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とある青年のレベル上げ ~グラド・サーガ~  作者: あいうえおさん
第6章 『天』という世界で 《ヘブンズ・ウェイハザード》
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レベル76 動機 《ライクス・ナイトメア》


とある日のとある朝、

とある部屋の方へ二つの足音が廊下内にこだまする。




コツン・・・コツンコツンッ・・・コツン・・・




「・・・まだアイツ目ぇ覚まさねぇのか?もう1週間くらいじゃねえか?」


「はい。お姉さまが見ているみたいですが、まだ目を開けてはいないみたいです。」


「まぁアイツは1週間前まで悪魔に取り付かれていた身だしな、それくらい起きなくても仕方ないか・・・」


ハァ・・(重い溜息)


「・・・ははーん、もしかしてレイさん、寂しいんですか?」

「はッはぁ!!??」


「だってソリューさんってレイさんのライバルかつ親友だったって聞きましたよ。もし死んじゃったらって思って寂しくなったんですよね?」


「は、はぁ!?ななななってねーし!!!俺が寂しがるわけねーし!!ちょーし乗んなロリガキ!!」


「・・・いつもの『ロリガキ』と違って今のは取り繕ってる感じがしましたよ?図星だったからってそんなにならなくてもいいんですよ・・・?(ニヤ)」


「!?・・・うるせぇぞロリガキぃ!!!(みお姉余計なこと言いやがって・・・///)」



朝のエクスタシア城宮殿は心地良いそよ風が窓からそっと流れ、内部を涼しく吹き抜ける。

その風も城外の森の木の葉の香を運んでくるため、城内は嗅覚も視覚も感覚も落ち着いた雰囲気を醸し出している。これぞ理想の朝とはよく言ったものだ。

今レイたちは治療中のソリューと付き添いのミオンがいる城内個室へ朝ご飯を届けようと、出来立てのオムレツを運んでいる。


ソリューは天空城の決戦から1週間、未だに目を覚ましてくれない。

デモンズカウザムの侵食がかなり深いところまで行っていたのだろう、最初の3日館くらいはソリューの容態が急変したりなどが繰り返し起こっていた。今は大分落ち着き、もうすぐで目を覚ますだろうと医師にも言われた。

朝ご飯にはソリューの分も持って行っているが、前日までは起きなかったことからアリナとシェリーがその分を食べていたのだが。今日は当の本人が食べてくれることを少し願いつつ、個室の扉を開ける。



ガチャ・・・


「・・・まだ起きねぇか・・大丈夫なのかコイツは?」


「まぁ最初に比べたら回復してきているんだし、お医者さんも言ってた通りもうすぐ目覚めるんじゃないかな?」


「・・・フィルはもう戻ってきたのか?」


「うん、なんか『ソリューの御霊の方も今取ってきた。』って言ってて、その後ソリューくんに手を当ててなんか光るものを体内に浸透させてたよ?」



この事について説明しよう。

フィルはフェージョ=サタナに心身を分離されてしまった。しかし分離されたのはフィルだけでなく、なんとソリューまで一緒だったのだ。

デモンズカウザムの討伐により身体の方は取り戻せたのだが、精神の方はまだであった。そこでふとレイが思い出す、蒼天の塔から行けたあの黄泉の国のような空間のことを。

空間の穴に飛び込む時、ソリューの影がふと目に入ったことをフィルに伝えると、フィルはそのまま蒼天の塔まで一っ飛びだ。仲間のことになるとすぐ行動に出てしまう、普段は少し冷たいヤツだと思っていたが、残念ながら認識を少しばかり変えなければならない。


ところでゼゴの顔が彫られたあの石をお覚えだろうか?

討伐の後日、レイはエクスタシアの考古学者にそのことを聞いた。すると推測される事情として、ソリューの思いがその石に具現化したというのだ。

ソリューが心身分離した際、御霊の方はそのままさまよい続け、そして行きついた先は両目を潰されて辺りを暴れ回るゼゴのもとだった。そして御霊のその内部に溶け込む。ソリューの中にある悪感情とゼゴがレイたちへ抱く憎悪が最悪にも融合し、そこをデモンズカウザムに付け込まれてしまった・・・

考古学者はこんな仮説を立てていた。まぁ筋も通ってるし、これで決定。


そして誰かが誰かに向けて憎悪を放つ時、伝説上の悪魔はその相手にやられた傷の部分を投影した何かをその対象者へ投げ込むというものがあるそうだ。

よってあの石は『ゼゴとソリューが抱く、レイへの嫌悪感・憎悪』を意味するものだったのだ。

しかも今はその石、レイのバッグの中で見事に砕け散っている。憎悪は無くなったということだろうか?

