レベル54 終焉 《サイコパス・デュエット》
『彼女は自分が造り出した世界を現実世界と入れ替えることを決めたんだ。』
『入れ替えの権利をフェージョ=サタナに譲ったのも彼女。何で彼女がその権利を持ってたかは分からないけどね、元々持ってた能力だったのかな?まぁでも譲ったのは多分この入れ替え操作を確認したかったからだと思う。』
『フェージョ=サタナはその役目を担い、そして幻想世界を作ったんだ。それで入れ替えの可能性が浮上した証拠として、現実世界側から干渉する僕の感情を奪って松嶋芽衣に差し出したんだ。』
フィルの感情分離の理由、理解いただけたであろうか。
『でも彼女はただ証拠が見たかっただけ。だから確認できただけで僕は用済みなんだ。だからこっちの世界でこうして漂ってるってわけ。御霊の僕には何もできないからね。』
「じゃあなぜ私達もそちらの世界に入っているのでしょうか・・?」
『入ったわけじゃないよ。君たちがいた場所が新しい世界に変わった場所だったんだ。言ったでしょ、二つの世界が混在してるって。』
『入れ替わった世界は彼女の思う通りになるんだ。だから彼女がいてほしいと思わない限り、現実世界にいる生命は入れ替わった瞬間に死骸になる。実際この洞窟には魔物も一匹もいないからね。』
ベルトディア村もバンダルスサイト村も松嶋芽衣がいらないと思ったから、あのように村は綺麗に消えた。
説明はこういっている。
しかしだとしたらあのドッペルゲンガーはなぜいたのだろうか。
『それは彼女が「死んで欲しい」と思ったからだよ。ドッペルゲンガーを見た者には死が訪れる、この事実を彼女は認知しているからね。』
芽衣はレイやクロムに死んで欲しいと思っている、ということになる。
しかしこちらの世界の松嶋芽衣に、レイはともかくクロムは何も干渉していないはずだ。
「・・・ホントにそれが理由なのか?」
『僕はこの状態で色々見てきたからね、100%じゃないけど信頼度は高いと思うんだけどなー・・・』
「・・・あの、レイさん?確かその彼女とは前にあったことがあるって言ってましたよね?」
「ん?あぁ、確かにあるな。」
「その時、彼女とはなぜ会ったのですか?」
レイは思い出してみる。
芽衣と初めて会った場所は、レイが落ちた池のほとり。彼女は、自分はこの世界に転生してきた身だと言っていて、そして『神さまっぽい人からチート能力をいくつか貰っててね』とも言っていたような・・・
「!!・・・そうか、そういうことかッ」
もしその神さま的存在の人から授かったチート能力の一つがその『現実世界を入れ替え対象にする権利』だとしたら。
それでもし彼女が自分の想像した世界と入れ替えを行って、自分だけの世界を具現化しようと思ったのならば。
――― 『転生』 ―――
彼女が初めて使ったチート能力である。
『転生』とは後々調べると、『生まれ変わる』こと。つまり彼女はこの世界に来る前にまた別の世界にも身を置いていたはず。
――― あ、あぁ~そうだったね、ここは日本じゃないよね・・・ ―――
彼女が言ったこの言葉、日本とはおそらく彼女が前にいた世界。
もしこの日本という次元世界で募らせた怒りが爆ぜて、
『死んで欲しい』と思った存在がいたのならば ―――
――― 『サッサト死ネヤ』 ―――
「この世界の誰かをそいつと見立てて、溜まった恨みをその誰かに晴らすため・・・・・!!!???」
正常と認定される人格から逸脱し、日常のあらゆる物事に欠如が見られる精神障害者
良心や常識が欠如、全ての自分の行いは正しいと無責任な発言を繰り返す
松嶋芽衣の精神は、異次元世界でここまで破壊されていたのだ
皆はそんな彼女を、こう呼んで敬遠した
――― サイコパス ―――
「いや、そうだとしたらみお姉がそれに巻き込まれるってことじゃねぇか・・・!!!」
もしこの仮説が本当なのだとしたら、サイコパスの中でも重度の障害を抱えている。ここまで来るとミオンの命がかなり危ういのだ。
さらに仮説が正しい場合、この世界は彼女の意志と意思を反映している。よってレイのドッペルゲンガーが出てきたのも、レイを死んで欲しいと思う誰かの変わりにして命を狙ってくる可能性が極限まで高まる。
「早く行かないとですよッ!!」
「ミオンが死んじゃうよぉ!!」
二人も事の重大さが分かっているようだ。実際かなり危ない。
『・・・助けに行くのかい?』
「当たり前だ!!」
『この世界の彼女は手に付けられないと思うよ?まさか本当に彼女と戦う気なの?』
「当たり前だろッ!!そうしn ―――
――― 操作能力 ―――
『彼女が今いる空間はもう彼女が想像する世界になってるはずだよ。そんなフィールドで戦ってもダメージ一つも与えられないと思うけど?』
幻想世界の中でフェージョ=サタナが使った特殊能力『操作』。
あの能力とは自分がその世界の創造主であった場合に、自分の思うことが何でもその通りになるという恐ろしい能力だ。
今入れ替わりをしている世界の中心は松嶋芽衣、彼女だ。
歯向かったところで動きを操られておしまいだ。戦うなど論外である。
