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とある青年のレベル上げ ~グラド・サーガ~  作者: あいうえおさん
第4章 幻影の向こうに映る世界 《キャンバス・フェード》
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レベル46 黒幕《クロマク》


フェージョ=サタナの姿は、荒地に静かに吹く冷気の中に溶けていくように消えた。

あの幻影みたいにフェージョ=サタナとの戦闘で負ったダメージも消えてほしいところなのだが、どうやらそれは叶わずなようで。

フィルの回復はまだまだ終わらない。


「みお姉そいつの調子どうだ?大丈夫そうか?」


「ん~あの後結構ダメージもらっちゃったからまだちょっと分かんないや・・・」


フィルの容態を見るとまだ険しい表情が解けないあたり、先程のダメージはかなりの量がありそうだ。

レイは引き続きミオンにフィルの回復を。


「・・・で、頼まれてたブツだが・・・」


レイは村の道具屋にオベロンステッキと引き換えに神格の砥石を持ってくることを約束していた。

しかし神格の砥石はフェージョ=サタナの動力源としても機能していたため、破壊はやむを得ない。


「(このままトンズラこきてぇが・・・)」


「・・・やっぱ村に戻るかぁ」


「やっぱ?」


「ん?あぁ~まぁこっちの話だ。ロリガキには関係ねーよ・・」

「だからロリガキってやめてくださいよッ!!」


アリナもこのレイお馴染みのガキいじりにいつもの反応で返す辺り、アリナは問題はなさそうだ。

シェリーの方も今は周辺で走り回って遊んでるので、まぁシェリーも問題ない。ってかまだ遊ぶ体力あったのかよアイツは・・・


ということで、フィルの回復が整ったら村に戻る予定のパーティー一行である。



「んんッ・・・」


あれから10分が経っただろうか、フィルがようやく目を覚ました。しかもミオンの膝の上で。


「・・・起きたか?歩けそうか?(ってか早く離れろよ!)」


「・・・問題ない。感謝する。」


「ん?お前まだその口調のままか?」


「え?この人最初からこんな口調じゃなかったの?」


「あぁ、こんな不愛想な口調から治ってるはずなんだが・・・」


そう。

フィルは確か以前フェージョ=サタナとの戦闘で感情を奪われたらしい。さらにその感情はフェージョ=サタナを倒すと同時に返ってくるものだとも言っていた。

しかしフェージョ=サタナを倒した今、フィルは先程のままだ。


「・・・確かに感情は戻ってきていない。これは予想外。」


「予想外って・・・お前あの時結構確信持って言ってただろ・・・」


「ねぇレイくん・・・さっきから感情とか戻ってこないとか一体何の話してんの?」


「あ、そういえば話してなかったな。というのもな・・・



~~~~~


「「「えぇ~!!!???」」」


「えッ!?ちょッ、レイくん!?私達が祠くぐる一瞬の時間にそこまでのことしてたのッ!?」

「だから祠に入った時に急にレイさんがフラッと倒れたんですね・・・!!??」

「レイすごいね・・・!!」


3人にとってレイが過ごした時間は、祠に入るほんの一瞬の時間だ。なのでこの反応も想定内だ。


「そう、だからお前らの目の前に急にあんなバケモノが出てきたってわけ・・・あれッ、てことは・・・?」


何かに気づいたレイは、恐る恐る外方を見やる。

するとやはり・・・



「・・・アンデットナイトがあんなにいるのかよ・・・!?」


そう。

レイ以外のパーティー一行(もちろんフィルは除く)の状況というのは、次々と湧き出るアンデットナイト達から逃れてきた身であるというもの。

村に帰るということは、これすなわちアンデットナイトを倒しながら行くことになる。


「・・・レイ=ベルディア、少し話がある。他の者は悪いが席を外してほしい。」


と、遠回しに『早くそん中突っ走って来いよ』と言わんばかりのセリフをのたまう鬼畜翠騎士。


「・・・大丈夫。三人はこのアイテムを使ってダンジョンの外に退避してくれればいい。この男もすぐに返す。」


フィルはバッグの中からいくつかの脱出アイテム『エスケイプロープ』を取り出し、それぞれ三人に手渡した。

三人は少しの間でお互いの顔を見合わせた後、ロープを使ってバンダルスダンジョンから脱出していった。


そして今ここに残るのは、レイとフィルのみである。


「・・・で、話って何なんだ?俺も早く抜けたいんだが。」


「すまない。だが大事な話を手短に話すから聞いて欲しい。」


「ハァ・・・なんだ?」



「この件については他言しないで欲しい。フェージョ=サタナの出現は極めて珍事である。」


「・・・」


フェージョ=サタナは想像上の魔物。本来この世界に実在することなど出来ない。

