レベル5 聖剣 《ガラクタ》
洞窟を出ると、外は朝を迎えようとしていた。洞窟に入る時は真夜中の時間帯だったので、そこまで早くは感じない。
しかし長い間暗闇の中を彷徨っていたレイにとって、この景色程安心感を得るものはないだろう。現にレイは外に出た瞬間、少し泣いちゃってるし。
「ハァハァ・・・やっとついたッ・・・!!」
地平線から顔を出そうとする淡黄色の太陽が、レイの凍り付いた緊張感をゆっくりと溶かしていく・・・
がッ!?
「・・・あッ!!」
しかしそれもつかの間、レイはいち早く村に帰らないといけないのだ!
村からの外出を禁じられている身なので、この事が見つかったら一日説教は避けられない!
さらには村の掟を犯した罰として、20歳まで余儀なく外出禁止されてしまうのだ!(なお、この掟についてはレイは認識していない。)
「やべぇぇぇぇ~~~!!!!!」
レイは唯一取り得の俊足を生かして、村まで一気に坂を駆け降りる!!
レイは必死に坂を駆け降りる!!
必死に村までの道を駆け抜ける!!
「うおおおおおおおお!!!!」
(間に合ってくれぇぇぇぇぇ!!!!!!!)
~~~~~~
「レイ、分かっているな?」
「・・・・・はい。」
しかしもうバレていた。
レイは今、レイの父親の前で正座中である。さらに玄関のドアの前である。さらに、他の人が見ている前である。
ザワザワ
ザワザワ
ザワザワ
公衆の面前で説教を受けることがどれだけ恥ずかしいことか。
「ったく、夜何か物音がしたから何かと思えば・・・」ハア
しかも夜の時点でバレていた。
「門番の人がお前が門から出ていくのを見かけたらしくてなぁ・・・ったく、何考えてんだバカ。」
しかも門番にもバレていた。
くそッ、超バレてんじゃんッ!!
アーナンダ門限破リカー(ザワザワ)
トットト帰ローゼー(ザワザワ)
周りの観衆も興味を無くしていなくなった後
「・・・で、どこに行ってきた?」
「・・・バル・グラデの洞窟・・・」
「ッ!?・・・・・ハァ、なるほど。あの洞窟に行ったのか・・・」
「・・・」
「・・・まぁ良く生きててくれた。それで十分だ。」
「え?あ、あぁ・・・」
(あれ・・・?)
父親は、思ったより簡単に許してくれたようだ。
「・・・なぁレイ、その背中の剣って洞窟で拾ったものか?」
「あぁ。これは落ちてたやつだ。」
レイは剣を括り付けていたロープをほどいて、それを父の前に差し出した。
「・・・」
父はその剣を受け取ると、特別何か反応するわけでもなく、ただその剣を見つめている。
実際レイが持ってきた剣は、見た目の割に相当重い。普通の冒険者でも装備はおろか、中には持つことさえも出来ない人もいる。かくいうレイの父親もその一人、今は剣を地面に置いて吟味している。
お世辞にも使えるとは言い難いほど刀身が死んでいるこの剣を見て、一体なにを思うのだろうか。
「・・・おやじ?」
すると父は、口を開ける。
「・・・お前、洞窟で何があった?」
不意の質問に、レイは少々の沈黙を置いて答えた。
「・・・守護獣に、出くわした・・・」
「・・・だろうな。」
「・・・?何で分かるんだ?その剣を見ただけで・・・」
「あ?あぁ、詳しいことは分からないが、おそらくと思ってな・・・」
そして重いその剣をレイに返す。父親の返答は、少し曖昧だ。
「もし知りたいなら、東の図書館の司書に訊いてこい。お前あそこの娘さんと知り合いだろ?」
~~~~~~
村の図書館にて
「ッ!?これはッ・・・!!」
司書は剣を見るなり、まるで神でも見たかのような驚きを見せる。
「クロルさん?いったいどうし ―――
「レイくんッ!!これを一体何処で手に入れた!?言ってくれ!!何処で手に入れた!?」
司書のクロムは剣の収拾場所を必死な様子で尋ねてきた。やはりただの捨て剣ではなさそうだ。
「バル・グラデの、洞窟・・・だけど・・・?」
「なッ!やっぱりそうか・・・!」
「あ、あ~。この剣って一体何なんだ?これってそんなに凄いのか?これ錆びてんぞ?」
レイは気になっていた。この剣を見てなぜ父がエヴィウスとの遭遇を予想できたのか、なぜクロムが驚いた表情を見せたのか。
この剣は、そんなに凄いものなのか。
クロムは、そんなレイにこう答えた。
「これは『竜絶の剣』だ!あの三聖器の一つ、宝剣だよッ!!」
――― 三聖器
かつて守護獣の絶対的服従の証として存在した、3つの聖武器の総称である。
伝説の宝剣に聖なる力を秘める光弓、そして天を貫く神鉾
名をそれぞれ『竜絶の剣』・『光絶の弓』・『天絶の鉾』
守護獣は、その武器の保有者には絶対的な忠誠を誓い、また主人と共に戦うことを約束する。
現在はその効果は深い眠りに落ち、この効果は封印されたと言われている。武器の場所も不明とされてきたものだが・・・
