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とある青年のレベル上げ ~グラド・サーガ~  作者: あいうえおさん
第7章 残り香は、ただ漂うままに 《エンブレム・ヘラウィザード》
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レベル79 可能性 《ナイトメア》


『あのヒューマンから“悪魔の残り香”がするんだ。』




レイは確かにそう聞こえた、確かに“悪魔の残り香”と聞こえた。



『あぁ、確かにそれは思っていた。しかしなぜそんなモノがあの一味に?』


『俺が知るわけないだろ・・・しかし、よりによって“悪魔の残り香”とは・・・』



“悪魔の残り香”について説明しよう。

“悪魔の残り香”とは文字部分に“香”という感じが入っているが、決して匂いなどのものではない。簡単に言ってしまうと、これは『悪魔の気配』である。

悪魔が放つ独特のオーラ、それもかなり強力なものであるときにこの表現が使われることが多い。


確かに思うところはある。

なぜなら芽衣のもう一つの半身はあの焔王妃シル・ガイア、いうなれば“魔族の女王”である。しかし芽衣が直接シル・ガイアに接触した機会はなかったはず。

・・・いや、完全にないわけでもないのだ。



「(蒼天の塔から入ったあの洞窟・・・だったか?そこで何かしてたような・・・)」



芽衣は黄泉の国への洞窟の中で、一時的にもう半身が持つ特殊能力を間借り状態で受け継ぎ、一時的にその能力を使った時があった。

後に芽衣から聞いたことだが、あのしばらくの時間はシル・ガイアの方の半身と交信する時間だったそうだ。

少なくともその際に、シル・ガイアとの接触は起こっている。完全にないとも言えない。


「(でも何でこの衛兵たちがこんなこと気づくんだ?それなら近くにいる俺達が先に気づくはずだ・・・)」



『なぁどうする?一応大臣殿に報告するか?』


『あ、あぁ。しかし「気がする」というだけでまだ真実には程遠い。もう少し様子を見てからにしないか?』


『・・いや、それでは以前と同じ結果になるぞ。そのような態勢であったからデモンズカウザムの侵食に後れを取ったことを忘れたか?』


『それはそうだが・・・しかし相手はこの国を救った冒険者殿の一味だぞ・・・いくらなんでも無礼ではないか?』


『・・・ではどうすればいい?このまま何もしないというのが最も危険だろ?』



このような会話を聞くうちに、レイの脳裏にとある可能性が浮かび出す。

それは芽衣の正体が皆に知れ渡るという最悪なシナリオ。さらに時間もそんなにないと推測できる。

もしこのままエクスタシア城に留まっていれば、正体が明るみに出るのも時間の問題と化す。



「(・・・ココを出るか)」



不可解な点が存在する。

それはなぜレイが芽衣を漂う“悪魔の残り香”を察知できなかったのか?さらになぜそれがあの衛兵には分かるのか。

レイはおそらくだが、あの衛兵以上に悪魔との闘いをこなしてきたはずだ。またその際に悪魔の気配を察知できる能力はついてきているのも事実だ。

“悪魔の残り香”なるものはその気配よりも強いと聞く。それならばより容易に察知できるだろう。


そんな疑問が交錯する中、レイは4人が眠る寝室へ。4人を起こして、今のうちに脱出するためだ。

芽衣の正体が知れれば外を被るのは芽衣だけではない、レイパーティー全員のイメージが『勇者』から『異端者』へとなってしまう。そうなればレイたちは各国から追われる身となり、シル・ガイアどうこうとは行かなくなる。



「・・・」


レイは4人それぞれが眠る寝室の入口に立ち、開く扉をゆっくりと閉める。

しかし4人を起こす前に、レイは確認しておきたいことがあった。



『スキル2;「ルート」を発動します。』


『パーティーメンバー5;松嶋芽衣(人間体) 種族;ヒューマン族

 アークレンジャーレベル19 ランク12 ・・・』


(悪魔とかじゃ、ないよな・・・?)


もし芽衣の本当の姿が人間ではなく悪魔なのだとしたら。いずれ正体を現してこのパーティーを破壊するソースになりえる。

悪魔ならば対策もしていかねばならないが・・・



『属性;人間(ヒューマン族)』


(だよな・・・良かった)


松嶋芽衣(人間体)は、本当に人間だったようだ。さすがにパーティー最強説の芽衣が悪魔ならば対策はあるがかなり難関なものだったはずだ。

少し考えれば当然なこの事実に大分安堵しながら、レイはスキル発動で得た情報をさらに見ていく。

しかしこんな表記をした欄もあるのだ。




『松嶋芽衣(人間体);刻章(コクショウ)有り』




この“刻章”の意味は全く分からないのだが、他の四人も見てみるとどれも『刻章無し』の語句が映し出されるだけ。

この“刻章”とやらがあるのは、レイパーティー内では芽衣だけのようだ。


「(・・・ㇷゥ、さてと。)」


確認が済んだところで、レイは4人を静かに起こしていく。シェリーとアリナはめちゃめちゃ寝ぼけていて、ミオンと芽衣はレイの表情を察してなのか、何も言わずに静かに支度を始めている。さすが精神年齢高めの二人だ、意思が通じやすくて何よりだ。ミオンは支度が早めに終わり、今はシェリーやアリナの支度まで手伝っている。


