レベル85 救世主 《カイ=ベルディア》
『俺はカイ=ベルディア、竜人族の冒険者だ。』
目の前の青年は確かにこう言っていた。
『ベルディア』の名を名乗り、良く見てみるとレイと顔つきがかなり似ている。今の態度や言動、全てを含めても『レイと似ている』という事実は覆らない。
「・・・成功のようね。」
アリナの母・リオナがそうつぶやく。
しかし念には念を入れなければならない、一応彼の父親の名を確かめたい。
「・・・あなたの父親の名を、聞かせてくれないかしら?」
「親父?なんで親父の名前まで言わなきゃいけねぇんだよ?」
自分の父親の名を聞かせろというのは、言う側はただの事実確認のつもりだが、言われる側は少しの恐怖である。それが原因で自分の生活に支障をきたすかもしれないという思考が働くからだ。
警戒心が強まったカイ相手に、リオナは聞き方を変えることに。
「・・・分かったわ。じゃあ今から私がその名前を当てるから、もし合ってたら首を縦に振ってくれるかしら?」
「・・・それもなんで?」
「別に私は事実確認がしたいだけなの。親の名が知られてても、私たちはあなたに害を与えない、約束するわ。」
カイは少しの間、その場に黙り込んで何かを考えているようだ。リオナ含める4人を見渡す・・・
一度ミオンの前で視線がしばらく固定されていたが、カイは別に何かを答えるわけでもなく、
その後には再び視線を他に移した。
「・・・返答は出来るかしら?」
リオナが聞く。
「・・・分かった、あんたの言う通りにする。ただし回数は一回だけだ。一回が間違ってたら、俺は何にも応じない。」
カイ青年はこのように考えている。
一回の名指しが合っていたならば、それは本当に自分のことを知っていたことになる。というのも、元々カイはリオナに召喚された身である。父親の名を知っていたうえで自分を召喚したのならば、その父親に何かが起こっているということになるだろう。
でももしその一回の名指しが違っていたならば、そんな考えは全て崩れ去る。そして新たな可能性として、自分は何かの陰謀に嵌められようとしているという意識が芽生える。
それはなぜか?
裏が無い純正な計画があったとして自分がそれに召集された時、一次間違った情報を教えられたら誰もが一度疑いを抱くだろう。自分は本当にこの計画に必要なのか、と。
それが突如召喚された場であればなおさらである。
カイは青年ながら、レイと同じくらいに頭が切れている。
「分かったわ。もし間違ってたらあなたを元の世界に返すわ。」
「あぁ、それで頼む。」
「・・・じゃあ、行くわよ。あなたの父親の名は・・・ ――――
『レイ=ベルディア』
――― でしょ?」
青年は、リオナの名指し発言に少しの動揺を見せたがすぐに戻り、そして答えを言い渡す。
「・・・正解だ。俺の父親の名はレイ=ベルディア。・・・じゃあ本当に俺が必要だということか。」
自分が必要だとここで認識できたのは、先程の考えがあったからこそ。普通なら一発で自分の実の親の名前を当てられたら『なぜ分かる?』と動揺するのが通常だ。
このような面を見ても、この青年がレイの息子だということに納得が出来る。
物分かりが良いことを含めればレイ以上かもしれない。
「えぇ、では事情を説明するわ。あなたを呼び出したのはほかでもない、あなたの父親についてよ。」
そこからリオナは、レイの息子カイに今までの経緯と事情を説明し、そして協力を要請した。
カイはレイが古代魔法にやられていることをすんなりと受け入れ、そしてその解除に協力することを約束した。
その時のカイはまるで来るときが来たかのような、一種の決断をする表情をあらわにしていた。
「・・・だいたい分かった。こんときの親父はやべぇ状態だってことも聞いてた話だしな。」
「え?カイくん知ってるの?」
ミオンがそう尋ねる。カイはその方を向く。
普通ならその質問に対する返答が返ってくるはずだが、返ってきたものは返事ではなくこんな質問であった。
「・・・あんたの名前、教えてくれるか?」
カイはミオンにそう言った。ミオンはこの返しに少し戸惑うが、言われた通り自分の名前をカイに教える。
「私はミオン=プルムだよ。私の名前を訊くなんてどうしたの?」
カイはミオンの名を聞くと、最初は驚いた表情を見せたが次にはマジかマジかと笑い出し、最後にはなるほどなるほどと勝手に納得されてしまう。
ミオンには?マークが浮かびっぱなしだが、カイはそんなミオンに先程の質問に対する答えを提示する。
「・・さっきの話、親父がこんときにこんな状態になってるって聞いたのは、あんたからなんだが?(笑)」
この返答に、とある一人以外は意味が分かったらしい。一方はへぇ~!と驚き、とある一方はミオンに良かったですね!と励ましを送る。
しかしそのとある一人、ミオンだけは何を言っているのかがさっぱり理解できないらしい。
「え?わたし?・・・なんで?私君に会ったことないけど?あとレイくんがこんな風になっちゃうとも今までは知らなかったよ!?」
「へぇ、こんときは『レイくん』って呼んでたのか・・・めちゃめちゃ違和感あるんだけどww」
「え?え?どういうこと?」
またさらに分からなくなるミオンに、カイは笑いが止まらないようだ。
先程から口を押えて笑いをこらえているのが分かる、身体なんてこらえているせいでピクピク震えっぱなしだ。
「・・・え?わたしそんなに可笑しいこと言った?」
「お姉さま・・・」
「・・・」
「あなた・・・分からないふりでもしているのかしら?私でも分かったのだけれど。」
「え?」
・・・え、マジで分からないの?
