表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウソつき勇者とニセもの聖女  作者: 佐倉 百
最終章 異世界転移

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/137

004 巡る季節の果てに


 麦が黄金色に変わる頃、とても寂しくなる時がある。大切なものを失ってしまったような、後悔と焦り。毎年この季節には気持ちが沈み、よく一人で麦畑の側を歩いていた。


 家族はもう慣れたもので、口数が減って物思いに耽っていると、また季節性の風邪かと私をからかっていた。


 そう、風邪のようなものだ。


 この時期が過ぎれば、また元に戻る。けれど心を蝕むものは年々、重く酷くなっていった。早く思い出せと囁くように。


 麦畑の近くで、麦わらを束ねている幼馴染とすれ違った。周囲の人は私と幼馴染が結婚すると信じているようだったけれど、とてもそんな気にはなれない。幼馴染のことは歳が近い兄弟のように思っていて、夫婦になる未来なんて想像したこともなかった。幼馴染が私のことをどう思っているのか確かめたことはないけれど、たぶん相手もそう感じているはずだ。


 恋愛に興味がないわけじゃない。人並み程度にはあるけれど、その対象が幼馴染ではないというだけだ。では、誰ならいいのかと聞かれても答えられなかった。


 ぼんやりとした影が浮かんで、消える。


 その正体を私は知りたい。


 ただ挨拶を交わして、私は先を急ぐ。バスケットの中に入れた軽食は、畑で働いている家族に作ったものだ。収穫の時期はとにかく忙しくて、手早く食べられるものを作るようにしている。これを届けたら、私も麦の収穫を手伝う予定だ。


 秋の涼しくなった風に、ふわりと温かいものが混ざった。心地よい風に私の足が止まる。考え事をしていたせいだろうか。私の肩に誰かがぶつかってきた。


「ごめん、大丈夫?」


 綺麗な人だった。色素が薄い髪と、藤紫色の瞳が人形のように美しい。背が高くて、若い男の人だ。体格が良く、変わった形の剣を腰に下げている。領主様の新しい護衛だろうか。


「こちらこそ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてて……」


 その人は、じっと私の顔を見ている。話を聞いているというよりも、私が話すことを吟味しているかのようだ。


「あの、私達、どこかで会ったことがある?」

「……君が覚えてないなら、知らないことと同じだろうね」


 私は彼の期待に応えられなかったようだ。諦めの色が浮かんで、視線を逸らされる。


 この顔を知っている。遠い昔に、心の底に沈んでいたものが、意識に浮かんできた。


 一人にしてはいけない。

 ためらうな。一度逃してしまえば、もう捕まえられない。


 私の声で、私が知らないことを叫んでいる。


「待って!」


 私は彼の袖を慌てて掴んだ。

 言わなければ。

 帰ってしまう。


「……東雲?」


 どうして忘れていたのだろう。

 この瞬間まで、この世界では意味を持たなかった音が口からこぼれる。二人の間にしか通じない響きは、確かに彼に届いた。


 驚いて、泣きそうな笑顔が浮かんで、見えなくなった。

 抱きしめられた私の脳裏に、いくつもの過去が浮かぶ。言いたいことが沢山あったはずなのに、嬉しくて声が出ない。


「やっと会えた……」


 彼の呟きが体に沁みる。

 やっと会えた。本当にその通りだ。会えなかった時間の分だけ、愛おしさが募る。


「おいお前、うちの娘に何してる!?」

「お、お父さんっ」


 ここが麦畑の側ということを忘れていた。私達が抱き合っていることは、家族から丸見えだ。鎌を片手に持った父が肩を怒らせて走ってくる。


「あっ。この子のお父さんですか? 娘さんを僕にください!」

「帰れ」


 彼は私を抱き寄せたまま、爽やかな笑顔で言い放った。見上げた横顔の凛々しさに、うっかり心を奪われる。この人はこんなにも魅力的だっただろうか。それとも彼のことが好きなあまり、目が曇っているのだろうか。


 勢いを削がれてうんざりとしている父に、彼は追い討ちをかけることを言った。


「それは後日、改めて家に招待してくれるということですね? なるほど、正式に挨拶をしに来いと」

「いや、何でそうなる!?」

「末長くお願いしますね、お義父さん」

「お、おお、お前にお義父さんと呼ばれるいわれはないぞ!?」


 賑やかになった我が家の麦畑に、作業をしていた人達が集まってくる。楽しそうな彼の声が、皆の興味を引き立てて離さない。そうして彼はいつの間にか、人の輪の中へと馴染んでいくのだろう。


 昔みた光景のように。


 もう秋になっても寂しくない。

 これからは二人で生きていける未来があるから。

最後までお付き合いしていただき、ありがとうございました


連載を初めて一年と一ヶ月、ようやく最終話をお届けすることができました


ブックマークや評価など、目に見える形で続きを待っていてくださった方

見逃していた誤字を教えてくださった方

それから素敵な感想をくださった方

皆様のおかげでモチベーションを保ったまま書けました

一人一人に感謝の言葉を伝えたいところではありますが、画面越しかつ一括で申し上げることをご容赦ください


初投稿ということで数々の粗はありますが、いかがでしたでしょうか?

何かしらの反応をいただけると作者が踊って喜びます


本編はここで終わりますが、よいネタを思いついたら短編とか続編といった形で出していけたらいいなと思っております(その際は活動報告でお知らせします)


長くなりましたが、またどこかで作品を見かけたら読んでやってください


 2021/05/27 佐倉 百



追記

続編「転生した異能者は静かに暮らしたい」始めました

シリーズでまとめましたので、暇つぶしにどうぞ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます!もうずっと2人が最終的にどうなるかがとても気になっていて、由利が東雲の世界に留まるのか、それとも地球に戻ってもう会えなくなるのかなんてことを考えていたので、また一緒…
[一言] 由利さんと東雲さんの心の葛藤にヤキモキしながら 幸せな未来が予感できるラストで良かったです。 モニカとフェリクスも、きっと幸せになってくれそうです。 いつか、4人(とその家族?)が懐かしそう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