23話 宣戦布告
「すっげぇ、なんだこれ!」
大きな和風の建物、ヤクザとかが居座ってそうな日本の城みたいな感じの。
「……あばばば、怖くなってきた。やっぱ私……」
「ここで逃げてどうするんですかミキ! 今逃げたって何も変わりませんよ!」
画面蒼白なミキにユエはそう言って彼女の手を引いた。
「嫌だあああああ! やっぱ怖いいい!!」
「ちょっとぉ! さっきまで威勢はどこに行きましたか!?」
ミキは引かれた手にしがみついて泣き始めた。
ユエは頑張って引き剥がそうとしている。
そんな彼女の腕にもう一人しがみついた。
「……ユエ、僕も怖い! なんか、やばいよここ!」
「ええっ!? シャルルまで!? シンジー! どうにかしてくださいよー!」
困ったユエは俺に助けを求めてきた。
……おかしいぞ、ミキはともかくシャルルがこんな風になるなんて思えない。
それになんだ、この禍々しい雰囲気は……
周りを見渡すと、なにか光るものが見えた。
それに気づくと俺に向かって何かが飛んできた。
矢だ。しまった、もう敵は俺達に気づいてきたのか!
ヒュンと音を立てて俺の顔の横を通り過ぎた矢。
「ユエ! 敵はもう気づいてる! この二人が可笑しくなったのも敵の術だ!」
「嘘ぉ!? ちょっとお二人さん戦いですよ! 離れてしゃんとしなさい!」
「「びぇええええん! 虐めないで天使様!」」
「シンジ! 無理です! この二人私にすがってきます! 私の神聖なオーラでのせいで全然離れないんですが!?」
泣きつく二人を彼女は腕を振って弾き飛ばそうとしている。
「……ギルドの結界に引っかかるものがいるから見に来てみればこんな雑魚たちだなんて」
そんな時にギルドのドアが開いて、沢山の人が出てきた。その大軍を率いるのは性格が悪そうな美しい女だった。
「あー! お前この前の!」
その女は、この前ぼったくり武器屋のハゲを殺した怖い女だった。
「……あら、弱き冒険者、貴方達このギルドに敵意を持ってやってきたの? このギルドはね、特殊な結界が貼ってあって敵意を持って入ってきた者は泣きじゃくるようになってるの」
俺が感じたオーラはそれか。
でもなんでだ、敵意を持ってるはずなのに俺とミキはなんともないぞ?
「なんともない二人は付き添いって感じかしら。泣きじゃくってる方はと……」
女は舐めるようにユエの腕にしがみついてる二人を見た。すると、ミキを見つめた瞬間ニヤリと悪い顔をした。
「あらぁ? そんな所に私の可愛い後輩がいるわぁ? ミキちゃん貴方どうしてそこで泣いてるのかしら? うふふふ」
「ひぎぃっ!」
ミキはその声に反応して体をユエに隠す。
「……まさか、裏切るわけじゃないわよね? しばらく姿が見えなかったけど、貴方逃げてたわけじゃないわよね?」
「そっ、それは……」
やばい。このままだとミキが壊れる。
この女、人の心の壊し方を分かってるやつだ!
弱い立場の人間の天敵か……なら、俺の倒すべき敵だ!
「もう一度聞くわ、貴方はここから逃げたのかしら?」
「わっ、私は……ただ仕事を……」
恐怖に負けて、本当の事を隠そうとしている彼女。
ミキ、お前は自分に嘘をついてはいけない!
負けるな! そこで負けたらお前はまた最悪な人生が待ってるんだぞ! そんなの絶対駄目だ!
「ミキ! お前の気持ちはそんなんなのか! 敵の術で変わっちまうものなのか! お前の憎しみと苦しみは魔法で忘れちまうものなのか!」
俺の言葉にミキはピクリとする。
「……何よあんた、口挟まないでくれる? これは私とあの子の問題なの」
「いや、関係あるね! 彼女は俺達と旅をしてきた友達だ! こいつは全てが嫌で投げ出した! だがそれにケジメをつけるためここに来た!」
「シンジ!? 何言って!」
「ふーん、ミキそうなんだ。へーぇ?」
こわい顔を向ける彼女の先輩、不安そうな顔をする彼女に向けて俺はこう言った。
「ミキ。お前はこれでいいのか。またこの最低最悪の先輩の下で家畜として飼われるなんて。お前の幸せをでばなしていいのか? 自由を手放していいのか?」
「そっそんなわけありませーーん!」
涙目になっていたミキは大きな声を上げて立ち上がった。
「……私は、嫌で嫌でしょうがなかった。虐められるのも苦しめられるのも孤独なのも。魔法で弱気になるメンタルなのは仕方ない。けれど! この憎しみは! そう簡単には消えないんだ! 先輩! お前に印籠を受け渡す!」
彼女は先輩に指をさして大きな声で宣戦布告した。
「つまり! お前を殴ってこのギルドを辞めてやるってことさ!」