レベル58 理由 《ダークサイト》
「てやッ!!」
「シェリーちゃんそっち来てるよッ!?」
「あわわ・・!!」
ただいま朝の10時頃。
5人はシェリアス付近のとある森林内でレイが大好きレベル上げ中。
「行っくよ~!!!」
ビュンッ ―――
!!!
「よし命中だ!」
『あげリンを討伐 経験値2500、1ゴールドを獲得
スキル発動;レイ=ベルディア、シェリー=クラシアは経験値10000獲得。』
「おぉ、これホントに経験値多めだな・・・これは効率が良いかも。」
「いや、でもこれ倒すのに時間結構かかるけどね・・・」
シェリアスの周辺にある『サウスシェリアス密林』には、経験値がたくさんもらえるお得モンスター『あげリン』が多数生息する場所でもある。いや、正確には『あげリン』しかいないのだ。よってここで多くの冒険者がレベル上げの効率を上げることが出来る。
この森はかなりお得な育成場所なので、シェリアス町民のとある団体が『一人で3時間5000ゴールド』というビジネスを展開している。しかも結構儲かってるらしい。まさかのたった3時間のレベル上げで総額25000ゴールドは、結構大きな支出である。
さらにこの『あげリン』、全ての呪文攻撃が全く効かない。変で厄介な特性もあったものだ。
「・・・よし、まぁコイツの強さが分かったから今度はチーム作って分担作業な。」
「ベルディアくん、分担作業ってなに?みんなで倒してくんじゃないの?」
「あ~、芽衣さんはうちのレベル上げスタイル知らなかったんだったな・・・おいアリナ、解説よろ。」
「何で私なのですか・・・まぁいいです、分担作業というのはグループごとに分かれてそれぞれ魔物を狩っていくスタンスですよ。パーティー内の誰か一人が魔物を倒せばパーティー全員にその分の経験値が入りますから、こちらの方が効率が良いんですよ。」
「まぁ芽衣さんが来るまでは2つのグループに分かれてやってたんだけどね・・・芽衣さんが来たらもっと捗りそう!」
「というわけだ。じゃあグループはいつものやつで芽衣さんはみお姉側に入ってくれ。」
「分かったよ(ミオンちゃんはレイくんとじゃないんだ)。」
「集合場所は密林の入口の受付な。じゃあ開始!できるだけ多く狩りまくれ!」
「「「「了解ッ!」」」」
グループのメンバーとは、まずAチーム;レイ&シェリー Bチーム;ミオン&アリナ&芽衣。
ではAチームから見ていこう。
その前にこの『あげリン』について簡単に補足説明を。
『あげリン』は攻撃力に関しては普通並みなのだが防御力が異常に高く、軽く一万を超えるそうだ。よって与えられるダメージはクリティカルヒットしない限りずっと1だ。さらに謎の特性により呪文は一切効かない、状態異常系呪文も込みでだ。まるでド〇クエのメタ〇スライム。
しかし、このクリティカルヒットが出やすい武器種類として弓・杖・槍がある。なので攻撃力が万年8のアリナでも、十分な戦力になる。というのもこの『あげリン』のヒットポイントは、たったの“10”である。さすがのアリナでもクリティカルでは10を超えるだろう。
軽く説明を終えたところで、Aチームの状況を覗いてみよう。
「ッ!! ッ!!・・・やっぱ倒すのに時間かかるなぁ・・ハァハァ」
「そう?かんたんじゃない?」
「お前は弓だから会心攻撃が出やすいんだよ・・・でもまぁカンケ―ねーや、シェリーぶっ放せ!」
「おっけー!!」
シェリーは目の前のあげリン約10体に弓の弦を素早く引く。
シェリーはテンション高めのこういう時に新特技を生み出すものだ。見たことない動きをしているから、多分今回もその流れだろう。
