レベル86 後継者 《カイ=ベルディア》
レイと芽衣が抜け、そして一時的だが新たにカイが参入したこの新体制パーティーは、今現在は神殿への架け橋の前に到着した。
移動魔法で一瞬、数百キロ離れた場所にワープする現象に一時は驚いていたもののすぐに状況と起こったことを理解するカイ。
何といってもギアボロス討伐に不可欠な存在である、このような簡単な現象には追い付いて欲しい。
「今回は、いないね・・・」
“いない”というのはあの役人の姿のこと。すなわちギアボロスを指す。
初回時はあちらが待ち構えるという状況での対面となったが、二回目となる今回は姿を現していない。
「おかしいですね・・・悪魔の匂いはプンプンするのですが。」
悪魔種の身体には“悪香”という獣臭と汚物臭を足して二で割ったような悪臭が染みついている。よって近くに悪魔がいると判断する基準はこの匂いで判断が出来る。紛らわしい点なのは、“悪魔の残り香”と“悪香”は全くの別物だということ。残り香の方は匂いではなくその気配、悪香は気配ではなく匂いだ。
「どこかに隠れているのかもよ・・・?」
そう言われて辺りを見渡すものの、視界が大きく開けているこの平野に物陰どころか死角になり得るものも見当たらない。
潜んでいるという選択肢は消えるだろう。
「・・・気づかないのか?」
と言ったのは未来人カイ=ベルディア、未来のレイとミオンの子供である。
「え?気づくって何に?」
「その悪魔の居場所d・・・ッ、やべぇなこっち来てやがる・・・!!」
3人はカイの言葉で周囲を見渡すが、3人の眼にあのギアボロスの姿は映っていない。
「ど、どこから来てるの・・ ―――
「母さんストップッ・・!!俺の合図で右にダッシュしてくれ・・・!」
ミオンはカイの言う通りに息を殺してその場に静止、カイの合図を待つ態勢に。
しかしミオンは気がかりだった。姿も見えない、音も聞こえない・・・そんな場所の何処からギアボロスが接近してきているのか?
「そこの小さい人とキューピットちゃんも俺の合図で一斉に散らばるんだ・・・!!」
(※『そこの小さい人』・・・アリナ 『キューピットちゃん』・・・シェリー)
小さいと言われて本来は違いますよッ!!って反論するアリナだが、今はカイの指示通りに合図待ち態勢に。当然だ。
耳をすませば簡単に耳に入ってくるのだ、
段々とこちらに迫りくる、その重々しい足音が。
そして、ついに合図が出された。
「ダッシュ!!」
「「「」」」ババッ
一歩離れてみていたら、今の3人の行動は急にアクションを始めた意味不明なものに見える・・・?
いや違う、これは回避行動である。
『ッッ』
「姿を現しな。」
カイは、何もない前方に斬撃を放った。
「 『竜閃炎・改』 」
レイが放つ斬撃のもの以上の業火を纏い、紅く輝く一閃は前方へ直射されたのだが
何かに衝突したのか、その一閃はとある箇所で途切れてしまう。
しかし斬撃が衝突した場所をよく見ていくと、先程まで何もなかったその場所から悪魔の身体のような影が段々と見え始めてくる。
「あれ・・・?」
『厄介ですね・・・まさか古代魔法でも姿がバレてしまうとは。』
そして数十秒後には、その全体像がはっきりと見えるように。
再び、ギアボロスである。
~~~~~
「え!?なんで分かったの!?」
3人が驚くのも無理はない。なぜならカイのこの行為は、『古代魔法を見破った』と同意であるからだ。
説明しよう。
ギアボロスは自分の姿を透明化して、何も気づかない3人に不意打ち襲撃を図っていたのだ。しかしそのギミックが通用しない者が現れる、それがカイだった。
カイはギアボロスに掛かっていた古代魔法『プラニイェト』の効果を見破り、接近するタイミングでカウンターを狙っていた。だからミオンやアリナ、シェリーに合図で動くようにと小声で言っていたのだ。
カイが古代魔法の効果を見破れたのは確かに驚きだ。しかしそれ以上に驚く点がある。
「厄介なのはなぜか古代魔法が使えるてめぇの方じゃねえか?」
使える者などいないと認識されている古代魔法。今まではなぜかそれを使えるチートプレイヤー・松嶋芽衣(人間体)が何度か使っているせいで忘れがちだが、本来この古代魔法は使えることの方が異常なのである。
『ほう・・・ではなぜだと思いますか?私がこの古代魔法を使えるのは。』
「そんなのどーでもいいワッ」
「・・・とにかくお前をぶっ飛ばしたら終了っつーことだよなぁ・・・」
カイは腰の剣をゆっくりと抜き、紅く輝く宝剣を正面に構える。
『・・・どうやら私と一対一で戦り合う気の様ですねぇ・・・随分と舐められたものだ。』
『八つ裂きにしてあげましょう・・・特にあなたのそのフザけた態度は癪に障る。』
「へぇ、じゃあ早くやろーぜ?日が暮れちまうといけねーし。」
『フザけたことをッ!!!!』
ギアボロス、右手に召喚した闇のスペルをカイの方へ撃ち出した。
『 「デスヴェルム」!! 』
が、
「 『ケミセリド』 」
『ッ!?』
ギアボロスがスペルを撃ち出した瞬間に透明の光壁が形成、カイの辺りを包み込む。
相手からの一切の呪文攻撃を跳ね返す魔法『ケミセリド』である。
「ほいよ」
『ッ』
そして呪文は跳ね返される。
!!!!!!!!!!