レイも支度を済ませ、5人全員出発の準備が整った。



「・・・で、一体どうしたの?」


空気を読んでか、ミオンは大分ボリュームを抑えた声で事情を尋ねる。


「あぁ、今からこの城を出ようと思う。だがくれぐれも見つからないようにしたいんだ。」


「?それはどうしてですか?」


「事情はここを出てからだ。他の誰かに聞かれたら厄介だからな。シェリーも今の間は静かにしていてくれ。」

「分かったッ」


「よしいい子だシェリー・・・アリナ、5人分のエスケイプロープ持ってるか?確か昨日城下町で補充してたろ?」


「よくご存じですね・・・はい、こちらで確かに5本分です。」


「よし、じゃあ出るぞ。忘れ物とかないな?」





そして5人は、城を脱出した ―――






~~~~~~


エクスタシア城下町からある程度離れた場所まで移動し、今はシェリアスの宿屋の部屋の中に。


「・・・ここまで来ればとりあえず大丈夫だろ。で、今から事情を説明するから聞いてくれ。」



そしてレイは、役人が話していたことを一通り伝えた。

芽衣の正体がバレようとしていることを中心にこの先のざっくり目の予定や芽衣にもそれについての事情を聞くなど・・・


「なるほどね、確かにあっちで話してたらちょっと危ないかもね。」


「だろ?んで芽衣さん、あの洞窟のヤツ以外に接触したっていう心当たりとかないか?」


「う~ん・・・私がまだベルディアくんたちの敵だった時の残り香がまだ残ってるのかな・・・?」


それではレイたちが残り香に気づかない理由が説明できない。レイはスキル『ルート』を使っているので、ここで芽衣が虚言を吐いていることも察知できるが、どうやら心当たりがなさそなのは本当らしい。

それからも談義は少し続き、もう深夜の2時半を迎える頃。


「・・・まぁ今回はここらへんでいいだろ。急に起こして済まなかったなみんな。」


「ううん、一つの危険性を回避したんだから迷惑なんてことないよ、レイくん?」

「ふわぁぁ・・・」

「シェリーちゃんも眠そうだね。」



そして談義は終了、それぞれベッドへと向かっていく。

しかしレイにはもう一つ知りたいことがあった。それは『ルート』では分からない、完全な知識分野のものであった。


「・・・おいアリナ、ちょっといいか?」


「ふわぁぁ・・はぁい?どしたんですかぁ~・・・?」


「ちょっと聞きたい事があってな。完全な知識分野だから、こういうことに詳しいお前に聞きたくてな。いいか?」


「へ・・?どんなやつですかぁ~・・?ふわぁ・・・」



眠そうなアリナを呼びかけ、レイは場所を自室へと移す。

アリナをベッドに座らせ、レイは椅子に座る。レイはスキルを発動して、ステータスパネル状に芽衣の詳細情報を映しアリナに見せる。

とある箇所でスクロールを止め、その箇所を指差しながら


「・・・これ、どんな意味か分かるか?」



――― 『刻章』



「?聞いたことないですね・・・それは何等かの特技ですか?」


「いや、ここに特技は載らない。何かの状態を指しているんだろうが・・・それが分からなくてな。」


「・・・でも、わたし何処かでそんな感じのワード、聞いたことあるようなぁ・・・?なんでしたっけ。」


「・・・」



アリナもこのワードは分からないという。しかし100パーセント分からないと言うわけではなく、少しはこのワードに関連する何かに覚えがあるようだが思い出せないと言ったところだ。物知りのアリナでも分からないならば、あとはもう自分で調べるしかない。


芽衣に聞くという選択肢も確かにあった。最も手短かでかつ最も有力な候補だったが、あえてレイは聞かない選択肢を選んでいる。

単純に後が怖かったのだ。もしこれでそのワードが分かったとして、それが悪魔的な意味を孕んでいたのならば、今の芽衣はあちら側の存在ということになる。すなわち“敵”だ。

その後の展開をレイは予想できなかった、よってこの選択肢を捨てているのだ。


レイはアリナを自室に返し、そして自分もベッドへと潜っていく。視界の殆どを木目調の天井が支配する中、右方の窓から差す月明りは寝室を薄く照らしていく。

あの役人は芽衣から“悪魔の残り香”がすると言っていた。しかし今となってもその残り香とは何なのか、移動中と談義中だけでは見つけることが出来なかった。よほど凝視してみないと分からないものなのか、レイはそう思って後半は芽衣を集中視してみたが結局目が疲れただけであった。

あの役人は芽衣をレイほど観察してはいないだろう、しかしそれでも分かる“悪魔の残り香”。『灯台下暗し』とあるように、近くにいる者ほど分からないものなのであろうか?


雲が夜風で微かに揺れる、月明りを遮ると思えばまた月光が寝室を照らす。


「・・・もう寝よ」




役人がもし何かのチカラを使って芽衣の異変に気付いたとしたならば、その裏には何者かが暗躍している可能性が高い。芽衣の放つ魅力から興味を持つことはあるだろうが、国の救世主に疑問というレベルまで抱く可能性は少ない、ならば誰かにそうするよう言われた線が濃厚さを増す。

となれば、もうすでに芽衣の正体に気づいた者がいるのかもしれない。しかし芽衣もこのような事は頭に入れているだろう、普段から正体を漏らさぬように行動しているはずだ。


しかし同時にこんな可能性も浮上するのだ。

それは、あの役人に芽衣の正体を探るように告げたその暗躍者が“悪魔”の者であった可能性である。



しかしレイは、今すぐにも大きな事態が起こるとも思ってはいなかったようだ。城から逃れた安堵からだろうか、今はすやすやとベッドの上で快眠を発動中だ。

最も、今の仮説が現実に起こっていると分かっていたのならば、こんなに呑気にはしていられなかっただろうが。




次回投稿日;7月3日

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