しかし何者かが幻魔王の存在を想像したのだろう、先程まであのようにここに存在してレイ達に侵食した。


「・・・じゃあ一つ聞きたいこともある。」


「なんだ。」


フェージョ=サタナの創造はフィル曰く10日前に始まったと言っていた。さらにその10日前はレイ達にとっても大きなイベントがあった。

レイは10日というワードを聞いてから気になっていたことを打ち明ける。



「これにはあの焔王妃とかも関係しているのか?」



10日前とは、レイ達がクルスオード帝国でシル・ガイアと一戦交えた翌日。引いた彼らがまた別の対象にチカラを施した可能性もある。

さらにシル・ガイアが消え際で何かを彼女に施した存在についても疑問が残りっぱなしだ。


「・・・関係ない、と断定はしないが関係性は薄い。おそらくシル・ガイアに関係するその他も薄いだろう。これはあくまで私自身の推測だ。」


「・・・そうか。」


「シル・ガイアが残すとされている一切の痕跡が見つからないのだ。判断材料をこの事例に断定し調査を続けていくと、またさらに興味深い事例が出てきたのだ。」


「・・・」


「それは」




――― シル・ガイアは二人いる ―――




「・・・」


「さらにその一方のシル・ガイアにはこのような特徴もある。今までに出現したシル・ガイアには創造召喚するチカラなど無かった、しかしこの一方には戦うチカラはないと見える。」


「それはどうしてだ?」


「創造するシル・ガイアと破壊するシル・ガイアの双方が存在すると考えている。二つのチカラの保有は考えにくい。」


「なるほど・・・」


「だからこの事例にはその事例が関与していると私は考えている。だからレイ=ベルディア・・・」


「?」





「万事に対応できる術を身に着けるのだ。刺客は幻影のみにはとどまらない。」




「・・・分かってるよ。」


今回はレイとフィルが遭遇した刺客が共通対象であったために乗り切ることが出来た。しかしもしそれが異なった場合、今のレイでは太刀打ちが難しい。

元々レベル上げが目的だったレイにとって、思いを固める機会になったのは言うまでもない。


「・・・あとレイ=ベルディア。最後に一つ。」


「まだあんのか?」


「あぁ。使う時はないかもしれないが、念のために伝えておく。」


「なんだそれは?」


「覚えていて欲しい。この言葉は特別条件下で唱えると発動する魔法の類であり、使えるのはなぜか紅のお前だけである。」


「・・・だからなんだ、早く戻りたいんだが。」


「あぁ、それは ―――





――― マツシマメイ ――――






「えッ・・


フィルはそれだけ告げると、祠の内部の方へ向かっていく。


「ちょまてッ ―――

「私は感情を取り戻すために今後の同行は出来ない。自分だけでなく蒼のことも任せる。では戻るといい。」


フィルは脱出呪文を唱え、そして目の前から姿を消した。



(・・・)




「何でお前がそれを・・・」





そしてレイも、ダンジョンを脱出した。





♢ ♢ ♢ ♢ ♢


ッ ―――


「あレイくん!戻ったね。」


「あぁ、少し待たせたな。」


フィルが言っていた魔法の類のあの言葉。それは紛れもなくあの名前そのもの。

しかしなぜフィルがそんなことまで知っているのか、なぜフェージョ=サタナが作った世界の細部まで知ることが出来るのか。

例えその道のスキルを有していたとしても、あそこまでの把握は出来ない。


翠騎士フィル=ガイゼル ―――

彼はいったい、何者なのだろうか。


「レイくん?」


「へッ?あ、いやッ・・・村に戻るか。アリナ、移動呪文でバンダルスの村に送ってくれ。」


「了解です。まだ魔力少しありますし。」


「あ、そうだった。お前これで気絶とかしないよな?オーバーリリース状態になったら面倒になる。」


「面倒という言い方は少し引っかかる所がありますけど・・・まぁ大丈夫です、インターバルは取っている上に消費魔力はかなり少ないんですよ。」


「そうか、じゃあ早く送ってくれ。宿屋で早く寝たい。」


「じゃあ行きますよ! 『トレイフ』!」




こうしてバンダルスの塔探索は、このような形で終わることになった。これで終わったと思うと、少し引っかかる所が無いわけでもないがあるわけでもない。まぁつまりはほとんどない。

しかしこのような釈然としない終わり方・・・



いや



まだ終わってはいなかった。




ここはアリナが呪文で移動したバンダルスの村のはずである。

が、4人の目の前にあるのは・・・




「「「「ッ!?・・・・」」」」




建物跡などどこにも見当たらない、ただの荒地の一角であった。







「ここは・・・どこなんだッ・・・・!?」







第4章 終



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