レベル56 真相 《サイコパス・エンド》
ここは真っ白な世界
ここにいるのは松嶋芽衣とレイ=ベルディアただ2人・・・ではなく、
松嶋芽衣と、その双子の弟の
松嶋玲、二人だけ
『・・・姉貴』
「ッ!?・・どういうつもり?お前とは縁も切って話もしたくないっていっただろ?」
『大事な話があるからその話は一旦チャラだ。』
「チャラ?できると思ってんの?私を陥れた張本人に言われてんのに?」
『とにかく今は話を聞いて欲しい。その後だったら何してくれてもかまわない。』
「・・・」
『今は、とにかく聞いて欲しい。』
「・・・一体話って何よ?」
『美央は、姉貴を嫌ってなんかいなかったんだ。』
「・・・ウソよ」
『嘘じゃない。確かに美央は姉貴に酷いことを言っていたかもしれない。』
「自分でも『嫌ってた』って言ってるもんじゃないそれ。」
『でもそんな時、美央の周りには他の女子たちがいたはずだ。』
「・・・それがなに?」
『姉貴は分からなかったかもしれないが、あの時美央はいじめられてたんだ。』
「ッ!?・・・なんで?いじめられてたのは私でそれはあんたのせいでしょ!?」
『他の女子たちは姉貴と親しい美央につけ行って、姉貴に酷い態度を強要するように脅しつきで言ったんだ。』
「え・・?どうして・・」
『他の女子たちはクラスで最も容姿が整ってる姉貴に嫉妬して消したがっていたんだ。』
「・・・だから美央ちゃんにそう言って私を不登校まで追い込んだってこと・・・!!??」
『姉貴が美央を殺める前、俺は美央にそのことについて相談を受けてたんだ。姉貴が勘違いをしたのはそこらへんだろ?』
「・・・付き合ってるとかも勘違いだったっていうの・・・?」
『あぁ、俺は相談を受けてただけだ。美央以外に姉貴を良く知るのは俺だけだったから。』
「・・・」
『・・・まずは分かってくれたか?』
「・・・」
『美央は、姉貴を嫌ってなかったってな。酷い言動は全て強要されたヤラせだったんだ。』
『だけどそんな状況を抜け出したくて、「どうすればいい?どうすれば芽衣ちゃんを救える?どうすればこんなつらい生活を抜けられる?」・・・晩期はそんな会話ばかりだったぜ。』
「・・・そんなの、話してくれなきゃわかんないよ、、!!知ってるのはあんただけじゃない!!」
『・・・まぁそうだな。』
「あんたが私に教えてくれれば、あんなことせずに済んだじゃない・・・!!」
『俺がその事実を美央から聞いてから間もない間に、美央の訃報を母さんから聞いたんだぜ。姉貴がやっちまったのは、俺と美央が分かれてからすぐだったろ。』
「そんな・・・!!」
『当の美央だってあの性格。俺に相談するのにどれだけ時間がかかったか。おそらくあの女子軍団に相当やられていたんだろうな。』
「・・・」
『・・どうした姉貴。』
「・・・美央ちゃんは私が嫌いになって私へのいじめに加担していたことも、あんたが美央ちゃんに私が嫌いになることを告げ口していたことも・・・全部私の勘違いだったっていうの?」
『勘違いだ。』
「・・・」
『美央は姉貴を嫌っていないし、俺だって姉貴を嫌っていない。』
「・・てよ」
『姉貴?』
「やめてよ・・やめてよやめてよ!!最後まで『美央ちゃんと家族に嫌われた松嶋芽衣』でいさせてよ!!実は裏で必死に考えてくれてたって・・・じゃあ私はどうすれば良かったって言うの??!!」
『・・それは』
「どうすれば良かったの??!!美央ちゃんじゃなくて私だけが無くなれば良かったの??!!それくらいしか思いつかないよ、、、」
「美央ちゃんのことがもし全部本当だったら、私は美央ちゃんにどう償えば良いの・・・?」
『・・・俺にも分からない。』
「私はもうあの世界にいないし、美央ちゃんもいない。償い方も償う力も何もないよ・・・」
『・・・』
「どうしたら美央ちゃんは許してくれるの・・・?」
「どうすれば良いの・・・」
『スキル2;「ルーピング」が終了します。』
~~~~~
「ッ・・」
レイは少しの間、この世界から意識が消えていたようで
横には先程いなかったアリナがレイに大丈夫ですかと言っていることころを見ると、お前瞬間移動でもしたのかと思うほどだ。
意識が飛んだ状態だった、こういえばレイの状況を伝えやすいかもしれない。意識が飛んだ状態だとその間の意識がないため、目を覚ますと周りの状況と光景に驚くのが定石パターンだそうだ。
いや、
実際アリナは凍り付けにされていたはずだが?
