レベル55 舞闘 《サイコパス・フィースト》
今まで見た中でミオンがしてきた表情はどこにもない、初めてあんな顔を見た。
まるで感情が無くなったかのようなその表情は、心無くレイ一点を見つめているようだ・・・
しかし今のミオンに3人の声は全く届かず、ミオンが反応するのは芽衣が何か言った時だけだ。
しかもその時ミオンはただうなずくだけだ。見ているだけで気味が悪い。
「お姉さまッ・・!!」
アリナなんて変わりように膝からガクッと崩れる始末。シェリーもまだフリーズ状態だ。
しかしレイ、前のミオンはよく見てみるとあまり自分の意志が通っていないようにも見えてくる。確かにこんな短期間に心理を逆転させるなど普通ではない。
そんなことはお構いなしだと言わんばかりにここまで行動を変える程のチカラ・・・いや、少し違う。
おそらく前のミオンは雁字搦めの状態のはずだ。表情から感情が感じられないのを見てもそう、先程から一言もしゃべらないのもそうだ。
――― 操られている ―――
もし芽衣がミオンの精神を乗っ取って操っているのだとしたら
フィルの御霊の言葉を思い出してみる。
芽衣はおそらく『誰かを操ってまでしないと怒りが収まらないほどの憤怒を抱えている』ということになる。
つまり芽衣の憤怒を消化するにはその操り人形を使って何かを壊すのが最も強い選択肢だ。
いや、もう言ってしまおう
――― 芽衣は操ったミオンの手でレイを殺めたいのだ。
『・・・』
――― ミオンちゃん、いいよ ―――
『・・・』
――― 殺ってもいいよ ―――
次の瞬間、操られたミオンは高速でレイに襲い掛かってきた。
「ッ!?」
レイが驚いたのはそのスピード。3人が知っているミオンの素早さ(ステータスパネル上では『瞬発力』と表記される。)はここまでのものではなかったはずだ。実際通常のミオンの素早さよりも数値的に勝っているシェリーでさえこんな高速ではなかった。
『操作』能力の恐ろしい効果である。
操作環境が成立した瞬間、操られた者のステータスは操り主の思い描くままになる。つまりこの異常なまでのスピードは全て芽衣の思惑通りのことなのである。
よって今のミオン、速さでさえ異常値だ。
攻撃力に至っては・・・もう察しがつくだろう。
ッッ!!
「うわッ」
拳一発で、レイを岩壁にぶっ飛ばした。
!!!!!!!!!!
レイも咄嗟に剣でガードしていたものの、異常なまでのスピードに相乗した異常なまでのパワーに耐えきれず勢いのまま衝突してしまう。
回避しない限りこの結末は変えられないと思う。
「レイさんッ!!」
アリナはすぐさま駆け寄り、持っていたシェリアスウォーター(←回復道具の一つ)を取り出してレイの体力を回復させる。
対する操られしミオンは、アリナが傷を癒すその姿をただ眺めるだけで襲ってきたりはしていない。
ミオンの標的はレイ一つにロックオンされているのだろう、芽衣がレイだけでいいと思っているからである。
アリナが一通り手当を終えてレイの傍を離れると、再びミオンは瞬時に戦闘態勢になって今にも襲い掛かろうとしている。
レイはこのからくり、今のでもちろん把握している。
よって対策も立てられる。
「アリナまだこっちにいろ!シェリーも来い!」
こうしてレイの周りを2人が囲うことで、ミオンに少しの硬直が生まれる。恐らく芽衣に残りの二人も攻撃するようにと思われてしまうのだろうが、考える時間は欲しい、また3人に標的が増えることで相手側に多くの負担が掛かる。こちらが優勢になりやすいということだ。
しかしその相手は仲間のミオン、あまり攻撃など出来ない。
特に目の前で泣きそうな賢者少女には、絶対 ―――
「・・・アリナ、お前はサポートだ。本来はみお姉なんだができるか?」
「ごめんなさい・・・役に立てなくて・・・」
「俺だって今はいっぱいいっぱいだ。お互い様だぜ。シェリーは俺と一緒についてこい!」
「分かった!」
この少ない間でレイは考える時間を得た。
もし芽衣の怒りが収まる要素がレイ殺傷であるなら、おそらくこの戦闘はレイが倒れるまで終わらない。
それまではおそらく攻撃攻撃のエンドレス。
アリナやシェリーの負担は大きくなるが、忘れてはいけないのはミオンだって消耗していることだ。
異常値まで跳ね上がった異常ステータスでそう何度も動き回っては、いずれ身体が悲鳴を上げて動けなくなる。
正直一番心配している点だ。
(ッ・・・!!)
しかし考察タイムはそんなに長くなかった。
『ッ・・・』
ミオンがまた襲い掛かってきたのだ。
芽衣は攻撃対象をレイのみからレイたち3人に変えたのだ。
ミオンは両手に莫大な量の電磁波を召喚しながら高速で襲い掛かってきている。
特技『ジゴケルビム』、再び発動。
ッ!!!!!!
