レベル61 静まれ 《プリフィケーション》
『この先に、あなたの探すモノがあります。』
見えたのは、たった一文だけ。
スキルはそれだけ見せると、効果終了を発動者に知らせた。
「・・・どしたのベルディアくん?」
「・・・?」
一人で感情起伏していたレイを変なヤツを見る目で見てくる二人。実際スキル発動中、短い時間だったがかなりの起伏っぷりを見せていた。
しかしそうなるのも必然である。
落ちていた石は、なぜか自分に向けてメッセージを発していたのだから。
「どうやらこの先に何かあるみたいだぜ?」
「「え、そうなの?」」
「あぁ、この石にそう書いてあったからな。」
「なんて書いてあったの?」
「『この先に、あなたの探すモノがあります。』ってよ。」
「ベルディアくんの『探すモノ』ってなに?」
「え?それは・・・」
レイの『探すモノ』、そのもの次第ではハズレくじを引く可能性だってある。もしレイの望むものが『鵺族の魔物』であるならば、この先に待ち受けるモノはその魔物になる。目的はそうでも、やはり心構えの時間は欲しいものだろう。
レイは先程の自分が望むものを、これはこれはと考え始める。
「・・・ソリューだな。」
このクエストを引き受けた理由。目的はレベル上げであり、理由の一部に『シル・ガイアと対面する』というのもあった。
しかしそれ以上に期待を持っていたこととは、『この鵺が、あの石のソリューとつながっているのならば』。
「・・・魔物が来る確率はゼロじゃないが、そんなに高くないと思うぞ。」
「でも確率がゼロじゃないってことは、この先も用心しないとだね・・・ん、どうしたのシェリーちゃん?」
ふと芽衣は前方の様子に強く惹かれる少女に一声をかける。
またシェリーお得意の『高い察知力』だろうか。
「・・・あれ、なに?」
小さめの声と同時に、シェリーは前方を指差して手を震わせる。
「え、どれ?・・・ッ!!!! ――――
「え・・・!!??」
『バフォメット』という悪魔をご存知だろうか?
知らない人がいたら目の前の光景を是非見てほしい。
山羊の頭を持ち、上半身は亜人と思えないほどの大きくごつい体格。
両腕には太い血管がまるで生き物のように皮膚内で蠢いている。
しかしその顔つきを見ると、ある一人にとってはかなり見覚えがあるものだった。
「なんだよ・・・なんだよこれ・・・!!??」
「誰だこれはッ・・・!!?」
ある一人とはレイでも芽衣でもない
シェリーだった
「パ、パ・・・・!!??」
~~~~~
シェリーは物心が付いた時に父を亡くした。
その時シェリーと母マイアには『魔物に襲われ、傷口から侵入した病原菌に侵され亡くなった』と伝えられていた。
その宣告を受けてから現時点で7年ほどが経つ。
しかし亡くなったはずの存在がなぜこの場所に。
「シェリーこれお前のオヤジなのか・・!?」
「うん・・!!パパと同じかおしてる・・・!!??」
「ベルディアくんスキル発動してみて!早く探ってみないと襲ってくるよ!!」
『スキル2;「ルート」を発動します。』
(どういうことだよこれッ・・!!??)
『暴走する御霊から豹変した悪魔。豹変前に持っていた名は・・・ ―――
――― マルコ=クラシア。』
「シェリーのオヤジの名前って“マルコ”、か・・!?」
「うんそうだよ・・・やっぱりあれってパパなんだ・・・!!!」
3人の目の前で紫色の眼光を放ちながらの“悪魔”を見ていると、かつての『妖精族で一娘の父』とは全くイメージが合わない。
その姿は、あの時ベルトディア村に出現したミオンの祖父・クロムのようだ・・・
要するに、『殺人鬼』である。
「ベルディアくん来るよッ!!」
芽衣の声と同時に、悪魔が3人の方へ猛突進。手持ちのハンマーは軽く100キロを超えていそうな重さだが、それを易々と振り回していることろを見るとやはりこれも“モンスター”である。
「ッ!!・・・!?おいシェリー!!」
回避態勢の2人とは別に、シェリーだけはそのまま動かない。いや、あまりもショックに動けないのだ。
「シェリー逃げろ!!ソイツはもうお前のオヤジじゃn ―――
「シェリーちゃんッ!!!」
悪魔は、ついにシェリーの前に。
震えのままに動けないシェリーの前で大きなハンマーを振り上げる。
「やばいッ」
「ッ!!」
!!!!!!!
「・・・ㇵ!!レイ!!」
「くぅ・・・!!」
数ミリの差、竜王の剣が振り下ろされたハンマーをギリギリで食い止める。
しかしハンマーの重さが比重した悪魔の一振りはかなりの力量で、『キルディ』補正効果がかかったレイでも利き手の方の右腕が麻痺し出すほどのもの。
豹変クラスの敵の攻撃はなんでこんなに重いのか。
「ベルディアくんどうするの!?倒しちゃマズいんでしょ!?」
「あぁそうだ!!気絶程度でもんd ―――
(いや待て!コイツ元はシェリーのオヤジの魂だ。あの時みたいに怒りを鎮める方法はとれないモノか・・!?)
