに隣を歩く東雲を見上げた。どの角度から見てもイケメンなのがムカつくが、そろそろ慣れてきた。


 東雲はどうしましたと、歩く速度を落として微笑む。


「何で俺達は手を繋いで歩いてるんだ?」

「リリィちゃんが誘拐されないためですよ」


 だって見てください――東雲は目の前で賑わう人混みを指差した。


「この中で迷子になった時に、馬車とか走ってる子供を避けながら、五体満足で合流できると思いますか?」


 リズベルの大通りから中心地の広場に抜ける道だ。石畳の大通りといえば聞こえはいいが、整備が追いつかず砕けた石がそのまま放置されていた。ロバに馬車を引かせた商人が車輪を取られないよう、苦労しながらゆっくりと通っている。道の両翼では軒先に広げられた品物が通りの三分の一を占拠し、大きな籠を抱えた主婦や使用人が買い物をしている。何の目的か走り回る子供やら、盗品らしい肉の塊を咥えた犬が逃げ回り、通行を更に困難なものにしていた。


「カオスだな」

「カオスですね」

「無理言ってすいませんでした」

「分かってもらえて嬉しいです」


 映像でしか見たことないが、発展途上国の市場のような混沌とした光景だ。住民にとっては一定の秩序があっても、部外者の由利達には勢いに圧倒されてすぐに溶け込めそうにない。


 二人はそのまま広場まで抜けると、旧王城の前まで来た。城門跡を抜けて建物に沿って歩いてゆくと、木造の頑丈そうな建物が見えてきた。


「ここは?」

「中庭の菜園だった場所に、ファンタジーではお馴染みの冒険者ギルドがあります」

「あるのか。ギルド」

「内容は全く違いますけどね。ウィンダルム王国直営で、活動範囲はこの国内部だけですけどね。魔獣を狩る狩人を登録、管理する場所です」


 続けて魔石回収の仕組みを聞いた由利は、そりゃそうだよなと納得した。


 この世界の人間は覇権争いをして互いに国土を広げている最中だ。魔王が現れたことで大規模な戦争は起きていないが、隙あらば敵の領土を掠め取ろうと狙っている。


 魔石は魔法を使えない者にも恩恵がある。その技術を戦争に投入できるようになるのは時間の問題だろう。外国よりも有利になるために、動力源となる魔石の流通を管理し、そのほとんどを自国で消費するようにしている。


 もしここで複数の国に拠点を置き、内部で素材や魔石を売買する武装集団が結成されたらどうなるか。為政者にとっては脅威だろう。


 売買された魔石が国内で消費される保証はなく、魔獣を倒せる人材が国のために尽くすとも限らない。組織内で共有される情報を繋ぎ合わせれば、国力を測ることも可能だ。拠点のトップに国の要人をねじ込んで監視するくらいなら、最初から国営の組織を作ったほうが管理しやすい。


 ウィンダルム以外にも似たような国営組織があるのかもしれない。


「そこまで密輸を警戒してるなら、加入するのも難しいんじゃないか?」

「十五年ぐらい前までは厳格に審査してたみたいですけど、今じゃ名前を書いてテストを受けるだけで入れますよ。二十年前の魔王復活の影響で、魔獣の数も増えているんです。とりあえず魔獣を何とかしてくれるなら、外国人でも構わないとか」

「疲弊してんな。他の国もか?」

「無事じゃない人間の国なんてないですよ」


 由利はマフラーを頭から被って、顔が隠れるようにした。大人数から注目される経験は一度で十分だ。


 中は銀行を彷彿とさせる構造になっていた。窓口らしき木製のカウンターは衝立でいくつかのブースに仕切られ、番号が書かれた札が下がっている。そのうちの三つは職員と訪問者で埋まっていた。


 木の札を手に所在なさげに立っているのは、換金を待っているらしい。番号が呼ばれると金貨の絵が描かれた受付へ行って、出された硬貨を財布へしまい込んでいる。


 カウンターの奥では数人の職員が、赤く透明感がある石――魔石を色の濃さで分けたり重さを計って記録をつけていた。等級ごとに仕分けているのは、それぞれ支払われる金額が違うからか。