いや、もっと言えば
みお姉はさっきまで操られていたはずだが?
ミオンはレイのすぐ横でシェリーが寝かせている。
「ッ!!そうだ!!アイツは!?操り主はどうしたッ!?」
「ッ!?きゅ、急に大声出さないでくださいよ・・・まぁあの方でしたらあそこに居ますよ?」
「えッ・・?」
アリナが指差す方向を見たレイの眼には、『ごめんね』とつぶやき続ける彼女の姿があった。
「・・・」
よく見たらミオンの解除と言いアリナの凍結解除と言い、おそらく芽衣が作っていたあの私物世界はひょっとして消えているのか?
確かめる術、それは『村があるかどうか』である。
なので本当は今すぐここを出て外を状況を確認するべきなのだろうが・・・
レイの足は自然と芽衣の方へ向いていた。
「ちょレイさんッ・・危なくないですかッ・・・!?」
「レイ・・・大丈夫なの・・・?」
後ろには心配の眼差しを向ける2人、しかしまぁ問題はないだろう。
おそらく今の彼女に戦意などないだろう、だってあんなに懺悔しているのだから。
「・・・気持ち、整理出来ましたか?」
レイは今芽衣と物凄く近い距離だ、先程であったらすぐに攻撃されてしまうほどの至近距離。
でも、大丈夫だろう・・・
「・・・ベルディア、くん・・・・・」
彼女は涙を溜めた瞳をこちらに向けてくるのだから。
「スキルであなたに起こっていた過去とか見ちゃいましたけど、でも多分あの時に弟さんが言ってたことは本当のことだと思います。」
「・・・知ってるよ。」
「?なにをですか?」
「・・・あの異空間で弟を出したのは君でしょ?あの異空間は私が作ったものだけど、弟の御霊を自分の身体に宿すことは出来ないもん。」
説明しよう。
ミオンに突如与えられたスキル『ルーピング』。
このスキルの本質を言ってしまうと、芽衣が造り出した異空間で芽衣がいてほしいと望む何かに与えられる特殊能力であるのだ。
まぁ簡単に要約すると、『芽衣が一緒にいたいと思う何かに発動するもの』ということだ。
芽衣が言うには、現実逃避のために自分で作った妄想世界のキャラクターにかつての親友・五十鈴美央にかなり似せたものと双子の弟・松嶋玲に似せたものを作ったのだ。しかしそれが偶然にも異世界に暮らすミオンとレイの境遇にぴったりと当てはまってしまい、そしてミオンは芽衣の妄想世界へと引き込まれたということだ。
まぁ上記の長すぎる説明をこの一文で要約すると(てかさっきから要約しすぎ)、
『芽衣の妄想世界が、たまたまレイたちがいた世界だった。』
こんな偶然、他にあったら泣くぞ
「・・・でも君が弟に御霊だけでも会わせてくれたから、今まで曇ってたものが晴れた気がするよ。ありがとう、ベルディアくん。」
「・・・それはよかったです。」
「じゃ、あの子たちにも謝らないとだね。」
芽衣はそう言ってその場を立つと、そのまま直進して2人と眠る1人の元へと向かっていく。
その光景に1人はかなり怯え、1人は近寄るなと追わんばかりの表情、1人は無表情(←寝ているだけ)。
しかし芽衣がその3人に向けて謝罪するとあらびっくり、2人はキョトン顔になってしまいましたよ。
そんな2人のマヌケ面を見てレイはくすっと笑った、久しぶりにこんな気持ちで笑った気がする。
おそらく時は久しぶりというほど経ってはいないだろう。
まぁこちとら時間が戻ったり止まったり違う世界に言ったりとかしてましたからねはい。
とにもかくにも、これでひとまず『次元入れ替え』とかいう問題は解決できたみたいだ。
・・・いや、まだ分からないだっけか。
「・・・ベルディアくん、ちょっといいかな?」
ふと芽衣がレイを呼びかけた。
「はい?なんですか?」
レイはその声に呼応して芽衣の方を向く。
すると芽衣の表情は何だか少し険しいような気がしなくもないがしない訳でもない。まぁ『気がする』ってことだ。
「・・・どうしたんですか?そんな顔して・・・」
「いい?よく聞いて欲しいの。」
それから芽衣は、またもや頭がこんがりそうなことを話し始めた。
自分は異世界に転生する前、こことは異なる異空間で神さまっぽい人からいくつか能力を授かっている。
そしてこの世界へいざ転生・・・するはずだったが、
当時芽衣が抱えていた憎悪があまりにも大きなものだったため、転生するには2対象に分けて転生させる必要があったそうだ。激しい憎悪を大きいまま一人に持たせて転生させると、何かのバグで瞬時にゲームオーバーらしいとのこと。
