レベル88 融合 《エンブレム・ヘラウィザード》
“焔王妃” シル・ガイア ―――
姿を見るのはクルスオード帝国以来、しかしあの時醸し出ていたオーラは、決してここまで強力なモノではなかったはずだ・・・
しかし今のシル・ガイアから出る強力なオーラは、あの時よりも断然強いものであった。
さらに姿も悪魔の姿にかなり近づいている・・・
『・・・今日はベルディアくんいないんだね。ちょっとつまらないかも。』
「随分となめられたものだね・・・こっちには蒼騎士までいるのに。」
『あら・・・ではあなた達だけで勝てるっていうの?言っとくけど私、かなり強くなったんだけど。』
「ッ・・・」
ミオンの言葉が詰まってしまうのは、やはりこの前よりも強力になったそのオーラからだろうか。
『まぁいいや、このチカラを試すいい機会かもしれないからね。』
「?・・・」
次の瞬間、シル・ガイアの胸部が紫色の光を放って輝き出した。何か覚醒状態にでもなるのだろうか。
しかしその紫色の光が、段々ととあるカタチを映し出していくのだ。
刻章である。
「まずいわ・・・何かと融合したのかしら・・・!?」
リオナから漏れたこの言葉で、ミオンはとある事実に行きついた。
最悪だ。
もしそれが本当のことだとしたら。
クルスオードの時よりも断然強力となったそのパワー・・・当然だ。
あの時よりもはるかに強大なそのオーラ・・・そんなの当たり前だ。
なんせ今のシル・ガイアは、
――― あの芽衣さんと、融合してしまったのだから
ついに二人の“松嶋芽衣”が、“焔王妃”になってしまったのだ ―――
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
恐れていたことが、ついに起こってしまった。
二人の松嶋芽衣が、堕ちてしまったのだから。
「(まずい!でも言い伝えじゃ三人の獣騎士も召喚されるはず・・・!レイくんはともかく、フィルさんはどこなの・・!?)」
ミオンは必死にフィルの姿を探すが、その姿はどこにもない。
ここにいるのは蒼騎士こと、このシェリーだけ ―――
「・・・大丈夫よ、言い伝えは本当だわ。」
横でリオナがそうつぶやく。
「あの言い伝えは本当よ。今はまだこちらの召喚が遅れているだけ、すぐにくるわ。現にシェリーちゃんはまだ騎士覚醒をしていないでしょ?」
「つまりそれって・・・」
「えぇ、耐久戦よ。」
『・・・あら、誰かと思えば“煉獄の魔女”さんまでいたのね・・・気が付かなかったよ。』
「・・・そんな昔の異名、知ってる方が驚きなのだけれど。」
“煉獄の魔女”とはリオナのかつての異名である。
かつてのリオナは炎の賢者であり、とある島に住み着いた凶悪なモンスターたちを島ごと焼き尽くしてしまったことから着いたこの名だ。これはまだアリナが生まれる前のことであるが。
『当然よ。ちょっと興味深い人は覚えるのが趣味なの。ちょっとは楽しめそうね・・・』
「・・・みんな、そろそろ準備よ。私達の目的は“時間稼ぎ”、出来るかしら?」
「「「はい(うん)!!」」」
「・・・そしてシェリーちゃん。」
「?」
「あなたは決して倒れちゃいけないわ。あなたが倒れたら終わりよ。」
「ッ・・・!!!頑張る・・・!!」ググッ
『・・・じゃあ始めようかしら?といっても次に残るのは一人だけだけどね。』
するとシル・ガイア、前に掲げた左手に魔力を現出させ、その魔力をさらに肥大化させる。
禍々しい漆黒の魔力がうなりを上げて膨張していく・・・
万物を凍らせる闇の氷結、
――― 魔氷波 ―――
『ふふッ・・全員凍りなさいッ!』
!!!!!!
