レベル53 支配者 《ゴット》
スキル『ルート』を使ってミオンの持ち物からミオンの行方を確認すると、やはり出てきたこの存在。
自称“神” 松嶋芽衣である。
「・・・」
しかしそこからの状況が全く見えず、結局このスキルを使ってもミオンは最後まで出てくることはなかった。
出てこなかったのではなく、おそらく出てこさせなくしたのであろう。ミオンが出てくると思われる場面の前で終わってしまう状況回想がほとんどであったからだ。
「・・・どうでした?」
「あぁ、昨日のシル・ガイアが関わっているようだ。それも結構厄介な所までじゃねぇか?」
「そ、そうなの・・・!?」オロオロ
しかしスキルで見たシーン、それがどこなのかは検討がついている。おそらくその場所に行けば、本人に出会うことはなくとも手掛かりは見つけられるはず。その手掛かりもスキルで調べられれば最終的にミオンに行きつくわけだ。
そしてまず最初の手掛かりがある場所は、結構意外なところであった。
それが、
「ここももう3回目かぁ・・・もう慣れてきたなこの狭さ。」
「もう大量の魔物とか出てきませんよね・・・!?」
「私暗いのにがてぇ・・・!!」
暗黒洞である。
レイはスキルで探っていた時、一番最初に出てきた場面がこの洞窟の内部であったのだ。場所的にそこは以前王女を助けた時のベヒーモスサイドではなく、浄化の鈴を探しに行った時のゼゴサイドの方面であろう。
消えたバンダルスサイトの教会跡に落ちていたゼゴの顔が彫られた石を思い出してほしい。
レイはその石に『ルート』を発動するとゼゴの背後にかつてのライバル・ソリューが見えたことだ。一見意外に見えるこの暗黒洞、少し考えてみると関係がありそうな気もしてくる。本来の目的はこのゼゴとソリュー問題である、今はすっかりミオン探しが目的になってしまったが。
「ここは一応モンスターは出るが数は少ない。まぁ出たら落ち着いて処理すんぞ。」
「はい。でもどうして暗黒洞なのでしょうか?」
「いや、おそらくソリューっていうヤツと関係してるからじゃね?詳しいことはまだ分からん。シェリーは大丈夫か?」
「うん大丈夫。」
「何か見つけたらすぐ言えよ?」
「分かってるって・・・でもここってこの前と雰囲気違くない?」
「確かにそうです、モンスターの気配が極めて薄いような気がしますね。」
このような状況ほど恐ろしいものはない。周りのザコ敵がいない、この事実の裏にあるのは『最凶レベルのボスモンスターがいる』である。魔物内で孤高の強さを誇る存在に限って部下を作りたがらない習性がこの世界にはある。そこまで恐ろしい敵ともなれば弱い魔物は恐れおののき、やがてその場から去っていくのが定石パターン。今回もそのくじを引いているのか、あるいは・・・
「・・・ここで行き止まり、か?もうちょっとあった気しねぇか?」
「いえ、確かこのくらいの道のりだったはずです。そのはずなんですけど・・・」
「・・・あそこじゃないね。」
シェリーが言う『あそこ』。
その場所はゼゴが眠っていたあの虚空空間である。あの時は不意の突風で気づかれてしまったのだが。
しかし今、その空間が見当たらない。決して道を間違えたわけではないことを先に断っておこう。
「・・・他に道はないか?」
レイがスキルで見た場所は、しかしあのゼゴがいた空間であったのだ。
見当たらないとなれば場所が違うか隠されているかのどちらか。
「・・・こちらにはありません。」
まずアリナ、異常なしとの返答。
「・・・なにこれ?」
そしてシェリー、本当に何か見つけるのが上手い。
シェリーがレイを呼んで指差す箇所には、不自然な凹凸が見られる側面の岩壁。これが“タネ”だろうか?
