レベル81 回答 《コクショウ》
「・・・」
そうそろそろで東方の地平線からデイライトが参上する頃、しだいに明かりを消した部屋も明るくなってくる時間帯に。
「・・・今日はこないか。」
「んんッ、おはようレイくん・・・どう?大丈夫だった?」
「あぁ、今のところまだ来ていないみたいだ。一応『ルート』で調べてみたけど、ここに来ている軍隊は付近にいないみたいだし。まぁ来ないだろ。」
「そっか・・よかった・・・ゴメンね?徹夜させちゃって・・・」
「別にいいんだ。元々俺がそういったんだしな。」
マバラン村が迎える朝は想像より静かなもので、昨日のようにバタバタしながら朝食をとることはなさそうだ。
ここの宿の朝食はバイキング形式。よってアリナの大好きなお子様ゼリーもあればシェリーの嫌いなニンジン料理もあるわけで・・・
「・・あ!ダメでしょシェリーちゃん!ちゃんとにんじん料理も食べないと!身体にいいんだから・・・」
「いやッ!ニンジンきらい!ミオンが食べればいいじゃん!」
やはりこの事件が起こる。題して『第14次ニンジン拒絶事件』。
てかこのやり取り14回もやってんのかよすげーな
そしてもう一方では、
「お前まだお子様ゼリー好きなのかよ(笑)」
「なッ!べッ別にいいじゃないですか・・!!///」
「それ“お子様”が食べるものなんですけど、まさかそのお自覚がおありなのですか?(笑)」
「~~!!・・・ッ!レイさんいいんですかそんなこと言って?」
「はぁ?なにが言いたいんだ?この『お・子・さ・ま』(笑)」
「この事お姉さまに言いふらs ―――
「協定を結ぼうじゃないかアリナくん」キリッ
はい収束。
朝食はその後すんなりと終わった、ただ一人だけは別であるが。
「ほら最後まで食べて!」
「え~・・・まだ食べるのぉ~・・・?」
朝食後の休憩中、他の4人が談笑し合う中で一人、レイはとあることで引っかかっていた。
それは『なぜ今日は追手が来ないのか』という疑問である。
追手が来ないこと自体は別にいい、問題はその理由である。
というのも、レイはあの役人が芽衣の“悪魔の残り香”に気づいた理由を、『後ろにつく悪魔的な存在が調べろと言って調べたから』と推測している。つまり、もうここではその悪魔的な存在は芽衣の正体に気づいているという前提が成り立つ。昨日も芽衣を追ってシェリアスまでやってきた、ということはこのマバラン村に来てもおかしくない。むしろ来る方が自然な流れだろう。
もう諦めたのだろうか、にしては昨日の軍隊は規模が大きすぎる。
あるいはその悪魔的な存在は、今芽衣がどこにいるのか分からないのか?それでその役人に伝えることが出来ないのか。
いや、そもそもの話だ、その悪魔的な存在はどうして・・
こんな形で、芽衣を探しているのだろうか? ―――
しかしこの“悪魔的な存在”がいるというのは単なるレイの仮定にすぎない。これが事実だという証拠は一つもないわけだし、今こんなとこでそんなことを悩んでいても仕方がない。
とりあえず追ってこないのなら、ミオンのレベル上げをしたいものだ。
というわけでレイ、談笑する4人の中の一人に話しかける。
「なぁみお姉、ここら辺で経験値稼ぎできる場所とかありそうか?地図買ってたろ?」
「え?またレベル上げするの?」
「あぁ、だってみお姉まだ司祭レベル7だろ。そんなんじゃこの先戦えない。」
「・・・ではそこの遺跡とかどうですか?なんか強そうな雰囲気出してますし。」
「強そうな雰囲気ってなんだ・・・まぁいいや。で、そこって魔物いんの?」
「いるんじゃないですか?だって強そうな雰囲気出してるので。」
「お前には聞いてねーよ」
「・・で、何か分かるかみお姉?」
「う~ん・・・本来なら一つ一つのダンジョンについて簡単な説明とかあるものなんだけど、あそこについては何も書かれてないんだよね・・」
「なんだそれ?」
「まさに『異空間遺跡』ですね・・・」
「だから正直、ここに魔物はいないと思うな・・・」
正式にダンジョンとして公表されていないその『異空間遺跡』。何を以て“異空間”と定義したのかは不明だが、ここには他と異なる性質を秘めているのかもしれない。さらにその遺跡を探ることで、今日追手が来なかった理由、はたまたその先にあるブラックボックスが明らかになるかもしれない。レイはそう推測する。
「・・・いや、でもその遺跡には何かレアなモンがあるかもしれん。宝探しは冒険の一大イベントだろ?」
「た、宝探しですか?」
「あぁ、もしかしたら金ぴかの杖とかあるかもだぞ?どうだ?」