「すいません。ハンター登録したいんですけど」


 東雲は空いている受付に声をかけた。ギルドに登録している者はハンターと呼ばれているらしい。


「はいはい、ご新規さんね。字は書ける? 無理なら代筆呼ぶけど」


 受付の職員は東雲を見ても、何の感慨もなく二枚の紙を出してきた。四十代と思われる、くたびれたオッサンだ。


 ここには冒険者ギルドにありがちな美人の受付も、東雲の顔を見て頰を赤らめる淑女もいないようだ。ついでにカウンター奥の職員も、魔石を換金しに来たハンター達も全て男だ。非常にむさ苦しい。


「僕が二人分書くので大丈夫です」


 東雲はそう言ってペン先をインクに浸すと迷いなく書いていった。由利は魔法で言葉は喋れるようになったものの、文字の記憶までは思い出せなかった。魔法の効果が及ばなかったのか、単に文字が書けない人物だったのかは分からない。


 書き終わった書類を返すと、受付のオッサン職員は紙を少し遠ざけてチェックし始める。老眼かもしれない。


「ユーグにリリィね。出身はトゥーレか……よく生きてたね。本当は女の子なんて登録したくないんだけど、このご時世なら仕方ないか」


 オッサン職員はぶつぶつと独り言を言いながら書類に赤い判子を押し、その下に何かを書き加えた。後で東雲に聞くと彼の名前だったらしい。


「じゃあこれ持って外で待ってて。実技テストするから」


 話は終わりと席を立ったオッサン職員は、書類を持って奥へと入っていった。


 外に出てしばらく待っていると、建物の裏手から革鎧をつけた男が歩いてきた。両手剣と同じ長さの木刀を二本持っている。


「お前らか。ハンター登録しに来た若造は」


  見上げるほど大きな男だった。短く刈り込んだ灰色の髪に薄青の瞳。筋肉質な体。よく日焼けした厳つい顔は獰猛な熊を思わせた。


 男は試験官のトマと名乗った。


「久しぶりに女がハンター登録しに来たから、どんなオーガが来たのかと思いきや……大丈夫か?」


 半ば同情するような視線は由利に向けられたものだ。


「この子が使う『結界』はなかなか優秀ですよ。見た目で判断しないほうが良いかと」

「ほう」


 面白そうにトマが口を歪め、一歩踏み出すと同時に木刀で襲いかかってきた。木刀は耳障りな音をたてて結界に阻まれたが、想定内と言わんばかりに続けて攻撃を浴びせてくる。


「ふん。本物みたいだな。いいよ、合格にしてやる」

「それはどうも」


 由利はそっとため息をついた。


 いつ試験が始まってもいいように、待っている間に結界を張っておいて良かった。

結界しかまともに使えないが、生半可な攻撃は防いでくれるから、試験は合格するだろうと二人で予測した通りだ。


 そもそも安く魔石を回収するための制度であって、登録したハンターを保護するための制度ではない。活動を開始したハンターが死亡したところで、国に責任はないのだ。だから明確な攻撃手段でなくても、何か異能があると試験官に認めさせれば良い。


 トマは面白くなさそうに東雲に視線を移すと、片方の木刀を投げてよこした。


「次はお前だ。かかってこい」

「……分かりました」


 危なげなく木刀を受け取った東雲は、構えることなく一歩踏み出した。右下から振り上げた木刀は左へ弾かれたが、姿勢を崩すことなく東雲は流れるような動きで蹴りを繰り出す。脇腹を狙った攻撃は、動きを読んでいたトマが後ろへ跳んで躱した。


「やるじゃねえか色男!」


 トマの目の色が変わった。見た目通りの豪快な斬撃で襲いかかり、東雲に反撃の隙を与えない。


 連続で斬りつけられる木刀を躱し、時には流しているうちに、東雲が流れをつかんできた。上段から振り下ろされた一撃を境に、突きを中心とした攻撃でトマを追い込んでゆく。


「このっ!」


 東雲が横薙ぎに振った攻撃は、トマの首を狙ったものだった。避けきれないと判断したトマが木刀で受け止めると、ミシと割れる音がする。


 トマは力任せに東雲の木刀を押しやると、後ろに跳んで距離をとる。


「ここまでだな。おい、続きは真剣でやるか?」

「遠慮します。僕は軍人じゃないので」

「――へえ。そりゃ残念だ」


 受け取った木刀をさっと点検したトマは、ギルドの建物を顎でさした。


「正式登録するぞ。二人とも合格だ」


 トマはそのまま振り返らずに入り、受付に手続きをするよう告げてから奥へと消えていった。扉をくぐる直前に、何か言いたげに東雲を見ていたが、結局何も告げずに去っていった。

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