そして次の瞬間、シェリーの視界は闇の氷たちで埋め尽くされた。
『ふふッ、煉獄の魔女って言ってもこれは溶かせないのね・・』
シル・ガイアは段々とシェリーと距離を詰めていく・・・
「ッッ・・・!!!」
シル・ガイアが近づくにつれ、シェリーの身体は震えが止まらない。
先程リオナに言われた、『あなたが倒れたら終わりよ』。それは文字通りに意味で、本当の事なのだ。
リオナやミオン、アリナが戦闘不能になってもまだ大丈夫なのだが、シェリーは蒼騎士である。
3騎士の一人でも欠けると、もう歯が立たないのだ。
しかし、これはその状態まで一歩手前まで来ているのだ。
『ふふッ・・・さぁシェリーちゃん、私と一緒に来てもらおうかな?』
「ッ!・・い、いやだッ!!」
『あらどうして?今までずっと旅してきたじゃない。』
「・・えッ?」
「私は松嶋芽衣、あなたが“芽衣お姉ちゃん”って呼ぶその人なんだよ?」
「・・・そうなの?」
違う、今のシル・ガイアにあの芽衣の意識は飲み込まれている。
『そうよ、だから一緒に行きましょ。楽しいわよ・・・!!!』
「ッ・・・!!」
「分かったよ・・・・・!!!」
シェリーは、今のシル・ガイアがメンバーだった芽衣とクルスオードのシル・ガイアの融合体であることを知っている。しかしそれが仇となってしまった。
シェリーは仲間と認識すると、ガードを緩めてしまう習性がある。融合体だと知っていたので、今のシル・ガイアをあの“芽衣お姉ちゃん”と認識してしまったのだ。
“芽衣お姉ちゃん”は、もういないというのに。
シェリーもゆっくりと、しかし確かにシル・ガイアの居る方へ。
『ふふッ、いいわよシェリーちゃん・・・こっちに来てぇ・・・!!!!』
シル・ガイア、後ろに隠した右手に暗黒魔法のスペルを召喚している ――
「うんッ・・・お姉ちゃんッ・・・!!!」
『(来なさいッ・・もっと来なさいッ!その身を摘んであげる・・・!!!!)』
そして二人の距離が1メートルを切った、
その瞬間 ――
「 輝空閃ッ!!! 」
『ッ!?』
シェリー、シル・ガイアの胸中に光矢を放ったのだ。
『ッ!!・・・よくもやってくれたね・・・・!!!』
「ふんッ!あんたがお姉ちゃんな訳ないじゃんッ!!お姉ちゃんを返して!!」
結果的に言うと、見事なフェイントである。
シェリーは純粋無垢な性格ゆえに、他人にウソがあまりつけない。その性質、芽衣を取り込んだシル・ガイアは当然認知済み。
それを利用した口説きを、シェリーが逆手に取ったのだ。
といっても、最初からそうしようと思っていたわけではない。シェリーは途中まで本当に芽衣だと思っていたのだ。
しかし近づくにつれて見えてきたのは、段々と狂気をあらわにしてくるシル・ガイアのその表情だ。
自分が知る芽衣は、そんな表情を見せていなかった。
『・・・甘く見てたわあなたのこと、口調もそれなりに似せたんだけどね。』
「もうだまされないよッ!」
『・・・でも、ここにはあなたと私しかいないわ。つまりあなたと私の一騎打ちってわけ。』
「うぅッ・・・!!」
『他のみんなは私が全て氷漬けにしたわ。もう二度と動かないただの ―――
「残念だったわね。」
『・・・?』
そして次の瞬間には、氷漬けで一臂たりとも動かなかったリオナが、氷を砕いてシェリーの横に並んでいるのだ。
「私、この攻撃結構受けてるのよね。だから対策なんていくらでもあるわ。」
『・・・』
「そして、他人のそれを解除する方法も、ね。」
そしてシル・ガイアの前には、氷漬けにしたはずの3人が武器を構えてこちらを伺っている。
『・・・少しは倒しがいがありそうね。いいわ、相手してあげる。』
『あなたたちの最期を、残酷な形で見届けてあげるわ・・・フフフッ』
そして4人は、動き出した。