「・・・これが伝説の武器なのか?全然使えないけど、重いし。」
「あぁ、今は力が眠りに落ちていると聞いたことがある。まだ効果は出ていないようだけど・・・」
「それっていつになったら目覚めたりする?」
「ん?あぁ、言い伝えでは『シル・ガイア妃が召喚された日』って聞いたことがあるよ。」
「へぇ、その“シル・ガイア妃”ってすごいのか?」
「まぁこれも言い伝えだが、遥か昔にグラド大陸を滅ぼす寸前まで追い込んだ存在らしいのぅ。何も、『月が赤き時、その妃は神殿にて召喚される』ってのも聞いたことあるなぁ。」
「要するに悪人ってことか・・・」
コンコンッ コンコンッ
ふとドアをノックする音が聞こえた。それと同時に、レイにとって聞き覚えのある声も聞こえた。
「おじいちゃん?お茶入れてきたよ?」
ドアの向こう側から入ってきたのは、幼馴染のミオン=プルム。
この図書館で司書のクルムの補佐として働く、冒険者ランク1のプリーストである。
レイとは一つ上のお姉ちゃん的ポジションであり、レイもミオンを結構慕っている。
ちなみにミオンは、ソリューの想い人である。理由は知らん。
「あらレイくん、今日はどうしたの?」
「みお姉、ちょっとクロムさんに武器を見てもらっててな・・・」
「へぇ~、なにそれ?」
「あぁ、ミオン。これじゃ。」
「へぇ~、なにこれ?」
「これは『竜絶の剣』じゃよ。」
「へぇ~・・・」
・・・
ミオンも知らなかったようだ。
「レイ君、ところで君はランクが1みたいだけど、これからも冒険に出たりはしないのかい?」
「冒険・・・ってえぇッ!!??」
「ん?どしたの?」
「お、おれがランク1・・・!?」
「うん、ランク1になると右手に紋章が現れるんだよ?」
レイは自分の右手の甲を見る。そこには確かに冒険者の証の紋章が刻まれていた。
ランクが1以上になると右手に冒険者の紋章が刻まれるのだ。レイは昨夜の洞窟イベントにおいてランクがついに上がったようだ。
しかし言われてみると、確かにソリューの右手にもこんなのがあったような気が・・・
まぁいいか、あいつには興味ねーし
「まじか・・・!!じゃあついに俺も冒険に行けるのか!!」
「えッ?洞窟に行ってるときって、ランク1の時じゃなかったの?」
「へ?」
ミオンの直球でかつ痛いトコを突く質問。レイは墓穴を掘ってしまった。
ちなみに冒険者であることのもう一つの証となる成人証は、図書館の司書が発行しているのだ。この世界ではその紋章ともう一つ、成人証が無ければ一端の冒険者とは言えない。
「あ、えと、それは・・・」
あの事がバレたら、レイは20歳まで冒険には出られない。
今朝の説教で村の掟を知ったレイにとって、これは痛恨のミスだ。
(やべぇ!!まずったぁぁ・・・!!)
「・・・ほう、まさかランク0のままで洞窟に潜ったのか?」ジト・・・
「あ、いえッ、違いますよ!?ちゃんとランク1になってから・・・」
「じゃあ成人証を見せてくれんか?あれば認めてあげよう。」
「ッ!・・・」
(せ、成人証・・・!!今一番触れたくなかった言葉・・・!!)
もちろん、出せるわけがない。だって持ってないから。
「・・・ありません、すみません。」
「・・・はぁ、まったく・・・」
(やばいやばいやばいやばいやばい・・・!!!)
「・・・まぁ、今回は見逃してあげよう。守護獣エヴィウスの計らいに免じて、な。」
「・・・えッいいのか!?よっしゃぁ!!ってエヴィウス?なんで?」
「ホホッ、直に分かるよ。じゃあ早速成人証を作ってあげよう。」
(エヴィウスがレイに竜絶の剣を渡したってことは、もうすぐ奴が復活してしまうことかもしれん・・・)
「あ、ありがとっすクロムさんッ!!」
どうやら20歳まで外出禁止という、レイにとって生き地獄のようなことは避けられたようだ。
そして二人の会話に、ミオンも入り込む。
「ねぇねぇ、私もついてって良い?」
「え?」
「ほう」
「私も冒険に出てみたかったの!レイくん何するか分かんないけど、私も行ってみたい!!」
「・・・と言ってるが、どうするレイ君?」
「私も連れてって!!」
「ん~・・・ ―――
(・・・まぁみお姉はプリースト。補助魔法が使える万能職だし。しかも一人と二人は安心感が違う。しかも可愛いし。確かに居たら心強いけど・・・)
「ソリューあいつがなぁ・・・」ボソッ
「えッ?何か言った?」
「えッ、えぇッ!?な、なにもッ!」
(でもみお姉は確かに居てほしい・・・)
(・・・ま、いいか。そういえば俺あいつに興味なかったんだったわ。)
「・・・分かったよみお姉。よろしくな。」
こうして、レイ=ベルディアの冒険が、ようやく・やっと、幕を開けるのだった。
なろうでも『とある青年のレベル上げ』の投稿を開始しました。今後ともよろしくお願いします。
次回投稿日;3月29日