整理
カサンドラと別れ、馴染み深いオルランドの家に着いたのだが、エリアは昼寝をしていたようで、起きるのを外でゆったりと待っていた。
オルランドはどことなく落ち着かない様子で、家の方に視線を飛ばしていた。
「なあ、どうしたんだらしくない。何か言いたげじゃないか。」
こちらから話を振ると、低く唸りながら口元を隠し話をしてきた。
「なあ、あの嬢ちゃん何もんだ。」
彼の疑問は最もだと思いながら、分からん。と手短に返した。
「俺の思い過ごしならいいんだが、変な話を聞いてくれるか。」
オルランドはいつになく真剣な顔で語り、私はそれを目で促した。
「あの撤退戦で俺と嬢ちゃんは船で抜けたじゃないか。あの深い霧とまだ明けてない時刻、先日の雨による増水。
色々な要素を鑑みても危険な任務だったんだ。」
私はそうだな。と相づちをうち、彼の話に耳を傾ける。
「あの時な、何故か進行方向の霧が晴れたり川の流れが不思議と落ち着いてたんだ。
灯火の光がすぐ近くの霧を照らして壁みたいになってたんだ。
あんなの見たことも聞いたこともねぇ。」
亡き父が船頭だったオルランドは、川での船渡しのベテランであり、彼が経験したことがないならやはりエリアの影響があったのかと推測される。
「それ、他の誰かに話したりは。」
「しねーよ。頭おかしくなったって思われるだけだろ。」
彼は器に注いだ麦酒をあおり、続けた。
「あとあれだな。お前が居ないと全く笑わない。あれだけいい女だからこそより怖い。」
「おば様相手にもか。」
「全く笑わん。」
彼は嘘をつけるほど器用ではないと知ってるし、こんな嘘をついたところで利益など無い。
故にそれが事実であると確信するに足りた。
「彼女は何から何まで分からんのが現状だ。お前の婚期くらい分からん。」
軽い冗談で仕切り直すと、彼は笑いながら返した。
「そりゃあ間違いないな。貴族でもない男が30まで未婚なのは確かにおかしい。」
「まあ、私もそろそろお前を笑えないがな。」
一段落して、話を変えた。
「私は今後、アレクシス殿下の命の元で東方を転戦する。活躍次第では領土も頂けるらしい。
厳しい戦いとなるだろうが、その力を貸してくれ。」
彼は大きく頷き、私に語りかけた。
「お前の親父さんとお前が居なきゃ、俺はただの奴隷だぜ。
お前がやるってんなら、俺は従うまでだ。」
無骨な男は語った。
「ただ、あの嬢ちゃんだけはちゃんとお前が見とけ。よく分からんのだけはよく分かるが。
正直、お前に言った通りの能力を持ってんなら、それは人の手に余る。」
私は静かに頷いた。
「ま、とりあえず今は東方の遠征だ。私と違って本物の戦の天才と武功の競争になる。
やれるだけやって領土取り返してやろうぜ。」