9話 勇者シャルル・ウィンド
「まったくもー欲張らないで帰りますよシンジ」
頭蓋骨を抱きしめながら歩く幼女天使。
ちょっとユエさん頭返してよ。
「なんですかその顔は……不満があるならいってごらんなさいな」
彼女の腕の中で不満そうな顔をしたので体の方に蹴りを入れられた。
体は離れ離れなのに感覚は繋がってるって迷惑な話だなぁ。
「顔はまだ返しません! だって、元に戻したらまた迷惑な作戦考えるでしょシンジ! 街に着いたら元に戻しますからそれまでここにホールドです!」
……ええー。
でも、なんかこれ、事案じゃないか?
見た目幼女の胸あたりに俺の顔をくっ付けるなんて。
……言ったらさらに酷い目に合いそうだな、うん、大人しくしてよう。
そんなこんなで、街に向かって歩く俺達。
「もう、モンスターなんてでませんからね! いやー10万なにに使いましょうか!」
おい、フラグやめろ。
そんなこと言ったらモンスターが……
「ギャシャアアア!!」
ほら、出てきた。
っておいいい!!!
「「ぎゃー!!!!」」
二人揃って変な声を出して走りだす。
「ユエ! 矢を放て!」
「シンジバカァ! 無理無理だって! あいつ足早すぎ!」
エリマキトカゲのようなモンスターは俺達をドスドスと追ってくる。
ユエは半泣きになってヒィヒィ言って俺に言ってくる。
戦力であるユエがこんなんなら戦えるわけがねぇ!
「シンジ! 前前! 誰か人がいますよ!」
目の前に、金髪の美人な女が剣を担いで歩いてた。
……この前のあいつか?
でもなー、怖くて話しかけたくないなー。
いやでも、危険だし教えてやるか
「おーい! 逃げろ! あんた!」
俺の声に反応した女はちらりとこっちを向き、怖い顔をする。
「……見つけた、俺の敵! ぶっ殺す!」
そして、俺たちに向かって切りかかってきた。
「「ぎゃー!!!! なんでー!?」」
双方から攻撃されかける俺達。
困った俺達はその場に座って金髪の女に土下座した。
「「なんだか分からないけどごめんなさーい!」」
すると、急に座り込んだ俺たちにつまづいて、モンスターは宙に浮いた。
そして、斬りかかってきた女剣士に切り刻まれた。
「……ちっ、外した。お前らこんなのも倒せないのかよ、なんでじゃあ俺はこいつらに負けたんだ!」
俺達に剣を突きつけて、彼女は俺達に詰め寄ってくる。
手を合わせて、小さな子犬のようにぷるぷる震える俺とユエ。
「おっ、俺達なんにもしてないぞ!」
「そっそうですよ! 私達の激弱なクソザコな骨と一般ピーポーですよ!」
怖すぎて、思わず自分を格下げする天使さん。
「嘘をつくなあああああ! 俺は忘れんぞ! てめぇら二人俺の事この姿にしやがって! 魔王軍の幹部がせこい真似しやがってぶっ殺してやる!」
俺達の話を聞き入れず、キレる彼女。
そんな彼女は気になる言葉を言いながら俺達にとっかかる。
……俺? 魔王軍?
……もしかして、彼女……いや、彼は。
いやでも、そんなわけあるか?
でも、少し気になったのでユエにこそこそっと聞いてみた。
「……ユエ、この人もしかして勇者なんじゃないか」
するとユエは俺の事を呆れた顔で見てきた。
「馬鹿なんですかああああ!? この人が勇者なわけないでしょ! こんな目にあったせいで脳みそ蕩けたんですか!? あっ、元々ないんでした!」
そして、ナチュラルに煽ってくる。
この野郎、後でお前のご飯に魔物の肉を混ぜてやる。
「……シンジ、勇者ってのはこんな馬鹿みたいな格好にならないでかっこよく敵をぶっ倒すもんですよ! それがなんですか! 一般ピーポーである私達に剣を降るって、変な難癖つけて怒るなんて、勇者の風上にもおけません! こんなのただの頭のおかしな一般人です。顔が可愛いからって調子乗ってるただのキチ……」
そう言いかけたユエに剣が吹っ飛んできた。
笑顔でペラペラ喋っていたユエは強ばった顔で固まり、俺の方向を壊れかけのからくり人形みたいに、ゆっくり振り向いてくる。
「えっ、もしかして、本当に……」
俺の言葉に彼女は赤いオーラを燃やしながら答えてきた。
「そうだよ! 俺が勇者、シャルル・ウィンドだ!」