よって転生先では2人の『松嶋芽衣』が存在する羽目になったわけだ。
問題はここから始まる(らしい)。
二人存在する松嶋芽衣だが、内一人は今ここにいる芽衣。
そしてもう一人はというと・・・
「あん時のシル・ガイアってマジかおい・・・!?」
もう一人とは魔物に意識を侵食されつつある『魔物のシル・ガイア妃』・松嶋芽衣。
クルスオード帝国の乱に置いて召喚魔獣のディモーネを凍り付けし、最後は突然声だけで登場した何者かと共に退避した『魔物のシル・ガイア妃』である。
ちなみに神さまっぽい人から貰ったチート的異能力は4つ。内二つはここにいる芽衣、もう2つはシル・ガイア妃となった方が持っているらしい。
今ここにいる芽衣が使える能力は隠蔽呪文『プラニイェト』と高位蘇生呪文『ブリッシュヴェール』であるらしいので、こちらの芽衣はレイがあのドボン下した池で会っていたほうの芽衣ではないということになる。しかし雰囲気は似てるんだけどな・・・
「・・・で、ここからが本題なの。」
「まだあんですかさいですか・・・」
芽衣はその場で一旦一呼吸、そして本題をこう述べた。
「もう一人の松嶋芽衣に会わせてほしいの。」
ここからどうなったか、もうここまで読んでいる人なら簡単に分かるだろう。
そう、これである。
『《松嶋芽衣》を、レイ=ベルディアのパーティーに登録しました。』
「ミオンちゃん、ちょっと良いかな。」
大分ミオンも回復してきたみたいだ。
「本当にごめんなさい。私のせいで辛い目に合わせてしまって・・・本当に、ごめんなさい。」
「あ、いや・・・」
唐突の謝罪で、当のミオンもあたふたしているようだ。
「私はここに来る前、誰かを傷つけてしまった。残りの時間をかけて精一杯償っていきたいって思ってる。だけどその人は、もういないんだ・・・」
「・・・」
「だから、私は精一杯君たちを守りぬくことにしたの。」
「美央ちゃんは小説を書くのが好きだった。・・何の偶然か、この世界と同じ世界観だったんだけどね。」
「この世界とこの世界にいるキャラクター、ミオンちゃんも含むこのパーティーメンバーがそのキャラクター。ミオンちゃんは美央ちゃんととても似ているけど、ミオンちゃんだけじゃいこのパーティーメンバー全員を守りたい。」
「美央ちゃんが残したと信じてるこの世界を、キャラクターを守ることで、少しでも償いをしたい。」
そう告げた芽衣の眼から、狂気じみた雰囲気は跡形もなく消えていた。
「こんな償い方でも、美央ちゃんは許してくれるかな・・・」
「ねぇ玲くん、こんな形でも美央ちゃん許してくれるかな・・・」
洞窟内に注ぐ風は、変わらず穏やかなままだ。
ミオンもかなり回復してきたところで、新しいメンバーも加わったパーティー一行は聖窟を後にする。
まぁここはいつもの世界だと予想は突くものの、やはり実存する証拠も見たいようで。
レイたちは聖窟を出ると、真っ先にベルトディア村へと足を運ぶ。
あの森を歩くこと数十分、途中でレイがドボンした池とか見つけたりしているうちに目的地に到着。
到着してみるとやはりベルトディア村は本当にあり、芽衣の妄想世界ではアリナやシェリーの記憶や知識から抹消されていたはずのベルトディア村なのだが、シェリーはともかくアリナはこの村の名前を知っていたようだ。
あの世界では、アリナも妄想世界の影響を受けていたのだろう。芽衣曰く後遺症はないというが、まぁもう少し様子を見てこうと思う。
ちなみに妄想世界で異常なまでに急上昇していたミオンのステータスだが、今は元通りに・・・ではなく、元のステータスから伸びている箇所もいくつかある。しかしこの伸び幅、まぁこの世界で普通の伸び幅である。
あとミオンの二個目のスキル『ルーピング』は綺麗に無くなっていた。まぁ世界の時間を巻き戻す能力という神がかった能力を持っている方がおかしいと言うモノだ。
一通り村を周り、異変はないことを確認したい。
5人はぐるっと村の周辺を散策する。図書館ではミオンの祖父クロムもピンピンしていたので問題なし、レイの両親も問題なし。
まぁ問題はないようにも見えた。
しかし、完全になかったわけでもなかった。
「あれ、ソリューはどこだ・・・? ―――
返事は、返ってこない ―――
第5章 終