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ウソつき勇者とニセもの聖女  作者: 佐倉 百
3章 踊る亡霊

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011 尋問


 捕まえた双子を監禁している地下室は、村人が集会場にしている建物内にあった。食料品や酒を地下の貯蔵庫に保管するため、どの家にも一つは作られている。集会場に集められていたのは、行商人へ売る乳製品だった。今はそれらを壺に詰めてから、集会場の端に置いている。

 細々とした話し声が聞こえていた地下室だったが、扉代わりの石板を動かすと静かになった。


 東雲は村人の許可を得て、男達に会いに来ていた。

 光の球を地下へ泳がせると、暗い顔をした双子の姿が浮かび上がる。東雲は出口を塞ぐように階段に腰を下ろし、二人に砦跡で押収した品を見せた。


「これをどこで手に入れた?」


 長い爪の形をした武器と、筒型の容器に入った銀色の液体だ。双子はそれぞれの顔を見合わせ、居心地が悪そうに沈黙する。


「聞き方を変えようか? こういう特殊な効果を発揮する品には、魔法式が書き込まれてる。分析すれば、その品が誰によって加工されたのか分かるんだよ。魔法式には系統があるからね」


 東雲は更に香炉を出して足元に置いた。


「さて、この結界を発生させていた香炉と、君達の意識を飲み込もうとしていた爪、面白い特性がある液体。それから君達が身体強化に使っていた魔法の残滓。この中で君達の魔法だけ系統が違うんだよ。身体強化は見様見真似で使っているね?」


 東雲が手を叩くと、風船が割れるような音と共に双子の姿が変化した。


「それが君達の本当の姿か」


 そこにいたのは小太りの双子ではなく、痩せた男達だった。顔立ちは似ているが、変装を解く前ほどではない。左頬にはそれぞれ数字が焼印されていた。二人は顔を硬らせ、化け物のように東雲を見ている。


「そういえば双子のような多胎児は不吉だからって、一人を手元に残して他は捨てる地域があったっけ。ザイン教が広まってからは教会が引き取るようになったらしいけど。そうそう、特殊な能力を持つ子供も、気味悪がって捨てる地域もあるよね」

「い、いくら脅しても無駄だからな! 誰がお前みたいな奴に協力するか!」


 弟が声を震わせながら叫ぶ。拘束されている状態なのに、随分と威勢がいい。

 東雲は黙っている兄の肩に曲刀を乗せた。


「お前の弟は、目の前で兄の耳でも切り落とせば静かになるか?」

「卑怯者!」

「ジリー、止めろ」

「でも!」


 兄のギルベンは首を横に振った。


「捕まった時点で我々の命運は尽きたのだ。拘束されて閉じ込められているのは、我々の待遇を検討している最中だからだろう。決して我々が持つ情報を引き出すためではない」

「そうだよ。結論が出るまで、監視を兼ねて聞きに来ただけ。無理矢理、記憶を覗いてもいいんだけどね」

「まだ我々を人として扱ってくれるのか」


 ギルベンはもう一度、弟に反抗するなと言い聞かせた。

 人の記憶を覗き見る魔法は存在しているが、主に犯罪者や捕虜に使うものだ。制御が難しく、使われた者への負担が大きい。相手を道具として扱う魔法として認識されており、許可なく使用した者は厳重に処罰される。


 東雲の心情としては由利を襲った犯人を許すことなどできないが、当の本人が彼らを村人に引き渡すと決めたため、素直に従っているだけだ。


「その品だが、ある実験施設から盗んだ物だ」


 曲刀を鞘に収めると、ギルベンが語り出した。

 彼らは三つ子だった。東雲が指摘した通り、多胎児は不吉とされる地域に生まれ、教会の孤児院へと預けられた。彼らが成長して魔力あることが分かると、更に別の施設へと引き取られる。


「そこで我々は魔力の量を測られ、教育を受けることになった。教育といっても商人や貴族のような勉強ではない。魔法の使い方や、ザイン教のために働けという内容だ」


 工作員の育成だろうかと東雲は思った。表に知られていないだけで、教会には後ろ暗い活躍をする者がいることは、とっくに知っている。


「我々は落ちこぼれだった。使えるのは身体強化と変装の魔法だけ。それも教会の正しい魔法式ではなくて、効率の悪い、古い時代の使い方だった。それに教義だってロクに覚えられないから、修道士にもなれなかった」


 だが落ちこぼれとはいえ、魔法が使えることを知った者を野に放つのは危険だ。魔法が使えない者にとっては脅威であり、犯罪組織に利用されてしまえば迂闊に手を出せなくなる。相手が魔法を使えるかどうか、外見では判断がつかないのだ。


「そんな我々が行き着く先は、道具として扱われることだった。魔石に枯渇するまで魔力を補充したり、開発された品を使ってみて安全性を確かめたり。食事と寝床が与えられるだけ、外で生活するよりはまともかもしれないが」

「魔力を提供するだけなら良かったのに」


 弟が悔しさを滲ませて言う。


「我々は……双子、だから、実験にも使われた。片方に訳のわからない道具をつけて、片方に苦痛を与えるなど日常だった。何の実験だったのか我々には分からない。ただ魂の動きを観察すると言っていたことは覚えている。目印を付けるためだと」