「wwwッ・・・・ㇷゥ、じゃあ教えてあげるよ、ミオンさん?(笑)」
笑いが収まり一呼吸したカイは、何がどうなのか分からないミオンに教えてあげるのだ。
「いいか?俺は親父がこの時期にやべぇ状態になってるんだよねって聞いたんだ。俺の母親である、あんたにな。ハハッ・・」
カイの母親の名はミオン=ベルディア、つまりはそう言うことだ。
そしてようやく意味が分かった瞬間、
「~~~~!!!!//////」
「ハハハ!!顔赤くなってやんの!!ホント変わんねぇな~!!」
え、変わんない?
つまり私は自分の子供の前でも青春みたいなことやって照れてるってことッ!?/////
今のこの子の歳はだいたい14か5くらいだよね?つまり結構私はいい年の頃じゃん!そんな年でまだ今みたいに照れてるってこと・・・!!??///
と思ったらしい、ミオンの顔はさらに赤く染まる。
「ハハハ!また赤くなった!」
「(レイさんの息子ですが、レイさん以上に攻撃が強いですね・・・)」
~~~~~
さて、双方のほとぼりが冷めた頃にようやく話しは進み始めた。
「あなたを召喚したのは、今は動けないあなたの父親の代わりに、古代魔法を唱えた術者を討伐して欲しいの。これがあたなの任務よ。」
「なるほど・・・」
「もし失敗すれば、元の世界にあなたの父親はいなくなるわ、勿論母親もね。母親を見れるのが思春期時代の今回で最後になってしまうわ。」
「・・・///」
「それは困る・・・なんだかんだであっちの生活は楽しいしな・・・」
「あらそうなの?良かったじゃない、母親さん?」
「~~~!!///」
「ちょお母さん!もうお姉さまの羞恥キャパ超えそうだから勘弁してあげてよ!!」
「ふふッ、うらやましいことね。・・・でも事態は一刻も争う一大事よ。今すぐにでも討伐をしなければって時期なんだから・・・!」
「ッ!?それはやべぇなおい・・・すぐそこに連れて行ってくれ!!時間がねぇんだろう!?」
「ちょっと!!!あなた私の子供なのよね?だったら目上に人にそんな口利いちゃダメでしょ!!??」
「ぁ・・すいません・・・・」
「(お姉さまのこの技はお子さんにも通じるのですか・・・すごいです、『母親』って・・)」
「・・・でもすぐに行った方が良さそうね。あちらもあちらで何か企んでるみたいよ?」
「何でそこまで分かるんですか?」
「見えたのよ。あなたの夫?・・でいいかしら?その夫さんがやられたのって『ギアボロス』っていう魔物でしょ?」
「お、おっと・・・///」プシュー
「え!?なんで分かったのお母さん!」
「見えた先にその悪魔がいたからよ。でもその悪魔、結構厄介な相手よ・・・!」
ギアボロスはシル・ガイアが創造した四皇魔の一つだが、同じ類のペーディオやディモーネより能力は圧倒的に高い。それは一回目の戦闘で認識済みだ。
その中で最も厄介な点、それは『相手の性質を熟知したうえで攻撃を仕掛けてくる』ことだ。先読みをされていては、例えどんなに実力差が離れていても必ず負ける。
しかしそんな中でも有利に進められる者がいる、それはこのカイだ。
カイはこの世界にはまだ存在しない未来人である、未来人の能力などギアボロスにはキャパオーバーだ。本来は存在しない者の事なんて分かるわけがないだろう?
カイはその点を活かした攻撃が出来るのだ。
「あなたの未来の夫さんは私が見てておくわ。だからそのうちにあなた達で倒してらっしゃい!」
「みらいの・・おっとさん・・・///」プシュシュー
「分かったよお母さん!!じゃあ行ってくる!!」
「その悪魔は、おそらくまだこの前の場所にいるはずよ!そこへならすぐに行けるでしょうアリナ!?」
「あそこって・・・神殿!大丈夫!行けるよ!!」
アリナの母・リオナは、自分の愛娘とその仲間の後ろ姿を、消えゆくまで見送るのであった。
リオナにもここまで思い入れをするのには理由がある。
アリナが以前のパーティーで受けた無慈悲さやはれ物に触れるような扱い、リオナもその痛みを知る一人である。
クエストから帰ってきたアリナが夜な夜なベッドで涙を流す姿を見てきたリオナにとって、それは自分の無力さを思い知らされる光景でもあったのだ。
自分の手の届かない箇所で娘が傷つき、でも何て声をかけたらいいのか分からない。
その翌日にまたクエストで家を出るアリナの表情は、幾度となくリオナの心を締め付けていたか。
しかし、そんなアリナが仲間を助けたいと言っている。それほどこの『レイ=ベルディア』が大事なメンバーなのだろう。
だからリオナはここまで必死になっているのだ。表情には決して出さない、しかしその心の中は不安でいっぱいだ。
でも必ず救って欲しい、そのためならなんでもする。
今こそ娘のチカラになってあげたい、そして・・・
娘を受け入れてくれたこの人に、私なりの恩返しがしたいから ―――
「・・・よしッ」
リオナは椅子から立ちあがると、クローゼットからかつて使っていた魔導士のローブを取り出した。
次回投稿日;7月9日