『クッ・・!!ならッ・・!!』
そしてギアボロス、今度は大きく息を吸い込むと次の瞬間、その吸い溜めた空気を一気に吐き出した。
吐き出したブレスは炎を纏っている、4人の前に強大な火炎放射として現出した。
しかしこれも、
「氷爆風」
カイには通用しない。
さらには3人の前にも氷の大壁を召喚することで、3人への流れ攻撃にも対応している。
だが瞬時にこれだけの氷壁を召喚するとなると、どうしても召喚に時間がかかるものだが・・・
ギアボロスは火炎放射を吐き出した次には瞬間移動している、実際3人の目の前に悪魔の姿はない。
しかしこれも・・・
「 『光壁』 」
カイにはなぜかお見通しである。
カイが召喚したバリアはカイの右肩斜め上。そして次の瞬間、そのバリアに数多の気功弾が衝突してはその場に消える。
「・・・ってか大人しくしとけよ。」ボソッ
ッ ―――
『ウグッ・・・!!!』
カイは御返しの如く、ギアボロスに気功弾をお見舞い。
召喚した弾丸は光速で右手を貫いてギアボロスの攻撃を強制終了、ギアボロスは地に降りて右手を抑えて止血を始める。
そんなギアボロスに、カイは ―――
「ハハハッ、次はさっきの『プラニイェト』で姿くらましてあの3人を人質にとって俺を脅迫。一方的な展開を脅しという方法で切り抜けたいってワケか。」
『なにッ・・・?』
「てめぇの考えは手に取るように分かるぜ。お前の行動パターンと言い使う技と言い、その全てがわかっちまうよ。」
『はぁ・・・!!?』
これは嘘ではない。列記としたカイのスキルである。
相手の行動を表情から予測し、さらにその行動に対する対策を瞬時に導き出すスキル。このスキルをカイが持っていることは、ミオンたちが持っていたもう一つの懸念を払拭する事態でもあった。
レイにはありカイにはないもの、数あるうちで確実にないと断言できるのがある。それは『ルート』スキルである。
しかしこのカイのスキルはレイの『ルート』以上の効果を持っているようだ。『ルート』はあくまで予測が限度であった、しかしそれに対して対策がすぐに立てられたのは単純にレイの字頭が良かったからである。
しかしカイが持つスキルはその部分までもスキルが全面カバーしてくれる安全保証付きである。さらにはレイの時に発生した、ギアボロスにスキル不発をやられることもない。
かなり優位な位置にあるこのスキル、名を『フィールド』。
「・・・まぁ、てめぇはどうやらゲームでいうところの“中ボス”ってヤツだろ?さっさと片付けてやるよ。」
『お前ッ・・・なぜお前のことが分からない・・・!?』
「・・フッ」
ギアボロスは気づいていないようだ、カイは未来から召喚された者であることを。
初回の戦いではレイやアリナなど、ほぼ全メンバーの能力や攻撃パターン、技の種類が手に取るように分かっていたギアボロス。レイたちがあの時簡単にやられたのは、一途にこの能力のお陰であろう。
しかしその能力が、目の前のカイだけには全く効かないのだ。理由は簡単、カイは本来この時空には存在しえない存在だからである。
ある意味簡単な理由に、ギアボロスはまだたどり着けない。
「・・・ま、分からねぇなら分かんねーままでいいけどな。」
『ッ・・・!!!』
まだ追い詰めたとまでは行かないが、形勢はこちらへかなり傾いていると言っていい。しかしだからと言って呑気にしてもいられない。
ギアボロスはまだ気づいていない、一見優位に見えるカイが持つ致命的な弱点に。むしろそれが知れれば、カイは一気に不利な状況へ落ちてしまう。
結構な強敵にここまで強気を見せているのは、その弱点を気づかれないようにするためなのかもしれない。
「3分で終わらせてやる。さぁ来いよデカブツ。」
次の瞬間、ギアボロスは進撃を始めた ―――
次回投稿日;7月10日