「目印?」


 東雲が二人の内面をよく観てみると、細い紐がぼんやりと浮かび上がった。地下室の天井を突き抜け、どこかと繋がっている。紐の先を探ろうとしたものの、目的地が遠すぎるのか大まかな方角しか割り出せなかった。


「我々がいたのはローズターク近郊にあるザイン教の修道院らしい。憶測で申し訳ないが、我々のような実験対象には詳細が明かされることはない。一週間ほど前、監視の目が少なくなったことに気付いて、使えそうな魔道具を盗んで逃げ出したのだ」


 教会が実験道具を盗んだ双子を野放しにするだろうか。彼らの魔法で底上げされた身体能力は驚異的だが、無駄が多いために持久力に欠ける。魔力量自体もそこまで多くなく、戦闘慣れもしていないので、集団で攻撃を捌いておるうちに力尽きるだろう。

 それに目印をつけているなら、いつでも捜し出して捕まえることが出来るはずだ。


 ――魔法式を習った人なら、必ず古い時代の教会魔法にも触れる。この品は機密保護の加工がされてないから、すぐに教会由来だと分かるはず。


 宗教に対し反対運動が出始めていることは、教会も当然ながら掴んでいるだろう。それなのに醜聞に繋がりそうなことを放置するだろうか。


 魔石を使う技術は兵器にも転用できるために扱いが難しい。ましてや彼らが使った爪や液体は武器そのものだ。教会の規律が乱れているとして、ますます距離を置くだろう。


「君達以外に逃げ出した者は?」

「いる。同じ実験を受けていた双子が何組か。行き先は聞かないでくれ。我々も知らない」


 ――意図的に流出させているという可能性は? 誰が一番得をする?


「……だいたい分かった。夜中に君達が処刑されることはないから、もう寝るといいよ」


 東雲は回収した道具を収めると、男達に魔法をかける。二人はすぐにまぶたを閉じ、仲良く床に倒れ込んだ。


 男達から延びている紐が気になる。東雲は魔石を包んだ端切れを人型に結び、由利から回収していた髪を数本巻きつけた。魔力を含ませながらギルベンの胸の辺りでかざすと、紐が人形に絡みつく。


「……難しいな」


 紐は人型に固定する前に消えてしまった。急ごしらえの品では騙されないらしい。紐が完全に消失したのは、この魔法を解析されないためだろうか。


 今度は薄い紙にジリーの外見を書き込み、胸の上に置く。更に拳大の魔石を選んで、彼の魂について観測できるかぎりの情報を刻んでいった。最後に彼の髪を数本切り魔石と共に紙で包むと、先程と同じように端切れで人型を作った。


「――夢は幻。蝶の夢」


 慎重に魔力を注ぎながらジリーの胸に人型を当てると、紐は震えて朱色に変わった。ゆっくり離すと紐がジリーから人型に移っている。今度は成功したようだ。


 仕上げとして男達の首輪に魔法式を書き加えてから上へ戻り、重い石板で出入り口を塞ぐ。


「終わったかね」


 石板を動かす音を聞きつけ、老爺が話しかけてきた。後ろには短槍を持ったサンジェと、もう一人若い村人がいる。地下の男達を見張るためだった。


「ええ、終わりました。無理を言ってすいません」

「構わんよ。そちらが捕まえた者達だ」

「あの男達は何者なんだ」


 サンジェが老爺の声に被せるように、性急に聞いてきた。


「この村に捕まえておいても大丈夫なのか? 面倒な追手が来たりしないのか」


 これ以上の揉め事は要らないと言外に含ませている。


「彼らはただの盗賊だったよ。幻覚を見せる魔法の品を使って、各地で盗みを働いていたとか。魔法が使えるんじゃないかと警戒してたけど、全部道具のせいだったみたいだね」


 東雲は香炉を出してサンジェに見せた。


「もう壊したから使えないよ。小さい盗みを繰り返して、気が大きくなったのかな? 追手がかかるほどの大物じゃないし、首輪の力を利用して適度に働かせるのもいいんじゃない? 村に滞在させるのが嫌なら、奴隷商人にでも売り飛ばせよ。首輪の外し方なら教えるから」

「いや、そこまでは……」


 サンジェは戸惑いながらも、あっさり信じて黙り込んだ。この地方では犯罪者を奴隷として売り買いしているそうだが、サンジェ自身は犯罪者とはいえ人を売買することに抵抗があるらしい。村人の怪我が大したことなかったのも影響している。


「生かすも殺すも他人の手の内。これほどの罰も、そうあるまい」


 老爺がそう言い、サンジェ達は石板の前で見張りについた。

 東雲は老爺と共に集会場を出て、宿泊先の家へ向かう。道すがら老爺が東雲に語りかけた。


「貴方は随分と『慣れて』おられるようだが」

「ええ、まあ」

「強固たる目的故の行動であることは、こんな田舎の爺にも分かっておる。若い頃は行商をしておったからの。当然、貴方のような若者も見てきたよ。儂は他人の人生に口を挟むことはしないのだが、あえて尋ねよう。その目的の中に、貴方自身の幸せも入っているのかね?」


 東雲は答えなかった。

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