しかも普段はゆるふわ口調のくせに技名叫ぶときの発音だけはプロの声優さん並みなのも謎だ。
シェリーは矢の束を弓に収め、次の瞬間に弦を離す。
シェリーの新技、またもや誕生。
「 『追撃閃!』 」
叫ぶと同時に放たれた複数の矢は、それぞれあげリンに命中する。
しかしこのネーミング通り、ただ一発では終わらない。効力が切れるまでその矢はひたすら対象を貫いていく。
文字通りの自動追尾、まさに『ホーミング』だ。
「あ、シェリーまだ取りこぼしてるぞッ!!」
「えッどれ?」
「これは俺がやるぜぃ!!」
レイは剣を手に得意技『竜閃炎』ッ!!・・・ではなく、ただ思いっきりあげリンに振りかぶっていく。
というのもこの『あげリン』、なんと属性攻撃も効かない。つまり本質は物理的斬撃でも、そこに属性が付与された攻撃になるとまったく効かないということだ。
ここまで来るとホントにメタ〇スライム。
「てやぁ!!」
ちなみに冒頭の『てやッ!』はレイである。まぁどうでもいいか。
『あげリンの群れ(11体)を討伐。経験値27500、11ゴールドを獲得。
スキル発動;レイ=ベルディア、シェリー=クラシアは経験値110000獲得。』
と、倒した次はこんな表示が目の前に表示されるのだ。
「おいおいおい経験値11万だってよシェリー・・・!!!こりゃあ大漁だぜおいおい・・・!!」
「わたし今のでレベル上がっちゃった・・・!!」
そしてBチームサイド。
こちらでは、松嶋芽衣の一人勝ち状態。芽衣が倒した総数は二人のそれを軽く超えている。
呪文が全く効かないこの『あげリン』だが、そんなの芽衣には関係ないみたいだ。
手持ち装備の『裂空の槍』を手に、ひたすらあげリンを狩りまくる。
「 『神貫』! 」
まっすぐ貫いた槍の先、あげリンは急所を瞬時に貫かれてあっという間に討伐完了。
「ふぅ・・さぁ次行こうかな。」
こんな感じでどんどん討伐していくものだから、作業効率はかなり良い。3分に一体倒す勢いだ。
対するミオンとアリナは手持ちの杖で攻撃を続けているが、全然数は及ばない。
そして続けること3時間が経過 ―――
5人は入り口付近の受付に再集合。
まずは結果から。5人が討伐した『あげリン』の頭数はAチーム131体、Bチーム163体の合計294体。経験値に換算すると985000、特に獣騎士二人の場合は3940000という破格な数字を叩きだした。
よってこの5人のレベル上げの成果も、かなりぶっ飛んだ結果となった。
ではこちら↓
『レイ・・・魔法戦士レベル29、ランク10
ミオン・・・プリーストレベル40、ランク9
アリナ・・・賢者レベル18、ランク9
シェリー・・・アークレンジャーレベル26、ランク9
芽衣・・・アークレンジャーレベル19、ランク12』
という、上がったレベルを平均して9.2という驚異的な伸びしろを記録。当然この森の経営陣はレイたちにより大赤字、しばらくの休園を余儀なくされたそうだ。ちなみにこの一件で運営から
「てめぇら狩り過ぎだコラぁ!!!」
とかなりマジ顔で言われて即座に出禁を喰らったとさ。
「結構上がったね~」
「はい、私なんて新しい呪文も覚えちゃいましたよ!かなりお得でしたね!」
「まぁ出禁喰らっちゃったけどね・・・」
「『できん』ってなぁに?」
「『もう入っちゃダメ』ってことだよシェリーちゃん。」
あの森の約束を何一つ破ったわけじゃないのに・・・
「・・・でもレイくん、なんでこんな急にレベル上げする必要があったの?ゆっくり上げてってもよかったんじゃない?」
「それなんだが・・・とあるクエストを見つけたんだ。」
「どんな感じですか?」
「まぁダンジョンの魔物討伐みたいな感じのヤツだ。でもそのクエスト受注には条件があるみたいでな・・・」