レイはその凹凸にそっと手を添える。
「待ってください。」
ふと後ろからアリナの台詞が横切る。
「ん、どうした?」
「いえ、おそらくこの奥にあの場所があるのでしょうが、以前来た時にこのような仕掛けなどあったでしょうか?ふと思っただけですけど・・・」
「ま、まぁあの時はあまり気にしてなかったし・・・なんせここ暗いからあまり見えてねぇし・・・はっきり言えん。」
「・・・あ、でも道なりはまっすぐだった!でもここがあの場所だと曲がったことになっちゃうよ?」
「そうです。なので恐らくこの奥のあの空間には何者かがいるはずです。ゼゴが消えたあの空間であれば話は別ですが、今回のケースではそもそもあの空間ではありません。」
異なる次元の暗黒洞だ、という意味だ。
「なぜ何者かがいるって分かるんだ?」
レイが疑問を投げかけると、アリナはゆっくりとある箇所へ目線を移す。
「・・・これで分かると思います。」
「なるほど。」
3人の目線の先には、誰かの足跡が微かに残っている。さらに大きさから判断すると、おそらく亜人種であろう。
すると、
――― 君たちは、誰? ―――
何処からとなく不思議な声が聞こえた。
フェージョ=サタナのような狂気に満ちた声でもなく、ましてやミオンの声でもソリューの声でもない。
「「「ッ!!」」」
3人は一斉に武器を構える。
そして次の瞬間、凹凸の壁が急に崩れ去った ―――
――― 君たちは、誰? ―――
今度は自分たちの目の前から、その声は聞こえた。
その正体、3人の誰にも見覚えなどない
――― とある一人の御霊であった。
~~~~
その御霊、3人の前でゆらゆらと揺れながら
ただ空中に漂うように浮かぶだけ。
『君たちは、誰?』
御霊は何度もその問いかけを。
「・・・俺達はただの冒険者だ。別に害を与えたりとかしない。」
『・・・へぇ、そうなんだ。』
「あ、あなたこそッ・・・誰なのですかッ・・!!??」
『ん、僕?僕はねぇ・・・』
レイは聞き覚えがある。
口調などは違えど声音は同じ、しかしあまりにも異なる口調のギャップで少し困惑したものの
おそらくこの御霊、予想はついている。
「・・・翠騎士フィル=ガイゼル、だろ?」
正確にはフィルの『感情』と言った方がいいのだろうか。
フィルはフェージョ=サタナとの攻防で感情を獲られ、今フィルはそれを求めて探している。
そのフィル曰く、自分の感情はフェージョーサタナが他の何物かに受け渡したらしい。
しかしなぜその御霊がここにあるのか。
それは『幽閉』と捉えると腑に落ちるものだ。
『驚いたよ、君たちが残りの獣騎士だったんだね。僕の身体は元気してた?』
「あぁ、なんかお前を探して旅してるっぽいぞ?」
『そうなんだ・・・でも多分あっちは僕を見つけられなかったと思うよ?』
「え?それはどうしてですか?」
御霊の正体を知って落ち着いたのだろうか、あんなに怖がっていたアリナが普通の口調で尋ねてきた。
『それはね、あっちは僕が今どんな境遇になってるか考えられないからだよ。』
それからフィルの感情は、詳しい説明を語り始めた。
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『この世界は色々な箇所がおかしいから、きっとここはまた別の世界だろって思ったことはあるかな?でもそれは半分正解で半分外れなんだよ。』
「それはどういうことだ?」
『分からない?それはね、「入れ替わり」が始まってるからなんだ。』
フィルの身体が退避空間内でレイに言ったとある事実。
その中に『二つの世界を入れ替える権利をなぜか最初から有していた。』というセンテンスがあったのを覚えているだろうか。
フェージョ=サタナは現実世界と自分が造り出した幻想世界、この二つの次元を入れ替えようとしていた。幻想世界が現実世界と同等の大きさまで拡大すると次元入れ替えの権利が何者かにゆだねられるという理論のもと、なぜ幻想世界の誕生時点からその権利を有していたのかという問いから始まったあの時である。
フィルの感情が言う『入れ替わり』、おそらくこの事と捉えて問題なさそうだ。
「まさか今がその最中ってことか・・・!?」
『そうなんだ。そして今の時点では現実世界と新しい世界の二つの要素が混在してるってわけ。』
例えを出すと、イーストデルトやミルビィテリィなどの地域はまだ『現実世界』のもの、対してベルトディアやバンダルスサイト村はもう『新しい世界』のものに入れ替わってしまったということ。
「ッ!?今度はどの世界と入れ替わってるんだ・・!?」
フェージョ=サタナが造り出した幻想世界は確かに崩壊させたはずだ。
『全く別の存在が造り出した世界だけど、その存在がフェージョ=サタナに入れ替えの権利を与えたんだ。』
現実世界を入れ替え対象にする権利のことである。
「それは誰だ!?」
『・・・』
――― 『 松嶋芽衣 』 ―――
次回投稿日;5月25日