・・・まぁいいや。



「じゃあ俺達はレベル上げ行ってくっけど、みお姉は今日もソリューの元にいるのか?」


「うん、そうするよ。レイくんたちだけで行ってきて。」





そして昼頃を迎える頃、


「んんッ・・・ ―――

「・・・あ、ソリューくん?起きた?」


ソリューが目を覚ましたようだ。ソリューは目覚めると同時に声が聞こえた方向へ首を曲げると、


「・・・!?なんでみ、みお姉がこんなトコにッ・・!?というかココどこなんだ・・・フィルさんもどこ・・・!?」


フィル本人の意識が眠り始めたのはゼゴの身に浸透してから。つまり今のソリューの記憶はその時から飛んでいるということだ。『その間気を失ってた』といえば分かりやすいかもしれない。


「ソリューくん、体調はどう?」


「んんッ・・・まぁ大丈夫かな。悪いけどみお姉、何があったか説明してくれないか?」


「1週間寝てたのから起きて記憶も飛んでる感じにしては結構冷静だね。」


「まぁ急に起きたら知らない場所に顔見知りの人がいるんだし、まぁ少なくともあのバカみたいに取り乱しはしないけど。」


「ふふっ、でも最近のレイくんも冷静な判断が出来るようになったんだよ?すごいでしょ!」


「そ、そうなのか・・・」


「うん・・・じゃあ事情を説明するね。 ―――― 



それからミオンは今までの経緯を丸ごとソリューへ説明した。ソリューがデモンズカウザムに身体を乗っ取られていたこと、精神の方は瀕死状態だったゼゴに浸透して、そしてそのまま死んだゼゴと共に黄泉の国のような場所に彷徨い続けていたこと、そしてデモンズカウザムからソリューの身体を取り戻すために戦ったメンバーに、レイがいたこと、ミオンがいたこと・・・など。全部話すのに1時間くらいはかかった、とても大きな出来事だったと説明する側のミオンも実感する。

ちなみにこの話の半分くらいは誰かから聞いたことなのだが。


ソリューの反応はというと、ミオンから説明を受けるたびに段々と顔をうつむかせる。表情も少し険しくなった場面も所々あった。

その表情は、まるで自分のせいだと言わんばかりなものに。何か自覚があるのだろうか。


そして全ての説明を終えて数分後、ソリューは重く閉ざした口を開いてこういった。



「・・・なぁみお姉、デモンズカウザムに取り付かれたのは、100%俺のせいなんだ。」



話始めたと思ったら第一声がこの返答、さすがのミオンも少し戸惑ってしまう。


「え?あ、えぇと・・・どうしてそう思うの?」


こんな言葉しか出なかったが、まぁ当然の反応なのだろう。


「・・・少し抽象的すぎたな。でもそのデモンズカウザムって、誰かの悪感情に取り付いて身を支配する悪魔なんだろ?」


デモンズカウザムが取り付いたのはソリューの身体の方、しかしその一が抱く悪感情は身体からも漂うものらしい。さらにデモンズカウザム程の伝説上の悪魔の目に留まる程の悪感情を持つのだ。ソリューはあの時相当な悪感情を抱いていたのだ。そしてその悪感情が向けられる相手が・・・


「・・・アイツだった、と思う。だから、これは俺のせいだ。」


「・・・」


「・・・なんでとは言わないんだな。もう分かってる感じだぞ?」


「・・・何となく分かる感じがしたの。だってソリューくんからしたら自分より弱いひよっこだと思ってたレイくんが国まで救っちゃうトコまで行っちゃったから。誰でも嫉妬しちゃうよね。」


「・・・」


「ソリューくんがベルトディア村にいた時からフィルさんの下で冒険をしていたことは聞いてたよ。自分の方が先に修行していたのに、活躍するのはレイくんばかり・・・」


「・・・あぁ」


「イーストデルトも救ってクルスオード帝国も救って・・・レイくんの功績はどんどん広がっていって、それがソリューくんにも伝わってきて・・・」


「・・・そんな感じだったと思う。今思うとバカだなって思うよ。」


「でもなみお姉、多分それだけの事だったら悪感情とかそんなレベルまで行かなかったはずなんだ。」


「・・・」


そしてしばらく沈黙が流れる。気持ちいいそよ風が優しく肌を撫でるとても穏やかな天気なのに、室内に流れる空気は少し重たいようなそんな気が。

ソリューはなんだか気持ちの整理をしているみたいで、何度も深呼吸を繰り返す。ミオンはそれをただ黙ってみている。

そしてソリュー、ミオンにこんな質問を打ち出した。

その内容は特定の人を除く誰もが一度聞き返すほど意表を突くような、そんな質問だった。





「みお姉は・・俺の好きな人、知ってるか?」




ミオンは、ただ黙って聞いていた。




次回投稿日;6月21日

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