レベル70 虚天空 《ヘブンズ・ウェイハザード》
『“魔神官”ギュオリヤを討伐。5人はそれぞれ経験値10000、0ゴールドを獲得。
スキル発動;レイ=ベルディア、シェリー=クラシアは経験値40000獲得。』
ミオンたちが成し遂げたこの報告メッセージは、きちんとレイの元にも通知で届いているはず。本来ならその報告通知を確認して、仲間の無事に安堵するレイである。
しかしそのメッセージが届いた頃、レイとフィルはこんな事実に直面していて確認はしていなかった。
それは、
「て、天空城・・・!?」
目の前には、雲上に聳え立つ巨大な白城が見えている。
レイとフィルは何階のもフロアを駆け上がった、数える事およそ30階。7、8階でさえ大気圏を越えていたのでここまで来るともうどれだけ高いかなんて表現できない。
高さの概念がほとんど無くなったこの空間には、その城が映されたオブジェのみが建っていた。あの時エルゴ島へワープする時のあの石の建造物のような形をしているのは気のせいだろうか?
「どうするお前・・・行くか?」
「当たり前だッ、仲間はここにいるはずだからな。」
フィルはこの先に行くことに全く躊躇しない、よほど自分の仲間が大事らしい。しかしフィルが行くと言う以上、レイも行かない訳にはいかない。
「行くぞ、紅!」
「あ、あぁ・・・」
そして二人と二匹は、同時にそのオブジェの中へ飛び込んでいく ―――
~~~~
二人が飛び込んだ場所は雲の上、下界などあまりにも離れた距離で見ることなどできない。しかし息は出来るようなのでこの場所にいることに問題はない。ちなみにフィルのスキルはこの世界に飛び込んだ瞬間に解除されている。
そして目の前には太陽光で白く光る天空城。このような光景、まるで神殿ただ一つしかなかったエルゴ島を見ているかのようだ。
「天空城に入るぞ、紅!」
フィルは雲上につくなりすぐさま目の前の大城へと急行。レイも引っ張られるようにフィルの後を追う。
エクスタシア王国の伝説で『蒼天の塔は下界と神世界を繋ぐ階段のようなものだ』というものがあったが、天空城が建つこの空間を“神世界”と捉えていいのならあながち昔の人は間違っていなかったようだ。別にそうだと分かったからって新たに分かることなどないが、一応そんなことを思ってみるレイ。
しかし仮にも『天空』という名前がついている場所、ここには魔物の気配が一切感じられない。
しかしなぜだろう、この辺りの空気は
なぜか、重い ―――
「・・・はぁ、入るか。」
中は外見通りの広さ、しかし誰もいないこの空間にあるのは外から吹き抜けるそよ風だけ。『天国』というのは下界の人々が死後に行きたいと願う安楽の地、しかしその本質というのがこのような『何も無い、何も起こらない』世界が天国なのだとしたら、そこに人々が幻想を抱く“天国”は存在しないかもしれない。『平穏』と『虚無』は全くの別物、ここはそう言っているかのようだ。
しかしこのような哲学じみたことを言っているうちに二人は天空城の大広間に到着。そこには大きな玉座があるだけで他には何もない。
しかしこの玉座、異様に大きい。ドラゴンクラスの王様っぽいのが座りそうなほどの大きさで、そう例えるならド〇クエのマスタードラゴンが座ってそうなヤツくらい?
「・・・何もねーけど?」
レイはそのまま感じる感想を率直にフィルへと告げる。
・・・おいおい、なんでそんなになってるんだよ?
冷や汗ダラダラだぞ?
「おッおい、どした・・・?」
なぜそんな表情をするのか?何もないのに、レイは不思議で仕方がない。
でもフィルは、次にこういうのだ。
「紅・・・!!気づかないのか・・・!?」
何かにおびえるような口調でこんなことを言ってきた。そう言われて辺りを見渡すも、レイの両目の瞳には今のところ目立つものは何も映らない。
レイの頭にはさらに?マークが浮かぶばかり。
・・・皆は、気づいただろうか?
では説明しよう。レイは先程この城についてスキル『ルート』を使って確認する、結果はこのような一文。
『天空の城;大地の神グラダが統治する聖域の間』
名前までも『天空の城』、まぁ少し安直なネーミングだということは黙っておこう。
しかしこの天空の城、それは大地の神グラダが統治する聖域。
神グラドはグラド大陸を誕生させた創造主で、三つの聖山を護る三匹の神獣を造ったのもこの神グラダ。よってここにいるエヴィウスとリモラの生みの親である、まぁ人間的な生み方ではないが。
バル神話曰く、この神グラダはこの天空の城から常に下界を見て護っている。パンピーの肉眼ではこの真下など白い雲しか見えないが、そこはお得意の『神だからみえるんですよ』で見えているのだろう。
・・・先程の一文が大きなヒント。『城から常に下界を見て護っている』
『常に』
――― 常に ―――
さて、今その神はここにいるだろうか?
――― 答えは否である。
「・・・!!!??」
「分かったみたいだなッ・・そうだ、ここにその神がいないってこともどういう意味か分かるよな・・!?」
創造主を失った世界、そんな世界に訪れるのは無論、
「世界の、崩壊・・・!!??」
「外だッ・・・!!外に出るぞ!!」
何か異変を察知したのか、フィルは急に足先を出口の方へと変えて駆け出した。
確かにその事実に気づいた瞬間、レイは外から漂う異様な空気を感じていたのだ。
そしてその異様な空気、次の瞬間には
絶望に、変わる ―――
「」
「」
二人が驚愕して見上げる空は先程の青白ではなく、なんと闇の赤雲が立ち込める紫焔で染まっていた。
『神の死』
その事実を伝えるには、十分すぎる光景だ。
「ッ!!」
後ろから強烈な悪感情を感じる。
異常なまでのその悪感情。普通なら他人が抱いていても感じないそれが、なぜ姿も見えていないのにここまで明白に分かるのだろうか?
それは振り返ると一目で分かった。
しかし一方には悪感情に支配されて豹変してしまった自分の仲間の姿、そしてもう一方には
――― ライバルだったかつての親友の姿だった。
『よぉ、久しぶりだなぁザコ野郎・・・!!』
「う、ウソだろッ・・・!!??」
『なんだよ、俺の顔ぉ忘れちまったのかぁおい?』
開き斬った眼孔に裂けた口元、豹変ぶりが顕著に見える
深い闇のオーラが包み込む、悪感情で精神を支配されたその者の名
――― ソリュー=エルゴ ―――
そのソリューを目の前に、レイのステータスパネルは敵の出現を通知する。
『“魔王獣”デモンズカウザム が現れた。』
次回投稿日;6月15日