「条件ですか?」
「そこまでキツい内容のクエストなんじゃない?張り紙持ってたらベルディアくんちょっと見せてよ。」
「今持ってるから、ちょっと見てくれ。」
レイは芽衣に応えて、シェリアスのギルドに張られていたビラを4人に見せる。
『種類;《緊急クエスト!!》
クエスト内容;蒼天の塔に姿を現した鵺族魔物の討伐。
報酬;150000ゴールド
条件;ランク9以上の冒険者(ただし過半数が上級職の4人以上パーティーに限る)。』
「なるほどね・・・だからあの森で急遽レベル上げってことね。」
「緊急クエストでここまで条件を絞るとなると、おそらく厄介な魔物が現れたのでしょう。しかも鵺族の魔物となると、一筋縄ではいかなさそうです。」
キマイラ種に属する鵺族の最大の特徴とは、まぁ研ぎ澄まされた五感(特に感覚)もそうだがだが、やはり一番に来るのは『結界を使ってくる』という要素だろう。
結界は形成されると討伐が困難を極める。まず結界が発動中には、その魔物自体に近づけないのでそこでタイムロス。さらに別に相手の方は攻撃できない訳ではないので、結界が張られた状況でも躊躇なく攻めてくる。要約すると、『一方的な攻撃を仕掛けられる』ということだ。
「まぁそれほどの相手なら経験値も高そうだけど・・・でもレイくん、これそんなに受けたいの?」
確かにこのクエストを経験値目的だけで受けるとしたら、先程出禁を喰らったあの森で良かったはずだ。
「いや、経験値だけが目的じゃない。みお姉思い出してみろって。こんな感じのクエスト、前にもあったろ?」
「え?あったっけ?」
「ほら、あの『神代のほこら』のペーディオ戦だ。」
神代のほこらに突如出現した黒獣ペーディオ。確かに序盤はあの時と状況が似ている。
「もっと言えば暗黒洞のベヒーモスだってそんな感じだったろ?」
「確かにそうですね。それが原因で観光地のレイヴィ鍾乳洞が閉鎖されたのは最近の出来事だって、確かギルドの職員さんがそう言ってましたね。」
「しかもペーディオの方は多分シル・ガイアの方の松嶋芽衣と連携しているはずだ。」
クルスオード帝国の悪霊ディモーネ戦で突如降臨したシル・ガイアが言っていた言葉、
『お前には失望した ペーディオと同じ結末とはね 』
レイはこれを覚えていた。
「ペーディオの事件がシル・ガイアと関係したものだったなら、手口が似たような今回もひょっとしたらシル・ガイアが絡んでるかもしれないだろ?」
もしそれでシル・ガイアが関係していたとしたら、今ここにいる芽衣の前に姿を現すかもしれない ―――
レイはこう言っているのだ。
「・・・なるほど。」
「芽衣さんは確かもう一人の自分に会いたいって言ってたから、これでもしかしたら会えるかもしれない。どうだ?行くかみんな?」
レイの問いかけに3人は一斉に一人へと視線を向ける、芽衣にだ。
今のレイの意見を聞いて一番このクエストに関係しそうなのは彼女である、まずは彼女が行きたいと言わないとあまあり意味がない。
「会えるんなら、私は行くよ。」
「・・・じゃあ私達もだね、ね?」
「そうですね。」
「いく~!!」
こんな感じでクエスト受注が決まり、5人は明日にシェリアスを出発する。
クエスト依頼の場所は南西にある『蒼天の塔』。距離も少し遠いが我慢していくことにしよう。
しかしレイがこのクエストを受けた理由、決してシル・ガイアがらみだけではない。いやむしろもう一つの理由の方が濃いほどだ。
一度クエスト内容を見た時、『鵺族』というワードを目が留まったからだ。でもそれはなぜか?
そう、それは
拾った『あの石』を思い出したからである。
次回投稿日;6月3日