「 『焔球護』! 」
対象の周囲に球状の一時的結界を張ることで攻撃をかわすレイの新特技。
何とか2人とも結界内に入れられたが、この特技は結界を生成するために何度も使うことはできない。
さらにミオン、左手に禍々しい漆黒の魔力を召喚している・・・
召喚された魔力はうなりをあげて肥大化していく・・・
「あの技ッ・・・!!まさか・・・!?」
クルスオード帝国戦争で突如降臨したシル・ガイアが、最初に放った技をお覚えだろうか。
そう、放った波動が瞬時に炎までも凍らせる闇の氷結波動だ。
今のミオンの動きは、あの時のシル・ガイアの動きにそっくりだった。
「ッ!!アリナ逃げッ ―――
『 魔氷波 』
遅かった。
レイの横には逃げる態勢に差し掛かった姿のアリナが一臂とたりとも動かない。
万物を凍らせる闇の氷である。
しかし獣騎士の資質を持つレイとシェリーは、氷漬けを免れこの攻撃を回避できるのだ。
しかし同時に、重要な緊急回復役を失うことにもなる。
(クソ、技まで想像通りかよッ・・・!!??)
今の特技、もちろんミオンが元々覚えていたものではない。芽衣がこの技も使えると思ったせいで、ミオンに最悪な特技が身についてしまった。
よく見ればフロア全域が氷まみれだ。
――― ミオンちゃん、あの技の見せてあげようよ ―――
「・・・次は何する気だおい?」
――― あなたたちもきっと驚くと思うよ・・ね、ミオンちゃん? ―――
その返答にミオンは首を縦に振り、そして急に右手を高く振り上げた。
「・・何する気だ?」
振り上げたかと思えば左手に光のスペルを召喚、なぜかそれを目の前ではなく上空に打ち出すのだ。
スペルはとある一点ではじけ、そしてその場所がその光で輝いている・・・
「・・・あれ、あれって・・・・・!」
ミオンはそこへと飛び上がる。
「私のわざだよ・・・!!!!」
次の瞬間、閃光が放たれる。
『 輝空閃 』
ミオンは、そう言っていた。
!!!!!!!!
―――― あははは!!!どう?最高でしょ!!! ―――
芽衣は喰らった2人を見て、それをあざ笑う。
シェリーと全く同じ動きに属性、
しかし威力は桁違い
ただの閃光射撃で、地面がここまで抉れるものか
「ッ・・!!」
「うそでしょ!?」
上空のミオン、
今度は左方に右手を持っていき、何かの魔力を溜めているようだ。
しだいにその場所に、燃え盛る業火が召喚されていく。右手を見るに、何か剣を持っているようにも見えた。
いや、もう言おう。
あの技だ。
『 竜閃炎 』
レイの代表的特技。動きは同じ、属性も同じ。
でも威力はまたもや桁違い。
――― あぁ高揚感が止まらないわぁ・・!!!いい気味よ・・!!! ―――
芽衣が2人の逃げ纏う姿に激情する中、ミオンは黙って特技を連発する。
半端ない威力の特技を数発、いや数十発撃ち続けている。
対するレイとシェリーはただ逃げることしかできない。
この状態でミオンを攻撃すると、操作能力が解けた瞬間に与えた総ダメージと異常数値行動によるフィードバックの双方により、ミオンの身体に激痛が駆け巡ることになる。簡単に死に至るのだ。大ダメージを与える攻撃どころか今では通常攻撃も命取りになる。
(このまま逃げまくるだけじゃダメだッ・・・どうしたらいい・・・!!??)
レイは逃げながら必死に考える。
操作による対象洗脳攻撃を解除する方法 ―――
ミオンの洗脳効果を解放する方法 ―――
フェージョ=サタナの操作を解除した時はどのような方法であったか?
フィルが確か言っていた・・・思い出せッ・・・
『手掛かりはある。この世界の破壊条件となる対象物は発生源付近に存在する。』
ッ・・!?
『発生源を破壊』
・・・!!
――― 『この世界を破壊することで、創造主の操作能力は解除される』 ―――
「ッ!!」
『スキル2;「ルート」を発動します。』
(発生源・・・発生源・・・!!どこだ・・!?どこだッ・・!!??)
(どこだッ!!??)
~~~~
『私だけの美央ちゃん』
『いつも優しくて好きだった、あの時の美央ちゃん』
『そんな美央ちゃんが変わっちゃったのなんて周りのゴミ共が原因でしょ?』
『ゴミ共が放つ毒にやられちゃっただけなんだよね?』
『美央ちゃんは可愛いから』
『私が気に入る程可愛い子だから』
『だから美央ちゃんはモテてて、そして彼氏も出来てたよね?』
『でもその彼氏のせいで美央ちゃんは変わってしまった』
『あのクソ男が美央ちゃんに何か吹き込んで、私を陥れたの』
『許さない 許さない』
『だから美央ちゃん、その彼氏を殺してよ』
『そんなゴミなんか消して私と遊ぼうよ』
『・・・あー目の前のコイツなんてあの彼氏とそっくりだなぁ』
『ミオンちゃん殺して 早く殺してよ』
『あームカつく、思い出すだけでムカつく早く殺したい』
『だから』
『サッサト死ネヤ』
『マツシマレイ』
~~~~~
『・・・』
「レイそこ危ないよッ!!!」
ミオンの振りかぶった斬撃が、レイの元に振り下ろされる ―――
!!!!!!!
「レイッ・・・!!!」
衝撃による大爆風が辺りを高速で吹き荒れる。
たったひと振りの斬撃でここまでの爆風なんて出来ないはずだが、いかなる理屈も今のミオンには通用しない。
あれをまともに受けなどしたら、絶対に・・ ―――
――― ふふふ・・・ッ!?受け止めてる・・・!!?? ―――
『・・・』
レイは剣で斬撃を受け止め
ミオンの顔と数センチの距離
「『ルーピング』を発動してくれ。」
『・・・』
「・・・頼む。」
『・・・』
『・・・』
ミオンは、スキルを発動した。
『スキル2;「ルーピング」を発動します。』
そして景色が・世界が、変わった
次回投稿日;5月27日