表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある青年のレベル上げ ~グラド・サーガ~  作者: あいうえおさん
第7章 残り香は、ただ漂うままに 《エンブレム・ヘラウィザード》
88/110

レベル80 異端者 《ヘリティック》


「・・・もう朝か。」


身体を起こしたと同時に吹いてくる朝の風は涼しいものだったが、そのどこかに寒気を感じるものでもあった。

若干の身震いを数秒、レイはベッドから降りて4人の部屋へと向かっていく。

・・・しかし、自室を出ようとしたレイの耳に


窓の外から、こんな声が聞こえたのだ。





『この町に悪魔がいるとの情報が入ったため、エクスタシア城から調査に参った!しばしの間邪魔させてもらうぞ!』




今まで通りなら、例えこのような内容が聞こえても無視出来ていたが

昨日の一件を経験したレイには、心臓を掴まれるほどの衝撃であったのだ。

レイはすぐさま4人のいる部屋へ。



ダダッ


「みんな起きてるか・・!?今すぐ準備してくれ、出来たら芽衣さんは隠蔽魔法を・・!」


なるべく大きな声は避けたが、4人は外の状況を把握していたようだ。レイが来る前にある程度支度を済ませている。

もちろん衛兵が探す“悪魔”が芽衣であるという確証はない。しかしふと外をのぞいた時、あの場にいた衛兵の一人に

昨日城の一室で芽衣のことを話していた、あの役人がいたのだ。



「準備できたか・・!?よしッ、じゃあ芽衣さん頼む!」

「分かった!『プラニイェト』!」



姿を消して宿を出ると、なぜか宿の周りだけ多くの人だかりが出来ていた。いや、むしろ宿にほぼ町人全員が集結して悪魔を迎え撃つと言ってもいいほどの態勢で待ち構えていたのだ。

なぜこんなピンポイントで悪魔の居場所が特定できるのか。さらに言えば、今ここにいる芽衣は“悪魔”ではない、『松嶋芽衣』という一個体が二分裂したもう一方の芽衣が悪魔であるのにだ。


「(おいおい手際よすぎじゃねぇか・・・!?)」


今の5人は透明化、もちろん姿など町人や衛兵に見えるはずもない。しかしそんな5人全員が、とてつもないほどの緊張感を抱えていたのだ。

特にある一人は、4人のそれをはるかに超えたものである。




「ハァハァハァハァ・・!!!!ハァハァ・・!!!」




自分をここまで特定されたことに、芽衣は激しく動揺しているのだ。


「芽衣さん大丈夫ッ・・!?」

「お、おい・・・!?」


芽衣の止まった足取りに気づいて振り向いたレイとミオン、すると視界に入った芽衣は何と胸を押さえて過呼吸状態に陥っていた。

この吐息が今より大きくなると芽衣の容態も悪くなるが、それと同時に観衆に気づかれてしまう。

隠蔽魔法は姿を隠せてはいても、音までは隠すことが出来ない。しかも5人は群衆の中をすり抜けようとしている。



「ッ!?じゃあ俺がおぶるから、皆ダッシュで逃げるぞッ・・!!」



本来なら今すぐにでもアリナの移動魔法『トレイフ』を使いたい。しかしその際に召喚されるスペルを誰かに気づかれでもしたら、最悪の場合追ってこられる可能性もある。最善策はある程度離れた場所まで自足で逃げ、そこから別の場所へと移動するという方法。


・・・しかし、



『・・おい、何か魔法の気配がするんだが・・!!??まさか悪魔が通っているのか!!??』



と言い出したのは、レイがすり抜ける真横にいたとある一人の町人である。隠蔽魔法『プラニイェト』は古代魔法の一つ、本来古代魔法が発動していることなど当人以外分かり得ないのだが・・・

もしここから離れた場所でもスペルを察知できるのなら、いよいよ移動魔法なんて使えない。


「ッ・・クソ・・・!!」





それから丸一日、レイたちは追手から逃れるためだけにただひたすら走り抜けた。

途中休憩なども取ったが、陽が出ているうちはずっと走っていたと思う。

そして夕方頃、5人はとある集落に到着する。


名をマバラン村、エクスタシア王国領土内に位置する小さな集落、しかし王国の衛兵がここに来ることは滅多に無いらしい。

レイのスキル『ルート』で調べてみると分かったのは、この事実ともう一つ。

『近くに異空間遺跡がある』という一事実だけ。



レイはひとまず宿へと向かい、4人をレイと同じ部屋で寝かせる。レイは見張り役ということでそのまま起きて様子を伺う。

ここには衛兵は滅多に来ないとあったが、おそらく明日には何等かのアクションが起こっているはずだ。元々ミオンのレベル上げに使うはずの今日が、逃亡という形で終わってしまった。大分時間のロスである。