レイは芽衣との戦闘を思い出す。ミオンが使った『ルーピング』で芽衣の心中に潜入、そこでアクションを起こしたことで芽衣の怒りを鎮めることが出来た。
しかし今回の場合はどうなるのか?
あの時の『ルーピング』のようなスキルも無ければクロムの時みたいなドッペルゲンガーでもない・・・
ではどうする?
ここで倒してしまえば、おそらくこの御霊は消滅する。豹変した魂を元に戻したいのだ。
(・・・!!)
(・・・!!!)
「・・・クソッ、分かんねぇ!!」
悪魔は再びハンマーを振り上げる。
!!!!!
「行動だけは食い止めないと・・・!!スキル発動!!」
『スキル3;「神徒の咆哮」を発動します。』
「やぁ!!」
スキル発動の次の瞬間、芽衣の両手から凄まじいほどの波動が放たれた。
神の咆哮を纏った聖なる光の波動・『神徒の咆哮』、悪魔の動きが大きく崩れている。
「軽く攻撃するよ!?」
「死なない程度に弱めてくれ!!」
「了解!」
芽衣は左手に気功弾を召喚する。
「シェリーちゃんゴメンね!!少し動きを鈍らせるから!」
麻痺の能力を纏わせ、芽衣は悪魔に攻撃を放った。
「 『光神貫』! 」
悪魔へ一直線に放たれる気功弾は、悪魔の数ミリ前まで達すると巨大な電撃を放出する。この電撃に麻痺効果を仕込んだのだ。
攻撃のレパートリーがダントツで多い芽衣はこのような高等戦術も兼ね備えている。
自分の特技にとある道具の効果を付与すると、特技による攻撃ダメージにその道具の効果が追加されることがある。芽衣が今やっているのはまさにこれ。
ビリビリッ!!!!!!
「ッ・・・!!!全然効いてないね・・・!!」
『神徒の咆哮』の効果を端的に言うとゲリュオンの雄叫びと同じ効果、よって回数を重ねるとしだいに効果を失う。別に攻撃力や体力を奪うような攻撃ではないために時間稼ぎ以外の要素を持たない。さらに状態異常にもある程度の耐性があると来た。もう完全に上級モンスター。
「ッ・・・!!」
芽衣は再び攻撃態勢、麻痺道具の量も先程の2倍に。
そして気功弾も明らかに大きい。
「てやッ!」
芽衣は、攻撃を放った。
「 『雷神貫』!! 」
「待って!!!」
気功弾が手を離れる本当に直前、ある者の一声が全体にこだまする。
対する相手はダメージは残ってるようで動きが遅れている。
「・・どうしたの、シェリーちゃん。」
「お姉ちゃん、私にやらせて。」
「え?シェリーお前何か策とかあるのか?ここで殺っちまったらこのまま消えちゃうぜ!?」
「レイ大丈夫!私に少しだけお願い!」
「ま、まぁ考えがあるならいいが・・・」
シェリーはそう言って目の前の悪魔と正面対峙。
いつものシェリーからは想像もできないほどの集中力と眼力、まっすぐと悪魔と化した自分の“父”を見ている。
・・ふと悪魔の動きが止まる。
いや、正確には『シェリーを見たままその場に立ち尽くす』である。向こうも目の前の少女が自分の娘だと気づいているのだろうか。
「・・・」
シェリーは背中の弓を手に装備、矢を弓にゆっくりと納める ―――
「大切なひとをすくいたいの。」
――― 目の前には悪魔が一体、だよ ―――
「違うよ。あれは今苦しんでるわたしのパパ。」
「だから私が、それを楽にしてあげるの。」
――― できるの? ―――
「・・・ひとりじゃできないな。だからキミのチカラを借りたいな。」
――― ぼくのチカラを? ―――
「うん。おねがい、私にチカラを貸してくれる?」
――― ・・・じゃあ目を瞑ってよ ―――
――― キミにチカラを授けるよ ―――
――― これで悪を取り払って ―――
――― キミのパパを、解放してあげて ―――
「うん・・・分かってるよ・・・!!!」
『スキル2;「プリーフィオ」が発動しました。』
シェリーが納める矢の元に数多の光の粒が集まり出す
見ているだけで温かくなる、優しい聖なる光たち
すると目の前の悪魔は、シェリーの矢の前に自分の身体を差し出した。
そして気づいた時には、悪魔の眼には紫の眼光ではなく透明な涙が溜まっていた。
「・・・おやすみ、パパ。」
シェリーは、矢を放った。
「 『浄化閃』 」
光の矢は悪魔の心中を貫くと、貫いた箇所からたくさんの光達が身体全部を包み込み、
そしてその光達と共に、悪魔の身体は空気の中に消えていく。
『暴走する御霊から豹変した悪魔を浄化。それぞれ経験値1500、0ゴールドを獲得。
スキル発動;レイ=ベルディア、シェリー=クラシアは経験値6000を獲得。』
シェリーは自分の父を、浄化した ―――
次回投稿日;6月6日