「・・・それなら行ってみたいですね。お姉さまがよろしいのなら私も賛成です。」
「芽衣さんもそれでいい?まぁシェリーはそっちで遊び出したしオーケーってことだからいいとして・・・」
「シェリーちゃんだけ規準違うよね・・・まぁ私も大丈夫だよ。」
「でもレイくん、このパーティーのリーダーはレイくんなんだから、そういうのは自分で決めないとだよ?私達のことを考えたうえでのことだろうけどね。」
「ま、今のはただの確認だ・・・じゃあすぐに支度していくぞ!」
こうにも自分たちの探すほとんど分かり得ない“回答”の答えに、こんな短時間でチェックメイトを駆けられるとは思ってもいなかっただろう。無意識に自分の求めるものに近づいている現象を起こせるモンだから、そういうヤツがいるパーティーは事がスムーズに行きやすいだろう、うらやましいものだ。
そうして5人は異空間遺跡の前に到着、入口から異様な空気が漂う不思議な空間。まさに『異空間』だ。
しかしミオンの予測通り、魔物の気配は今のところ感じられない。しかし時々奥から聞こえてくるのだ。
この断末魔のような叫びは、一体どこから ―――
心構えくらいはしておいても損はないだろう、5人とも一斉に一つ深呼吸。武器もすぐに取り出せる箇所に再設置、戦闘かつ探索の準備は、今整った。
無言の集中力と警戒心を先頭に、5人は遺跡内へと入っていった。
よって5人には見えていなかった、
入口上の岩盤に彫られた、“刻章”というものの証を ―――
~~~~~~
異空間とはよく言ったものだ、誰がこのように形容したのだろうか?四方のあらゆる光景がまさに『異空間』を体現している。
魔物が現れるようなダンジョンの空気が漂っているわけでもなく、また蒼天の塔のように神聖な虚無の空気を纏っているわけでもなく
今まで感じたことの無い、見たことの無い空気が、そこら中を冷たく漂うだけだ。
先程潜入したばかりなのに、入口の光がもうあんなに遠く感じる。現実世界の距離で考えれば、こんな遠くなるまで進んではいない。空間がゆがみを起こしているのか?
「・・・何かあったらすぐ言えよ。」
「分かってる。」
「「「ッ」」」ググッ
「レイくん魔物の気配とかなんか分かった?まぁこの先に何があるとかの情報でもいいけど・・」
「どうやら魔物はいないな・・・でもこの先に何かがありそうな空気は感じてる。」
「それってどんな感じですか?」
「・・・どうやら生命体ではないな、これは何かの建造物・・だな。」
(ま、こういう時にはモノを見つけるのが得意なヤツに先陣を切ってもらうのが効率が良いモンだよな。)
「おいシェリー、ちょっと前来てくんない?お前の探知眼とやらが必要だ。」
「ん?、うん分かった。」
そうしてシェリーを先頭に、一味はさらに奥部へと進んでいくが・・・
「・・・まだ見当たらないか?もうそろそろ見えてくると思うんだが・・・」
「ううん、まだ何も見えてないよ。だってここ結構くらいもん、そこまで見えない。」
と、シェリーの『なにこれ?』はまだ出てきてくれない。
・・・しかし奥部に侵入していくうちに、五感の一つが異常に疼きだして止まらない。
「・・・ねぇレイくん、なんかちょっと臭くない?」
「あぁ、さっきから段々と強くなってきてるよな・・・」
「でもオナラとかそんな低次元のものでなく、本当に獣臭と腐敗臭を足して二で割った感じの匂いがします・・うわァ、結構臭いですぅ・・・」
不意に芽衣が足を止める。
「ッ!!」ピタッ
「・・ん、芽衣さんどうしましたか?」
アリナの呼びかけで、その前を進んでいた3人も芽衣の方に振りかえる。
「うん、今ちょっと・・・空気が揺れる感じがしたの。」
「空気が揺れる?」
「うん、皆は感じなかった?」
芽衣のその問いかけに、誰もが首を横に振る。絶対に分からないはずだ。
「芽衣さん・・それって具体的にどんな感じだ?」
「まだちょっと掴めてないけど・・・さっきは違和感として感じただけだったから。」
「・・・そうか、また起こったら報告してくれ。」
分からないはずである。
「・・うん、そうするよ。皆も気をつけてね。」
この中で芽衣にしか分からない。
「あぁ、そん時は宜しく頼む。他も何かあったらすぐ報告な・・・ハァ、ホントは宝探しのつもりで来たんだがな・・・」
『宝探し』 ―――
そんな甘い考えは今すぐ捨てた方が身のためだ。
「・・・無事に帰れるよな・・・?」
芽衣だけが空気の流れの異変を察知出来た理由とは
なぜか先程から漂う形容しがたいこの異臭とは
そして
“刻章”の意味とは ―――
――― その“回答”まで、残りメートル
次回投稿日;7月5日