「・・・ハァ」




しかしおかしい。


今朝の出来事、衛兵たちの中にあの役人の姿があった。

おそらく芽衣から“悪魔の残り香”がするという事実は、あんなに隠れて話していることから察するにあの役人にしか知らないことのはずだ。まぁ断定するつもりはないが。


しかしレイの記憶が正しければ、あの夜役人は大臣に報告することをためらったはずだ。さらに言えば、大臣などに報告する時間帯はレイが聞き耳をするより前にしていないといけない。でないと一晩で城からシェリアスに行けた理由が説明できない。これは時間的かつ空間的に考えたうえでのことである。移動魔法なんてそんなに覚えられるものでもない。ましてや軍隊レベルの人員まで飛ばせるほど、この魔法は効力を持っていない。

しかし現に、エクスタシアの派遣衛兵たちは軍隊レベルでシェリアスに到着していた。こうなるともう訳が分からない。


しかも芽衣の居場所をあんなに正確に特定できたことも不可解な点だ。今朝の所業は、芽衣がシェリアスの宿に来ると予測してシェリアスに向かったというレベル。



レイには分からなかった“悪魔の残り香”が分かるやら今日の出来事と言い、あの役人は只者ではなさそうだ。

警戒心があの役人に向くのは、言うまでもないだろう。


しかし芽衣にそれがあると分かる理由、何となくだが見当はついている。



レイは眠る芽衣を静かに起こすと、あの謎の単語について聞いてみることにした。


「・・・で、どうしたのベルディアくん?」


「実はな・・・これ何か知ってるか?」



――― “刻章” ―――



「なにこれ・・・?分からないけど、これがどうかしたの?」


「あぁ、これが芽衣さんには有るんだ。」


と同時に、この“刻章”なるものが他の4人にはないことも伝える。芽衣はあからさまに動揺ぶりを見せ、そして必死に何かを思い出そうと。

・・・しかし何も浮かばないようで、頭を垂れてあからさまに項垂れる。


当事者も分からないようでは、この先の対処法も霞んでくる。まぁ元々対処法なんて見えてない訳だが。

まぁ対処法もこれからのビジョンも見えていないことには慣れている。前回や前々回だって、そういう時はまず情報収集から始まった。

そして今回も、同じだ。


「・・・明日は調べものの会でも開いてみるか。」

「調べものの会?なにそれ?」

「分からない単語を調べるためだけの会だ。」

「ある意味そのままの意味なんだね。」



所有者の芽衣でも分からなかった『刻章』というワードが持つ意味とはなんだろうか?

悪魔的な意味を孕むものという選択肢は残されたまま、おそらくこの意味が分からない限りずっと衛兵たちに追われる身のままだろう。

別に悪いことはしていないが、もし芽衣の正体がバレれば瞬時に『悪魔を従える異端者』として処せられるのは高確率だ。


『“刻章”ってどんな意味?』、この回答を見つけるのにはまずどうしたらいいだろうか。

芽衣を再び寝かせ、一人目を開けるレイはその回答を探し続けている。

また情報屋の町ミルビィテリィに行くか、それともイーストデルトの司書さんに聞くか。

別にどちらも労を要するタスクではない、むしろ二つともに足を運び情報を得るという選択も当然あるのだ。


しかしそんなレイが探す答え、本人は気づいていないが

意外にもそれは、今とても近くにあるのだ。

“刻章”は漢字から見ても分かるように、何かの紋章を表している。つまりマークである。

そのマークとは、レイがいる部屋の外から見える位置にもかすかに見えてくるのだが、夜ということもあってか・・・いやそれ以前の問題で分からないだろう。



ここで言ってしまおう、あの問題の回答はその場所でしか分からない。

ミルビィテリィやイーストデルト、その他の町にある図書館・・・・その全てに行ったとしても答えは見つからない、断言しよう。

理由は『誰もそれを知らない』、ただこれだけ。


唯一、回答が得られる場所、





――― 異空間遺跡に、果たしてレイは行き付くのだろうか。





次回投稿日;7月4日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