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忠告  作者: 紳士
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楽園

都アルセイユに帰還し、エリアを一時オルランドの実家に預けてから私は軍上層部から詰問を受けた。


「貴官は何故敵から逃走した?」

「はっ。敵勢二万五千に城塞が包囲され半月、兵糧も底を尽き、我が城塞は既に陥落していたと言えます。

陥落した砦と心中するより、敵陣を突破して本国への侵攻経路を断ち切る事こそが国家のためであると判断いたしました。」


「敵の数に恐れを為して逃げただけではないのか?」

「敵勢の侵攻を防ぐことは、国家を守る為の至上命題と判断いたしました。また、我が隊八百余名は勇敢に戦い、秘策を以て敵勢4四千以上の打撃を与えることに成功しました。」


「秘策か、どの様な策を以て相対したのだ?」

「本隊が本国への退路への強襲と侵略経路である橋の破壊を行い、遠回りになるもうひとつの街道に敵勢を集中させ、川の上流に作っておいた堰を切り、そちらからの侵略を断ち切ると共に、敵勢三千余りを飲み込んだとの報せがあります。」



ふぅ、と溜め息をつく。

見捨てられたのは聞いていたが、まさか初っぱなから臆病風に吹かれた扱いを受けたのは些かショックだった。


上層部からは軟禁も解かれ、自由の身になったところでオルランドの生家に向かう。


「御免ください。」


少し寂れた木造の家屋に伺いをたてると、少ししてから白髪混じりの婦人が扉を開いた。


「あら、当主様。このようなみずほらしい家にわざわざ足をお運びにならずとも、すぐ愚息を連れて参ります。」

彼女は私の顔を見るなり、破顔一笑して私の手を取った。

レオ「レオでいいよおば様。それにオルランドは優秀だよ。勉強以外は。」


そういっておどけて見せるとオルランドの母は泣きそうに笑いながら。


「今回の戦は酷かったんだろう?息子から聞いたよ。良く生きて帰ってきたよ二人とも。貴方達は英雄さね。」


おば様は私が子供の頃から面倒を見てくれた人であり、私にとっても母の様な人だった。

当時は美人でならしていたが、年には勝てず、頬は痩けて指も細り、目もとも窪んでしまってはいるが、あの頃と変わらない優しい笑顔で私の手を握っている。


「今日は夕飯に私ともう一人加わってもいいかな。オルランドが連れてきたあの子だけど。」

自分で言いながら少し照れ臭さを感じ、鼻の頭に手を当てた。

「勿論よ。貴方も隅に置けないわね。とても愛らしい素敵な娘さんだわ。どこの娘さん?」

老婆とは思えないキラキラとした瞳で私に問いかける。

「秘密さ。おっと、オルランドを呼んでくれないか?どうしても済ませたい事があるんだ。」


おば様は最後ににこっと笑い、オルランドを呼びに行った。

奥から出てきたオルランドは眠そうに目を擦り、大きく伸びをして歩いてきた。


「おはようオルランド。いい朝だぜ。」

死地を共に乗り越えた友に、皮肉な笑顔を投げ掛ける。

「ああ、太陽が中天にある素敵な朝だな全く。」


互いに冗談を交わしながら、予見しているであろう本題に入る。


「弔いをしてやろう。俺達の友が迷わず平和な楽園(エリシオン)に行けるように。」

彼らが居なければ、死んでたのは私だったかもしれない。一寸先さえ見えない中、勇敢に駆け抜け力尽きた部下を偲ぶ。

「分かってる。皆には既に伝えてある。宵の明星が上がる前にはあの丘の上で。とな。」


彼は頭を掻きながら、いたたまれないといった表情で返した。


「二人だけでお話はずるいです。私も交ぜてくださいよ。」


エリアが裏から駆け寄ってきた。亜麻色の髪が揺らめき、どことなく優しい香りが漂った。


死線を越えて多くを失った私であるが、変わらぬ日常に一つアクセントが加わったこの日、私は初めて女性にプレゼントを贈ることになった。

登場人物紹介

おば様

48才

オルランドの母であり、レオの育ての親。レオの父が地方領主であったため、レオが人質としてとられていた頃からずっと面倒を見ていた。

オルランドが15の頃に旦那を戦争で亡くした苦労人。

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