「ッ・・じゃあどうすりゃいい・・・!!!???」
「このままじゃお姉さまが死んじゃいますッ・・!!」
「ホントだよッ!!早く助け出さないと!!」
慌てる3人に反して、フィルの御霊は落ち着いた口調で説明を再開。
『やっと方法が言えるよ・・・それはね、「怒りの根源を絶つ」ことだよ。』
彼女のこのような世界構築。
これは言い換えると、『自分の思い通りになる世界を作りたい』という願望に匹敵する心理現象。つまり現実では自分が思うことと反する事実が起きていることになる。
本来彼女がいた世界で彼女に何が起こったのか、3人には知る由もない。
しかしそれをうまく伝えることが出来れば、この世界構築が止まってくれるかもしれない。
その可能性に賭けた提案である。
「その怒りの根源ってヤツはどうしたら分かるんだよ・・・!?」
『そこまで僕も分からないよ。でも物理攻撃は多分効かない、だったら相手を心理的に揺さぶる方法しかないでしょ?』
「・・・確か言う通りです。」
『彼女はまだ“シル・ガイア”と同化していない。まだ間に合うと思うよ。』
「え?同化?」
『そうだよ。この世界は現実世界じゃないから、もちろん獣騎士の敵のシル・ガイアはこっちにはいない。でもその存在に一番近づいているのは彼女なんだ。』
『もしこっちの世界でもシル・ガイアが誕生したらもう終わり。双方が合体して手に付けられなくなる。』
『彼女の目的は自分の世界で何もかも操れる存在になる事。だからシル・ガイアなんだよ。』
――― シル・ガイアは二人いる ―――
フィルの“身体”が別れ際に言ったこのセリフ、これの本当の意味とは
――― シル・ガイアが二人になると、世界は滅ぶ ―――
「おいフィル!!今そいつは何処にいる!?」
さすがにもうこの洞窟で話している暇はない。
『・・・そこまでは分からないよ。だって僕は彼女の召使でもなんでもないし。』
マズい。
居場所が分からないといよいよ詰みゲー寸前。
「ッ・・・!!!」
レイは考える、思い出す。
今彼女がいる可能性が最も高い場所。「ルート」で見た場所を必死に思い出す。
彼女としたあの短い間の会話や言動の中にもヒントはあるはず。
あの時彼女は何て言っていた?
――― ベルディアくん ―――
確かにあったはずだ あの会話の中にヒントがあったはずだ
思い出せ 思い出せ
俺は彼女と何処にいった? 何をした?
冒険か?討伐か?探索か?
いや確かにそれらもした でも今はそんなことが知りたいんじゃない
思い出せ
思い出せッ
思い出せッ!!
あの時彼女は何て言ったんだ!!
~~~~
――― ついたよ ―――
――― ・・・あれ ―――
『 何で「ついたよ」って言ったんだ? 』
~~~~
ついた・・・?
どこについたんだ・・・?
何で、誰が言ったんだっけ・・・!?
・・・!!!
「ッ!!今すぐバル・グラデの聖窟に行くぞッ!!アリナ移動呪文頼む!!」
「えッ!?あそこってレイさんのドッペルゲンガーがいた場所じゃぁ ―――
「どのみち行かなきゃ死んじまう身なんだ!!心当たりがある!!」
「し、しかしダンジョン内では移動呪文は使えないので、一回外に出てからしか発動できません・・?」
「じゃあエスケイプロープを使うから!そしたらすぐにあっちに飛ばしてくれ!!」
レイはバッグからエスケイプロープを取り出し道具効果発動。一瞬で洞窟の外に出ると上空は真っ赤に染まる。
世界が本当に入れ替わろうとしているのだ。見渡せばあるはずの森などなく、そこには荒地が無限に拡がる。
「アリナすぐだッ!!」
「 『トレイフ』!! 」
間に合ってくれッ・・!!
おそらく彼女はあの場所にいるはずだッ・・・!!
やっと思い出した。
彼女とはぐれる際に言った『ついたよ』の言葉 彼女はレイを殺そうとしたと言うエヴィウスの発言
もし現実世界のシル・ガイアと行動が類似しているとしたら
彼女が恨みを晴らす場所も、おそらくあの洞窟のはず。
確かにあの時の彼女は後半から、
――― 殺人鬼の目をしていた ―――
レイたち3人は暗い洞窟内をただ走る。
芽衣を見失ったのは最奥地であったはず、そしておそらくそこにミオンもいるはずだ。
(間に合えッ・・・!!)
もうすぐで深層につく所まで来た。3人は走りながら武器を装備、前方からの攻撃に対処できるように。
(・・・よしッ)
3人が深層に到着した、
その時だった
「もうすぐだッ!!ここにいるはz ―――
ッッッッ!!!!!!!! ―――――
放たれたのは、巨大な電磁波
その電磁波は強力な電気と灼熱を帯びて、レイたちに襲い掛かってきたのだ。
しかし、その技・・・
――― やぁ、あのほこらぶりだね ―――
なんで
――― ベルディアくん ―――
なんで・・・
――― 私の『美央ちゃん』の技、どう? ―――
ありえねぇ・・・!?
――― あ、美央ちゃんじゃないね ―――
何でそっちにいるんだ・・・!!!???
――― ねぇ・・・?
ミオンちゃん ―――
『 ミオン=プルムが現れた。 』
次回投稿日;5月26日